「危ないから押さないで!お、押さないでくださーい!」

2月14日。本日は、バレンタインデーなり。

もはや、なまえは護衛ではなく、ただの警備員になっていた。普段声を張り上げるような仕事ではないので、大声を出しているが、今一効果がない。

今、いつも帰り道を共にしている三人組の周りはどうかノクティスにチョコレートを受け取って欲しいと熱意のこもった女の子達に囲まれていた。

プロンプトはその背後ですごいねーと言い出しそうな表情で隠れているし、ノクティス本人はまるで興味がないと言いたげだった。それどころか、背後で小さく「歩けねえ…」と呟いた本人を、なまえはキッと一瞬睨み付け、再び周囲の女の子達に道を開けてもらえるようにお願いする。

「す、すいません!通れないのでっ、げほっ、げふっ」

女の子らしからぬエグい咳をしつつ声を出してきたが、そろそろ本格的に喉が痛くなってきた。「なまえしっかり!」とプロンプトも心配してくれる。なんとかしようと思ったプロンプトがノクティスの前に出ようとするが、なまえはそれに手で待ったをかける。

「ノクト、どうする。このままじゃ埒があかないんだけど…」
「めんどくせ…適当に、追い払っといて」

その態度に、なんだかなまえは腹が立ってきた。この色男は今日1日こんな調子なのだ。せめて、自分から堂々と「受け取れない」と言うべきではないのだろうか。下手に構うと、期待を持たせてしまうから悪いと考えているのは、こんなことになっても怒り出さない様子から、なんとなく分かる。

しかし、しかしだ。ここまで盛り上がってしまったからには、何かしら行動を起こさなければ収まらないだろう。物事には限度があるし、それが逆に女の子達の興味を引いてしまっても、この場をなんとかするにはそれしかない。

必死に止めているなまえだったが、チョコレートを渡したい女の子のひとりとして、この子達の気持ちがわかる。どうせいらないと言われるなら、ノクティスの口から、ちゃんと言われたい。

「……ああ〜、女の子の気持ちを邪険にする男なんて守れませんわ〜」

棒読みに近い喋りでなまえは広げていた両腕を下げた。その諦めたような仕草に、ノクティスからは焦ったような雰囲気が漂った。

「ま、待て!なまえ」
「…せめて、どうするかノクトが方針を決めてほしい」

その言葉でわかってくれただろうか。いや、振り向かなくても、ノクティスならこの言葉の意味がきっと分かる。彼だって、決してこの女の子達に意地悪がしたいわけではないのだから。

「…わかった。なまえ。俺とプロンプトのために道を開けてくれ」

周りの女の子に聞こえるように、少しだけ大きな声でノクティスがそう言った。先ほどまで黙っていた王子の変化に、女の子たちがざわざわとたじろぐ。

「承知しまし、た」

ふ。と意識を集中させる。この場から、道を開けるためにはーーー。

「ノクト!プロンプト!バック!!」

正面から直接出ることは諦めた。周りを囲っていた女の子が一番少ない、ノクトの背後からこの人だかりを突破することに決めた。なまえはノクティスの腕を掴んで、反対の腕と身体でできるだけ優しく女の子を押しのける。何人かよろめいていたが、幸い、転んだ子はいなかったようでほっとした。

いきなり走り出した三人に呆気にとられたようだったが、すぐに気を取り直して、後ろから追いかけてくる。そのまま何周か校内をぐるぐる追いかけっこした。

途中で三人はフェンスを乗り越え、なんとか学校の外に出た。そのまましばらく走り続けたら、もう誰も追いついてきていなかった。そのまま、ノクティスとプロンプトはゲーセンに行くと言っていたので、途中まで見送ってから、なまえは城に向かった。







実は、なまえの鞄の中にも、チョコレートが入っていた。昨日、稽古から返ったあと仕上げをしたトリュフチョコレート。

しかし、今日1日こうやって、他の女の子達からのチョコレートを遠ざけているノクトを散々、散々眺めていて、昨日までの渡した時の反応を想像して少しだけどきどきしていた自分の能天気さに呆れるような気持ちだった。

やっぱり私がノクトの側にいるためには、どうしても強くなくちゃいけない。こんな浮かれた気持ちは忘れて、稽古に励もう。となまえは気持ちを新たにして、城へむかったのだった。









稽古場に誰もいなかった。そりゃそうか。バレンタイン、だもんね。

そう思いながらなまえは軽く準備運動をすませる。ストレッチ、腹筋、背筋、腕立てを終わらせたところで、木造の剣をとった。木で作られた人形に撃ち込んでいく。カコン、カコンと軽い音が響いて心地いい。適当に打ち込むだけでは練習にならない。人の急所は上から、頭、首、胸、腹ーーー。

「おう、なまえ気合い入ってるな」
「グラディオ」

夢中になって振り回していたら、いつの間にかグラディオが稽古場に入ってきていた。なまえは意外な人物の登場に一旦剣を止めた。じんわりと汗をかいていたので、タオルを取りに行くため、なまえはコートを出て、荷物置き場のグラディオに近づきながら話しかける。

「意外。グラディオは今日は絶対来ないと思ってた」
「ははは、俺の本気はホワイトデーなんでな」

はいはい、と適当に相槌を打っている間に、そういえばグラディオにもチョコレートを用意していたことを思い出し、鞄から取り出して、差し出した。

「会えて良かった、はい、グラディオにも」

そう言ってチョコレートを渡した。ありがとよ、と爽やかに受け取るグラディオは間違いなく、今日数々の女の子からチョコレートをもらったあとに違いない。

「あの王子様には渡したのか?」
「…友達には、渡したよ」

それで察したのか、「そうか」と言ったきり、それ以上は何も言ってこなかった。なまえはその雰囲気を振り払うように、獲物を、今度は木製の剣から木製の斧に取り替えた。

「ね、グラディオ、練習試合しようよ」









それから暫く、なまえはグラディオと打ち合った。木製の人形なんかとは比べ物にならないほどの緊張感。剣をいなすだけで骨がしびれるようだし、グラディオの動きや構えは攻撃を誘っているようで、全く隙がない。ヒット&アウェイを心がけるが、こんな小細工は自分の趣味でもない。正直、じれったい。なぜか今日は特に、そんな気分にさせられた。

「なまえっ、なんか太刀筋が荒いぜ!あれてんのか?」
「そんな、こと言って油断してると、っ痛い目、みるよ!」

ぐんっと、振り払った斧を強引に反対に戻す。筋肉にも負担がかかる動きだが、グラディオを出し抜くためとはいえ、確かに普段はこんな無茶はあまりしない。でも、決まればそれでいいと考えていた。しかし、そんな甘さの残る攻撃は、グラディオに簡単に見抜かれていた。

「っ!」

手のひらに衝撃が届いて、斧が吹き飛ぶ。派手な音をたてて、落ちた木製の斧をなまえは呆然と見つめた。

「調子良くないんなら、無理はするんじゃねえよ」

「なまえ、負けてんじゃん」
「ノクト」

何故かノクティスが扉に寄りかかって立っていた。予想外の人物の登場になまえは混乱した。

「ど、どうしてーーー」
「プロンプトとゲーセンに行ってもさ、今日はまだついてくるみたいだったから、城に来た」

やれやれ、と言った調子で首を振るノクティス。

「稽古は久しぶりだろ、王子様。ちょうど良いじゃねえか、俺もいるし、たっぷり訓練してやるよ」
「うげー」

それから、三人でしばらく、稽古を続けた。たっぷり、というグラディオの言葉のとおり、ノクティスは特に重点的にしごかれていた。長い時間、剣だの大剣だの槍だの、とにかく様々な武器種を一通りこなすまで、グラディオの訓練は止まらなかった。

「も、ちょ、タンマ、もう無理」
「わ、私も、限界、かな」
「だらしねえなあ〜」

なまえとノクティスは同時に根を上げる。ノクティスはそのまま地面に座り込み、なまえは膝に手を置いて荒くなった息を整えていた。外気温はとても寒いが、真剣に訓練していると、身体が燃えて、汗が出てくる。額に流れた汗を、タオルで拭っていると、見かねたグラディオが提案した。

「あーあ、ちょっと待ってろ。冷たい飲み物とってきてやるよ」

「今のうちにしっかり休んどけよ」そうしてグラディオは出て行った。

「あ〜、グラディオキツすぎ…」
「本当にね、今日はなんかやたら気合い入ってるわ…」

雑談を交わしながら、少しでも涼しげな窓際へと向かう。しかし、これだけ疲れたということは実際いい訓練なのだろう。一人で訓練していても、ここまでへとへとに出来ることはそうそうない。グラディオの手腕に感謝しながら、冷たい壁に寄りかかって休憩をとる。

ノクトも暫く座ってぐったりとしていた。しかし、グラディオが出て行ってから変に静かでなんだろうと思っていたら、ようやく、そっと口を開いた。

「腹減った…、なまえ、なんか持ってない」

その言葉に、どくん、となまえの心臓が鳴った。

心なしか、ノクティスの顔も赤い気がしたが、さっきまで本気で撃ち合っていたせいだ。そうにちがいない。でも。もし、もしそうじゃ、ないならーーー

「こ、これ…なんだけど」

鞄からトリュフチョコレートを取り出し、恐る恐る差し出す。顔が熱い。これは、さっきまで稽古していたせいなんだと必死に言い聞かせる。ノクティスが何が話そうとしたが、その前になまえがいてもたってもいられず、喋りだした。

「で、でも…こ、これ、私が作ったんだけど、ひょっとしたら、お腹壊すかもしれないから、食べるのやめといた方がいいかもしれな」
「貰うわ」

なまえが言い終わる前に、すっと、ノクティスが包みを受けとる。なまえが精一杯選んだ可愛らしい包みと、キッチリとした包装を丁寧に解いていった。なまえは気合い入りすぎだろ!と昨日の自分を叱りたい気分だった。恥ずかしくて、消えてしまいそうだ。

「いただきます」

ぱくっと一粒ノクティスが口にする。そして正直な感想を口にした。

「うん、美味いよ」
「よ、良かった…」

何故かずっと立っていたなまえはへたり、と座り込んだ。その様子を見て、ノクティスは少しだけ笑んだ。

「なまえも食えよ、疲れただろ」
「う、うん!」

全部で6粒あったそれを、半分こして食べた。ノクティスと過ごせる穏やかな時間になまえも自然と笑顔が溢れる。こんな時間がもう少しだけ続きますように、となまえは心で密かに願いながら、ノクティスと他愛のない会話を楽しんだのだった。






「で、俺はいつまで廊下に居ればいいのやら…」
「グラディオ、どうしたんだそんなところで」

二人の雰囲気を察して、扉の前で中に突入するタイミングを見計らっていたグラディオだったが、その前をイグニスが通りすがる。

「なあ、チョコレートにスポーツドリンクってあうと思うか?」
「………組み合わせで言えば、最悪の部類だろうな」

イグニスは味を想像して顔をしかめた。二人分のスポーツドリンクを持って扉の前で立ち往生するグラディオが中に入れるのは、もう少し先の話である。






::::::::::::::::::::::::::::::
2017.0214
駆け込みバレンタインです!荒削りですが、どうしてもあげたかった…!ハッピーバレンタインです。あと、タイトルが思いつきません!困った!



back



ALICE+