※性描写とてもぬるい。




とてつもなく寒い。当たり前な話だけど海の近くって寒い。びゅうびゅうと凄い音を立てて吹いた風は今朝丁寧にブローした私の髪の毛を一瞬でぐちゃぐちゃにする。はーあ、今何時かな。ちらっと携帯を見ると4時過ぎだった。ていうか充電があんまりない、携帯が死ぬ。時間を確認する為に見た携帯には着信も無かったしラインも来ていなかった。私が露伴くんの家を飛び出してからどれぐらいの時間が経ったのだろう。彼とつまらない事で喧嘩になって思わず飛び出して、それでも携帯に何の連絡も無いって事は、やっぱそーゆー事なんだろうな。ほんとはちょっとだけ連絡来てるかなって思って見たのに。普通さ、好きな子が家飛び出したら追いかけて来るじゃん。・・・来る訳ないんだよな、あの男は。

そもそも私の事をちゃんと好きかも甚だ怪しい。最後に好きだって言われたのいつ?もう思い出せないくらい昔じゃないか。同棲してるって事はそれって好きって事だよね?って自分に言い聞かせてきたけど。今思い返すとご飯を作ってあげて掃除、洗濯だってこなして、挙句の果てには夜の情事までって、それって只の都合良い女なんじゃないのか。性欲処理までしてくれる家政婦じゃないか。何だ、私が一人で恋愛ごっこしてただけだったのか。

今日だって「露伴くんは私の事本当に好きなの?」って不安になって聞いただけだったのに。「つまらない事聞くな」って吐き捨てられて。つまらないって何?私にとってはつまらなくないのに、ただ「好き」って言ってくれたらそれで良かったのに。何で、露伴くん。何で追いかけて来てくれなかったの、何で連絡くれないの。やっぱり私の事なんて好きでも何でもなかったの、泣いてしまう。視界が霞んでよく見えない。

「おい」

すぐ傍から人の声がして顔を上げたらその反動で目に溜まっていた涙がつうと頬を伝った。やばい、泣き顔なんて見られたくないのに誰だ。こんな寒い時期の海にいるって不審者か。何度か瞬きをして視界をクリアにしてから目前にいる人物を見遣るとそこには見慣れた顔があった。深く被った帽子から見える翡翠色の瞳が随分と綺麗だなと初対面の時には思った物だ。

「じょ、たろさん、」
「…、何で泣いてる」

何で目の前にいるのが承太郎さんなの。どうして露伴くんじゃないの。口数は少ないし愛想も良い方じゃないと思うけれど、でも確実に承太郎さんの目は私の事を心配してくれていて。何だか口を開こうにも上手く声が出なくて、言葉が思いつかなくて、でもそんな私の答えを承太郎さんは急かすこともせず待ってくれていて。

「あ、の、私、露伴くんと、喧嘩してしまって」

必死にそこまで言葉を紡ぎ出すと急に何かが込み上げてきて私の視界が霞み始める。やばい。目の前でこんなにぼろぼろ泣いちゃ迷惑に決まっているじゃないか。いつまでも喋らないままの承太郎さんと私の間に沈黙が続く。ごしごしと腕で涙を拭ってからもう一度承太郎さんを見るとそこには心底困ったような、どうすればいいかわからない、といった感じの顔があった。

「…承太郎さん」
「何だ」
「声かけたは良いけどどうすればいいかわからないって顔ですね」
「…女を慰めるのは得意じゃない。」

じゃあ何で声かけてきたのこの人。対処法がわからないまま後先考えずに行動する彼が子供っぽくて可笑しい。まあそれだけ私の事を心配してくれたって事なんだろうか。それはそれでとても嬉しい。

「ところで承太郎さん、ここで何してたんですか」
「…こっちだ」

そう言って承太郎さんは浜辺の方へと歩き出す。足が長く歩幅の大きい彼に必死についていく。少し歩いてからある場所で足を止めた彼は比較的波の穏やかな浅瀬の部分を指差した。何だそこに何があるっていうんだ。目を凝らしてもよくわからない。

「あの、あそこが何か?」
「なまえよく見ろ、あの部分」
「んん?」

よく見ると一部分だけ砂が盛り上がっている部分がある。ゆっくり行き交う波のせいではっきりと確認は出来ないが何だか星形に見える。もしかして、これは。

「ヒトデですか」
「ああ、でも砂を被っているせいで何の種類かわからねぇ」
「えっと、近付いて拾ってきちゃ駄目なんですか」
「…、そんな事したら、」

可哀想だろうが、と至って真面目な顔で承太郎さんが言うものだから私は耐えきれずに吹き出してしまった。私の笑い声に承太郎さんは不服そうな顔を見せたがその視線は再び海の中のヒトデへと移される。どうやら波の動きで砂が退くのを待つらしい。

「承太郎さんてヒトデ大好きなんですね」
「おい、大好きとか言うんじゃねぇ」

そう言いながらも彼の瞳はヒトデから離れる気配は無い。私も同じようにヒトデを見つめる。頬に冷たい風が突き刺さるけど不思議と気にならない、寧ろその風が頭を冷やしてくれるような気さえする。あんなに露伴くんでいっぱいだった頭の中にどんどんとヒトデが入り込んでくる。早くあの砂退かないかな、何色のヒトデなんだろう。

今まで承太郎さんと二人で喋った事なんて無かった。まあ共通点が無いから当たり前と言えば当たり前なんだけれど。これだけ長身でスタイル良くて、顔もめちゃくちゃ恰好よくて、大人な承太郎さんが大好きな物がヒトデだなんて。やっぱりおかしくて思わず口元が緩んでしまう。

「おい」

急にまた声をかけられて承太郎さんを見ると彼はいつの間にか視線をヒトデから私に移していた。そのエメラルドグリーンに射抜かれそうになる。ああ何どきどきしているんだ私。

「…もう泣き止んだか」
「え、あ」

そうか、この人は私を慰めるつもりでいてくれたのか。彼の不器用だけど優しい所が心に沁みる。何だか急に恥ずかしくなってしまって目線を合わせる事が出来ない。「大丈夫です」と小さく答えると「なまえは笑っていた方がいい」とぶっきらぼうに返す彼が素直に格好いいと思う。それから彼はあの大きな手で私の頭を2、3度撫でた。彼の骨ばった手からは想像出来ないくらいとても優しく、まるで子供をあやす様なその手つきに一度引っ込んでしまった涙がまたじわあ、と溢れる。

「…っ、ふ…ぇっ、」
「なっ、…おい、泣き止んだ筈じゃねぇのか」
「だっ、て、承太郎さん、やさし、いからあ…っ」

早く泣き止め、と言わんばかりにまた承太郎さんは頭を撫でる。撫でる手ごしに少しだけ承太郎さんの体温が伝わる。そんな事されると余計に涙が止まらないじゃないか。

「なまえっ」

聞き慣れた声が浜辺に響いた。その瞬間、承太郎さんは撫でていた手を止めて「お迎えのようだな」とぽつりと呟いた。肝心な時にいつも視界不良な私はまたもやごしごしと涙を拭ってから振り返る。そこには露伴くんがぜえぜえと肩で息をしながら立っていた。もしかして走ってきてくれたのだろうか。露伴くんはずかずかとこちらに詰め寄ると私を胸元に引き寄せた。いつもの露伴くんの匂い、安心する。

「なまえ、何で泣いているんだよ…ッ」
「…っ、う、あ。」

まだ上手く喋れない私に痺れを切らした露伴くんは承太郎さんを睨み付ける、しかしその目は何か言いたそうだ。それを見た承太郎さんが盛大に溜息を零して「泣かせたのは俺じゃねぇ」と呆れた様に返した。泣かせたのは承太郎さんだけど、そうだね、根本的には露伴くんが原因なんだよ。そう言いたいけど上手く喉が開かない。

「…帰るぞ、なまえ」

そう言って露伴くんは承太郎さんに「失礼します」とだけ言ってから私の手を無理やり引っ張って歩き出した。ちゃんとお礼の一つでも言いたくて最後に彼に目線を投げかけると承太郎さんは少し困ったように笑っていた。ごめんね、承太郎さん、そしてありがとう。ヒトデ、何の種類かわかるといいね。そう心の中で呟いたまま私は承太郎さんの元を後にした。

「…やれやれだぜ」

彼が小さく呟いた言葉は波音に掻き消されて私には届かなかった。





沈黙が気まずい。先程の承太郎さんとの沈黙は何も気にならなかったのに。時折私がずびび、と鼻を鳴らすくらいで会話なんて物はそこにはなかった。何だよ、何か喋れ。そう思って露伴くんの横顔を見てもいつも以上に何を考えているのかわからない。何の為に私を探しに来たんだ、探して見つけて優しい言葉をかけるのが普通なんじゃないの。喋ってよ、気まずいんだってば。そう思っているとその想いが通じたのかやっと彼は口を開いた。

「…何で携帯の電源切ってるんだよ」

え、と思わずポケットの中の携帯電話を確認すると完全に充電が無くなったようで電源が切れていた。ボタンを押しても何も付かない。

「充電切れた、みたい」
「…ふーん」

それからまた会話は無くなった。何だこれ、こんなの私が望んだ会話じゃないぞ。そう思っても自分から口を開く事なんて出来なくて無言で歩いている内にいつの間にか露伴くんの家に着いていた。見慣れた扉を開けて玄関に入る。どうしよう、お腹すいた。でも今日は色々あって夕飯の準備なんてしていない。ていうかこのまんまの関係で二人で夕飯食べるんだろうか。それはそれでめちゃくちゃ気まずい。なんてぼんやり考えていると後ろから急に露伴くんに抱き締められた。

「なあ、何であの人と一緒だったんだよ」

凄い力で抱き締められて少し苦しいけど露伴くんの泣きそうな声が耳元で聞こえてそちらの方に動揺する。はあ、と露伴くんの息が耳にかかって少し反応してしまう。

「え、と」
「何であの人に頭撫でられてるんだよ」
「露伴、くん」
「何で、何で、何でだよ、なまえ」

無理矢理露伴くんの方に身体を向かせられる。改めて見た露伴くんの顔は酷く寂しそうで今にも泣いてしまいそうだった。何でそんな顔してるの、泣きたいのはこっちなんだよ露伴くん。

「何でぼくの前から居なくなろうとしたんだよ…っ」

そう言って露伴くんは私に唇を合わせる。角度を変えて何度も何度も口付けされて、頭に廻された露伴くんの手のせいで私は逃げられなくて彼の満足がいくまで存分に唇を弄ばれる。吸ったり舐めたり甘噛みされたりで何だか身体がふわふわして時折変な声まで漏れ出す始末で。やっと唇を離された時には頭がぼうっとして何も考えられなくなっていた。立つのもやっとで彼に掴まりながら「露伴くん」と呼ぶと彼は私を抱き上げてそのまま寝室へと運ぶ。

「ぼくが君をどれだけ想っているか今から嫌という程わからせてやるからな」

そう言って露伴くんはベッドに優しく降ろしてから私の上に覆い被さる。また彼の顔が近づいて来てキスをされる。「なまえ」って熱い声で私を呼んで首筋に顔を埋めてからちゅう、と皮膚を吸い上げられる。

「露伴くん、見えるとこに痕つけるのやだよ…っ」
「見える所じゃないと意味ないだろ」

そう言いながらまた首筋や鎖骨に彼は痕をつけ始める。もしかして、露伴くん焼きもちやいてくれてたの?単純かもしれないけどそれだけで無性に嬉しくなってしまった。彼の首に手を廻すと露伴くんはそのまま私の服の中に手を伸ばしてから下着のホックを外す。服を捲られてから直に胸に触れられて、たまに先端を摘ままれたり、或いは舐められたりして身体がびくびくする。

「あ、あっ、露伴くん、すき…っ」
「なまえ、」

名前を呼んだらもう一度露伴くんはキスしてくれて、その間も彼の指で胸の先端を弄られて何だかおかしくなりそうだった。

「ぅ…んっ、あっ、露伴くん、あの…っ、」
「…何だよ」

もう止める気はないぞ、と続ける彼に違う、と首を横に振る。もう一度、聞かなくては。今聞かないと、これ以上されたらきっとそんな事聞く余裕なんて無くなってしまうから。

「露伴くん、…私のこと、すき…?」
「…そんなの、」

小さな声で聞こえた彼の答えに私は思わず笑みを零した。








No Shit!:当たり前だろう!:相手が当たり前の事を言った時の嫌味っぽい返答。

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