※あてんしょん
ノクト+従者でわいわいなギャグシリアスエロの前日の話(パート1/3)
王子童貞まずくない?→みんなでなんとかするしかねえ!みたいな話
バリバリ下ネタあり。飲酒に対するキャラ付けしてますので、苦手な方はご注意を。












これまでのあらすじ。ノクティス王子とルナフレーナ様の婚姻が決まった。私は、失恋した。

式はオルティシエで行われる予定のため、ノクティス王子をそこまで護衛する任務が言い渡された。声がかかった人間は軍師イグニス、王の盾グラディオラス、色んな意味での戦友プロンプト、そして私、王の剣なまえだった。

書面で確認した内容によると、今回の任務はあくまで指名であって、断ることも可能という妙な特例のくっついた案件だった。しかし、男の中に女ひとりというチームが組まれることは王の剣ではざらにあることなので、男女比については特段気にしていなかったが、問題は面子だった。

王都の外部、さらに国外へ出る案件だというのに、王の剣の者は私以外誰もいない。あまりにも、王子ノクティスにとって身近すぎるメンバーで構成されていた。護衛ならもっと人数を固めて、いっそ人で壁を作るくらいやっても良さそうなのに。これを許可したレギス王の思惑はなんだろうとぼんやり考えていたが、陛下とろくに話したこともないのに想像しても時間の無駄か、と思って考えるのをやめた。ただ自身の中で結論として出したのは、王子が結婚する前に友人達と少しの間旅を楽しんで欲しいという陛下の計らいなのかもしれないと、思った。

そんなやや怪しい任務、遠い旅に同行することを決めたのは、選抜メンバーが気兼ねのない人物ばかりであったことも大きかった。

グラディオラスとはよく稽古をする仲だった。というより、私が稽古場に行くと必ずと言っていい頻度でグラディオがいた。初めはお互い空気に剣を降ったり、拳を突き出して鍛練にはげんでいたが、当時強さを追い求めていた私は、誰かがいるのに空気と練習しているのも効率が悪すぎやしないだろうかと思うようになっていった。

ましてやアミシティア家の方とお手合わせ出来る状況なのに声がかけられないという理由だけで、みすみす逃してしまうのは惜しすぎる。そう決心して、練習試合を申し込んだのが始まりだった。女だと遠慮したか油断したグラディオに、やや卑怯な手を使って最初に一本とったあとは、こてんぱんにやられたのは懐かしい。

それからはグラディオをリーダーとした任務に参加したこともある。身体を張った指揮と、戦闘シュミレーションも相当詰んでいるだろう作戦の練りかたに舌を巻いた記憶は未だ褪せない。そして、いざ闘いになれば豪快な決断力と圧倒的な力で敵をなぎ倒していき味方を勝利に導く。グラディオラスとは、そういう人物だった。

イグニスについては、城の中にいると、どこでも会った。ただ、知人として会うわけではなく、イグニスの監視対象になっていたという理由で、である。今になって思えば、王の親衛隊と言えど一般人が城をうろうろしてきたのが気になってずっと見張っていたのだろう。加えて、決してか弱いとは言えない上に同じ高校生であることを良いことに王子の護衛になった女だ。もう気が気でなくて仕方なかったんだろう、と思う。それにしても、廊下でも何度もすれ違う、稽古をつけていると隅でイグニスも筋トレしている、帰るときは城の出入口付近で必ず掃除をしながら、私が確実に城の外へ出ていったことを確認するレベルで信用がなかったようで今思い返すと少し傷つく。しかし、それもすべて王家のため、ノクトのためなのだ。

過保護過ぎて笑ってしまうが、イグニスは本気だった。それからはお互いが王子を真剣に守りたいと考えている姿勢についてわかりあえる機会があり、ようやく認めて貰えるようになったのだった。ある意味大変なのはそこからだった。

それからわかったことだが、イグニスは身内にとことん甘い、というか、優しすぎる性格だった。優しすぎる故に、世話を焼かずにはいられない。ジャンクフードを口にしているとやんわりとした口調でピシャリと注意してくるし、稽古の途中で捻ってしまい、帰ってから処置をしようと思って歩いていれば、廊下ですれ違っただけなのに一発で見抜かれた。

私は気がつけばイグニスには全く頭が上がらなくなってしまっていたのだった。

プロンプトは話すと長くなるので割愛するけど、私が学生時代に築くことができた少ない友人関係の内のひとりなのである。そして、ノクトに好意を寄せていることを打ち明けている、ただひとりの人だったり、する。


しかし、色々言っても、一番の理由はノクティスを側で守っていられるからというところに、あった。それだけで私は、夢が叶ったも同然だった。また王子の護衛で入られる。側にいれるのだと思えば、心が舞い踊るようだった。例えそれが数日間の間の話だったとしても、どうしても嬉しかった。


そんなこんなで陛下直々にお見送り頂き始まった旅は、順調に混沌の中へ放りこまれつつあった。選抜された面子を見たときから「自分を含めて城暮らしや王都暮らしが基本のやつばかりじゃないか…」と嫌な予感はしていた。そして王都を出て数時間後、イグニスが運転していたレガリアのエンジンから黒煙が上がった瞬間に「あ、これはこの先苦労することになる」と目を瞑って空を仰いだのだった。

その予感の通り、エンジンの故障から始まり、お金が底をつくというありえない事態も起きたり、ハンター生活に片足突っ込んだりと、ガーディナにたどり着くことすらまずとても困難だった。

困難だったけれど、旅に出たことを後悔した瞬間はそこまで一回もなかった。

任務として請け負ったことではあるし、前途多難ではあるけれど、上官もいない中で自然体な皆と旅を楽しむのは、本当に最高の気分だったから。

シドの方針がきっかけでこなしたハンター依頼にしても、皆で戦うのは凄く楽しくて毎回任務もこうだったらいいのにと思うくらいだった。

イグニスの知識量は半端じゃなく、苦手な素早い敵も指示を受けてからその通りに攻撃を加えるとすんなり倒すことができて新鮮だった。グラディオは相変わらず頼りになるし、プロンプトだって戦況を見極めるのがかなり上手で、私には絶対扱えないだろう繊細な武器、ピストルを使いこなしている。

そして、ノクトについては、正直想像以上の実力だった。戦場に出た経験が少ないからか、やや突っ込みがちなところはあるものの、武器召喚や王族ならではの魔法で、戦況を有利に導いてくれる。シフトも織り交ぜ、戦場を自由に駆け回る姿は、見とれそうになるほどだった。


こうしてハンター生活を送りながらお金を稼ぎガーディナへ向かった。レガリアが故障しなければ、もうとっくにオルティシエについて観光していたであろう頃に、ようやくガーディナにたどり着いた。が、今度はなんと晴天だというのに、全便休航で船が出ていなかった。もう、偶然もここまでくると笑えるのか笑えないのか。

誰かの意志や王子暗殺の陰謀あるのかも、と少し周りを疑わしく思っていたが、そんなことはなく。なんか怪しいおっさんが絡んできた以外、世界はいたって平和だった。船が出るまでガーディナを満喫することになり、ますます目的から逸れていく。いいのかなあ、と呆れながらも、影でそんな状況を喜んでいる自分がいることも、事実だった。

しかし混沌な旅はひょんな一言からさらにとんでもないことになった。私は前述したとおり、陛下とは数回しか話したことがなかったが、これだけはわかる。正直、レギス王は絶対この展開は予想してなかったに違いない、と。




夕刻。討伐依頼を終え、ハンターとして酒場に報告をして戻ってきたノクトの手には「ガーディナワイン」とラベルの巻かれた赤紫色のおしゃれな酒瓶が収まっていた。それを見た瞬間、一同はキラキラと目を輝かせながら、ノクトに駆け寄って口々に話し出す。

「カクトーラから貰った」
と、何故か誇らしげなノクト。

「ガーディナワインじゃねえか!これ良いワインなんだよな」
と、高級ワインにテンションただ上がりなグラディオ。

「是非料理に使ってみたいな、コクが深まりそうだ」
と、メガネを押し上げながらイグニスが話す。

「え〜!でもでも、やっぱり良いワインだったらそのまま飲みたいよ!」
ねー、ノクト!と、ワインに手を伸ばすプロンプト。

「いーや。俺あんま酒飲まねえし、イグニスに賛成だ。うまい肉料理作ってもらうのがいいんじゃね?」そう言ってプロンプトの手からワインを遠ざけるノクト。

予想通り、意見は見事に割れた。想像した通りの結果そのままで笑えてくる。個人的にはそのまま飲むのも、料理に使用する案も、どちらもとても魅力的だなと思ったが、ここで一人さらっと問題発言をしていたので、釘を刺しておく。

「プロンプトはすぐ酔っぱらうからダーメ」
「なまえってばひーどーい!」
「この間居酒屋でぐでんぐでんになってそれを懐抱して家まで担いでったのは誰よ」
「うう…、」

ノクトの結婚が決まった…ということで、プロンプトと私の飲み会が緊急に開かれたことがあった。内容は、飲み会というには程遠いものだったけれど。

私がひとりで喚いていただけで、誘ったプロンプトは早々にカウンターに突っ伏していた。私は、最後の二人の客になり、マスターにもう帰りなさいと優しく諭されるまで、ひとりで酒を煽り続けた。

ノクトはいつか、誰か分からないお姫様や貴族の人と結ばれる。そんなこと昔から解っていたことのはずなのに、気持ちの整理がつけられなかった。………中途半端に近くなってしまったから、気がついたら余計に自身の中で気持ちが膨らんでしまっていた。自分から近づいておいて馬鹿なのだろうか、と思うが、刺しても刺してもしぼんでくれない想いの強さに困惑した。考えないようにするため、なんか難しい任務でも回して欲しいと頼みに行こうかと考えていた頃、プロンプトから呼び出しがかかったのだった。

そんなやりようのない気持ちを組んでくれ、飲みに誘ってくれたプロンプトの優しさが嬉しかった。が、ここまで酒に弱いとは考えていなかった。とは言え、お酒に弱いのに、こんな無理をしてまで私のことを心配してくれたのか、と酔った頭で考えてじーんとしてしまったので、家まで送り届けて、布団を被せて、酔い覚ましを飲ませ、頭痛薬と水の入ったペットボトルをベットサイドに置いて、帰路についたのだった。


「えってかなまえプロンプトんちいったのか」
「ん、そうだけど…?」
「………」
「あ、大丈夫だよノクト。ノクトの大事なプロンプトを襲ったりなんてしないから安心してよ」
「ねえねえなまえそれ逆じゃない?普通に逆じゃない?」

なんて口々に喋っていると、横からぬっと現れた影がノクトの持っている酒瓶を拐った。そのまますぐに景気のいいきゅっぽん、という音が響いて、無情にもワインは開封される。

「「「あー!」」」
「わりぃな。今回一番討伐数が多かったのは俺だ。つまり、俺に決定権があるってことでいいだろ?」

確かに今日のグラディオは凄かった。というか少し背伸びした依頼できつかったけれど、グラディオの大剣が敵の固い甲羅を砕いてくれたお陰で攻撃が通り、依頼達成となったのだ。だから、これ以上この件について抗議できる人物はこの場に存在しないのだった。

「決まりだな」と機嫌良さそうにこちらにウインクを決めるグラディオに何も言えなくなる3人。ただ、イグニスだけが、指をパチッと鳴らし、「今夜は野宿にしよう」と短く喋った。どうやら、アレンジしたいレシピを思い付いたようで、今夜の献立が決まった瞬間だった。

と、そのとき大きな咳払いが聴こえる。5人で振り向けば、カクトーラがカウンターからこちらに批難の視線を送っていた。全員の視線が集まったことを確認するとにこりとした笑顔に変わっていたが、「あなた達、私があげたワインでそんなに盛り上がってくれるのは嬉しいけれど、ここは高級レストランなのよ。喧嘩なら他所でやってちょうだい」と言わんばかりの笑みだったので、グラディオが再びワインに栓をした後、5人でそそくさとレストランを後にした。

キャンプ場に移動するその途中で「一本のワインでは寂しい、寂しくて泣けてくるお願いしますイグニス様」とグラディオと私とでイグニスにお願いして、安いものだったが何本か買い足した。しかし、イグニスも今日においては美味しい酒のつまみも作ると張り切って料理の仕込みをしており、酒と料理も一級品で、今日は楽しいキャンプになりそうだと内心わくわくしていた。それは他の皆も同じらしく少しそわそわしている様子だった。水平線の向こうに夕陽が出てるうちにテント設置を済ませてしまおうと、準備をもくもくと進めた。






「かんぱーい!」

カラン、とグラス同時を合わせて…とはならないが、紙コップを合わせて高級ワインをわけあって飲む。ただし、ノクトとプロンプトは一口だけで、イグニスについては一杯で構わないということだったので結果的に高級ワインを本腰入れて飲んでるのは私とグラディオだけとなった。

ちなみに、ノクトは一口だけ飲んで、「…イグニス、水」と中身を変えていた。プロンプトは自分の様子を見ながら、ちびちびと飲んでいたが、イグニスが作ってくれたつまみの方に夢中になっているようで、ワインよりそちらの方が進んでいるようだった。

そしてグラディオと私は。

「う、うまい…このワインが旨いのもそうなんだろうが…、この旅に出てから酒を飲んでなかったからな…めちゃくちゃ美味く感じるぜ…」
「わかる…めっちゃわかる…美味しい…!」

感動のあまり身を震わせてワインを飲んでいた。イグニスの作ってくれたおつまみも劇的にマッチしていて、最高。さらに、メインディッシュは煮込みハンバーグだった。赤ワインに肉料理…ありがとうイグニスとじーんとしているところで、それを一口食すと、ある疑問が浮かびイグニスに訪ねる。

「イグニス、これワイン入ってるよね?」
「ああ、そうだが」
「もしかして…使っちゃった?」

これ、と自分の高級ワインの入った紙コップを軽く叩く。私の顔はいま、悪戯っぽくにやりとしているだろう。そう問うと、イグニスは中指でくいっとメガネを押し上げる。瞬間、キラッと焚き火を反射させ、妙な迫力がある。気づいたのか、とでも言いたげな雰囲気だったが。

「どうして、そんなことを聞く」
「…いや、いつものソースより…美味しいから」

そう答えると、嬉しそうにイグニスの口端が上がった。あ、なんかはめられたっぽい。今度は逆にこっちが焦りを覚える番だった。

「そのソースは、改めて後で買い足した200ギル程度の赤ワインを使用している」
「………負けましたっ!」

私が悪かったです!と若干悔しいが、頭を下げると、上からくつくつと笑い声が降ってきた。何事、と顔を上げると、イグニスが愉快そうに笑っている。い、イグニスが声だして笑ってる…!

やっぱりのお酒の効果なのだろうか。アルコールどうもありがとうと感謝する。友人の今まで見たことがない表情を見ることができるのも、またこの旅の魅力なのだと、なまえは最近思い始めていた。

イグニスのそういう不正をしない律儀なところは本当に尊敬する、と続けて話せばまた嬉しそうにする。イグニスって以外と乗せやすいかもと心で黒いことを考えたときだった。

「おーい、ノクト〜!」
「ちょ、おい、何すんだよグラディオ、っ、離せよ!」

気がついたらグラディオはカクトーラのくれたワイン瓶を含めて三本床に転がしていた。…え、三本?

「お前ほっそいなあ、ちゃんと鍛えてるか?」

うりうり、とノクトに肩を回して機嫌良さそうに酒を煽る。ああ、ノクト酔っ払いに捕まったな…、と哀れなものを見る視線を向けてその様子を見守っているとノクトの視線が「助けてくれ」とSOSを送ってきたが、じたばたしてるノクトが面白かったので、少し放っておこうと思ったら話題はとんでもない方向に転がった。

「なあなあ、童貞王子。初めてはルナフレーナ様か?なぁんか、かっこつかねぇよなー!」
「はぁ!?」

「何言ってんだグラディオ!」とノクトが振りほどこうともがいているが、所詮細マッチョと方やガチムチ。逃げられないのは目に見えている結果の通りだった。

「ああ〜ルナフレーナ様が可哀想だ〜、早漏の粗チン野郎がお相手なんてなあ〜」
「うわー、グラディオセクハラだよそれ」

「仕方ねえだろ、本当のことなんだし」
「だー!なんでお前にそんなこと分かるんだよ!」

ますますノクトは暴れるが何故かその度にますますグラディオのホールドはきつくなっていく。二人のじゃれる様子は愉快だったが、ノクトがちょっと可哀想だったのと、下ネタが加速していきそうだったので、少し収めた方がいいかもしれないと止めに入る。

「グラディオその辺にしておきなよ、ここにはイグニスもいるんだから」

「ん?」

イグニスは顎に手を当てて、真剣な表情をして何か考え込んでいた。名前を呼ばれて顔を上げたが、こちらの酷い下ネタは耳に入っていなかったようで安心する。しかし、私は油断していた。ちっとも安心している場合ではなかったということをこのあと思い知るのだった。

「…しかし、そういえば…ノクトにそういう知識を教えたことはなかったな…城の中では、ましてや陛下の前ではなおさら言いにくいことだったからな」
「イグニスは何真剣に考えていやがるっ!」

私は、さっきの自分の旅に出ると友人の知らない一面がみえるという自分の感想を心の中で再度繰り返した。そこでプロンプトがすかさずフォローを入れる

「あー、ノクト?ああいうのは気持ちとかムードが大事だから。ルナフレーナ様も別にノクトが経験ないからって幻滅したりなんてしないよ。たぶん」
「そこは多分なんだねえ」

「も、もうほっといてくれお前ら!」

半分泣きそうな声で叫ぶノクト。これはお酒嫌いになってもしょうがないわ、とグラディオからノクトを解放してやろうとノクトの肩をホールドしている腕をひっつかみ、ぐいぐいと引っ張る。

「ほらほら、グラディオしっかり。ノクトを弄るのはその辺にしておこう」

武器出して貰えなくなるよ〜、と付け加える。この旅はノクトにヘソを曲げられたら成り立たなくなるものがたくさんあるのだ。

「ん、じゃあ、なまえが俺と遊んでくれるのか?」
「………こっちだったら喜んで相手してあげるけど」

しゅん、と武器を呼び出す。色気も恥らいの欠片もない私の反応にふん、とつまらなさそうにこちらに一瞥を投げつけた。あと、ホールドしていたノクトをぶん、とこちらによこす。慌てて武器を戻してよろめいたノクトの肩をキャッチして支えるとそれを見たグラディオから追撃が飛んできた。

「じゃあお前らで遊んでおけばいいじゃねえか」

酔ってるグラディオは気がついてないようだし、意図した発言ではないのだろうが、この状況に奇跡的にマッチした発言でグラディオ以外の4人がフリーズした。

思わずノクトを見れば、至近距離で視線がかち合う。

ーーー私とノクトが遊べば童貞王子の称号は返上出来るわけで。

一瞬そんな考えが浮かび、どくん、と心臓が鳴る。もしかしたら硬直した他の3人も、そんな風に思ったのだろうか。

視線を逸らしたノクトが戸惑うように「なまえ、もう大丈夫」と言うのでぱっと手を離す。空気が静まりかえりそうだったところをプロンプトがハンバーグ美味しいよ!食べよう!と騒いでくれたおかげで、雰囲気はまた元に戻っていった。







「すまない、なまえ。悪いようにはしないからノクトの練習相手になってもらえない、だろうか」

早朝、眉間に皺をよせたイグニスは私にこう語った。

朝食の準備前にコーヒーを一杯いただいているときだった。私はその台詞を頭で反芻しているうちに、手に持っていた飲み物をキャンプ場の地面に落としてしまった。だが、イグニスも私も拾わなかった。いや、拾えなかった。なんの練習相手かなんて、聞かなくたってわかる。

「マジ?」
「…、なまえには悪いが、俺は本気だ」

確かにイグニスは冗談でこういうことを言う人間ではないのを知っている。だからこそ、幻聴かと何度も言われたことを脳内で繰り返した。なんと答えたらいいか分からなかったが、やっぱりもう一度問いたい。

「本当に、イグニス」

顔を合わせてイグニスの真剣さを探るが、やはり冗談めいた様子はどこにもない。本当に軍師として、王子の側近として、頼み込んでいるのだ。と、実感したところで、いきなり頭を下げられて、そのまま肩をガシッと掴まれて驚く。

「お願いだ!こんなこと、なまえにしか頼めない!」
「…あー確かに私にしか頼めないでしょうねえ…」

同行している面子を思い浮かべる。

「俺は教育係として、ノクトを導いてやる責任がある。一回もそんな機会をもうけてやれなかったのは、俺の責任だ」
「い、イグニスがそこまで言うなら…」

「ちょ、ちょっと考えさせて」とだけなんとか告げて走ってその場から離れる。やや離れたあとで、こぼしたコーヒーをそのままにしてしまったことを思い出したが、戻ることもできず、ただただ、目的の人物に向かって走り続けた。






「プロンプトプロンプトプロンプト!!」
「んわああ!?ど、どしたのなまえそんなに焦って」

のんびりと浜辺で散歩していたプロンプトをとりあえずひっ捕まえる。息を荒くした私がいきなり声をかけてきたのに驚いていたが、動揺していますと顔に書いてある私の表情に事情を察してくれたのか、浜辺の隅っこの方に行こうとジェスチャーしてくれたので、頷いて答える。何故か、二人とも言葉を忘れていた。

かくかくしかじか。二人で浜辺に座りこみ、プロンプトにさっきのことを話す。

「…じゃあ、まず正直に答えてね」
「うん」
「なまえは、嫌?」

「………、………嫌じゃ、ない」

嫌なわけあるもんか。むしろ考えたことだってないことはない。こうして徐々に言葉にすることで、訳がわからない自分の気持ちを理解していくが、そうすると次々問題点が思い浮かび余計にぐちゃぐちゃになるような思いだった。

「うう…最低だ…」
「でも、今回の話は、一番はノクトのため、なんだからさ。遅かれ早かれというか、こういう風になるんだったら、相手はルナフレーナ様を除いた、なまえでも誰でも変わらないことだと思うよ」

プロンプトは客観的に話してくれようとしているのだろう。今は外にいるから私がどうか、と問われているだけで。確かに城にいるときにこういう話になれば、女を呼んで、誰かがノクトに抱かれるという事実は変わらない。

「うーん、もうそのまま話すけど、なまえが後ろめたいのってさ、ノクトへの気持ちがあるから、でしょ?」
「あ………そっか、う、うん、そうだね」
「………じゃあ、絶対に気持ちが表に出ないようにしたら、いいんじゃない?ノクトじゃなくて、王子から、側近から告げられた使命として受けとれば、仕方ないかなってなるでしょ?」

そう話すプロンプトの表情はどこか暗い。

「でもそれね、多分一番キツいし、気持ちの整理もつけられない方法だよ」

「あんまりオススメしたくない」と何故かプロンプトがつらそうに膝に顔を埋めながら話す。なんでそんな風にやりきれなさそうにしてくれるんだろう。本人よりつらそうにしている友人の存在に私は感謝する。そのおかげで、少しだけ前を向けそうな気がするから。

「その、方法がいいな。一番キツイくらいが丁度いい。痛い目みたら、さすがに馬鹿な私でももうこりごりだって思うかもしれない、しっ!」

よいしょっと立ち上がる。

「ありがとう、プロンプト」

笑って、お礼を言うことができた。覚悟を決めさせてくれてありがとう。そう言いたかったけどもう伝わっている気がしたので、言葉は少なくても充分。

「なまえ」

真剣な顔をしたプロンプトが見上げている。

「俺は、ノクトもなまえも大事だから。なまえが本当に嫌だったり、辛かったら断ってもいいと思うんだよね」

「うん、わかってるよ」

そう短く告げて、朝食の準備をしているキャンプの方へ戻る。答えは、決まっていた。








今日はモーテルに宿泊することになった。

時刻は深夜。イグニスを探して歩いていると、レストランに続く橋のところで、夜風にあたっているイグニスを見つける。近づくと気がついたのかはっとした顔をして、こちらに向き直る。

「なまえ」
「イグニス」

また、難しそうな表情をしている。今日1日ずっとそんな調子だったので、少し笑ってしまう。………イグニスは、本当に優しい。イグニスは立場上で正しいことをしているから、気にすることじゃないのに。私の気持ちと自分の責任感の間で押し潰されそうになっているのだ。

「ノクトが了承した」
「私も、いいよ」
「………本当か?」

目を少し見開くイグニス。

「いくらノクトのためとはいえ、こんな要求呑めるわけないと言われるとばかり思っていた」
「ーーーまあ、王に支えるのが、私のお仕事ですから。もちろん未来の王もね」

自分に言い聞かせるように話していく。イグニスはその返答を受けて、ひとつ頷き、凛とした声で作戦概要を話す時のように語りだす。

「明日22時頃、ガーディナのホテルで泊まったときに、決行する」
「ふ、ははっなんか大袈裟だね」
「ただ、ノクトがひとつ出してきた条件としては、なまえに挿れることはしないそうだ」

「そうーーーそっか」

なるほどね、そうきたか。童貞を捨てる気には、ならなかったということなのだろう。ノクトなりに、私のことを考えてくれたのか、それとも。

「だから、そのーーーその件は、この中で一番経験のあるグラディオに、任せようと思、っ!」
「眉間に皺よってるよ。イグニス」

コツン、と難しい顔をしているイグニスの額を拳で軽く触れる。

「やるなら、徹底的にやろう。王子様が自信持って本番に臨めるようにさ!」
「…無茶を、言ってるよな」
「んー、でもさ…イケメン二人に抱かれるなんてドキドキしちゃうなー」

果たして、冗談っぽく言えているだろうか。イグニスの顔を見るのが怖い。真面目な彼は、一体どんな視線で私を見ているのだろうか。………軽蔑されているかもしれない。

「…出来るだけ、なまえにとっても良い思い出になるように、俺も努力する」

闇に溶けた声は、イグニスらしいどこまでも真面目な声だった。









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2017.0129
ギャグっぽいつもりがどんどん真面目になっていってしまった…エロパートだけ書いていた頃が懐かしく思う。


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