海の終わりまで

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果てしなく広がる海
初めて見つめる景色の先に希望はあるか―――





事は遡ること数時間。

今日は遠路はるばる東方より視察団が訪れるとのことで、ここ、アメストリス軍北方司令部内は僅かに盛り上がりを見せていた。
なんせこんな辺境の地にやってくる客はまずいない。交通の便の悪さも然ることながら、とにかく寒い。

隊員達はすでに慣れてしまったが、慣れぬ者にはある意味試練である。視察に来るのも一苦労だ。
新規で北方司令部に配属となる軍人はまずこの身を切るような寒さにやられてしまう程にこの地方の寒さは厳しい。

そんな極寒の地にわざわざ視察に来るというのだから、丁重にもてなしたいところ。
ということでカミラ・ロタール司令官直属の部下達は通常業務を早めに切り上げ、準備に追われていた。


「リットン少佐、紅茶と珈琲はどちらを用意しますか?」

「あぁ、デバイン准尉。どちらでも出せるように準備しておきなさい。」



「リットン少佐、暖房の温度はもう少し高い方がよろしいでしょうか?」

「そうですね、クラフ中尉。外からやってきて冷えているでしょうから。最初は少し暑いくらいにしておきましょうか。」



「少佐〜、今日って何人くるんだったかねぇ?」

「…、ハリウェル大佐。今日いらっしゃるのは5名の予定ですよ。そんなことより仕事してください。」

「はいはい。あ、エステル君、お茶請けまだ用意してないならパウンドケーキにしないかい?カミラちゃんが食べたいって言ってたからさぁ。」

「分かりました。」

「はい、じゃあ俺の仕事はこんなもんでいいかな。少佐、あとよろしく〜。」

「……。」



こうして上司を反面教師として、ここの部下は随分と気が利く優秀な人材となった。

そもそも北方司令部を治める司令官、カミラ・ロタールは軍人であることよりも科学者であることを優先させる節があり、研究室に篭もりきりになることも少なくない。
そんな司令官の腹心の部下、忠実なる右腕として名高い中将レジナルド・ベイツも同じく研究室にいることが多かった。ただし実際のところ研究室で手伝いをしているのではなく、護衛と称してサボっているだけだが。

となると必然的に次は大佐であるメディ・ハリウェルに指揮権があるのだが如何せん、この人も仕事をしない。
苦労人たるはグレンダ・リットン少佐であり、中間管理職はどこも大変である。

ちなみにリットン少佐に指示を仰ぐのはまだ若さの目立つ、シンディ・クラフ中尉とエステル・デバイン准尉だ。彼ら2人はこの現状を正確に把握していて、ベイツ中将やハリウェル大佐にはあまり声をかけない。その方が効率が良いことを知っていた。


こうして、主に3名の部下が応接の準備を整え、それが終えた頃ちょうど視察団が到着した。
視察自体は形式的なもので、大した案件もなかったために滞りなく終わった。

いや、終わるはずだった。
最後の最後、視察団の1人が余計な事をしなければ。



北方司令部を治める大将が、科学者として君臨しているこの司令部には他の支部では見かけないようなものがたくさんある。
それは外から来た視察団にとって未知の機械であったり、用途不明の錬成陣であったり様々だ。

好奇心旺盛な1人の視察員によってうっかり発動されてしまった未完成の錬成陣により、北方司令部の大将率いる6名の人員が忽然と姿を消した。
もちろん司令部は騒然となるが、それを収める者はどこにもいない。



一方、突如消え去った6名の軍人はというと、書物の中でしか認識したことのない海というものを初めて目撃し、驚きと感動に満ちていた。


『これが海、とやらか。』

「初めて見ましたネェ。」





かくして、客人のうっかりによって世界を越えてしまった彼らは、元の世界に戻る為の情報を探るべく旅をする事となる。
この広大な海の終わりを見つけるよりは容易い出来事のように思えた。



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