※レオが悪い男な上に、幸せなお話ではありません。ご了承いただける方のみお進みください。
※アラン本編でのレオです。










音なんてしないはずなのに真っ逆さまに落ちていく音がする。警告音の響く頭は麻痺してしまったかのように上手く働いてくれない。指先は氷のように冷たいのに、体の芯は馬鹿みたいに熱を持っていた。

近づいた顔に反射的に目を閉じると柔らかな熱が唇を覆う。角度を変えて何度も繰り返されるその行為に、抗いたくても体に力が入らない。いや、抗う気など毛頭ないのかもしれない。誰かがこの身をさらえばいいのにと、そう思っていたのだから。

「はあ…はっ…」
「○○ちゃん、すごくやらしい顔してるね。気持ちよかった?」

ぞくぞくと背中を駆ける甘い疼きとなけなしの理性と。
呆気なく消え去ったのは言うまでもなく後者で。羞恥から言葉を発するのをためらっているとレオは薄く開いた唇を親指でなぞり、ゆっくりと楽しむかのように再び唇を重ねながら言うのだった。

「じゃあ、もっと気持ちいいことしよっか」

焦点の合わない目で赤い双眸を見つめると、心の奥まで見透かされたように見つめ返されて息が詰まる。自分の浅ましさに吐き気を覚えて堪らず小さく息を吐くと、二人分の熱で湿り気を帯びた夜の空気にじわりと溶けて消えていった。




ブラックアウト




猫の爪のような青白い三日月は晒された素肌を暖めてはくれない。夜気に背筋を震わせると、もっと近くにおいで、と綺麗な顔でレオは微笑んだ。

「○○ちゃん、どうしてこんなに濡れてるの?」
「あっ…!そんなこと…」
「アランの兄弟の俺にこんなことされたから余計に感じちゃった?」

目を細めてそう言い、指を抜き差ししながら敏感な部分を器用に刺激すると、私の口からは耳を塞ぎたくなるような甘く高い声が漏れた。


どうしてこんな選択をしてしまったのだろう。誰かのせいにしたくても、他でもない私がレオの手を取ってしまったのだから、レオやアランを責め立てる権利など私は持ち合わせていない。

だらしなく開かれた口にレオは舌を滑り込ませ、わざと音を立てながら私のそれと絡ませた。言葉も吐息さえも奪われてくらくらする。まるで水中呼吸。ひらひらとしたドレスはさながら金魚の尾びれのようだ。

露になった鎖骨をきつく吸われ、そこにはいくつもの赤い跡が咲いていく。焦ってレオの胸を押し返しても、私の手はあっさりと動きを制され、いとも簡単にベッドへと縫い付けられてしまった。
細身の腕のどこにそんな力があるのだろう。そんなことを働かない頭の片隅でぼんやりと思考した。


「…レオ、そんなところに付けないで…」
「ダメだよ、○○ちゃんは俺のものって印なんだから。他の男に見えるようにしないと」
「あっ…んっ…」
「アランが見たら何て言うだろう?今度、○○ちゃんを抱いたって言おうかな」

その言葉に私の肩がびくりと揺れた。冷たいものが背筋を伝うのを感じる。アランが知ったら。アランと私は恋人同士と言うわけではないのだから私がどこの誰に抱かれようが怒られることも嫉妬されることもないだろう。けれど、私がアランを好きだという気持ちはお互いの共通認識として確かにあるのだ。
そんな私の動揺に気づいたレオは私の顔を覗き込み、うっすらと笑みを浮かべると前触れもなく私の足を自分の肩に掛け、その内側に舌を這わせた。

「やっ…!レオ…!」
「その顔だとアランには絶対に知られたくないみたいだね。じゃあ…」
その言葉を合図にレオは体をぐっと寄せ、それと同時に熱と質量が体の中心を貫いた。

「今してることは俺と○○ちゃんの秘密だね」
「あっ…!はぁっ…レオ、」
「この唇も、○○ちゃんの体の奥の奥も」
「や、だめ…!」
「全部、秘密」


前後不覚になるほどの快感に視界がゆらぎ、乱れたシーツをぎゅっと握ると更に容赦なく揺さぶられた。凛とした夜の空気は私の嬌声に侵食されてみるみる濡れていく。
軋むベッドの悲鳴も全て飲み込んでしまいそうな頼りない月明かりと、時おり窓を揺らす春の夜風に散らされた花びらと。そのどれもが目眩がするほど美しくて私の胸をきりきりと切なく締め付けた。




「…泣きそうな顔、しないで」
ゆるゆると抽出を止めたレオは手で顔を覆った私の手を外して額に口づけを落とした。繋がった部分はとても熱いのに、その唇は嘘のようにひやりと冷たい。なぜか空に寂しそうに浮かんでいる三日月を彷彿とさせた。
一人でぽつりと佇んでいる、頼りないそれ。


「…なんで、レオまで泣きそうなの?」
そっと頬に手を添えると、今にも泣き出しそうな表情で私の手に自分の指を重ね、背中に手を差し込んで私の体をきつくきつく抱き締めた。密着した肌から悲しみが伝わってきそうで、離れたいのに離れられない。こんな関係、砂でできたお城のようにすぐに崩れ去ってしまいそうなのに。

暴力的なほど優しい言葉を浴びせるのに、脆く崩れそうなほど寂しい眼差しをする、ずるい人。私を蔑む様な目で見下ろしてくれたならせめてもの抵抗で肩に爪を立てることができたのに、あなたはそれさえもさせてはくれないの?


交差することのない一方通行の愛はどこへいくのだろう。
どうしようもなく救い様のない愚かな私たちはこんな形でしか胸に空いた穴を埋められない。仮初の愛を注ぎ込んでもまだ冷たい風が通り抜ける心を持て余して、私たちはもがく様に互いの体を夜通し求め合い続けた。それは決して届かない月を取ろうとするのに似て、酷く寂しく、どこまでも生産性のない行為だった。





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