「あ、あれベヒーモスじゃない?」

なんてことない昼下がり。レガリアでの移動中、助手席でカメラの手入れしながら、車内や外の景色とあちこちにレンズを向けていたプロンプトが、平原の真ん中を闊歩している影に気がつき声をあげた。運転中のイグニスはちらりと視線を向け、グラディオは読書に集中しているようで、そのまま本の世界の中。ノクトは夢の世界の中。つまり、後ろの席で暇をしてたわたしなまえは比較的珍しい魔物の発見報告に興味深々で、プロンプトに詳細を聞くため、前のシートに手を置いて身を乗り出す。

「え!どこどこ?」
「おい、なまえ、狭いんだから身を乗り出すんじゃねえ!」

どうやら読書をしていたグラディオの本が押しのけられて、集中していたグラディオが抗議の声を上げる。しかしいつものことなので、特に気にせずプロンプトにどの辺?と問いかければ、指をさして教えてくれる。

「ホラ、あそこ、あの平原の真ん中!見えた?」
「あ、見えた見えた!」

ウロウロと動く巨大な影がそうなのだろう。頭の辺から突き出た特徴的な長い二本の角がゆらゆらと動いている。さすがベヒーモスとあって、遠くからでもわかるくらい巨体だ。その中でも、比較的大きい個体ではないだろうか。

「ひゃー、ツノでっかいねー」
「ねー」
「…イグニス」

声をした方を見ると、お日様の下ぐっすりと眠っていたはずのノクトがいつの間にか起きていて、運転しているイグニスに声をかけていた。

「どうした、ノクト。目的地に到着するのはまだまだ先だが」
「今、食料に肉ってあったっけ」

その言葉の後に少しの間沈黙が流れる。やがてイグニスが「肉は、切らしていたな」と答えた。その回答を受けたノクトは短く「そっか」と呟き少しの間下を向いていたが、すぐに顔をあげて、イグニスに指示を飛ばした。

「ここで降りるぞ」
「しかしノクト、今車を止めるとレスタルムまで到着するのは難しくなるぞ」
「それでもだ!」

最初に決めた予定とは異なると、車を止めることを渋るイグニスに、グラディオも「俺も肉が食いたいなあ」と呟き、ノクトを支援する。限られた食料の中、上手く皆の望む料理をいつも作ってくれるイグニスのことだ、本当はそうしたいところだが、肉が食いたいという欲望から提案された意見を反映させてしまうことは軍師としてどうなのかというところで迷っているのだろう。そんなイグニスに対して効果のありそうな言葉を思いついたので、口にしてみる。

「イグニス、レスタルムでベヒーモスの肉買うと確か3000ギルぐらいしたと思う」

しばらくして、「わかった、降りよう」という返事が返ってきたので、「やったー!ベヒーモスのヒレステーキが食べれる!」と何人かとハイタッチを決めて、俄然盛り上がる車内。この時は、あんなことになるなんて誰も予想してなかったのだった。




「まず、ノクトがあの岩のてっぺんにシフトしてから、敵が背中を向けたところにシフトブレイク。そのあとプロンプトが銃でこちらに意識を向けさせて、私とグラディオが正面からやつとぶつかる。奴のツノは危険だし、今回ツノは求めないから、武器で殴ることより、武器で攻撃をいなすことを考える。奴の意識を正面で気をひきつけているうちに、敵の後ろにまわったイグニスとノクトが止めをさす。あってる?イグニス」

「大丈夫だ、あっている」

イグニスが提案した作戦をまとめて、要点をかいつまんで復唱し、再確認をする。ベヒーモスはまだ隠れているこちらに気が付いていないようだったが、ギリギリの距離を保っているので、いつ気づかれてもおかしくはない状況だ。各々、すでに武器召喚を終えていて、後はノクトの合図で突撃するばかりとなった。

「うし、それじゃ、いってくるわ」

軽く散歩にでも出かけていくような軽さで、片手を上げたノクトが岩に向かって武器を投げつける。ヒュウ、と風が抜ける音がした後には、ノクトが元いた場所には何もなかった。ノクトは、予定通りちょうどベヒーモスが無防備に背中を晒すタイミングを狙ってシフトで飛び、岩の上に着地した。すかさず、今度は武器をベヒーモスへ投げつけて、シフトブレイクを決める。

攻撃を受け怒り狂ったベヒーモスから、大地を揺らすような唸り声が上がったところで、私とグラディオは地面を脚で蹴りあげ、武器を構えて走り出す。後ろからパンパン!と何度か銃声が聞こえて、ノクトの方へ振り向こうとしたベヒーモスを、プロンプトがこちらの方向に引き付ける。視界の端では、タイミングを少しずらして飛び出したイグニスが、私たちとは別の方向からノクトの元へ走り出していた。

ベヒーモスまであと3mというところで、これ以上の遅れはとらないとばかりに、ベヒーモスから突っ込んでくる。巨大な角がぐうん、と急加速してせまってくるが、この種の魔物によく見られる動作で何度も体験している。それに加え、まんまとイグニスの作戦のとおりに動いてくれているので、なんてことはない攻撃だった。横のグラディオが振り上げた大剣のタイミングと方向を合わせて薙ぎ払えば、斧と大剣という強い横薙ぎの力が角に加わり、ベヒーモスは難なくバランスを崩す。

隙が大きかったので、グラディオと左右に分かれて前足を切りつけるとベヒーモスの前脚から飛び出した血が、地面を濡らす。ここで、イグニスとノクトが後ろから止めをさしてーーー

「なまえっ!あぶない!」

プロンプトの切羽詰まった声が空気を貫く。背後で銃声が連続して響いた瞬間、何かがものすごい勢いでバランスを崩して地面に横たわった。

「な、トウテツ!?」
「野郎、ベヒーモスのおこぼれにありつこうと群がってきたな!」

グラディオも瞬時に対応して、周囲のトウテツを大剣をぶん回して薙ぎ倒す。どうやら、ベヒーモスの血液の匂いに誘われてやってきたようだった。幸いそこまで大きい群れではないようだが、ちょろちょろと周囲を動き回られては、目の前のベヒーモスに集中して攻撃を加えることができない。混戦必須な状況だと判断し、イグニスに指示を求めるノクトの声が響き渡る。

「イグニス!!」
「グラディオとなまえは引き続きベヒーモスを引きつけてくれ!プロンプトは俺とトウテツの牽制、ノクトは隙を見て早めにベヒーモスに止めを!」

「了解!」

各々が返事をして、混乱した状況をなんとか整えていく。二人で怒り狂ったベヒーモスをまともに相手することになった今、手は抜けない。グラディオと左右を囲いながら、暴れるベヒーモスを切りつけたり、殴ったりしながら全力で攻撃を加えていく。巨大な前脚がぐおん、と鋭利な爪を立てながら顔の横を通り過ぎていく。一瞬でも気を抜けば、致命傷となるかもしれない一撃に、背筋がぞくりとする。武器を構え直し、いなすという言葉を再度思い出して、強大な巨体へ一撃を叩き込んでいく。

それから数分間格闘したことで、すでにトウテツの群れはほとんどが地面に転がっていた。瞬間、ヒュン、と横を風が鳴る音がして、真横をシフトブレイクでノクトが通り過ぎる。止めを刺すため、ベヒーモスの背後を取りつつ、グラディオかわたしに飛びかかろうとウロウロしていたトウテツに剣を突き刺して斬り伏せたところだった。その時、ベヒーモスが殺意の籠った視線でノクトの姿を追ったのに気付く。

初めの一撃を喰らった時に、風の通りすぎる音に警戒心を持ってしまったからだろうか。ベヒーモスは切りつける大剣と斧を無視して、膨大な量の筋肉を利用してバネのように飛び上がり、身体を反転させながら、背後のノクトへと爪を向けた。

「ノクトオオ!!!」

ベヒーモスからノクトへ降り注ぐ致命的な鉤爪に、グラディオの怒声が上がる。シフトを終えて追撃の姿勢に入っていたノクトには攻撃を避ける余裕がないことが、仲間達にはわかってしまっていた。グラディオが決死の表情でノクトの方へと向かうが、ベヒーモスの巨体が丁度邪魔をして間に合いそうにない。

反対に、私の方向からはまっすぐノクトが見えていた。それだけ脳が理解した後は、もう身体が勝手に動いていた。

久しぶりだ、出来るだろうか。王の剣として任務に励んだ頃はシフトを使っていたが、あまり上手い方ではなかったので多用していなかった。斧を丁度ベヒーモスとノクトの間に向かって、力の限り思いっきりまっすぐに投げる。瞬間あの全身が引っ張られるような独特の衝撃が身体を包んだ。

パッと飛んだ先で、一瞬だけ浮遊感に包まれる。目の前には引き攣った顔のノクトがいて、成功した、ノクトの前に出られた!と思った瞬間、背中に焼けるような痛みが、いや背中が焼けるような熱さと衝撃が走る。地面に強く叩きつけられ、身体が玩具のようにバウンドして再び宙に浮いていた。そしてすぐにまた地面に叩きつけられ、目の前が急激に白黒と忙しく色が変わって意識がぐらぐらと揺れる。

「ー!てめぇ!!」

ノクトの怒声が遠くで聴こえる。ああ、よかった無事だったんだ。そう考えながらも視界がぼやけてくるので瞬きするのだが、瞼がとにかく重たくて目を閉じる。全身がとにかくキリキリと痛み、痛いと叫んでいるようだった、頬に触れる雑草が冷たく感じ、意識が朦朧としている。「なまえ!なまえ!!」とプロンプトが必死に自分を呼ぶ声が、近いのにどんどん遠くなっていき、私は意識を失った。




暖かくてふわふわした何かが身体を包んでいる。仄かな柔らかい温もりに心からほうっとする。そうか、浮遊しているんだ。魂だけになって浮遊しているのか。人って死んでも意識はあるんだなあ。ということは、私は旅途中でリタイアしてしまったのか。…でも、

「ノクトを守って死ねるなら…本望だ…」

「…俺は死なれちゃ困るんだけどな、夢見が悪くなるから」

ガバッと起きれば、茜色に染まった空、続いて見慣れた景色が目に飛び込んでくる。そのまま周囲を見渡すと、焚き火と設置されたテント、ゴツゴツした岩場、椅子に腰掛けたノクトを認識することができた。焚き火の燃える音、大気の動く音、木々のざわめき。耳も正常で、目も確かに世界の景色を捉えている。

「い、生きてる…」

そう、生きていた。唖然としながらもなんとかその事実だけ、理解した。

ふと、簡易キッチンの下に置いてある袋が目に止まる。それはいつも肉を放り込んでいる袋で、キャンプ場の端っこにいくつも放置されている様子を見ると、ベヒーモスは無事に倒せたらしい。その後の状態について色々聞きたいことがノクトにあったけれど、何故か手のひらで目を覆っていたのでいかぶしげに見ていると、空気を察したノクトが、気まずそうに口を開いた。

「あ〜…毛布上げた方がいいぞ」

ん?と言葉の意味を理解できず、ノクトの顔を見続けるが一向に顔から手のひらをどけようとしない。とりあえずアドバイスどおり、毛布をあげようとして掴むとーーー

「ふ、服っ!服どこ!」

丸裸だった。と思ったのは一瞬で、落ち着いて確認すると、下半身は衣服も下着も身につけているものの、服に血が多少こびりついている。問題は上半身だった。何も、何も身につけていない。これはどういうことかと毛布を引っつかんでぐいっと前を隠し、ますます混乱の中に放り込まれながら、ノクトに問いかける。

「あの…わたしの…服…」
「服は引き裂かれてビリビリ。下着もな。血まみれだったし」

グロかった。と続けたノクトの話でもう、それだけで十分だった。何が起こったか全てはっきりと思い出し、理解した。

シフトで飛び出た後、私はまんまと奴の爪に引き裂かれた。本人は背中を引き裂かれる程度で済んだが、服はそうはいかない。爪の衝撃を出来るだけ受け止めたあと、ズタズタに引きちぎられ、再起不能となってしまったようだった。

「あ、ああ〜…」

思わず、力なく声を出したまま、頭を抱えそうになるが、罰が悪そうにしているノクトが気になり、毛布をかけ直す仕草に変える。何か、他の話題をと思考を巡らせるとすぐにこの場にいない三人のことが気になったのでノクトに聞く。

「あ、他の三人は?」
「ちなみにグラディオは水汲みに行ってて、プロンプトとイグニスはレガリアで なまえの服の買い物に行ってる」

おそらく、レスタルムの店に向かったのだろう。上半身丸裸は、本当に困るので非常にありがたかった。

「あの二人のセンスなら大丈夫だね…あっでも下着選びは難しいんじゃ…」
「プロンプトは胸のサイズも把握してるらしいからな、なんとかなるだろ」
「なんとかなるが、帰ってきたらプロンプトに詳しい話を聞かなきゃならねえ」

と、そこでノクトが堪えきれないように吹き出した。「あーあ、バレちまったなプロンプト」と言いながら目を細めて笑っているので、私もわざとらしく骨を鳴らしてみたりして、その雰囲気を盛り上げる。心の中で、空気を変えてくれたプロンプトの言動にこっそり感謝する。まあ、帰ってきたら話はしなきゃいけないけれど。

ノクトはさっきまで、いつも通りを装いながらも難しい表情をしていたから。私は、単純だがノクトの笑顔が見れて、とてもほっとしていた。

この笑顔が奪われなくて本当に良かったーーー

「ノクト、無事で良かった」

自然に口からこんな言葉が出た。本当に本心からの言葉だったので、特に何も考えず発したものだったが、ノクトの動きが止まる。そのままいきなり真顔になるので、驚いたが、先ほどと違って弱い雰囲気はもう纏っていなかった。ノクトが椅子からすっと立ち上がり、ゆっくりした足取りでこちらに近づいてくる。なんだろうと視線で追っていたが、背中に回られたことで、ノクトの姿は見えなくなった。そこで足音は止まった。

待てよ、というか、今背中は素肌丸出しの状態ではなかっただろうか…!!

「っ、ノクー」
「俺が、負わせた傷なんだよな」

背中にふっと何かが触れて、わずかに痛みが走り、身体が反射的に動く。それがノクトの指であることに気がつくのに、時間は必要なかった。痛みがあるということは、傷口がまだ治りかけなのだろう。フェニックスの尾の癒し効果でも完全に塞ぎきれなかった深い傷跡のふちにそっと触れているらしい気配に息を飲む。

そっと指先が背中を這うと、痛みとはまた別の感覚が混ざってくる。顔が熱くなるのを実感するのと同時に、身体中の血液のめぐりが良くなっていく。率直に言えば、心臓がどきどきして、ノクトに振動が伝わっているのではと気が気でないくらいだった。背中に大けがを負っておいて、仲間に心配されているだけなのにこんな風に思う自分は、果たして真性の変態かと思わざるを得ない。

でも、でも仕方がないと思う。

好きな人に触れられているんだ、まともでいられる方が、おかしいと思う。

「悪かった、もっと気ぃつけて、闘う」

響いた声は、何かの誓いのように静かな声色だった。正面から謝らないのもノクトの性格を思えば、よっぽどらしいと思った。パフォーマンスじゃない、心からの言葉だからこそ、こうして自分の責任だと、私の傷と向き合って発してくれているのだ。ノクトの真摯さに胸が締め付けられるようだったが、ここでただの一端の雑兵が王子の重荷になってはならない。
 
「私がシフト下手くそだからこうなってるんだ。ノクトのせいじゃないから、気にしないでよ」

「これでノクトが怪我してたら私、ノクトが王様になって王都に戻った時処刑されちゃうところだったー!」なんて軽口を叩いてみるが、あまり反応がない。…困った、こんなにノクトが気にするくらいだったら普段から死ぬ気でシフトの練習をしておけばよかった。ノクトの気持ちは十分に伝わったので、話題を別のものに変えようかと思い、何を話そうか迷っていると、ノクトがとんでもないことを言い出した。

「なんかして欲しいことあるか」

しかも驚くほど優しい声だった。また、心臓がどくんと高鳴る。数回しか聴いたことがないような穏やかな声。どうしよう、振り返って顔が見たい。どうしてプロンプトはこんなときに居ないんだ、そうだ私の服を買いに行ってるんだった。私の服なんてどうでもいいから、このノクトの顔を写真に収めて良い値で売って欲しい気持ちだった。

頭の中が大混乱のままだったが、何か適当に答えて、ノクトの気を収めなければ、私の心臓がもたない。

「じゃあ…その…」

「褒めてください」「頭撫でてください」などという選択肢が浮かんではすぐに掻き消す。あああ、何を言っても意味が深く思えてしまう。その言葉の裏にある気持ちを勘ぐられそうで、どうしたらいいか分からなくなる。ええと、落ち着け。私はいま、背中切り裂かれて、フェニックスの尾で死の淵から帰ってきて、まだ背中が痛くて、そうだ、痛い!痛いから、

「痛いの痛いの飛んでけ〜とか?」
「は?」

あ…言ってしまった…やってしまった…!!もう心臓のどきどきはときめきではない。冷や汗が出てきそうなくらい焦っていて、必死に訂正の言葉を話す。

「いやいやいややっぱ嘘ごめん今のなしタイムストップ!!」
「いいぜ」

そう言いながら、ノクトが後ろから顔を覗き込んできた。その顔が任せろと言わんばかりに微笑んでいて、そのロイヤル感溢れる表情に悲鳴をあげそうになる。今度はときめきで心臓が騒ぎ出し、さっきから感情が揺さぶられ続けて、どうにかなってしまいそうだった。

「え、嘘じょうだ…」
「痛いの痛いの…」

もう始まってしまった!冗談と言いかけている間にふわりと頭に手がのせられて、固まってしまう。困惑する脳とは反対に、心は歓喜で満たされる。ノクトは目を閉じているから、今の私の表情はきっと見えていないだろう。それを良いことに、ノクトの顔をじっと見つめてしまう。ノクトの端正な顔が近くて改めてこの状況にくらくらした。なんでこの王子こんなにかっこいいんだろうズルい。

「飛んでけ」

ノクトの目がぱちっと開いて視線がぶつかり合った。「飛んでけ」の形に半開きになった唇が色っぽく、揺らめく炎を瞳に反射させながらこちらを見つめる真剣な表情に鼓動の高鳴りが激しくなる。思わず眼が潤むようにじわりと滲んでいく。ああ駄目だ誰か助けて、いや、助けなくていいけどこのままだと死んでしまいそうと唇を噛む。終わったらすぐに離れるのかと思ったらなんだかそうではないらしい。私が唇を噛んだことが気になったのか、

「噛むんじゃねえよ」

とノクトの手があごに添えられて、親指でくい、と引っ張られて私も唇が半開きになる。こ、これはもう、私が意識しすぎなのかもしれないけど、まるで、まるでそう。口づけする直前のような雰囲気じゃないかーーー


「おっぱじめるのは傷が開くから進めねえぞ。それかのろけるなら他所でやってくれ」
「「グラディオ!!」」

いつの間にか、両腕いっぱいに飲料用の水が入った樽を抱えたグラディオが戻ってきていた。ノクトと私は互いにすかさず距離をとる。私は動けないので、顔を横に背けただけだがまだ心臓がどくどくと激しく脈打っている。あ、危ない、危ないところだった。ノクトとなんだかあのままじゃ、本当に。

というか微妙に下ネタを交えてからかってきたグラディオに腹が立ったので、やけくそになって暴言を投げつける。

「ば、ばか!この万年発情筋肉ゴリラ!」
「口が悪すぎるぞなまえ。あと筋肉ゴリラはお前も被ってる」
「ざんねーん!私は筋肉雌ゴリラでしたー!」

べーっと舌を出してグラディオに反論すれば、なぜかすごく爽やかに笑われた。

「んじゃ、ゴリラはゴリラ同士で仲良くすっか?」
「断る」

ぷいっと顔を背けると、ノクトがこちらに背を向けて、離れて立っている様子が目に映る。さっき急に離れたあと、そのままキャンプの隅に移動してしまったようだった。

「まあそんだけ減らず口が叩けるようなら大丈夫そうだな。無事で何よりなこった」
「うん、明日にはもう動けるようになってると思う」

ぐっぱっと手を握ったり開いたりする。脚も動くし、神経も無事だ。ただ戦闘については傷が完全に乾くまでケアルをお願いしないといけないかな。開く可能性があるから、あとでイグニスに相談しようかと身体の調子を考えていると、それを悟ったかのようにグラディオが話す。

「悪いな、なまえはおれがここまで担いで来たんだ。レスタルムまでただでさえあんまり余裕なかったろ?」
「そういえば、そんな話だったね」
「さっきプロンプトから連絡があったが、あと少しで俺らと合流できるらしい。イグニスが運転をアクション映画ばりに決めてくれてすごい楽しいとはしゃいでた」
「イグニスのぶっ飛ばした運転か…すごく見たい…」
「だよなあ…プロンプトがうらやましいぜ」

そのまま雑談しながらちらりと横のグラディオに目を向ければ、わずがだが髪が湿っているようだった。グラディオが水を汲みにいったのは、そのまま肩についてしまった私の血を洗い流す意味もあったのだろう。それを語らないグラディオに心の中で感謝しながら、二人の帰りを待つ。

「おーい!」

すると木々の合間から買い物袋を抱えたイグニスとプロンプトが現れて、こちらに手を振っている。イグニスの運転すごかったー!アクセル全開だったー!とはしゃぎながらこちらへ駆けてくるプロンプト。これから何が起こるか知らないであろうプロンプトをにっこりと笑顔で手招きすると、「なまえなにー?」と不用心に近づいてくる。さて、どこから話そうかなと思案して、一旦視線を外す。すると、まだ背中を向けているノクトの姿が目に入った。

そういえば、どうしてあそこまでしてくれたのか、ノクトに改めて聞きたかったけれど、離れてずっと後ろを向いているノクトに声はかけられなかった。だけど、その耳が確かに赤く染まっているのをみて、夕陽のせいだと、暮れてきた空を見ながら、そう思うことにした。








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2017.0122
ベヒーモスの肉ってきっと豚肉っぽいんだと思う。ヒレかつ食べたい。

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