ある日を境に、なまえはラッキーすけべにあったり、あいやすくなる、という特殊な体質になってしまった。まるで冗談のような話だが、本人はとても真面目に、困っていた。
何故ならそれは、本人を中心に周囲を確実に巻き込んでしまう呪いだったから。
今日、なまえは呪いを解く方法を探しに、城内の図書館を訪れていた。シガイ研究から神話まで。偉人伝や物語。生物図鑑や料理レシピ集まで、膨大な量の書物を誇る城の図書館。その内のひとつ、外敵生物のコーナーに訪れていた。
しかし…
「そう簡単に、あるわけ、ないよなあ…」
なまえは、そう言いながら手に持っていた「呪い大全集〜かける方法から解除まで〜」を本棚に戻した。そしてそのまま横の「呪術の基本:明日から始める簡単呪術集」に手を伸ばす。
初めてその呪いが発動したときは、ノクトが犠牲になった。しかし、あの時はまだなまえも気がついていなかったので、ノクトと共に散々仲間にからかわれていた。
あの後きちんと粉を洗い落とし、再び万能薬も飲んだ。それから数日経過したが、どう考えてもおかしい現象が続いた。
まずなんにもないところで滑る確率が上がった気がする。その度に霰もない体制で転び、誰かをひたすら巻き込んだ。着替えを目撃することも多くなった。トイレに入った際、同期の着替えシーンにバッタリ遭遇した瞬間、あ、これは何が強い力が働いてる気がする。となまえはようやくそこで気がついた。
まず、あの時の事件を目撃している仲間達に相談してみることにした。
またお小遣い稼ぎにハンターとしてハンマーヘッドまで依頼状を漁りに行こうか、という話で集まったときだった。
どんな顔をして最近の現象について話し始めたらいいかわからなかったなまえだが、思いきって「ちょっと、いいかな」と4人に声をかけ、自分のおかれている状況を告白することにした。
「あの、私、ピンクリッチ狩った日から、如何わしい体質になっちゃって」
一気にその場の空気が凍りついた。うわ、なんか言い方がまずい!と気がつき、慌てて訂正した。
「いや、さっきのはごめん忘れて。あのね、私あの時からなんかその、なんていうか、変な現象に会う機会が多くなって…」
「変な?」
「別にいつも変じゃねえか」
「変な現象って、具体的にはどんなものなんだ?」
「俺らについてきて…というか、仕事もしてて大丈夫なの?」
ノクト、グラディオ、プロンプト、イグニスから次々に心配する声があがった。若干一人心配してないようだったが、なまえは気にせず続ける。
「わ、笑わないで聞いて欲しいんだけど」
仲間達の視線が突き刺さっている。相談すると決めたのだから、心を強くもて、となまえは自身を鼓舞した。
「あの時から、あくまで偶然なんだけど、身体を触ったり触られたり、誰かの色っぽいシーンを目撃することが、かつてない程ありまして…なにか思い当たることって、ない?」
「ああ〜、あの時ノクトがなまえの…」
「プロンプト、何か言ったか」
「いいえ、王子。私はなーんにも言ってません〜」
「…そのことも、なまえの身の回りに起こっている現象と関係しているのだろうか」
「なんだ、ただのラッキーすけべじゃねえのか」
「それにしても、万能薬だけではなく、一度きちんと専門家にかかるべきだろうな、城で一度徴集をかけてみるか?」
「でもさ、何が起こってるかもわからないんなら対処しようがない気がするけど」
「ちょっと待った!」
今のだらだらした会話の中、グラディオが話した単語が、なまえの中で引っ掛かった。
「グラディオ…、グラディオ、それだ!!」
ラッキーすけべだ!となまえは叫んだ。
ちなみに、その後すぐインソムニア内の呪術専門家に見てもらった。「任務時以外に負った呪いなので、個人的に専門家に訪ねてみます」と答え、城の徴集依頼は遠慮した。
ところが、専門家の男性に症状を話した瞬間、呪術をなめているのか!私をからかっているのか、と激昂された。
お気持ちはとてもわかりますが、冗談ではなく、本気なんですと1から必死に説明していると、彼の興味を引きすぎた結果「解決方法はわからないが是非協力させて頂きたい。治療費はいらない」などと、今度は実験台にされそうになったので、命からがら逃げてきた。という落ちで終わった。
そんな仲間達との過去のやりとりを振り返りながら、なまえはしらみつぶしに呪い関連の本棚に隅々まで目をとおしていく。しかし、表紙に素手で触れて大丈夫じゃないものがいくつか混じってそうで本気の恐怖心が沸き上がってくる。
それに、ここに長居していると、変な噂をたてられそうなのもこわい。「知ってる?王の剣のなまえさん、最近図書館の呪術コーナーに入り浸りらしいわよ」「いやだこわーい」的な具合に。誰にも見つかりませんように、となまえは思っていたが、そんな時こそ、誰かと遭遇してしまうもので。
「なまえか?」
ギクッと肩が動く。
「わ、私はなまえじゃありませーーーイグニス?」
なまえが本で顔を半分隠しながら振り向いたら、イグニスがそこに立っていた。遭遇した相手が、相談したうちのひとりだと分かると、安堵した様子を見せ、肩を落とす。
「ああ、イグニス」
「呪いを解く方法を探しに来たのか?」
「そう、そうなんだよね。でも全然見つからないんだ〜」
そのまま顔を隠した本は棚にしまい、変わりにまた横の本を取り出して、内容に集中する。目次を流し読みしながら、関係ありそうな項目に目星をつけていくという地道な作業だった。
「大変だな…」
「うん…」
「いやらしい身体になって…」
「う、うん…?」
なんか意味が違う気がするけど、イグニスにからかう様子はないし、なまえを哀れむ視線は本物だったので気にしないことにした。
心配をかけているのは、重々なまえもわかっているので、同情されても嫌な気はしない。それよりも…
「もしかして、イグニスがここに来た理由って…」
「ああ、なまえの呪いを解く方法を探しに来たんだ。先を超されてしまったようだがな」
さらっと、なまえのための行動だと告げるイグニス。その優しさになまえは少し目尻がじーんとする気がした。さすがイグニス…。
「ありがとう…」
「この図書館は俺もよく勉学で利用したし、今も通っているから特別気にすることはないさ」
手分けして探そうとイグニスに提案され、なまえもそれを受け入れる。
しばらくの間、二人は本の海の中で、読書に没頭したが、目当ての呪いを解く方法についての手掛かりは見つからない。
そのまま、ひとつめの本棚の捜索が終わろうとしていた。
「ああ〜、駄目だイグニス、見つからないや」
「そうだな…俺の方も、それらしき記述は見つけられなかった」
やはり難しいか、となまえは項垂れる。しかし、まだ呪術の本棚はいくつか残っている。諦めるのは、それらを確かめてからだ。気を取り直して次の本棚へ手を伸ばした時だった。
「なまえ、聞きたいことが、あるんだが」
「ん?」
改まって話始めるイグニスに向き直る。彼は慎重な面持ちでなまえを見ていた。
「これからも、俺達と世界を旅する気はあるか」
少しの間、沈黙が流れた。そして、なまえはためらいがちに口を開いた。
「正直に、話すね」
ふう、となまえは一呼吸いれてから話し出した。
「もちろん、やる気としてはあるんだけど………足手まといになるかも知れないって考えると、自信がないんだ」
仕事も、任務も、ハンター依頼も。と少し俯きがちに話す。声色は、本人も気づかないうちに低くなっていた。
「でも、私は頑張りたい。この呪いのせいで色々諦めたら、それこそ、呪いの思い通りって感じがして、嫌だから」
「私は仕事も旅も続けたい」とイグニスに告げた。軍師として、イグニスはどんな決断を下すんだろうーーー。なまえはどきどき心臓を鳴らしながら、イグニスの回答を待った。
イグニスは真剣な目でしばらく、なまえと向き合っていたが、やがて、表情を少しだけ崩すと語り始めた。
「俺達はいつもなまえに助けられている」
「…そうかな」
「これは俺が客観的に見てて思うことなんだが、ノクトは自分が外に出るときは必ずなまえの名をあげる。グラディオもなまえがいる時の方が大胆に武器を振るっているし、プロンプトもなまえには深く心を許しているように見える」
「もちろん、俺もなまえがいると更に戦術の幅が広がるから、頼もしく思っている」と続けた。
厳しい返答が返ってくることを覚悟していたのに、突然褒めちぎられて、先ほどとは違う意味でどぎまぎとする。自身より遥かに周囲を見て、頭を働かせているイグニスが意見として話していることだけに、謙遜も出来ない。だからこそ、なまえは相づちも打てず、黙って照れているしか選択肢がなかった。
「なまえが困った時はサポートするし、それはこれまでの旅と変わらない。だから」
「これまでと同じように、共に旅をしてくれないか」そう、軍師は締めくくった。最後の答えはなまえに託された。
「是非、お願いします…!」
間髪いれずにそう返答し、なまえは無意識に頭を下げていた。すると、その上から嬉しそうな声が降ってきた。
「それなら良かった。もし反対意見が出ても、なまえが了承してくれるなら、俺もやりやすいからな」
と、意見を纏める立場としての顔を覗かせた。………言質をとったな、となまえは顔を上げながらひそかに舌を巻いた。
「それに外に出た方が、なまえの呪いを解く方法の手がかりが見つけすいかもしれないしな」
「早くなんとかしないとな」そう言ったイグニスは、本へと意識が戻っていった。
ああもう、イグニスにはかなわない。
この呪いは、なまえの中で命に関わる深刻な呪いではないから、と若干軽視していた。しかし、実は今後について不安に思っている気持ちがあることがなまえ自身、今回初めて気がついた。
「あぁ、でも良かった、もうついてくるなとか言われるかと思ったーーー」
そう言いながら、本を取り出した瞬間だった。棚の隅から本が一冊バサッと音をたてて落ちた。それを視線で追ったあと、自分に影が差していた。
影につられ上をみたら、雪崩れた大量の書物ぶわっとなまえの上空で中に舞っていた。
これは、死ぬ。ラッキーすけべどころの話じゃない。
何故か本が落ちてくるのがスローモーションに見えた。分厚いものもあれば、必要あるのかと思うくらいハードカバーの本もある。しかし、所詮は紙なので死にはしないだろうが、物理的にかなり痛そうなビジュアルだったため、なまえは瞬時にそう思った。
「なまえっ、」
その時、ふわ、と誰かに抱き締められる。そのままバランスを崩して倒れるのも、スローモーション。倒れた際の衝撃すら殺されて、身体の下に押し込められる。
イグニスが上にいた。
「イグニス!!!」
なまえの絶叫と、本がカーペットとイグニスの背中に降り注ぐ音が同時に響いた。なまえを庇って密着しているイグニスの身体が、衝撃で揺れる度に心臓が張り裂けそうな気持ちになった。
一瞬のことで、痛みに顔をしかめたイグニスを真下から見上げることしか、出来なかった。音が止んだあと、イグニスの腕はゆっくりとなまえの拘束を緩やかにして、身体は横に崩れ落ちた。
「い、イグニス…!」
なまえはすぐに起き上がり、半泣きになってイグニスの顔を覗きこんだ。まだ痛みに顔をしかめていたが、なまえの無事を確認すると、安心したように、少しだけ表情が緩んだ。
「ごめん…ごめんなさい!イグニス…」
なまえは真っ先に謝罪の言葉を述べた。こんなの、ラッキーすけべでもなんでもないじゃないか。なまえは混乱のあまりそう思っていたがシチュエーションとしては控えめな結果となったが、明らかな呪いの影響だった。
なまえの必死な声色を受けて、イグニスは返事を返す。
「あまり心配しなくていい。少し痛いがこれくらい、平気だ」
「ガルラの突進の方がよっぽどこたえるな」とイグニスは続けて話す。彼なりの冗談なのだとすぐにわかったなまえは、思わず表情を少しだけ崩した。
「それにしても、護衛学というのは難しいな。グラディオに少し聞いたが、護衛対象を不安にさせるような庇いかたは、例え護衛を成功させたとしても、評価されるべきではないそうだな」
そう自身の行動に厳しい評価を下しながらイグニスはゆっくり起き上がった。
「心配をかけてすまない、なまえ」
「そ、そんなことない!私の不注意のせいでごめん…。あと、庇ってくれて、ありがとう……」
なまえはどうしても、自身をせめてしまう。それはイグニスを余計に気にさせるだけなので、表面には出さないようにしていたが、どうしても語尾に力がなくなった。
しかし、それはイグニスに見抜かれていたようで、力強い言葉で自身の考えを語った。
「言っただろう、俺達もサポートする、と。なまえが大事に思ってくれているように、俺達だってなまえを大事に思っているんだから」
「たまには守らせてくれ」と、殺し文句のようなことを言われ、なまえは頬がかあっと熱くなるのを感じた。
「あ、う、うん…はい」
「そろそろ俺も動ける。先にここを片付けようか」
やっぱりイグニスにはかなわない。と内心で再び呟いてから、なまえは本を拾いにかかった。
「そういえば…」
「ん?」
「なまえは以外と、柔らかいんだな」
イグニスは、あくまで正直な感想を述べただけった。しかし、数秒後、混乱したなまえが「イグニスのすけべ軍師ーーー!」と叫ぶ声が図書館に響いたのだった。
なまえはこの日の事件を境に、必ず呪いを解くと、改めて誓ったのだった。
皆さん、図書館ではお静かに。
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2017.0213
紳士イグニス…。パーティーの心のメンテまで行う軍師っぷり。ママ。「足手まといになるかもしれない」という主人公の不安に対して、答えを言ってあげられるのは、彼かなあ、と思ってトップバッターです。かなり控えめなラッキースケベになってしまいましたが、イグニスだから、紳士だからですね!ちなみに当サイトのイグニスは若干恋愛音痴な雰囲気があります。女性を丁寧に扱いすぎるあまり、気づかないという方向性です。他のお勉強いっぱいしてるのに恋愛は軍師の仕事としては関係ないからってスタンスのイグニスが個人的なツボです。だからたまに爆弾発言させてしまうんですよね…楽しい…申し訳ない…楽しい…。
しかし、軍師としての知識を充分に恋愛方面にも発揮して、読みあいが上手な大人の恋愛をするイグニスも素敵。イグニスは素敵なんだ(結論)
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