※あてんしょん
作品の雰囲気と経緯は(パート1/3、2/3)をご確認ください。
あれから、数ヶ月。色々、本当に色々あった。結果を言えば、私達は、オルティシエに行けなかった。
あの後、ディーノと名乗る新聞記者とコネをつくり、なんとか船を出させるところまで行き着いた。しかし、その翌日王都は陥落し、私達は帰る場所を奪われた。更に世間では、ルナフレーナ様もノクトもまだ生きているのに、死亡したと報道された。
その後すぐにわかったことだが、ガーディナの港で遭遇した怪しいおっさんはなんと帝国宰相だった。名は、アーデンと言うのだそう。何を考えているか分からないけれど、ちょくちょく私達の前に姿を現してはちょっかいをかけたり、助けたり、挑発して去っていった。
アラネアさんのように、帝国の人間でも理解出来る人はいる。ただあのイグニスが珍しく毛嫌いしている様子なので、アーデンの前では常に警戒を怠らないようにすることにした。ただ、あの人には、そんな私の警戒心はお見通しと言われているような視線を向けられる時があり、なおさら居心地が悪かった。
本当に、どこまで何を考えているか分からない人物であり、イグニスの言う通り、「出来るだけ関わりたくない」そんな気持ちにさせられるのだった。
そんなこんなで、王都と城を失った私は、王の剣でも何者でもなくなった。所属も、仕事を契約する書類もなくなった。でも、ノクトを守ってオルティシエまで行くことは、自分で決めたことだから。再び、王の剣となる日が訪れる時のために、未来の王のために、王都を取り戻すために。そして何より、ノクティスのために。全力でついていくと、決めた。
それからは、王都奪還の手段や、オルティシエへ向かう方法を模索しながら、私達を本当に亡き者にしようとしている帝国兵から逃げつつの日々を過ごしていた。
ただ、毎日を暮らしていくためには、資金稼ぎも行わなければならない。ハンターとしてもらえる賞金はもちろん、意外におせっかいなノクトが次々と人々からの依頼を請け負うので、それらをこなしていくだけでも、充分な資金になった。
そんな忙しいけれど、どこか穏やかな毎日が続いて、あの日もすっかり過去になった。
それなのに、私の気持ちは過去にはならないようだった。諦めの悪い、という言葉が似合うと思う。でも、だからこそ、今私は此処に居て、皆と旅が出来ている。それは最善とは言えないけれど、王都と滅ぶことより、余程幸せなことなのではないか、とたまに考えるようになった。
そして旅に出たからこそ知ることが出来た一面もあった。仲間達もそうだが、ノクトについては特にそうだった。
今や身分で人に遠慮されることがないせいか、意外なほど世話焼きで、ぐいぐいと他人に突っ込んでいくし、いつの間にか釣友まで出来ていた。世間知らずで表にあまり出てこない王子、愛想が足りない等と囁かれていたのが、嘘のようだと思う。
元々、他人を放って置けない性格なんだと思う。ノクトの優しさは見えづらいけれど、不器用なだけで確かにそこにある。そんなところに、知らずまたときめいている自分が、ひっそりと存在していた。
今一行は、ダスカ地方の付近に居た。シドから、オルティシエまで行く船の調整が済んだと連絡があったけれど、まだ中途半端になっている依頼をこなすべく、レガリアで大地を駆け抜けているところだった。
まだ夕方の6時だというのに、日が落ちかけている。なんだか、最近暗くなるのが早くなっている気がする。そのことについてわずかに胸騒ぎを覚えた。けれど、それよりも、そろそろ今日の宿を決めないと大変なことになりそうだと思った頃だった。
「今日はここらでキャンプにすっか」
「賛成〜!かけるよん〜」
「こらなまえ、勝手に決めるな」
ノクトが今日は標で休むと宣言した。しかし、普段は野宿を嫌がり、「ホテル泊まりてえ…」とこぼす回数が一番多いのにも関わらず、一体どういう風の吹き回しだろう。そう思ったのは、プロンプトも一緒だったようで。
「でもなんでここでキャンプするの?もう少しいけばホテルもあるじゃん」
「それは…、」
「………この付近に釣り堀があるからだろ、ノクト」
ギクッと助手席に座っていたノクトの肩が竦められる。運転中のイグニスがたっぷりと息を溜めながらため息をついた。
「しかし、今日はもう暗いから駄目だ」
「っハァ!?まだ明かりでてるだろ!」
「うわ〜ノクト必死すぎだよ…」
ああ、そうだった。釣りバカ王子だったんだこの人。真夜中に釣りをしてシガイに襲われたらオルティシエに行けなくなるというのに。呆れながらも、夢中になってイグニスに釣りを語るノクトの横顔に、知らず口元が緩む。
こんなに生き生きとしたノクトは、お城の中じゃ見かけることは出来なかった。………レギス様が最後にノクトを父として送り出し、世界を仲間と見て欲しいと願った想い。一人の父親として、ご子息の幸せを願った想いは、今のノクトに、確かに届いている気がした。
しかし、そんな私を横でニヤニヤと見ている存在がいたことを失念していた。ちゃかしてくる小声をしっかり聞き取る。
「………なまえちゃん、王子見過ぎじゃないかな」
「グラディオの、おっさん」
「おっさ…、おい!今日という今日は許さねえぞ!その減らず口矯正してやる」
「そういうこと言うからですー、はい、どーぞ、やれるもんならどーぞ」
「ああ〜!ダメだよ、グラディオとなまえが喧嘩したらレガリアが大破しちゃうよ!」
慌てて止めに入るプロンプト、拳を振り上げんばかりの私とグラディオ。助手席で釣りの素晴らしさを語るノクトに呆れながらもきちんと話を聞くイグニス。こんな当たり前の日々が、どれ程幸せなことなのか。
そんなことは、ここにいる全員が密かに噛み締めていることだった。
標についてからは設置や準備で忙しく、日もあっという間に落ちたため、結局ノクトが行きたがっていた釣り堀には行けなかった。そしたら夕食後、こっそりチョコボで移動しようとしていた釣りバカ王子ノクトを4人で掴まえて、ぎゅうぎゅうとテントに押し込み、ようやく1日は終わったのだった。
その夜、いや早朝だった。
「なまえ…」
誰かが呼んでいる。夢か、夢を見ているんだ。
「なまえ、なまえ」
今度は身体が揺すられている。なんだろうと思い、目を擦る。焦点があってくると、ノクトが顔を覗きこんでいた。
「んあ…。ノクト?」
しーっと人差し指を唇に当てるノクトが目の前にいた。なんだこれ、夢のサービスかなあ、良い夢じゃないか、うんうん最高。と思って二度寝しようとしたら、またゆり起こされる。
さすがに様子がおかしいと思って目を開いたら本当に目の前にノクトが居た。
「なに、こんな時間に…まだ真っ暗で、夜じゃん…」
「いや、夜じゃない。早朝」
なんでそんなに頑ななのかよくわからなかったけれど、寝ぼけた頭を回転させながら身体を起こして、ポケットをまさぐる。端末の電源をつけると、まだ朝の4時だった。
「確かに、早朝だね」
「あのさ、ちょっとそこまで護衛して欲しいんだけど」
「トイレ?」
「違う!……、ちょっと、コレに」
と言って手にしゅん、と召喚したものは、ルアーだった。ははああ〜ん。なるほど。
「………時間外労働です。お引き取りください〜」
また、パタン、と身体を横にする。すると間髪いれず、ゆさゆさとまた揺すられ、潜めた声で必死に話しかけられる。
「あ〜、だってイグニスには朝食の準備があるし、グラディオは声デケェから魚が逃げるしプロンプトは魚触らねえし」
「眠い。めっちゃ眠い」
「早朝は釣れる魚も種類も食いつきも違うってネイヴィスが言ってたんだ〜!…なまえしかいないんだって、頼む!」
ノクトの声はとても必死だ。そんな声で、私しかいない、と言う。………そんな風に言われたらついていく、としか言えないじゃないか。
「………戻ったら、二度寝するからね」
暗闇の中、無言でグッと拳を握るノクトにまるで子供みたいだなあという感想を持つ。つい気だるげに言ってしまうが、内心は、こんなに嬉しそうなノクトが見えるなら、これくらいいくらでもお安い御用、というのが本音だった。
鉄巨人一体くらいなら私とノクトでなんとかなるレベルだが、それ以上は厳しい。危なくなったら即戻るからねと念押しして歩きだす。
草原はしとしとと少しだけ雨が降り注いでいた。遮るものがなくても許せるくらいの小雨だが、肩が少しずつ濡れていく。まだうっすらとしか光の射してない空だ。短い移動距離でも気を抜くわけにはいかないので、武装はしっかりしていく。
更に雨雲がかかっているせいで、辺りは殆ど真っ暗に近い。いくら釣り堀に光があって安心できるからといって、道中は警戒を最大限にはらって進んだが、奇跡的にシガイに遭遇することはなかった。
訪れたのは、「忘れじの水面」と看板に彫られた人気のない釣り堀だった。ガーディナでの夜釣りは許しても、確かにここはイグニスのお眼鏡には叶わなさそうな場所だった。
事前リサーチがお互いに完璧なノクトとイグニスのことを思うと、息がぴったりで少し笑えた。
「んじゃこの辺で釣るかな…」
ノクトが掛けられた桟橋の上で、程好く釣りがしやすい場所を探し、うろつく。
私は、人影が多いと魚が警戒すること、池周辺を見渡すために加えて、雨がまだほんの少し降り続いていたので、桟橋から少し離れた木に寄りかかって釣りをしているノクトを眺めることにした。
「ノクトってさ、本当に釣りが好きだね」
「まあな。一番の趣味だしな」
ビュン、と池に放り込む姿は中々様になっている。いつかグラディオ辺りに「武器を振るよりうまいんじゃねえか」とか言われていたけれど、たしかにそうかもしれない。本人に言うと怒るから絶対言わないけど
「今、武器振るよりうまいとか思っただろ」
バレていた。
しばらく、釣りをしながらなんでもない会話を交わした。これからどうするか、という話ではなく、どちらかと言うと、仲間達全員を含めた過去の話や、初めて会った高校の時の話なんかもしていた。
またノクトが釣竿をふるったところで、ふと、会話が途切れる。
木々から雫の滴る音と湖面を叩く雨の音。とても静かな世界だった。まるで世界中に二人だけ、みたいに。そんな感覚はあの時にも抱いたっけ、と余分なことまで思い返してしまう静けさだった。
釣りに勤しむノクトの後ろ姿をぼーっと見つめる。
小さい。細い。
以前グラディオにからかわれていたけれど、別にノクトが特別そう、という訳ではない。王の剣にいたころ、共に任務をこなしていた屈強な仲間の後ろ姿を思うと、世界を背負わされた背中としては、まだ小さい。そんな風に思うときがある。……そんな背中を支えていけたら、良いとまだ、思っている。
「なまえさ」
沈黙をノクトが唐突に破った。
「オルティシエいったあと、どうするんだ」
どういう意味なのだろう。真意がいまいち読めなかったけれど、そのまま思ったことを返す。
「んー…まだ具体的には、考えてない、かな」
王の剣も、もうない。私は、ノクトをオルティシエに届けたらどこに行っても良かった。そのまま支えていてもいいし、コル将軍達と合流して、王都奪還にむけての情報収集など、本格的に働くのもアリだ。
……ただ、身分上はそうなのだが、気持ちは、ノクトの側にいたがっていた。しかし、側近のイグニスや、王の盾のグラディオ、友人としてノクトを支えているプロンプト達とは、また私は立場が違う。だから、私には私のやらなくてはいけないことが、まだあるのだとも思う。
あと、オルティシエについたらこのずるずると引きずっている気持ちにけじめをつけれる気がする。だから、そろそろノクト達との旅は、そこで終わりなのかもしれない。
そう考え終わり、切り出そうとしたときだった。
「じゃあさ、俺の側にいれば?」
「………え」
ノクトがまたルアーを池に放り投げる。聞いていたはずなのに、自分が直前に考えていたこととは正反対の言葉を投げ掛けられて、理解が及ばなかった。
「俺さ、お前に守られてるの嫌いじゃないんだわ」
なにか引っかかる言い方だ。伝えることを、意図的にぼかしているような、言葉。
「むしろ、好き」
しいん…と池は静まり返っている。いつの間にか小雨は止んでいた。
会話の流れからして、私に守られているのが、好き、とノクトは話しているのだ。それなのに、どうして自分の心臓はこんなに早鐘を打っているのだろう。
敢えてなんでもない風に話すノクトはこちらを一度も見てくれない。でもそれでいいと思った。こんなこと、此方を見ながら真面目に話されたら、とても、とても直視できないから。
「なんかこう、そうじゃないと落ち着かないっていうか、うまく言えねえけどさ」
ぽつりぽつりと。ぶつ切りの言葉だったが、はっきりと自分の気持ちを話しているようで。
「側に居て欲しいって、思うんだ」
「ーーーそれって、つまり」
頭が沸騰しそうになる。
もう、情けなく声が震えていた。
「好きってことだけど」
信じられない。一番最初に思ったことはそれだった。次に、嬉しい。信じられないという感情が交互にやってきて、心がいっぱいになる。
なのに、最初に口から飛び出たのは、それを否定する言葉達だった。
「い、いや、駄目だよ…無理でしょ…!」
「何が、駄目で無理、なんだよ」
私の否定の言葉を受けて、やっとノクトが振り向いた。少し濡れた髪が貼り付いた表情はちゃんと説明するまで納得しないと言っている。
そんなノクトに「分かってる癖に」と言いかけてぐっと堪える。感情的になってどうする。
「………私は、一般人だよ」
「んなこと、知ってる」
「ルナフレーナ様はどうするの…?」
口にすると、絶望感が襲いかかる。ずっとこわくて言えなかった言葉。一番伝えることのないと思っていたノクトに、直接、ぶつけていた。
「ルーナのこと、気にならないっつったら、嘘になる。けど…なまえの方が、気になる」
ああ、その言葉で知る。目の前にいる人は、もうとっくに覚悟を決めているんだということを。自分は答えをだした。ありのままを話す。それで、お前はどうだと問いかけているんだ。
素直に気持ちを語るノクトに、脱力した。いつ知ったか分からないが、もうこの人には、私の気持ちはお見通しなんだ。だからこそ、本当を話してくれているんだ。
「…はああ〜〜、素直」
「………ルーナ、かわいいし」
「まあ、わかるけど」
可愛いだけではない。強く、凛としていて、使命のため健気に人々を癒す彼女の姿は誰だって眩しく思うに違いない。白い服の似合う、うつくしい人。
強かに微笑む彼女の笑顔が、脳裏に浮かんでいた。
「でも、なまえを…俺はかわいいと思うし、なんつーか、こう、ひ、…独り占め、した、い」
「そう、思うんだけど」最後の方はほとんど聞こえなかったけれど、そう、言われたと思う。最早、そこまで言われると、都合のいい幻聴を聞いているのではないかという気分になってきた。
「か、かわ…」
ノクトの口からそんな言葉が出てくると思ってなかったので、最初は理解出来なかった。しかし、自身の中で反芻しているうちに、じわりじわりと顔が熱くなってくる。
「じゃ、じゃあなんであの時、最初嫌なんて…言ったの」
なんて返したらいいかわからなくて、思わずつんけんした言葉になった。あああ、こんなの目の前にいるノクトの方がよっぽど大人じゃないか。
あの時…ああ、あの時な。とモゴモゴ目の前のノクトも話している。なんか段々恥ずかしくなってきて、この話題はもういい、止めようと言い出そうとした時だ。
「グラディオに抱かれてるときは、正直嫉妬した」
その言葉に、なにかがぷつん、と切れた。
「の、ノノノノノクトが嫌だっていったんじゃん!」
「あんときは!まだ決心ついてなかったからさ!」
「はあああああ!!?私なんのためにあんなことしたと思ってんのさ!!」
「中途半端なことしたら余計駄目だと思ったんだよ!!でも途中からっ、途中から我慢できなくなって本気で抱きたくなったんだよ!!!」
「な、最初から言ってよ!!」
「なまえがエロいから悪い!!」
「意味わかんない!!」
お互い、真剣になって言い合いながら、距離がつまっていく。すっかり二人とも顔を蒸気させているだろう。そのまま関係のない文句まで言い始め、告白のような雰囲気から、一気に喧嘩になった。ただ言い合っている言葉は、お互いがずっと言いたいと思っていて、心に秘めていたことだった。
「とにかく!俺はなまえが良いんだ!!」
喧嘩の終わりに飛び出たノクトのその言葉は、ほぼ叫ぶようだった。そのまま抱きしめられたというより、抱きつかれる。まるで幼い子供が飛び込んでくるように低く抱きつかれて、タックルのようだ。少しよろめいたけれどそのままノクトは離れない。
抱きしめられたまま、膠着した。少し時間がたってから、ノクトが先に言葉を紡ぐ。
「酷いことして、悪かった」
ふと、ノクトが少し震えていることに気がつく。それは、言い合ったことで切れている息とは、関係のないものだった。
「ああ…、でも私、ノクトの立場だったら死ぬ気で考えて…それでもずっと言い出せないと思う」
現に、私は言えなかった。ずっとずぅっと逃げていたんだ、ノクトが好きだっていう気持ちから。柔らかくて優しい、好きって言う気持ちをころして、最初から身分違いとか婚約者がいるとか色々言い訳をして。それでも溢れてきた気持ちを拒絶して、蓋をしてしまいこもうとしていた。
「すごいよ、ノクトは」
でも、ノクトは逃げなかった。
少し考えるだけで、たやすく無理だと諦めてしまいたくなる、現実ばかりで。さらに王家という重圧がのし掛かっている。それだけで、きっとノクトだっておそろしくて仕方がないはずなのに。こうして、私に手を伸ばしてくれた。
「………俺だって色々考えたんだ。考えなしに、言えるわけ、ないだろ」
その強さから、逃げられるわけがなかった。私も強くありたい。だから、手を伸ばして応えたい。この人の側に居たい。
ノクトの身体とこんな風に、お互いを想いあってぎゅっとできるなんて夢みたいだ、夢に、夢に違いないんだ。そう実感しながら恐る恐る、抱き締め返した。
なんだ、夢でもないし、私の手も、震えていた。
しかし、どこかで駄目だ、ノクトのために今すぐその手を離すべきだと叫ぶ自分もいる。でも、今はとても制御できない。こんな温もりを知ってしまったらとても後戻りはできない。そんな想いがどこか自嘲的な言葉に変わった。ノクトの肩に顔を埋めて話す。くぐもった声は、予想以上に弱々しいものだった。
「ああーーーダメだ、私、きっとノクトを不幸にするよ、幸せにするって約束できない」
「それ、逆じゃないか?」
少しだけ、ノクトが笑う。
「俺も、なまえを不幸にするかもな」
それはノクトの偽りない本心だった。この人は、なにもこわくないのだろうか。それとも、それよりも、私が離れることが恐ろしいと、想ってくれているのだろうか。もう愛しさしかこみ上げてこなかった。それと同時に、どんどん目の前も、ぼやけてくる。
「私はっノクトに選んでもらえる以上の幸せはない、から」
どんな結末になっても、大丈夫だよ、と笑いかける。
きっと、祝福してくる人はとても少ない。ひょっとしたら、誰もいないかもしれない。でも、目の前の大切な人が、私を好きだと言って手を伸ばしてくれたから。側にいて欲しいって言ってくれたから。私はずっと、そこにいたい。
ノクトも、笑顔を向けてくれる。
「俺も、同じ気持ちだ」
「…っノクト、」
もう、なんと言葉にしたらいいかわからない。
「ああ…なんだ……良かった……」
身体から余分な力が抜けていく、もうこの人の前で私が繕うことはなにもない。この気持ちを偽る必要も、もうない。
「私…ノクトのこと、好きでいて、いいんだね」
「当たり前だ」なんて言いながら、こぼれた涙を指先ですくってくれる。
………ロマンチックなはずなのに、ふわっと魚の匂いがして台無しだった。「ノクト、魚くさい」と言えば、「わ、悪い!」と謝りながら、慌ててグローブの甲でごしごしと私の頬の上を擦る。
「痛い痛い」なんていうと、さらに目の前で慌てるノクトがおかしくて、クスクス笑っていると、ようやくからかわれていることに気がついたのか、表情がむすっとする。それに満足していると、にやりと意地の悪い顔に戻ったノクトがこう切り出す。
「あ、さっきの返事、ちゃんと聞いてないけど」
「え、えぇ!?」
ぶわっとまた顔が熱くなる。確かに、確かに私からは何も言っていない。なのに、気持ちはだだ漏れだった。それだけでも相当恥ずかしいことな気がする。さて、どうしようかと目を逸らして、必死に何か考え付かないかとぐるぐる小細工を考えていたら、額がこつ、と触れ合った。
「俺、なまえが好きだ」
「私も、ノクトのことが好き…です」
すっと、自然に言葉が出た。やっと、やっと言えたんだ。
「ふ、なんで敬語?」
目の前で笑うノクトにきゅんとする。再び目があったとき、その距離のまま、普通の恋人たちがするように、自然に唇を重ねた。
ようやく、太陽が本格的に昇り始め、周りも明るくなってきた。朝日を受けて、水滴を反射する雑草を掻き分けて歩き、私たちは釣堀をあとにした。
「どうしようね、一般人なんかと恋愛してさ、スキャンダル必須だよ」
「ま、それは王都取り返してから考えるわ」
「パパラッチの追い払いなら任せて!」
ガッツポーズで応えると、「頼りにしてる」と返される。それがむず痒くて、へへへとだらしない表情になってしまう。しかし、それよりももっと身近な問題を思い出した。そうだ、仲間たちになんて言おう。プロンプトとグラディオはともかく。
「あ〜イグニスには自覚が足りないって怒られるかな〜こわいよ〜」
「俺もこわい」
「そこはさ、守ってやるとか言ってよね〜」
「無理、正論並べられて多分なんも言えねーわ」
「だよね、ノクトじゃ無理だ」
「じゃ、二人ならなんとかなるかもな」
そう言いながら、手を取り合って笑った。それが、当たり前になっていることが何より嬉しくて、特別で。幸せだった。
空が新しい陽の光で染まり、夜明けを告げる。
私たちに、太陽は光を注いでいた。
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2017.0210
ずっと坂本真綾さんの「色彩」をずっと聴きながら書きました。私の思うあいらぶゆーは、「側に居て欲しい」だと思っているので、ノクティスに言わせることが出来て、良かったです。
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