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「映画めっちゃ楽しかった!」

 走る必要がないくらい映画館は空いていた。席にも余裕があったしポップコーンも並ばずに買えたりで、私とウーゴは二時間快適に過ごすことが出来た。
 観終わって映画館から出て、ランチの流れになってウーゴと一緒にリストランテに入る。この国のランチはとにかく混むので中の席は絶望的……もちろん店内の席は空いていなくて、流れるように外のテラス席に通された。とにかく入ろうって流れで来たのでメニューは決まっていないので、一緒に票を眺めながら談笑をしつつどれを頼むかを決めるけれど、どれも美味しそうで悩ましい……これは困った。困りすぎて口ばっか動いちゃう。

「あの目が一個のモンスター、ウーゴに似てたよね。」
「色だけじゃあないか。」
「うん。性格は全然似てないよね、ウーゴ面白くないし。角も生えてないし丸くないし。」
「どうやっても似せらんない部分で比べるな。」

 映画は凄く面白かった。何ていうか内容も凄く深いっていうか……クローゼットからモンスターが出て来るっていうのは少し怖いかも知れないけれど、実写じゃなくてアニメだったからどこまでも楽しかったしちょっとわくわくした。ウーゴとか結構涙脆くて最後の方とかちょっと目頭を押さえてて……ちょっと意外過ぎてびっくりしたけれど、一緒に笑ったり出来て充実していた時間だったと思う。

「それにしても……ウーゴがああいうものを観るとは思わなかったな。」

 何はともかくとして、映画のチョイスが意外だった。始まる前に面白いらしいからって言っていたけれど……ウーゴって結構渋い作品ばっか観ていたし、アニメを観るようなキャラでもないから不思議でしょうがない。やたら難しそうなのばかり観ていたし。

「観ないまま『つまらない』って思うのは少し寂しい気がしたんだ。」

 ウーゴは私の言葉にそう言うと、出されたままになっていた水を飲む。目はメニュー票の方を見ていたけれど表情は凄く優しい。料理に向けているような目ではない。

「そっか……」

 理由なんて何でもいいと思う。観たいなら観ればいい。それだけだしそれ以上でもない。でもウーゴの観ようとした理由は昔のウーゴではありえないようなもので、視野が広くなったような、頭が柔らかくなったような……少し感動を覚えそう。さっき観た映画よりも感動したかもしれない。

(柔らかくなったなぁ……)

 見ない間に生まれ変わったみたいにウーゴは変わったと思う。広い庭にいた頃はぼーっとしていて名前を呼べば笑ってくれたけれど、あの頃は少し暗いものがあったっていうか……今は全くそういう色は見えないし、自然体っていうか。多分自分を出せるようになったんじゃないかな?知らないウーゴを見付けるのは楽しいなって思う。

「ところでシニー、食べるものは決まったか?」

 話やら昔のことやらに思いを馳せていたらウーゴにまだかと訊ねられる。

「ご、ごめんまだ……」

 やばい、いろんなのがあるなぁって眺めてばかりでこれっていうのが決まっていない……ピッツァもスパゲティーも皆美味しそうだし、セットのドルチェも美味しそう。どれを選んでも正解にしか見えなくてどれでもいいとか思っちゃう。

「全く……変なことを訊く前にこっちを選んでくれ。時間は有限じゃあないだからな。」

 痛いことを突くように言われてちょっと胸が痛い。別に変なことは訊いてはいないと思うんだけれども。いいことを訊いたと思うんだけれど……ウーゴにとっては変だったかもしれないけれど、私にとってはいいことだったんだけれどなぁ……
 とりあえずメニューを選ぼう。ウーゴはお腹が空いているからきっとイライラしてきたんだな。そう思って再びメニューを眺めてみることにした。

「ピッツァとスパゲティーは……どっちも美味しいよなぁ……」

 あと海鮮料理とかリゾットとか……ドリアもある。選び放題なくらい料理が多いけれど、その中でランチ後にドルチェが付くのはピッツァとスパゲティー。パン生地的なものを選ぶか麺を選ぶか。これは最早究極の選択のような気がしてくる。こういう時ってどういう基準で選んだらいいんだろう?

「悩むの分かるぜ……ドルチェが付く付かないは大事だもんな!」
「そうなんだよなぁ……え?」

 悩みに悩んで指を差してどちらにしようかなをやっていたら、上から声が降ってくる。

(誰?)

 ウーゴは「〜ぜ」って言わないし、顔を上げてみたら目の前にいる。じゃあ一体あの声は誰なのかってなって、でも首をキョロキョロと動かしてみても左右には誰もいない。右と左にいないなら後ろしかないと思って体ごと自分の背後に向けてその声の主を見てみると、今日は会う予定がない人がそこにいた。

「よぉシニストラ。ここでランチすんの?」

 後ろにいたのは大事な仕事中なのかスーツを着たミスタさんと

「やぁシニー。今日は随分オシャレなんだね。」

 派手なコートを身に纏っているジョルノの二人で……揃って私のメニューを覗いてはニコニコと笑ってちょっとご機嫌そうにしていた。

「こ、こんにちは?」

 こんな休日にピンポイントで二人に遭遇するとか珍しい。っていうか今までこんなことはなかったと思う。しかもミスタさんなんてスーツ姿で決まっていらっしゃるとか……ジョルノは変装をしているのか私にとっては懐かしい黒髪になっているけれど、ちょっといい匂いがしていつもとは違う。大人の香水かな?何か凄くセレブな香りがする。

「今日はこれから会合に行くんだよ。少し遠いからその前にランチしないとピストルズが動かないってミスタが煩くてさ……店を探していたらきみ達が見えたからここにしようって。」

 ジョルノは当たり前に仕事だよと言うと、ウーゴの隣の余っている椅子に腰を下ろしてくつろぎ始めては息を吐く。ウーゴはいつも通りというか当たり前というくらい自然にジョルノへの気配りをし始めるし、店員を呼ぶと二人分のお冷やを用意してほしいってお願いをし始めるしで、もうここで一緒に食べるのは頭の中で確定しちゃっているみたい。テラス席の四人座れるところだからちょうどいいって言ったらちょうどいいのかもしれないし、自分の目が届くところにいてもらった方が安心だって言うのもちょっと分かる。

「今回の会合はきな臭いからな。しっかり飯食わしてやんねーといざって時に働いてくれねーと思ってさ。」

 そしてミスタさんもジョルノが座ったら流れるように私の横に腰を下ろしてゆっくりとくつろぎ始めて……私の持っているメニューを覗き込んでどれにすっかなぁって悩んでいらっしゃる。何だかおかしな光景になっちゃって少し面白いとは思うけれど、今日はウーゴと二人きりだと思っていたから少し残念でもあって、何だか複雑だ。

(……って、何で残念って思うんだろ?)

 いや、別に残念じゃないよね?ジョルノとミスタさんとウーゴと一緒にランチとか滅多にしないし、どちらかと言えば楽しくない?ミスタさんとは仕事の関係でしょっちゅうするけれどゆっくりは出来ないし、ジョルノはもちろん私と仕事は別だから食事なんて一緒に出来ないし、ウーゴはジョルノと一緒だから滅多に食べられないし……夜と朝は一緒でも昼だけは滅多に一緒にはなれない。だからなのかな?残念だと思うのは。

「シニストラ、これとこれ一緒に食わねえ?二人でピッツァを半分こにするってのどうよ?」

 自分で自分の今の気持ちに結論をつけてモヤを解消させている時に、ミスタさんが提案を私に持ちかけてくる。
 ミスタさんは食に結構厳しいというかうるさいというか、こだわりが強くて美味しそうだと思ったら大体半分こにしようって申し出て来る。もう慣れたけれど最初の頃は少し困ってしまって悩んだりもした。繰り返していくうちに慣れてきて断ることもなくなってしまったのでこの光景は当たり前でしかない。

「いいですよ、これとこれですか?」

 何て言うかミスタさんの美味しいものに対する執着心は、私にも少し伝染し始めているように思える。一度で何種類も食べられるってこれ以上ない幸せなんじゃないのっていう具合で二人で分けて食べるっていうのは楽しい。

「じゃあそれ頼むのと、あとはこれとかどうだ?美味そうだろ!」
「おお〜、じゃあこれも頼みましょうよ!量が多いから四人で食べられます!」
「ベネ!おまえチョイスがなかなか最高だな〜!」

 二人で肩を寄せあってメニューを見つつ、あれやこれやとミスタさんとどれを頼むかを決めてゆく。ピッツァにベーグルにサラダにサラミ……食べ切れるか分からないけれど、ミスタさんのピストルズくん達もいるからどうにか食べられるはずだ。
 それにウーゴにはもっと食べて欲しい。美味しいものを食べる時のウーゴの顔が見たいっていうのもあるけれど、ただ今日は元々はウーゴとお出かけなわけだから……だからかな、つい好きそうなものばかりを選んでしまう。

「ねぇウーゴ、これソースを選べるんだけどどれが……」

 ミスタさんと二人の世界に入って盛り上がっていたけれど、ウーゴの意見を聞きたくて訊ねようと顔を上げる。でもウーゴの方を見てみたら少し不機嫌そうな目でこっちを見つつ、テーブルの上で指をトントンさせていて……何だか怖いことになっていらっしゃって、思わずびっくりして肩が跳ね上がった。
 え、何で不機嫌そうなの?大好きなジョジョとランチなのに嬉しくないのかな?それとも私が知らないうちに何かやらかした?ソースか?ソースが嫌だったのか?

「おいミスタぁ……」

 私のせいかと思ってソワソワとしていたら、ウーゴは静かに口を開いてミスタさんを呼びながら、トントンと叩いていた指を止める。隣にいるジョルノは笑顔でそんなウーゴを眺めていて、まるでこれから起こる何かに期待を寄せているみたい。頬杖まで突いてこれから始まるテレビ番組をわくわくしながら待っている人みたいな状態になっていた。

「おまえのそれはハラスメント行為に値する。」
「は?」

 そんなわくわく気分のジョルノの目の前で、ウーゴはお構い無しにつらつらと言葉を繋いでゆく。

「上司の主張を部下に押し付けることも近すぎるその距離感もシニーが嫌がってしまった場合それはもう立派にハラスメント行為であると見なされジョジョに解雇や何らかの処分やらを受けされられてもおかしくはないとぼくは思うんだがおまえはそれを覚悟の上でやっているんだろうな?」

 耳を傾けて聞いてはみるものの、何かめちゃくちゃ凄いことを言っていらっしゃって頭がよくない私にはちょっと理解出来そうにない。ハラスメントって何?どうしてそうなるんだ?
 近すぎる距離感と言ってもこの距離感はいつも通りだし、わがままじゃなくて料理のシェアは普通に私もやりたい。全く嫌だと思う部分はないので心当たりは全くないけれど……でももしも私が嫌がったとしても、経ったのこの一瞬で解雇とか処分をされたら堪ったものじゃないような……いやでもこの世界って裏切ったらジエンドだし、解雇イコールバッドな終了?制裁怖すぎでしょギャング……!

「なぁに?フーゴくん気にしすぎなんじゃあないの?」

 ミスタさんも同じことを思っていたようで、からかうようにウーゴにそう言うと、私の肩を掴んで自分の方へと寄せてはにやにやと笑い出す。

「シニストラといつもこんな感じだしこれが普通なんだぜ。嫌だったら嫌ってこいつはちゃんと言うし、何なら拳まで出てくるしな?考えすぎだろ。」

 この前殴られたんだぜ、っていうジョルノにも言っていない事後報告をするミスタさんを横に私はと言えば自分の暴力行動をチクられて目が泳いでしまう。
 あ、あれは違う。ミスタさんが全て悪いんだ……美味しいものあげるって言われて貰って食べたのが実はエスカルゴだったっていうことがあって……見た目が無理なのに目を閉じさせて食べさせやがったから……拳が出ざるをえなかった……!

「嫌がるようなことをした時点でもう立派にアウトだろ。」

 何を察したのかウーゴは私の味方になってくれるようにそう言うと席を立って、私の横に立つと「ジョジョの隣に行け」と促してくる。別にミスタさんの隣でも大丈夫だし、ミスタさんには次無理矢理エスカルゴを口に入れたらミスタさんの弾丸全部に4って書くっていう約束までしたし、謝罪も貰ったから安心だしそんな今更移動しなくても大丈夫……って言おうとしたけれど、目が笑っていないウーゴの顔がちょっと不気味さがあって怖かったから、黙って離れてジョルノの方に移動をした。
 こ、怖い。ウーゴって静かに怒ることってあったっけ?いつも騒いでいる感じじゃなかったっけ?私が知っているウーゴはとにかく煩かった記憶しかない……そもそも何で怒っているの?ミスタさんと話していただけなのに?

「フーゴのヤキモチは随分可愛いね。」

 席に座ったら座ったでミスタさんとウーゴはぎゃあぎゃあと言い合いをしていて少し騒がしい。そんな光景を見ながらジョルノが楽しそうに言ったので私は思わず首を傾げる。

「ヤキモチ……」

 どこをどう見たらヤキモチになるのだろうか?ミスタさんとシェアをするのは羨ましかったのかな?ウーゴもシェアをしたかったの?ミスタさんと?

「多分そういうことじゃあないよシニー。」

 私が考えていたことがお見通しだったらしいジョルノは、違うと言いながら少し体を寄せて小さい声でどうしてそう思ったのかを教えてくれる。

「きみがミスタと話している間ずっとフーゴを観察してたんだけど、彼はきみとミスタが肩を寄せ合って仲良く喋っていたら……ほら。」

 テーブルの上に置いてあるメニュー票を手に取ったジョルノはそれを私に手渡して、端の部分が折れ曲がってしまっているのを差して指摘をしながらフフッと笑う。

「後から来たミスタにシニーが取られるって無意識に思ったのかもしれないよ?」

 私に妬いたんじゃなくて、ミスタさんの方に妬いていた。そう教えつつ運ばれてきたお冷やに手を伸ばすジョルノはどこまでも楽しそうに笑う。

「いや、何でそうなるの?」

 メニュー票がこうなったのとそれは別に関係ないのでは?私達が騒ぐからイライラしたのかもしれないし、ウーゴのことだからジョジョへの配慮を考えろとか弁えろとか思っていたのかもしれない。ヤキモチ一点に絞るのはちょっと違うような気がする。
 納得がいかず言い返せば、ジョルノは少し呆れたようで息を長く吐きながら「そうくる気がしてた」とか小さな声で私に言う。凄く失礼じゃないだろうか……

「じゃあ試してみようか。」

 そして私の方に椅子をくっ付けて、ジョルノはわざとらしく……いや、わざとだ。わざとさっきのミスタさんと同じように肩を抱いてきては、自分の方へと私の体を寄せてきた。
 いきなりのことだしありえない出来事だったから頭の中が一瞬パニックになりかけてしまう。あのジョルノがこういうことをしてくるって……これって何の冗談なの?付き合いはこの中の人間の中で一番長いけれど、一度も肩を抱かれたことは……あ、でも抱きしめられたことはあったかな。でもこんな外でそういうことはされていない。明日は雪が降るかもしれない。

「ちょ、どうやったらそういうことになるんですか!?」

 私達が黙ってくっ付いていると、ミスタさんとの言い合いに白熱してしまっていたウーゴがついにこっちを向いて、私とジョルノを交互に見ながら目を見開いて驚いていた。

「いや……シニー……でもジョジョが……?いやいやシニーがジョジョに……でもジョジョがシニーに……」

 そしてそれを見て混乱をしてしまっているみたいで……何て言ったらいいのか、どうしたらいいのか分からなくなっているのか何度も何度も私とジョルノを交互に呼ぶ。隣にいるミスタさんはどうしたって顔で見ていたけれど、何となくで察してしまったらしい……なるほどって言わんばかりに目を見開かせて、何も分からないウーゴを見て笑い始めた。

「アハハ!どっちを怒ったらいいのか分かってねーのかフーゴォ?」

 ミスタさんって結構強いことを言うよね……ウーゴの顔が少し引き攣っていてやばい感じになってきている。

「どっちも好きだもんなぁ?どっちに妬いてんのか自分でも分かってないとか……青くさいなおまえ……」

 ミスタさんはもう好き放題にウーゴをからかうようなことをべらべらと言ってしまう。止まる気配もなくひたすらに、延々とからかい続けるように笑っていて、ウーゴにおしぼりを投げ付けられて圧で頬が凹んでいた。自業自得すぎてやめろとは言えず苦笑いで見守るしかない……ごめんなさいミスタさん。
 でもミスタさんが言うどっちも好きっていうのは多分誤解だと思うけれど……選べないウーゴを目の当たりにすると何でだって思いもする。ウーゴはジョルノには逆らえないくらいジョルノが大事なはずだ。ミスタさんや私は基準で言えば普通の仲間でしょ?止まらずに言えばいいのに、遠慮なく私に文句を。

「フーゴ、遠慮なくぼくを叱ってくれていいんですよ?」

 ジョルノはそう言いながら、私の頭を抱えると丁寧に私の髪を撫でる。

「いいんですか?シニーをこのままべろんべろんに撫で回して髪の毛一本一本を花にしてしまいますよ。」
「何その例え方こわい……」

 あまりにも怖いジョルノの例え方を聞いて、思わず口を挟んで身震いしてしまった……何なのそれ怖すぎでしょ。髪の毛一本一本を花にするってつまり一本一本抜いて物質にしてから私に植え込むってこと?その花は一体私の何を養分にして咲くの?ジョルノが言うとめちゃくちゃ恐怖でしかないんですけど!命の危険しか感じない!

「ウーゴ!助けて!」

 そんなの勘弁してくれと思ってウーゴの方にに手を伸ばす。ウーゴはまだ混乱をしているみたいだったけれど、私が腕を伸ばしたらハッとしたのか手を握ってくれて、ジョルノから引っ張り上げて意外にもある腕っ節で私を抱き留めた。
 ウーゴの体はやっぱり見た目と同じくらいたくましいみたい。芯が固いみたいで私が勢いよく私がぶつかってもよろけない。昔と全然違う。

「い、いくらジョジョでもシニーにそんなことをしたら……ぼくが泣きますよ!」
「「「何で?」」」

 でも発想がちょっと子供だった。泣きますよって言いながら私の肩に手を置いて、私の体を皆の方へと向けてから力を込めて自分の方に寄せてくる。
 ちょっと意味が分からないけれど……いや何でウーゴが泣くのか分からないけれど。でも多分ウーゴも分かってはなさそう。「何でもダメです!」って私の後ろで言っている。

「とにかくあまり接触するのはダメです。」

 ウーゴは咳ばらいをすると、ミスタさんとジョルノに改めるようにダメな理由を話す。

「一応彼女は女性で、まだ女の子なんですからね?ちゃんと遠慮するところは遠慮をして……」

 私は女性で女の子で……って、どういう意味だろう?女性は多分大人の人に使う言葉だし、女の子っていう言葉はもう子供に向けるものだし。私は一体どっちなのか……前も考えたような気がする。

「フーゴって……そういうところが子供っぽいんだよなぁ。」

 固まっていればミスタさんがポツリと呟く。

「遠回しに賢く言ってるけどよぉ〜、要はシニストラに馴れ馴れしくすんなって言ってんだろ?可愛いとこあんじゃん。クク……っ、」
「は?」

 この空気を壊すような調子でウーゴの言葉をまとめつつ、ミスタさんは笑いながらひらひらとその場で手を上げる。店員さんを呼んだらしい……やって来た人にさっき二人で選んだものを伝えている。

「いいんですよフーゴ、そりゃあ心配にもなりますよ。」

 ジョルノはジョルノでウーゴの言葉を飲み込むと、いつの間にか直したらしいメニューを店員に渡しつつうんうんと頷いて、微笑ましそうに私達の方に視線を向けていた。

「大事なシニーが他の男に触られるのは嫌なんですよね……ふふ、年相応でいいですね、こういうの。」

 何を言い出すのかって思ったし、何言っているのかちょっと分からない……大事なシニーって言われても自分には落ちてはこないし、他の男に触られるのは嫌っていうのだって、男性に囲まれた環境で仕事をしているからそんなこと思っていたとしてもどうしようもないことだろうし……どう考えても防ぎようがないししょうもないことのように思えてしまう。そもそもウーゴには関係ないことじゃないか?こればっかりはウーゴが何を言おうとどうしようもないことなんじゃないのかな?
 思わずジョルノから無茶を言ったウーゴの方に視線を向けてみる。でもそんなウーゴはさっきのはきはきとした様子とは違ってジョルノの方を向いたまま固まっていた。表情が動かなくて死んだ魚のような色のない目をしている……こんなウーゴは見たことがない。二人にいじられておかしくなっちゃったの?大丈夫?

「ウー……」

 私はとりあえずウーゴを引き戻そうと思って、肩にあるウーゴの手を剥がすと向き合うように立ってはウーゴの両頬に手を持っていく。そしてそのままおもいっきり中心へと引き寄せると、

「ゴッ!」
「んむっ!?」

力いっぱいに挟み込んで。スパンっていういい音が私達の周りに響き渡った。

「何するんだ!痛いじゃあないか!」

 衝撃が衝撃だったのでようやくウーゴの目が生きた人間の目に変わって、戻ってきたウーゴは自分の頬にある私の手を剥がそうと手首を握って外へと引っ張ってくる。もちろんウーゴの方が力は強いからすぐに剥がされたし、やり返しと言わんばかりに額を指で何度も何度も突かれて、ウーゴの反撃を喰らって私も痛いことになってしまった。でもこれでおあいこなので、文句だけは言わずにとりあえず今ウーゴに言いたいことを言うことにする。

「ウーゴが心配性なのはよく分かったよ。ありがとね?」

 いや本当はよくは分からない。でもこれだけは分かるっていうものはある。ウーゴが心配性で私のことを考えてくれているっていうことは今の話で伝わったし理解した。
 それに……もしかしたらかもしれないけれど、ウーゴは多分ブチャラティとアバッキオとナランチャに私を頼まれたから、ちょっと責任感が強く出ているのだと思う。頼まれたらとことんやり込むのがウーゴだもん。普段を知っているからよく分かるよ。

「でも今はさ!楽しんで皆でご飯しよう!大好きなジョジョとミスタさんと一緒に美味しいもの食べてさ……二人を会合に送り出そうよ?ね?」

 それにミスタさんはいつも通りだけれどジョルノに至ってはただからかっただけだし、普段は大体の節度は保てているし、ウーゴが心配するような?ことはないだろうから安心してほしい。
 私が前向きに今を楽しみたいことを伝えると、ウーゴは少しだけ煮え切らないような顔をする。今にもでもとかだってとか言い出しそう……何だかミスタさんが言うようにちょっと子供っぽい。多分言ったら拗ねるだろうから言わないけれど、ちょっと可愛いなって思います。

「まぁ……シニーがいいなら、いいよ……別に。」

 ウーゴはそんな顔のままそう言って、都合が悪そうに私から目を逸らす。

「だが男は危ないってことはちゃんと分かってくれ。怖い生き物だって……分かってくれ。」

 そしてそのまま私の横を抜けると、さっきまで座っていたミスタさんの隣に座ってお冷やを飲み始める。ミスタさんがからかうように笑いながらウーゴを小突いていたけれど、いつの間にか置かれていたフォークを握ったウーゴはミスタさんの顔に目掛けてそれを向けてキレていて……いつも通りのウーゴの調子に戻っていたので、私も安心して自分の席に座るとお冷やを片手にジョルノと雑談をし始めた。

「ここに来るは何してたんだ?どこかに行ってたんだよね?」
「うん!映画館行ってたんだー、モンスターが会社で働いてるやつで……」
「あー、だから今日のフーゴはお子ちゃま丸だしなのなぁ?シニストラ、お守り大変だっただろ!おつか「おまえの脳天かちわって脳みそミンチにしてやろうか?」
ランチタイムにサイコパス発揮させるんじゃあねーぜ!」
「肉を食べなきゃ人間美味しいんじゃあないかって言ってた人間がよく言うよな!」
「……食欲が。」
「……消えてくね。」


 ウーゴは変なところにヤキモチを妬いていたけれど……私も皆といると、どうしても妬いちゃう部分っていっぱいあるような気がするんだ。

(絶対言わないけど、)

 私は、ウーゴに遠慮をされないミスタさんやどこまでも信頼をされているジョルノが凄く羨ましくてしょうがないよ。
 



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