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むかしむかし、はるか昔のお話です。
まだ純血かそうでないか、ではなく
魔法が使えるか使えないかで人が区別されていた頃のお話です。
魔法の使える者は、使えない者から大変恐れられていました。
それは未知なる力への恐怖であり、また理解を越える出来事への拒絶でもありました。
とある小さな村に生まれたバルトには、生まれたときから不思議な力が宿っていました。
両親は少し気味が悪いと思いながらも、我が子を愛し、慈しみ、そして彼の力を誰にも告げずに育てていました。
しかしバルトの感情が不安定に揺れる時、必ずおこる奇怪な現象にとうとう村の人たちは彼の力に気付きます。
小さな村でしたから、噂はすぐに広がり、たちまちバルトはひとりぼっちになってしまいました。
少し前まで一緒に遊んでいた友達も、可愛がってくれていた近所のおじさんおばさんも
噂が流れてからは誰もバルトと口を利いてくれません。
そして悲しいことに彼をこれまで育ててくれた両親までもが、周囲から白い目で見られるようになると
本当にバルトが自分達の子供なのかと疑うようになりました。
バルトは間違いなく二人の子供でしたが、二人は魔法が使えないのです。
自分達が持っていない力を、自分達の子供が持っているのはおかしい、と彼らは考えました。
そしてバルトが自分達の"本当の"子供を殺して、自分達の子供に成り代わっているに違いないと思うようになりました。
バルトの味方は、もはやどこにもいませんでした。
痛い思いを何度もしました。
たくさん、傷付きました。心も、体も。
それでもバルトは両親が大好きでした。
生まれ育った小さな村が大好きでした。
だけど、もうこの小さな村のどこにも
バルトの居場所はありませんでした。
幼いバルトは一人で生きる決心をしなくてはいけませんでした。
寂しくてもこの村を出ることに決めたのです。
それは奇しくも、彼を火炙りにしてしまおうと村人が準備をしていた前の日のことでした。
村を出たバルトは森を越え歩き続けました。
木の実を食べたり、虫や小さな動物を獲って食べることもありました。
人目を忍ぶように旅をして数ヶ月たった頃、バルトは大きな川の側に建てられた古い小屋を見つけます。
もう村からずいぶん離れたことでしょう。
彼は疲れていました。
まだ幼い体に鞭打ってここまで来たけれど、それも限界でした。
幸いなことに小屋は無人で、長いこと使われていないようでした。
バルトはその場所を魔法で綺麗にすると、近くに落ちていた木の枝を集めベッドを作りました。
この数ヶ月の間に、魔法を使うことに対する抵抗がすっかりなくなりました。
すると、不安定だった魔法がうまく使えるようになりました。
一人旅は寂しかったけれど良いこともあったようです。
それはとても気楽な旅であったということ。
もう魔法で誰かを傷つける心配がないということです。
彼は心機一転、名を新たにこの地で暮らしていくことにしました。
小屋の側に生えていた木から新しい姓をエルフォードとしました。
エルフォードとはニワトコの木の生えている浅瀬という意味です。
これから彼はバルト・エルフォードとして生きていくのです。
彼の長い長い人生のはじまりの日でした。
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