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「ジョルノって……何でウーゴの家に私を〜って思ったの?」

 今日の任務は夜にあった。とあるチームが使っていたアジトにいるもういない人が迷惑をしているとのことだったので、ジョルノに連れてかれてトロイメライを使い意思疎通をしていた。酷い集団だったらしいけれど彼らもまた負の遺産の犠牲者とのことで、ジョルノはお墓を建てて弔うことにしたらしい。あの日みたいなことは出来ないけれど……透明ぐらいがちょうどいいと言われたので、目の前にいる人は姿は見えるものの実体としては存在しない、ただ自分の言葉で喋るだけの状態で話を進める。害はないけれど何処と無く害があるように見える格好をしていたし、ジョルノも離れていた方がいいって言っていたからお言葉に甘えてその人とは距離を置いた。
 今日は昼間はウーゴの家にいて、ウーゴが帰ってきてからすれ違うように家を出て今に至るのだけれど、ウーゴと暮らすようになってあれから一週間くらい経っている。ウーゴは前より飾らなくなったというか、遠慮がなくなったというか……結構深い話をするようになって、大体寝る前にちょっとした話をする。開いた時間を埋めるようにっていうと何か違うかもしれないけれど、少しだけ距離が縮まったように最近は感じていた。

「いや、深い理由はないけど。シニーもフーゴも放っておくと危ないし、一緒にしたらどうかなって。」

 ジョルノは廊下に座りながらお墓のパンフレットに何かを書き込みつつ、私の突然の質問に答えてくれる。内容から少し適当さが漂っているけれど……気にしたら負けだ。

「でも一応私女だよ?ウーゴも頼りないけど一応男だしさ。」

 別にウーゴを危険とは思わない。寧ろウーゴのそばは安全だと思う。ちゃんと弁えているのか結構そういうことは気にする人だし……でも私達は同性ではなくて一応異性同士。そもそも何でジョルノはあの時途中で部屋決めを諦めちゃったんだって思うんですよね。
 ジョルノは私の言葉を聞くと「うーん」と唸りつつ、ペンを顎の下に当てながら悩ましそうな顔をする。私の言葉を聞いて悩んでいるのかそれともお墓のことで悩んでいるのか分からないけれど……ゆっくりと私の方へ視線を向けると、私の疑問に答えをくれた。

「だってさ、その方が面し……何かあった時ぼく達も安心出来るだろう?」

 今面白いって言おうとした。絶対言おうとした。

「きみは体調不良も訴えられないまま限界まで頑張るし、フーゴは仕事ばかりでプライベートに中身がないし。尽くしてくれるのはありがたいけどね、もう少し豊かに過ごして欲しいんだ、二人とも。」

 ジョルノはウーゴのことも私のことも考えてこの答えに辿り着いたと説明をする。一応このルームシェアに意味はあったらしい。まともな理由だし反抗出来るような要素もない。

(言い返せない……)

 体調管理は気を付けようと頑張ってはいるけれど、ジョルノは用心深いところがあるから……また似たようなことが起こらないように網を張ったんだろうな……
 でもウーゴのプライベートの話はちょっと私も心配だ。毎日毎日帰ってきても仕事ばかりで、自分の時間らしい時間を作っていないのは確かだった。まだ趣味っぽいことをしている姿を見たことが一度もない。見せていないだけで自室ではしているのかもしれないけれど、私の目には映ってはいない。

「頑張りすぎるきみ達がちょっとでも変わってくれたらいいと思うよ。」

 策士かよと言わんばかりの目論みがあった。大体私の予想は合っていたけれど、その笑顔には含みがあるように見える。多分他にも意味があるのかもしれない……面白いって言いかけていたし絶対何かしらの目的はありそう。気にしたら負けだ。

「そういうとこずるいよねぇ……」

 ウーゴが意地悪されたって言っていたのも頷ける。私にも意地悪なことを言ってくるしな……どんなに言い返しても無駄無駄で片付けられちゃうだろうからこれ以上はよしておこう。

「っていうかおまえらオレのこと忘れてない?」

 二人で話し込んでいたら、ジョルノの目の前で開かれていたお墓のパンフレットをジッと見ていた人……メローネがつまらなそうに言葉を漏らす。

「よく分かんないけどお嬢さんは同棲してるの?フーゴって護衛チームの奴だよな?頭いい奴。」

 メローネはウーゴのことを知っていたらしい。含みのある笑みを浮かべながらフフフって気持ち悪い笑い声を出している。っていうか同棲はしていないしな?ルームシェアだしな?

「お兄さん恋愛のプロだからさぁ、困ったことがあったら相談してくれていいんだぜ?キスのやり方とか手取り足取り教えてあげようか……フフッ……」
「……」

 やばい、このお兄さん本当に気持ち悪い。音を立てながら舌なめずりしていらっしゃる。そもそもキスって何?恋愛って……

「結構です〜……」

 私達は幼なじみだし、そんなキラキラした関係とは程遠い。

「アンタ本当に気持ち悪いな。シニー、こいつの口剥がしていいよ。」
「おいおいそんなことされたら喋れなくなるじゃあないか!」
「もう聞くことは聞いたし十分ですよ。」
「お口剥がしまーす。」
「アンタら鬼だな!でも何かのプレイみたいでディ・モールト!ベネ!」

 彼に相談をする日はきっと来ないだろう。そう思いつつ騒ぐメローネの口部分を剥がすのだった。


 今日の仕事が無事……何か疲れたしいろいろ気持ち悪かった。無事っぽく終わって現場のアジトの外に出ると、外で見張りをしていたミスタさんと合流してから私達はウーゴの家の方向に歩き始める。
 いつもならジョルノが動くとなると車が大袈裟に使われているけれど、今日の仕事は組織には一部の人間以外には極秘で動いているらしい。教会に多額の寄附を贈ってお墓を建てるって言っていた。一つのチームに建てたら他のチームにも建ててやらないといけないしってジョルノは言っていたけれど、ミスタさんは正直に「連中を恨んでいた奴が組織内にいるから」って教えてくれた。知ったら騒ぎになるから内緒だぜって……別に組織内で仲のいい人ってここにいる人とウーゴとポルナレフさんくらいしかいないから、言える相手っていないんだよな。虚しい内緒話だと思う。

「シニストラってさぁ、フーゴに料理とか作ってんの?」

 夜風に当たりながら大通りの方に出ると、繁盛しているリストランテの方を見ながらミスタさんが訊ねてくる。

「作ってますよ。」

 冷蔵庫の中身がなかった事件からずっとご飯は作ってあげている。ほっとくとジョルノから貰ったドルチェに手を伸ばそうとするので、それ食べる前にこっちを食えって具合ですり替えてちゃんとしたものを食べさせていた。ウーゴにはちょっと多いかもって思う量を作ってしまうけれど、やっぱ男の子っていうか……結構多くてもぺろっと平らげてしまう。朝はパンかシリアルか分からないから間を取ってリゾットとスープにしてあげたり、頭を使う人だから魚とかも中に投入したりして健康面とか気遣ってあげたりもしていたり、口に入れた時の目の輝きが今まで見たことがないウーゴみたいで結構作ることは楽しんでいた。

「シニーの料理は寮内では話題になってましたよ。自分で夜食を作っておきながら食べるのを忘れた日があったんだ。その時勿体ないって思った人間が食べたらその味に感激して……噂が広まって、このマードレの味は一体誰が作ってるんだって騒ぎになって調理場を張ってた人間がシニーが作ってたところを見てしまって……」
「自分達の分も作ってくれって騒ぎになったので、料理したい気分な時とか女子で集まってお夜食作るようになったんです。」
「へ〜!おまえ見かけによらずスペック高いよな。」

 スペックが高いかは分からないけれど……料理は実家でお母さんのお手伝いをしていたから出来るようになっただけだ。ウーゴがいなくなってからは走って遊んでくれる相手がいなかったから、家にいることが多くなって暇つぶしにお手伝いで料理とか勉強とかしたりして……

(ウーゴのおかげなのかな……)

 そう思うとウーゴのおかげなのかもしれないな。今こうやって料理を作っているのもある意味ウーゴへの恩返しなのかもしれない。

「オレも料理好きなんだぜ。今度一緒に何か作らないか?派手めなやつ!」
「いいですね!何作りましょうか?今のうちに材料に目星を付けないと……」
「ぼくはピッツァが食べたいな。楽しみにしてるね?」
「素朴かよ。」
「いや……具材によっては派手になりますよね、ピッツァって……」

 大通りは賑やかで、それに合わせるように私達は笑う。ウーゴがいたら「ジョジョの口に入るのなら立派なピッツァを作るんだぞ」って言ってきそう。後で言ってみよう。

『シニストラ〜!ミスタノ料理ハネ、サラミガウマイゾ〜!』
「んんんそれは多分料理じゃないかな?」

 ウーゴが自分の日常に戻ってきたみたい。いなくても勝手にウーゴが頭の中に現れるようになって、ちょっと嬉しかった。


「じゃあシニー、明日は客人が来るから早めにアジトに来るんだよ。フーゴにもよろしく。」
「おやすみシニストラ〜明日もよろしくな!」
「おやすみなさい〜!」

 ジョルノとミスタさんは家の目の前まで送ってくれるとそのまま夜の闇の中へと消えてゆく。見えなくなるまで手を振り続けて、完全にいなくなってから後ろの扉に手をかけてウーゴがいる家の中に入る。
 明日はジョルノの大事なお客さんが来るらしい。どんな人かな?ちょっと楽しそうに言っていたし、取引先ってわけではなさそう。
 まぁ今考えてもしょうがない。それよりも今日もウーゴと話をしながらゆっくりしようかな。一週間程度しか雑談はしていないけれど最早日課になっている。
 そのまま廊下を歩いて居間に向かうとテーブルにノートパソコンを置いてカタカタと仕事をしているウーゴが視界に入る。今日も仕事を持ち帰ってきたらしい……家にいるのに休まないとか大丈夫なのかな?ストイック気味なのはちょっと心配。

「ウーゴ、ただいま。」

 入口から声をかけると下を向いていたウーゴは顔を上げる。ゆっくりと私を見るとニッと笑ってくれて、パソコンから手を離した。

「おかえりシニー。」

 日に日にウーゴは変わっていっているような気がする。前は声をかけても顔を上げてはくれなかったし手も止めてはくれなかったけれど、今日はこっちを向いてくれた。ちょっとずつ昔の私達に戻っていっている。名前を呼ぶと笑ってくれたウーゴが帰ってきたみたい。小さいことかもしれないけれど、どこまでも嬉しく思えてしょうがない。

「ウーゴ聞いて!今度ミスタさんとピッツァ作るの!皆で食べようね!」
「ミスタと?どこで作る気だ?」
「え?アジト……かなぁ?」
「ぼくに訊かれても困る。」
「……ジョルノのリクエストなんだよね。ピッツァ。」
「作るからには立派なピッツァを作るんだぞ?」

 今は多分忙しい時期なのかもしれない。時間が経ったらウーゴはこの家で好きなことをしてくれるかも。
 協力出来ることは協力をしたいけれどウーゴの仕事は多分ウーゴにしか出来ないことだから、せめて体を壊さないように陰ながら支えることを今は目指そう。

「……ああ、そうだ。ドルチェ買っておいたから食べてくれ。この箱に入ってる。」
「やった!ウーゴありがとう〜!お風呂出たら食べるね!!」


 もっと貴方が心を開いてくれたらいいなって、願いをこめて声をかけていこう。




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