ぼくは真っ白な原稿と向き合いどしゅどしゅと真っ黒なインクをそれに飛ばしていた。自分の中で思い描くそれが形となっていく。今日はこれが終わったら別の原稿もついでに仕上げようかと思う。あんまり早く仕上げすぎるのはいただけないのでその二つが終わったら今日の仕事はやめる。その頃にはきっと彼女が訪ねてくるだろう。そう思っていたのにふと背中に気配を感じた。その馴染みのある気配はこちらの様子を伺うとすう、と何処かへ消えた。こう見えて付き合いは長い方だ、ぼくの様子を見て察したのだろう。ちらり、と時計に目をやるとまだ昼過ぎだった。思いの外早かった彼女の到着に溜息を一つ零すといつも以上にペンを早く動かした。予定は取り消す、この仕事が終わったら今日はもう原稿に向かうのはやめよう。ぼくの仕事が終わるのをまだかと待つ彼女を思うと自然と口角が上がった。





「……」


出来る限り仕事は早めに終えた筈だった。妙に静かな自宅に不信感を得ながらリビングに向かうとそこには瞼をきっちりと閉じて規則正しく一定のリズムで呼吸をしている彼女がいた。そっと顔を覗いてみる。すう、すう、と聞こえるその呼吸音。確実に寝ている。はっきり言って自分は仕事をこなすのが遅い方ではない。寧ろ早い方だ。何故あの短時間で眠りにつけるのか疑問以外の何物でもない。

「おい、なまえ」

声をかけてもその瞼が開かれる事はない。柔らかな頬をぺちぺち叩いてみても身動き一つ取らない。そのまま頬の肉を摘まんでみても「ふが」と間抜けな声を上げたくらいで眠りから覚めそうにない。片方だけの頬を摘まんでいたのをもう一方も摘まんでみる。彼女の顔がいつもとは程遠く崩れたその様に思わず鼻で笑う。両手を離してやると若干赤くなってしまった頬を優しく撫でながら囁く。

「ぼくがいるのに眠るとはいい度胸じゃないか、なまえ」

なまえの白い肌にはその長い睫がよく映える。はっきり言って職業柄、内に籠る事の多いぼくも肌は白い方だとは思うが彼女のそれとはまるで違う。溶けてしまいそうな色のその肌は紅く色付くその唇をも引き立たせる。甘い花に誘われた蜜蜂の如く吸い込まれるように目線を唇に落とす。お伽話で眠りについた姫は王子のキスによって目覚める事が出来たが、彼女は。わかりきっている答えだがそれを確かめるかのようにそっと眠ったままのなまえの唇に自分のそれを押し付ける。当然といえば当然だがそれだけでは起きる筈もない。真っ直ぐな少し色素のうすい髪に指をはさんで梳いてやるとその感触が何とも言えず心地よい。さて、眠り姫と言えばこんな一説もある。眠る姫の美しさの虜になってしまった王子はそのまま眠ったままの姫と関係を持ち二人の子供を授けたそうだ。




「君も眠り姫になってみるか?なまえ」




服の中に手を滑り込ませるとすべすべとしたその肌を楽しむ。散々撫でまわした後に器用にホックを外すとそのまま服ごと下着をたくし上げる。陽も十分昇っているので室内は照明を付けずとも明るい。目前に晒された胸の双丘をまじまじと見つめる。夜の営みの時はやれ「照明を消して欲しい」だの「あんまり見ないで」だのでじっくりと見る機会が与えられなかったのでここぞとばかりそれを見つめる。数日前に付けた紅い痕が少し薄くなっている。また新しくつけてやろうか。身体の割に豊満なものを持つのに何故彼女は隠そうとするのか、自分には到底理解出来そうにない。ふっくらとしたそれを握ると云いようのない快感が襲う。自分の好きなように形を変えるそれを見ながらちらりとなまえの様子も伺い見る。彼女はまだ起きそうにない。

「さあ、いつまで持つかな、君は」

そう言いながら蕾のように上を向いた乳首を口に含む。舌の広い部分で優しく舐めるようにしたり、あるいは先端で潰すようにしてやれば口の中でそれは硬く主張してきた。軽く吸い上げながらもう片方を指で捏ねてやるとぴくり、となまえが反応した。

「…あ…、ぅん…」

それでもまだ起きないなまえを見て思わずにやりとする。眠っていてもどうやらちゃんと身体は感じているようだ。そうでなくては意味がない。いつもいつも行為に及ぶ度に抵抗する彼女と打って変わって大人しい彼女を相手にするのは非常にやりやすい。まあ抵抗していながらもその内快感に流されてしまい自分を求めるようになる様を見るのも好きなのだが、それはそれ、これはこれなのである。彼女が起きないようにそっと愛撫をするのは何だか悪戯をする子供のようにどきどきする。もう片方の胸も同じようにしてやって自分の唾液塗れになっている彼女の胸を見るととても満足した。

そのまま太ももを撫でまわすと軽く内側にキスをする。なまえが穿いているショートパンツのボタンに手をかけてそっとジップを降ろす。腰を浮かせてショートパンツを脱がせるのは少々苦労したが結果として彼女はまだ起きてはいない。柔らかな太ももにもう一度手を伸ばし触れる。ここにも痕をつけておこうか。軽く吸うだけでその白い肌に紅い華が散ったようになるのがとても綺麗だと思った。お待ちかね、といった具合に下着にも手を伸ばす。サックスブルーのそれはぼくが見た事のない奴だった。そうか、こういうのも持っているんだな、さっきブラはちゃんと見なかったからな、覚えておこうか。そんな事を頭の片隅で思いながら下着も脱がせる。とうとうなまえは裸に近い格好になった。こんなにされるまで起きる素振りも見せないとは。足を開かせてそっと柔肉に指を這わすとぬるりとした感触に包み込まれる。濡れている。その事実にぼくの身体の底の方からじりじりと興奮が迫る。

「眠っている癖にこんなになる君は相当淫乱のようだな、なまえ」

彼女の顔を見ながら指を中に埋め込む。全部入ったのを確認してからゆっくりと指を動かすと僅かに切なげな声が漏れる。

「あ、…、はぁ…っ」

無意識にも関わらずなまえはぼくによって快感の波に晒されている。それに気を良くして更に指をもう一本増やす。中でばらばらに指を動かすとぐちゅぐちゅと淫猥な水音が響く。

「んぅ…、ろ、はん」

名前を呼ばれ思わず指の動きを止めた。まずい、流石にやり過ぎて起きてしまっただろうか。そっと顔を覗くと未だ彼女は眠っている。それでも赤く羞恥に染まったような頬にだらしなく半開きになった唇。なまえは夢の中でもぼくに抱かれているのだろうか。

「なまえ」

前髪をそっと撫でてから額に唇を落とす。流石にこれ以上したら君は起きるだろうな。もし起きたら君は何て言うだろうか。顔を真っ赤にして怒るか、それとも涙を流してぼくを罵るだろうか。今からそれを確かめてみようか。ぼくはなまえの足を十分に広げてから自身を宛がう。さて、お目覚めの時間といこうじゃないか。そのままぼくは何の躊躇もなくなまえの中へと侵入する。

「っあ、はあ、な、に…っ?」
「やっと目を覚ましたな、なまえ」
「え、あ、露伴…?え、ていうか、え、え?」

奥深くまで挿入して繋がったままの状態で目覚めの挨拶をする。なまえはといえば自分の置かれている状況にいまいち理解出来ない様だ。じゃあ優しいぼくが君の状況を教えてあげようか。ぎりぎりまで抜いてからもう一度深くまで一気に自身を沈める。

「はっ、あぁっ、ろはん、いや…っ、やだあ…っ!」

子供の様に首を横に振って力の籠っていない手でぼくを押し返そうとするもそんな物は無意味だ。そんな事より今のぼくは君の口から否定の言葉なんて聞きたくないんだよ。さっきまでのように大人しくぼくに快感を与えられえていた方がよっぽど従順で可愛いぞ。そんな事を思いながらなまえの唇を塞ぐ。

「…〜っ、んん、…はあっ…、あっ」

嫌がる舌を追い詰めてから自分のと絡ませ、唾液を混ぜ合いそして飲み込む頃には先ほどまで抵抗の素振りを見せていたなまえの両手はぼくの身体へと回された。最初からそうしていれば良い物を。唇を離してやると飲み込めなかった唾液がなまえの口からつう、と零れた。

「んぅ、露伴、あっ、はあ…っ、ふ…ぁ…っ」

鷲掴みできそうなぐらい細いなまえの腰を両手で抱えるとぼくはそのまま中をかき回す。少々激しくしすぎたかとも思ったが零れるなまえの声と結合部から聞こえる水音のせいで止める事が出来ない。最奥まで突き進み何度も打ち付けるように腰を動かすとなまえは声にならない声を漏れ出させた。きゅうと締め付ける肉壁がなまえの終わりが近い事を示していた。

「あ、あっ、ろはんっ、も、むりっ、ふ…ぅん…っ!」
「く…、なまえ…っ」
「ろ、はんっ、ろはん、もうイっちゃ…っ、あ、あぁっ!」

そう言った途端、身体に回された手にぎゅうと力が籠るのがわかった。ぼくに組み敷かれた下でびくびくと身体を震わせなまえの中はさらにきつくぼくを締め付ける。ぼくとなまえの間に隙間なんて一つも無いんじゃないかと思うくらいの締め付けを受けてぼくはなまえより少し遅れてから彼女の腹の上に精を吐き出した。










「おい、まだ機嫌直らないのか、君は」

同じソファに座りながらもなまえはぼくと顔を合わせない。さっきまであんなに素直だった癖に随分とした仕打ちだと思う。

「そもそもなまえが勝手に寝てたのが悪いんだろ」

はあ、と吐き捨てるように溜息をつけば凄い勢いでなまえは顔をこちらに向け凄まじい剣幕で言葉を投げかける。

「だからってあんな事する必要ないっ!変態!きらいっ!」

変態とは聞き捨てならない。ぼくに触られて眠りながら感じていたのはどこのどいつだと思っているんだ。眉間に皺が寄るのが自分でもわかる。

「だったら君は夢の中で誰に抱かれていたんだよ?」

ずい、と近付いてわざと意地の悪い笑みを浮かべてやると一瞬固まったなまえだがすぐに意味がわかったようで顔を熟れた林檎のように真っ赤にさせた。

「眠りながらぼくの名前を呼んでいたくせに、」

きらい、だなんて随分な言い様だな、と詰め寄ると先程までの勢いは何処へやら。困ったように唇を尖らせて目線は何処を見ればいいのか、という風に定まらない。

「眠っている間に子供を2人産ませられた眠り姫に比べればマシだろう」
「…そんな話知らない」
「まあ一説だからな、それに比べればぼくは随分と紳士的な方だと思わないか」
「…、私こんな王子様いやだもん…」

そう言いながらこちらに擦り寄ってくるなまえを見ると機嫌は直ったらしい。未だ少し不貞腐れたように突き出した唇に軽くキスを落としてやると「おはよう、王子様」と返された。どの世界でも眠り姫は愛する者に口付けをされて目覚める、らしい。王子様ってのもたまには悪くないかもな。そんな事を思いながらぼくは口角を上げた。


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