ねー、せんせの本ってどれくらい売れてるんですか? 」

ソファに座るなり、なまえから不躾な質問を投げかけられた。ぼくの収入が知りたいのか?いやでもそんな回りくどいことをする頭はこいつにはないだろう。
質問の意図を考えながらわからないが、減るもんでもないし答えてやる。

「さぁ?編集者に聞けばわかるんじゃないか? 」

ぼくは漫画を描くだけで、何部刷るとか累計発行部数だとかは門外漢だ。編集者が時々そんな話題を持ってきていたが、ぼくの興味がないことを悟ったのか最近はさっぱりだ。沽券に関わるので一応言っておくが、売れてないわけではない。断じてだ。

「興味ないの? 」

意外だと言わんばかりの表情をしている。
ぼくが周りを気にするタイプにでも見えるというのか…?こいつはSNSでイイネの数を気にしそうではある。なまえのような人種もいるだろうが、世の中の皆が皆そうではない。

「どうだろうなぁ。もともとあまり気にしたことがないんだ。」

こいつはこの岸辺露伴が金やちやほやされるためにマンガを描いてると思っていたのか…?どれほどの人が読んでくれているかを気にするよりも、リアリティを追求して自分の納得のいく漫画を描きたい。自己満足と言われようとも、一番最初の読者であるぼくが納得しなければ、他人に伝わるわけがない。
…まぁそこまで言うことではないと、心の中で捲し立てるだけに留めた。

「ふーん・・・。 」

ぼくの返答が思ったものではなかったのか、なまえの顔にはなんだつまらないと書いてある。

「急にどうした? 」

今までぼくの漫画に興味を示さなかったくせに、突然発行部数の話なんてし始めた意図はなんなのだろう。欲しいモノがあるなら話くらいは聞いてやろうと思う。買うかどうかは交渉次第だ。

「いや、キリのいい数字になったら「おめでとう」ってしなきゃいけないのかなー?と思いまして。 」

「記念日好きの女子高生か君は。 」

くだらなさに溜息が出る。そもそもしなきゃいけないのかなー?ってなんだよ。
祝いたいなら祝わせてやらんでもないが、ぼくが祝って欲しいと思われているのは心外だ。

「普通の女子高生ですー。
先生だってクリスマスとかお正月とか、なんだかんだでちゃんとやってるじゃないですか。あれ国の記念日ですよ。 」

「クリスマスは違うだろう・・・。 」

そういえば11月ごろから、せんせー、クリスマスですね!なんて目をキラキラさせていたことを思い出す。
恋に恋い焦がれる年頃だからか、光のページェントが見たいとか限定のなんとかだとかで随分連れ回された。取材をしようと思ったこともなかった所に連れて行かれたので興味深かったな、あれは。

「じょーすけなんて超マメですよー。 」

「なんで今あのクソったれが出てくるんだ。 」

思考が嫌な名前で停止して、心がささくれ立つ。あのクソったれに言われて使命感に駆られたのか?ぼくの原稿用紙に意図しない線が引かれたようでムカつく。そもそもぼくといるときにあんな奴を思い出すのがおかしい。

「いや、記念日に何するかって話聞いてたら、私も何かしたくなったから・・・。だって、先生へのお祝いって、誕生日とバレンタインくらいしかないでしょう? 」

ぼくが不機嫌になったのがわかったのかなまえが慌てて弁解する。機嫌直してー、と言わんばかりの上目遣いがあざとい。
ふとイタズラを思いついた。せっかくの彼女からの申し出、このネタを今使わないでいつ使うんだ。

「じゃあ今しろよ。 」

ぼくがいつもと変わらない顔で笑ったので安心したのか、それとも言葉の意味を測りかねるせいか、一転してキョトンとした表情になる。

「なんの記念日? 」

さっきまでの雰囲気はどこへやら、今度は興味津々といった顔。このコロコロ変わる表情が面白くて、ついからかいたくなってしまう。

「・・・10000回目のキス。 」

言うが早いか唇を重ねる。
驚きでぎゅっと引き結ばれる唇を解すように何度も口付ける。小さく吐息が漏れたその隙間を埋めるように舌を差し込み、逃げ出さないように頭を抑え込む。
もう何回も繰り返した行為で、その先にだって進んでいるはずなのに、いつまでも慣れない様子が嗜虐心をくすぐる。
涙でぐちゃぐちゃになって、ぼくを求めるまで焦らしてやりたい。

「…せん…せ…っ、も…離して…」

苦しくなったのか涙目で訴える姿があまりに可愛くて、唇を離す。
真っ赤な顔で濡れた唇を拭う姿がまたイイ。

「…数えてたんですか?」

ちゅっとリップ音を立てて赤い頬に口付ける。この様子だとまだ気づかないな。

「もちろん。」

まぁ一万回キスするとして、1日1回でも27年ちょい掛かるんだが、なまえが気付くまで黙っておくことにしよう。

「…キモチワル…っていうか、あんなねちっこいのどこまでで一回にするんですか…」

気持ち悪いとはなんだ、とか疑問に思うところはそこじゃないだろう、とかツッコミたい所は色々あるが、今はこの状況を楽しむことに専念しよう。

「…知りたいのか?だったらたっぷり教えてやるよ。」

こいつと一万回目のセックスをするのも悪くない、なんて思いながらぼくは彼女をソファにそっと押し倒した。

祝ってくれるってなまえが言ったんだ、たっぷり楽しませてもらうとしようか。



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ルカ様より10000hits記念に頂きました。
全裸待機していて良かったと心の底から思います。
この露伴恰好良すぎやしませんかまじ堪んない。
ルカ様、この度は本当に有難う御座いました!


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