「なまえさん!」
「わ、ルナフレーナ様!」

ヒールをカツカツと鳴らしながら勢いよく駆け寄ってきた女性を抱き止めた。ふわっ、と花のような香りが、なまえの鼻孔をくすぐり、はるかに柔い感覚が両腕に触れた。少し身体を離して顔を合わせると、ルナフレーナと呼ばれた女性は綻ぶような笑顔をなまえへ向けた。

「お城に遊びに来ました」
「ああ、それはそれは。遠くからお疲れ様です」

ルナフレーナはこうして、テネブラエから王城へ定期的に訪れていた。その際、護衛として、何人か城の者をつける決まりとなっており、歳が近いこと、性別が同じであること等で、なまえは何度か護衛を担当していた。その間になまえとルナフレーナはすっかり親しくなっていたのだった。

「ノクティス王子への面会ですか?」
「そうなの。………でもね、なまえさんにも、会いに来たのよ」

つん、と軽く唇をつつかれて、なまえは少しドキッとする。

ルナフレーナ、という人物は、とても可愛らしい容姿だが、行動が大胆な時がままあり、目を離せない。しかし、それだけ人を魅了する力がある。そんな女性だという印象をなまえは抱いていた。

だから、そんな人物に一目おいて貰えることは、なまえにとって、とても嬉しいことだった。更に、そのお相手はテネブラエ、フルーレ家のご令嬢とくれば、こんなに仕事のしがいのある対象はいない。……どこかの王子は、護衛対象だというのに、シフトで軽々とどこかへいってしまうのだから。

なまえがつい、そんなことまで考えていると、シャツの袖を引っ張られ、意識が戻された。なまえの耳元にルナフレーナの唇が近寄ったところで、潜めた声で告げられる。

「前に出来なかった、女子会、というのをやってみたいの」



それは、ルナフレーナが前回、王城へ訪問したときのことだった。その時の護衛担当だったなまえと客間でノクティスとレギスを待っている間、二人で何気ない雑談を交わしていた。

「普段なまえさんはなにをして過ごしているの?」という質問を受けた際、なまえは「友達と会って、話したり、買い物したりしてます」と答えた。

すると、ルナフレーナから「まあ、男の人と?」と興味津々という視線を向けられた。焦りながら「ち、違いますよ〜、所謂女子会ってやつです」と答える。そしたら、今度はその単語が気になったのか「女子会、とは」と更に興味津々といった様子になった。

なまえは、そんなルナフレーナに、女子だけで美味しいお茶やお菓子を用意してそれらを楽しみながら、悩みを話したり、恋の話をしたり。ある時は愚痴や苦労話なども話したりする会だと説明した。

それを聞くルナフレーナの目は益々輝いていく。なまえが話終わる頃には、彼女は思わず「素敵!」と感嘆した声をあげていた。

「なまえさん、私、女子会を是非やってみたいわ」
「ほ、本当ですか」

なまえがたじろぎながらも、どうやってこの素直な願いを叶えてあげようかと考えて始めたとき、ノクティスとレギスが現れた。「今回は、時間切れみたいね」と少し寂しそうな笑顔を向けられて以来、なまえはそれがずっと脳裏に残っていたのだった。



「今日は約束している時間より、こっそり早く来てしまったの。なまえさん、突然で申し訳ないけれど、なんとか出来ない…かしら」

そう言って期待のこもった視線をむけてくる。元々、今日は任務もなく、1日フリーだった。稽古のために城を訪れていただけなので、時間的には、なんら問題はない。ただ。

「あの、今回の護衛担当には、なんと説明して」
「ああ、あの人はいいの」

「少しくらい困らせて差し上げたところで、きっとすぐに見つけてくださいます」と言いながら、意味ありげに微笑む。そのいたずらな笑顔すら美しい人だ、となまえは思い、ルナフレーナにそこまで信頼を置かれるどこかの同僚にちょっぴり嫉妬した。

「わかりました、では、此方へ」
「はい!」

そう言うとルナフレーナが首に腕を回してくるので、横抱きにする。普段振り回している武器よりよっぽど華奢で軽い気がする身体を抱えて、なまえは城内の応接室を目指して歩きだした。


その様子を二人の友人が目撃していた。


「………なまえ、なんかノリノリじゃないか」
「だが、なまえの首に自然に腕を回すルナフレーナ様も中々だと思うが」
「なまえはこう、お姫様を守るナイト役が出来て、嬉しくて尻尾振りまくってるって感じだったな」
「ルナフレーナ様も、年齢の近い女性と話すことが出来て、嬉しそうだったな」

その様子を広間で喋っていた、グラディオ、イグニスが目撃していた。二人は、色んな意味でノクトには黙っておこうと、ひっそり思ったのだった。







なまえは城の応接室にルナフレーナを通す。ふかふかしたソファにルナフレーナが腰を沈めたところで、彼女はまるで作戦会議でも始めるかのような勇ましい表情で話しだした。その迫力に、少し圧倒される。

「さて、準備には何が必要なの?」
「ま、まずは女性を集めることからですが…」

「二人でも大丈夫ですよ」と続ける前に「女性をあつめればいいのね!」と言ったルナフレーナが、名前を呼んだ。

「ゲンティアナ!」
「ーーーはい、どうしましたか」

なまえは飛び上がった。後ろから突然声がしたからだ。バッと振り向くと、そこには凛とした佇まいの女性が立っていた。え、いつの間に!?と驚いていると、「なまえさん、慌てないで」とルナフレーナに告げられる。

「彼女はゲンティアナ、といって、私をずっと見守ってくれている、神の使いなの」
「初めまして、なまえさん。ゲンティアナと申します。いきなり背後からお声かけしてしまったご無礼を、お許しください」

「初めまして」となまえも戸惑いながら挨拶をする。

とても、とても美しい女性だった。長く垂れた艶やかな黒髪が、より彼女の人間離れした美しさを際立たせている。すっと切れ長の目線は、凛とした雰囲気をつくりだしていた。思わず見惚れているとにこやかに微笑まれる。

「ルナフレーナの望みを叶えてくださるそうですね。ありがとうございます」
「あ、いえ、大したことじゃないので…」

謙遜する様子をみて、更にゲンティアナの笑みが深まったが、なまえは気づいていなかった。

「ふふふ、私も女子会、楽しみにしていますね」

なまえのプレッシャーがはねあがった瞬間だった。






さて、後はお茶とお菓子が必要になる。城の厨房で管理している客人用の物を頂戴してこればいいのだが、二人を連れていくのも、美人な女性二人を残して厨房行くのも、気が引けた。しかし、ここは動かねば時間はどんどんなくなってしまう。

二人で少しの間だけ、待ってて貰えるか訪ねると、「ゲンティアナがいれば、大丈夫です。心配しないで」と言われたので、ルナフレーナのその言葉を信じ、なまえは城の厨房へ向かった。


厨房に辿り着くと、一番大きい御盆を用意してから、てきぱきとお茶会の準備を進める。内緒だが、普段いくつかつまんでいるので、何処に何があるかは完璧に把握しているし、日替わりの仕入れも台帳を見てチェックしている。

今回は元々、ルナフレーナ様が訪問される予定だったこともあり、気兼ねなく色々持ち出せる。そう考えてにやりと口角の上がったなまえは、一般でいうところの、悪い顔をしていた。慣れた手つきでパラパラと台帳をめくり、今日の仕入れを調べる。

ふむ、今日のケーキは6種類ねーーーパーティーもないから、こんなところかな、とケーキの欄に目を通して、台帳を閉じた。

ココアとバニラ、白黒二種類のクッキーと塩分カットのクラッカー、果実のジャムを数種類お皿に盛り付けて、茶葉の用意にかかる。確かドリンクのオーダーは、ルナフレーナ様はミルクティー、ゲンティアナ様はブラックコーヒーだ。

沸騰したお湯で、まずはカップを温める。こうすることで、飲み物がより冷めにくくなるので、長い話し合いには向いている。それから、手早くコーヒー豆を挽く。その間に、少しだけ冷ました熱湯で、ティーポットにアッサムの茶葉を蒸らしておく。蒸らしている間に、ペーパーフィルターを用いてハンドドリップでじっくりとコーヒーを淹れていった。

コーヒーサーバーにブラックのコーヒーを、ティーポットにアッサムの紅茶を淹れたところで、ミルクピッチャーも用意して、飲み物の用意が完成した。

さて、最後にケーキをさっと選ぼうと振り向いたところでーーー

「あ!なまえさん、ここにいらっしゃったんですね」

ギクッ!と身体が跳ねた。今日は、”ルナフレーナ様をもてなす”というきちんとした理由があるので、こうしてこそこそする必要はないのだが、日頃の行いのせいか、つい条件反射的に驚いてしまった。しかし、ここでなまえが驚いたのは無理もない話だった。

何故なら、ゲンティアナと二人で応接室で待っているはずのルナフレーナが目の前にいたのだから。

「る、ルナフレーナ様!どうしてここへ…」
「なまえさん一人じゃ大変だと、思って」
「厨房は危険なものもあります、一回で運びきれなければ往復しますので、部屋でお待ちいただければ…」
「いいえ!是非、お手伝いさせてください」

「私、こう見えても、意外と力があるんですよ」と言いながら、ふんっと腕を曲げるルナフレーナの腕はほっそりとしていた。なまえは、内心でなんておてんばなご令嬢なのかとほんの少しだけ、呆れた。しかし、その好奇心は、嫌ではない。むしろ、どこか構いたくなるような可愛さがあった。きっと何をされても憎めない人だ。となまえは密かに苦笑する。

「わかりました、ではお手伝いをお願いします」

ただ、気をつけてくださいね、と念は押す。「嬉しいです」と笑顔を浮かべて、指先を合わせる仕草をしながら喜ぶ彼女は、眩しかった。

「これからどうすればいいのかしら」
「もう殆ど準備は終わってますので、最後にケーキを選ぼうと思っていたところでした。正直、私ひとりでは決めきれない部分もありましたので、来てくださって助かりました」

「一緒にケーキを選べばいいのね」と言うルナフレーナに、なまえは頷いてこたえる。ケーキを乗せるために、数枚お皿を取り出してショーケースの上に置き、二人はいざ、ショーケースの中に意識を集中させた。

毎日多く訪れる城の客人用に厳選されたケーキが、中に並んでいる。本日のケースの中身は、台帳のとおり、ウルワートベリーのショートケーキ、ダスカ産オレンジソースのレアチーズケーキ、季節の果物のフルーツタルト、しっとり生チョコケーキ、甘リード芋のモンブラン。

なまえもルナフレーナも、思わず見惚れて、感嘆の声をもらした。繊細かつ、大胆に飾られたケーキにうっとりしてしまう。とろりとしたクリームに、ふんわりと膨らむスポンジの層。新鮮に光をはね返している果物など、まさにどれも一級品の業前だった。

「お、美味しそう…!」
「すごいですね、どれも可愛らしいのに、とても上品!」
「全部…食べたい」
「本当です…!でもさすがに全部はお腹に入らないわ」

選らばなきゃ、どうしよう、どうしよう、と二人でケーキを前に騒ぐ。その間もなまえの思考はぐるぐると回り続けていた。頭の中で天秤にかけてはぐらぐら揺らいでを繰り返しながら、その度に、ぶつぶつと言葉をこぼす。それは、ルナフレーナもほぼ同じ状態だった。

「う、ウルワートベリーは貴重だから外せないかな…!」
「で、でも、ダスカオレンジのソースがすごく美味しそうですよ、なまえさん!」
「しかしチョコ系も欲しいところ…」
「ああ、甘リード芋モンブランもたまらないですね」
「うわ〜、どうしようかなあ…」

なまえはショーケースを前に、ルナフレーナと二人で本気で考え込んだ。つい、雑談すらも途切れてしまう。しばらく、その横で全く同じように悩んでいたルナフレーナだったが、唐突に、ふっと笑った。静かに悩みふけっていたなまえは、何か変なことがあっただろうか、と尋ねてみる。

「ど、どうされました?」

今思えば、真剣にケーキに悩む自身の姿はかなり恥ずかしいものであることに気がついた。もしかして、そのことを笑われたのだろうかとなまえは少しどきどきしながら聞いた。ルナフレーナは、首を緩やかに振りながら、ショーケースのケーキに語りかけるように、話し出した。

「………私ね、フルーレ家の人間でしょ?だから、皆遠慮してしまって、中々、友達ができなくて…」

それは、まるでショーケースに映る自身を、フルーレ家である自分自身を見つめているような仕草だった。寂しげな視線が、ルナフレーナを見つめ返していた。

「だから、なまえさんとこうすることが出来て、今とっても嬉しい、の」

そう控えめに言いながら、なまえの方に振り向いた。それから、恥ずかしそうに、微笑んだ。

彼女もさすがに照れているのだろうか。わずかに頬を染めながらそう語る、ルナフレーナ様の表情はとても愛らしい。なまえは、そう思った。

「あの、もしよければ……もっと、親しく呼び合いませんか?……ご無礼でなければ、ですけれど」

なまえは、おそるおそる、提案してみる。ルナフレーナ様は驚くだろうか。それとも、おせっかいだと嫌な気持ちになるだろうか。けれど、彼女が望むことは、出来るだけ叶えてあげたい。そんな気持ちから出た言葉だった。

ルナフレーナはその提案を受けて、少し驚いたように、目を開いたが、実感とともに嬉しそうな表情になり、先ほどより若干上ずった声で、応えた。

「ううん、素敵……!なまえ、なまえちゃん!」
「それ…じゃあ、私はルナちゃん、と呼びましょうか」

「しかし、仕事の時は難しいので、それ以外になっちゃいますが」と付け加える。「はい!ぜひ!」と返事をした表情は同性から見ても、とても可愛らしいもので、なまえは思わず頬が熱くなるのを感じた。

「なまえちゃん、なまえちゃん〜!」

よっぽど、この提案が嬉しかったのか、ルンルンとリズムに乗せて名前を呼ばれた。まるで、この場が花畑でもあるかのように、軽い足取りで数歩だけ歩き、一回転。そこまでされるとなんだか恥ずかしかったけれど、それを照れくさく思いながら、はしゃぐルナフレーナ様を見守っていたときだ。ルナフレーナの身体が急激にカクン、と揺らいだ。

「きゃっ、」
「危ないっ」

厨房の排水溝にヒールをとられ、ルナフレーナがよろめく。慌てて支えにいくが、彼女の体制を整えるのが難しいくらいギリギリになってしまった。なまえはなんとかルナフレーナへ腕を伸ばし、自身がクッションになれるように密着する。そのまま共に身体が倒れていくときに、はっと思った。

また、発動してしまったーーー!

なまえの脳は一瞬で様々なことを考えた。このままルナフレーナ様に何かしらしてしまったら、彼女に不快な思いをさせるどころか、護衛を外され、痴漢をはたらいた犯罪者として牢にぶちこまれるかもしれない。やばい、人生の大転落に違いない。なんとか、なんとかしなければーーー!

とっさに、なまえは手をルナフレーナの腰に回した。そのまま両手でお互いの手首をつかむ。よし、これなら、これならどうだ!と思いながら、次の瞬間、二人で倒れた。衝撃を受け止めた背中が痛んだが、なんとか、ルナフレーナ様の下に身体を滑り込ませることができて安心していた。

「う…、」
「だ、大丈夫ですか、ルナフレーナ様…」
「ごめんなさい、脚をとられてしまって」

言葉はそこで止まった。

今の状況を説明すると、ルナフレーナの手は、なまえのシャツを掴んだまま、転んだ勢いでシャツのボタンが外れ、下着が片側丸見えになっていた。さらに、腰に回したなまえの腕によって、ルナフレーナの身体は押し付けられて、なまえと密着していた。

はたからみると、ルナフレーナがまるでなまえを厨房で押し倒し、シャツを剥ごうとしているシーンにしか、見えないことが問題だった。

「やだ、大変…、何故こんな…!」
「あー…こうなったか…」

とても冷静にぼそりと呟いたなまえの態度が腑に落ちなかったルナフレーナはそのまま顔を少し近づけて、「どういうことですか」と問う。さらに縮まった距離になまえはついに焦り、「ご、ご説明させていただきます!」と慌てて言った。

「私の、呪いが原因なんです」
「呪い…」




そうして、女子会の内容は無事、「呪いについての悩み相談」になった。なんでこんなおどろおどろしいタイトルになってしまったかと、なまえは頭を抱えたが、客人の二人は興味あります!と言った面持ちだったので、話すことを決意するが、前置きはすることにした。ちなみに、シャツはボタンが外れてしまったので、稽古着に着替えての参加となった。

「あまり、可愛らしい話じゃなくて、たいへん申し訳ないのですがーーー」
「いいの、神凪として、なまえちゃんの状態は気になりますから」
「そうですね、私も詳細が知りたいです」

ノリノリだった。「笑わずに聞いてほしいのですが」と切り出してから、まずは、あの日洞窟で倒したピンクリッチのこと。それから起き続ける現象について解説していく。その途中でうっかり、「ラッキーすけべが起きやすくなってしまって」と言ったとき、ゲンティアナから「ラッキーすけべとは」と説明を求められた。

なまえはしまった、と思いながら羞恥に耐えつつ、自分の体験とともに、ラッキーすけべを神の使いに説明した。控えめにいって、帰りたくなった。

しかし、話を聞くルナフレーナとゲンティアナの表情は、とても真剣だったので、羞恥に耐えながら、続きをぽつぽつと話した。

「だから、あんなことになってしまって…本当に申し訳ごさいませんでした」

一通り話終わり、そう、締めくくった。二人は飲み物を口にしながら静かに話を聴いていたが、やがて。

「ぷっ」

どちらともなく、吹き出す。気づけばルナフレーナもゲンティアナも、口元を手で押さえて笑っていた。ちょ、なまえは話が違う!と顔を赤くしながら思わずソファから腰を浮かした。

「めちゃくちゃ言ってるとは思いますがっわ、笑わなくてもいいじゃないですかっ」
「ああ、おかしい。なまえさんってとても大変な状況だったのね。それも知らず、我が儘を言ってごめんなさい」
「…私は真剣に悩んでるのに、笑うなんてひどいです〜…」

拗ねたようになまえが唇を尖らせると、謝られるが、二人とも突拍子もない呪いの話がツボに入ってしまったようだった。そんな二人の様子をジトッとした目でなまえが見ていることに気がついた二人が、言い訳するように話し出した。

「だってあんな風になってしまうなんて、ある意味芸術的じゃないですか」
「もういいです。相談した私が悪かったです…」
「まあまあ、拗ねないでなまえさん。私もルナフレーナと共に方法がないか考えてみますから」

そうゲンティアナにあやされて、本当ですよ。となまえはしぶしぶ機嫌を直す。お互い一口飲み物を口にして、気持ちを平静にしてから、呪いを解く方法について改めて考えだしてみることにした。

「でも、私、"ラッキーすけべが起こりやすくなる呪い"なんて初めて聞きました。ゲンティアナは何か聞いたことない?」
「神からの罰ならまだしも、一介のアンデットの呪いとなると、そこまでは」

首を振りながら、少しだけ難しい表情をするゲンティアナ。神の使いですら、詳しいことがわからないとなると、やはりこれから地道に探していくしかないか、となまえは心の中で思う。

「なまえさんに呪いを解く心当たりはないのですか?」
「残念ながら、まだなにもわからなくて」

「色々調べてはいるのですが」と言いながら図書館での出来事を思い出す。もう行きたくないが、まだあそこには読みきれなかった書物もあるし、呪いコーナーではなく、医療系の方に対処方があるかもしれないとなまえは思考を巡らせる。

その間に回答を受けたルナフレーナが少し考えた素振りを見せたあと、なまえを手まねきした。

「あ、なまえちゃん、ちょっとこっち、来て」
「なんですか?」

立ち上がって、ルナフレーナの前まで移動してから、片膝をついて顔を見上げた。不思議そうに眺めると、「動かないでね」と優しく微笑まれて、どきっとする。その間に、緩やかに腕が身体に回された。驚く間もなく、そのまま抱き締められる。

え!?なんのご褒美!?となまえが動揺していると、すぐに身体の芯が温かくなるような不思議な感覚に包まれた。安心感と安らぎがなまえの身体を往復して、ほうっと息を吐いた。これ、これが神凪の力なのかとぼんやりとした思考の中でなまえは思った。

そこで、ガチャ、とドアが開く音がしたが、密着しているルナフレーナに意識が行っていて、なまえは入ってきた人物に全く気がつかない。

しばらく経ったところで、「もう、いいですよ」という言葉と共にルナフレーナがなまえから身体を離す。その顔にふざけた様子はどこにもなく、とても真摯であった。なまえがその雰囲気にのまれて、何も言えないでいると、ルナフレーナが問いかける。

「何か、変わった感覚はありますか?」
「……いえ、すみません。少し温かかっただけで、なにも…」

「そう、ですか…」やはりダメだったか、とルナフレーナは肩を落とした。なまえは内心少しだけ落ち込んでいたが、自身より肩を落とすルナフレーナを前に、毅然とした態度をとることにした。想ってもらえただけでも、嬉しかったから、その気持ちを伝えたかった。

「残念に思わないでください。まだ、試してない方法もたくさんあります。だから、どうかご自身を責めないでください」
「なまえちゃん…」

そうして、すぐにきっと力強い瞳に戻った。そうして、ガシッと両手を握られる。驚いたなまえだったが、そのまま動けずにいると、ルナフレーナが宣言した。

「私も、なまえちゃんのために協力する。テネブラエでも文献が残っていないか、探してみます」
「ほ、本当!?」
「ええ、なまえちゃんのためなら」
「る、ルナちゃん…!」

なまえも、感極まって思わずその手を握り返した。キラキラと見つめあっていると、控えめな咳払いが聞こえた。すると、その様子を見守っていたその人物は、ようやく口を開くことができたのだった。

「………そろそろ、終わった?」

「ノクト!」
「ノクティス様!」

ぱっと手を離す。う、とノクトを見るとジトっとした視線がなまえを見ていた。……その表情、多分私もさっきしてたわ。となまえは思いながら、唇の動きだけで「ごめんってば」と動かしたら、はあ、と溜め息をつかれた。

ノクトがここへ来た、ということは、今回の護衛担当も現れる頃だろうし、そろそろ退散しなければならない。時間切れかな、となまえはルナフレーナに向き直り、名残惜しいが、別れの挨拶をすることにした。

「ルナちゃん、ゲンティアナ様。今日は、ありがとうございました、色々ありましたが、ご一緒できて、とても楽しかったです」
「私も、情報収集をしてみます。なまえさん、くじけないでくださいね」

「なまえちゃん」

ルナフレーナに手招きされたので、なまえが身体を屈めて顔を近づけると、ひそひそ声で囁かれた。しかし、その声ははっきりと弾んでいた。

「今日は私の願いを叶えてくれて、ありがとう。なまえちゃんと、友達になれて、本当に嬉しいの」

「だからまた、女子会しましょうね」そう微笑まれた。

その愛らしい笑顔になまえは温かな気持ちになる。「ぜひ、お願いします」と二人の間で確かな約束をして、なまえは部屋を後にする。その途中で「ルナ、ちゃん?」と呟いたノクティスの横を、そそくさと通り抜けた。

なまえはその日、足取り軽く、稽古場へむかったのだった。






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2017.0219
実は、ラッキーすけべの中で一番最初に着手した話でした。キングスグレイブのニックスとのやりとりが隙がなくて好きです…。いやいや!確実に死ぬでしょ!って呆気にとられるような行動をとっていたりしたので、少しだけ天然さと強引さが残るなような感じで書いてみました。正直、ルナフレーナ様に振り回されるニックスが少し羨ましかったので、ちょっと、振り回されてみました(笑
あと、本編ではあまりに尽くしていたので、我が儘を言わせてみましたが、あくまで可愛く!を心がけました。ルナフレーナ様に振り回されたいでござる。


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