ここは、平和時空。現かあの世か、はたまた夢か幻か。かつてあったひとつの物語を、歪められた世界。

しかしそんな世界でも、彼らは変わらず、一緒にいるようでーーー





「ぅあああぢ!あづ!あっっついってノクトぉ!」
「あっ…!燃えるっ服燃えるう!」
「わ、わりい!」

バタバタと服をはたく音とこの燃え盛る焔を放った本人への苦情が青空の下響き渡る。しかし、仲間も巻き添えにした強力な火炎魔法は周囲の敵を焼き付くしたのもまた事実だった。

炎の勢いが弱まると煙も収まり、周囲の様子も明らかになってくる。と、そこで。

「な、なまえ、服!服!」
「え?…ああ!!」

何故か、なまえの衣服は胸部と臀部だけ燃え落ち、素肌が覗いていた。なまえは弾かれたようにさっと胸元を手で抑えるが、臀部までは届かない。まずい、としゃがみこむと、むわっと焼けた草の香りが鼻孔をつく。それを我慢しながら必死に叫んだ。

「ぷ、プロンプト…!」
「わかってるよ!はい!」

プロンプトは駆け寄ると、持っていた布を渡す。すぐに臀部を遮るようにして、てきぱきと布を腰に巻き、なんとか動けるように、なった。


なまえはここ最近において、ラッキーすけべ。つまりほんのりえっちなハプニングに、見回れていた。

それもーーーおそらくある呪いのせい、なのだ。



ことの始まりは3週間前。いつものようにお小遣い集めに始めたハンター業で請け負った仕事だった。

「………なにこれ、ピンクリッチ?」

なまえが依頼状をペラペラと捲りながら、物色していると、何やら見かけたことのない珍しい名前のエネミーがいた。イラストもなく、unknownとだけ記された依頼状はかなり古びていた。

「へえ、俺も見たことないな」

ずい、とグラディオが横から覗き込む。その手に持っていたポテトをひとつ貰いながら、「私も見たことないなあ」と返す。

「イグニスは知ってる?」
「いや…残念ながら、知らないな。リッチ系統のエネミーだということは、想像がつくのだが…」

「ふーん、イグニスも知らねえんだ」

興味なさげにコーラを飲んでいたノクトだったが、イグニスも知らないエネミーということを聞き付けて、目の色が変わる。

「ピンクかあ…かわいい女の子の霊だったりして!」
「ばーか、アイツはアンデットだっつーの」

「ゾンビにされちまうぞ」とプロンプトにグラディオが噛みつく真似をすると、「俺の夢を壊さないでよー!」と泣きそうな声でプロンプトが悲鳴あげた。

「受けて、見る?」

騒いでいるプロンプトとグラディオは放っておいて、イグニスとノクトに問いかける。

「そりゃーーーやるしかないっしょ」
「ああ、俺のデータにも、載せたいしな」

ノクトはやる気満々と言った顔で頷き、イグニスは眼鏡を押し上げた。こうなったらもう決まりだ。確認してみると、報酬についても中々の依頼状だったので、すぐにサインをして、マスターに提出する。

マスターはその依頼状を見て、一言。

「まあ、変なことされないように、気を付けてな」





暗い洞窟の中で複数のライトの灯りが乱反射していた。反響するのは、金属音と発砲音と、戦況を報告しあう切羽詰まった声。

結論から言うと、ピンクリッチはリッチなだけに、気を抜けない強敵だった。ちなみに、普通のリッチの如く、肉は完全に腐り落ちていた。ただ、一番の違いと言えば、その虚ろな口から吐き出されるのは緑黒い霧ではなく、桃色の霧だった。

「おい!そっち行ったぞそっち!!」

引き付けていたノクトがその桃色の霧を吐き出されたことで、距離が縮まり、当たる寸前でシフトを使って距離をとる。ピンクリッチは、そんな急激に離れたノクトを放って、次に近くにいたプロンプトへと標的を変えた。

「うわーん!やっぱりかわいい女の子の霊ってのは嘘じゃあん!」
「喜べよプロンプト、色々丸見えだぜ?」
「いやいやいや!いけないものまで見えちゃってますから!色々見えちゃいけないものまで出ちゃってますから!!」

「色々観察したが、女性かどうかは、わからないな!」
「プロンプト、そっちいくからしゃがんで!」

イグニスは離れたノクトへ駆け寄っていく。なまえは遠距離メインのプロンプトが至近距離まで詰められそうになっていたので、リッチとプロンプトの間に身体を走りながら滑り込ませた。鋭い骨の指先が切りつけてくる。隙の少ない動作だけに、斧で捉えるのが遅れそうになるが、なんとかタイミングを合わせて防ぐ。金属音とその衝撃で骨の軋む嫌な音が響いた。

「グラディオ、よろしく!」
「オラァ!!」

背後をとったグラディオが大剣で派手に一撃を加えると、ボキボキと骨が砕ける音と共にピンクリッチがよろめく。もう少しで完全に全身が砕けそうなほど亀裂の入った身体を見て、あともう少し倒せることを察する。

その瞬間、ピンクリッチが口を開いた。喉の奥が正面から直視できる位置にあり、桃色のもやが渦巻いている。このままでは直撃は免れないとなまえは斧を引いて撤退しようとしたが、指先の骨が柄に絡んでいて、離れられなかった。やばい、と青ざめた瞬間、目の前でシフトの衝撃音が響いた。それと同時に柄を掴んでいた骨が砕けて、武器が自由になる。

「ノクト!」
「ぼーっとしてんなよ、なまえ!」

体制を崩したピンクリッチは、腰に剣を刺しているノクトと一緒に倒れこむ。ずううん…と衝撃音が響いて、砂埃が舞い上がる。しかし、その向こうで影がうごめいている。まだ動いている。ノクトが舌打ちして剣を抜き「離れるぞ」と言って後方へ走り抜ける。なまえも追って距離をとり、イグニスの近くに集まる。

「あとちょっとみたいだけど、どうする、イグニス」
「殴りゃ壊れるって感じだな、ありゃ」
「あと少しであれば、遠くから安全に倒せるのが一番だと思うんだが」
「もうダメ。俺ダメ。もう本職の皆さんにまかせます」
「プロンプトはこわいだけでしょ」
「うん。もうすっごいこわい。さっき助けてくれたなまえが王子様に見えたもん」
「嘘つけ、本物の王子様はこっ」

その瞬間、この世のものとは思えない絶叫が洞窟中に木霊した。ビリビリと全身を震わせるような声。闘志を剥き出しにして、殺してやると言わんばかりの雄叫びを受け、全身に鳥肌が立つ。知らず、武器を強く握りしめるなまえの口元には、笑みが浮かんでいた。

「あれこれ考えるより、やっぱ物理で殴る、かな」

なまえはそう言って斧を構え直す。横のグラディオも同じ気持ちだったらしく、大剣をすでに担いでいた。

「なまえの脳筋」
「グラディオには言われたくないなあ」

軽口のあと、ピンクリッチに向かって同時に駆け出す。「二人とも熱くなっちゃって」と呆れるようなプロンプトの声が聞こえた気がしたが、もう気にならない。今大事なことは、目の前の獲物にどちらが刃を突き立てることになるか、だった。

グラディオが大剣を投げるという暴挙に出て、先を越されたと焦ったが、ピンクリッチの身体を崩壊させるには至らなかったようだった。あばらの辺りをちょうど貫通して突き刺さっただけにとどまった。横から悔しそうな舌打ちが聞こえ、からかいたくなったが、トドメを刺した後でいくらでもからかえばいいと判断して、ピンクリッチに距離を詰める。

そのまま、なまえはピンクリッチの脳天に向けて、思い切り斧を振り上げ、振り下ろす。致命的な音が鈍く響いて、動きが、停止した。

「はいっ私の勝ち!」
「……あーはいはい、今回はな、今回は」

振り返ってガッツポーズを決めるとグラディオが呆れ返った顔で適当に手を叩く姿が目に入る。久々にトドメを決めれたことが嬉しく、鼻歌を歌いながらピンクリッチから大剣を引き抜き、グラディオに向けて差し出す。

その直後だった。

「はい、グラディオ。投げるなんて反則ーーー」
「おい!なまえ後ろ!!」
「え?わああ!?」

手のない、腕だけの骨が背後からぬっとなまえの身体を包み込み、まるで道連れにと言わんばかりに力尽きたピンクリッチが倒れる。なまえを巻き込んで倒れたので、仲間達は形相を変えて駆け寄り、バラバラの骨と布をかき分ける。

「なまえ!」
「おい!大丈夫か」
「うわー!!なまえが連れて行かれるー!」

あんなに怖がっていたプロンプトも絶叫しながら骨を掴んでは投げ捨てている。お前触れるんじゃん…と内心でノクトは突っ込みかけたが、そんな場合ではないので、ぼろ布を引き剥がしたりしていると、そのうち、なまえの姿が見えてくる。腕をこちらに伸ばしていたので、それを掴んでひっぱりあげるとやっと上半身が起き上がった。激しく咳き込みながら喉を押さえていたが、なんとか無事だったようだ。

「な、なんか思いっきり吸い込んだ気がするし、寒気もする…」
「あーあ、髪の毛まで何やらわからん粉まみれだぜなまえ。しかもなんかピンク色だぞ」
「うう…さいあく…」
「調子に乗るから、だな」

ぐさり、とイグニスに言われて返す言葉もないなまえは、うっと気まずそうに苦笑いした。

「大丈夫?立てる?」
「それは余裕だけど、万能薬飲んどきたい…なんか悪い予感がする」

「それもそうだな」とイグニスが万能薬を手渡すとその場でごくごくと飲みきる。ぐいっと口端を拭うとなまえは少しすっきりした気分になった。

「おら、いつまでそんなとこでゆっくりしてんだよ」

ノクトが手を差し出してくれたので、なまえはお礼を言いながら下半身にまとわりついている骨屑を蹴り飛ばしながら立ち上がった。はずだった。

何故かその直後、つるん、と足元が滑った。

「あ、あわ、わあ!?」
「ちょ、なまえっ…ぐっ」

すてーん、とノクトとなまえ、二人で倒れこむ。周りもなにやってんだ、という表情で見ていたが、その転び方に空気が固まった。

「いったあ…、」
「痛って………っ!!」

ふに、と柔らかい感触がして目をあけると、目の前になまえの胸元があった。思わず痛みもなにもかも忘れ、一瞬凝視してしまうが、やばい、早くどかないと、と力を込めたら、また柔らかい。ノクトの片手はなまえの胸をしっかりと掴んでいた。

なまえは、膝を思いきり打ち付けてじんじんした痛みに気を取られていたが、下敷きになったノクトが起きようと動いているのに気がつく。「ご、ごめん!」と言いながら手をついて上半身を起こしたときに、それに気がついた。

洞窟に、今度は女性の悲鳴が木霊した。





と、それからずうっっっとそんな調子だった。

ピンクリッチのピンクってそういうことか!と気付いたところで、この呪いがいつ終わるのかはわからない。ただ、終わるまではあまり大きな波乱を起こさないように、できるだけ行動を派手にしないように。こうやって服が破れたりした時の対処手段をきちんと持っておくこと。そうすることで、ここ数週間なんとか誤魔化し誤魔化しにやってきた。

しかし、それでも任務はこなさなければならないし、一人で王都に置いて行かれるのも寂しい。なんとかこの厄介な呪いを解く手段を探しながら、なまえの毎日は駆け抜けていくのだった。







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2017.0210
仕事で疲れたあとに無意識でがーーっと書き上げました。原作改変、オリジナル要素てんこ盛りで申し訳ないですが、if世界のドタバタ劇として自分も楽しんで書いてますので、少しの間シリーズものとして、お付き合いいただけたらうれしいです。ちなみに、リッチと言ってますが、見た目はサイコプレデターを想像してます。リッチの方がメジャーかなーと思って、表記をリッチにしました。あと、実は戦闘シーン書くのが好きで、もっと書きたいと思ってた、というのもあって、この話を書き始めましたね。また、どっかでキリキリしたどんぱちを書きたいなあ。

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