※仗助の片思い。





何の飲み物を買えばいいんだか。コーヒーだったらブラックはまず無いだろーし、カフェオレとかが妥当だろうか。いやいや案外ミルクティーとかあのへんか?あー、もーわかんねーわ。散々、自販機の前でフリーズしてから結局俺が買ったのは小さいサイズのお茶。ま、これなら好き嫌いとかなさそーだし。はあー、なんて息を出してみればそれは白く姿を現してまだまだ寒いよなー、なんて思う。ま、まだ2月だし、夜だし。当たり前だよなァ。しっかし、こんな時に女の子が一人で公園にいるってオカシーよな。まあ理由はわかるけど。どーせあの男のせいだろ、なんて相手の顔まで思い浮かんでくるのが何よりも腹立たしい。

「はい、なまえさんの分っすよ。」
「…あ、ありがと仗助君。」

ぐす、と鼻を啜る彼女の目は未だ涙で潤み赤くなっていて、あーなんかその顔めっちゃそそるかも、なんて思ったりして急いで頭を横に振る。いやいや俺は何を考えてんだ。そっと彼女の隣に腰を落として横顔を見ればその頬にはまだ涙の跡が残っていた。

「で、何でなまえさんはこんな時間にこんな所で一人で泣いてんすか。」
「…あの、ね、…露伴くん、怒らせちゃった、から。」

あー、ハイハイ出ましたその名前。つーか何でなまえさんはあんなヤローと付き合ってんだか。マジで一生理解できそーも無い、つか一生理解出来なくて良い。怒らせたって言ってもどうせあいつの事だから下らないどーでもいい理由で彼女を傷つけたに違いない。

「で、何であいつは怒ってんすか。」
「7時には帰るって、連絡してたんだけど…、」
「けど?」
「…結局、残業で露伴くんのお家に着いたのが、7時過ぎてしまって、」
「…え、それだけっすか?」
「ぼくの知らない間に男と会ってるんじゃないか、って言われて、」
「は?」
「違う、って言ったけど、露伴くん聞く耳持ってくれなく、て、それで…っ。」

案の定下らない理由だった。いや下らない、なんて一言で片づけるにはなまえさんが余りにも可哀想すぎるけど。隣でぽろぽろとまた涙を流す彼女だけどその涙があいつのせいだと思うととてつもない憤りでいっぱいになる。あんな奴に流す涙なんて無くていーのに、あの男にそんな価値があるとは到底思えない。

「…ごめ、んね…、じょ、すけくん、」

別に謝らなくていーのに、こんな時ぐらい気を使わなくていーのに。今すぐ抱き締めて頭を撫でてやる事が出来たらどんなに良いんだろうか。ま、やらないけど。きっとやったらなまえさんが困るから。泣き顔は見たくないけど彼女が困る顔だって見たくない。

「何でそこまでしてあいつと付き合ってんのかわかんねーっす。」
「…露伴くんは、」

その睫毛に掛かる涙拭ってやりてーな、とかその唇にキスしたらどんだけ柔らかいんだろーな、とか俺が色んな事を悶々としてるのにも気付かずなまえさんが小さく言葉を紡ぎ出す。

「皆に勘違いされやすいけど、本当はとっても優しい人だから。」

勘違いしてるのはアンタの方なんじゃないすかね、なまえさん。何でその優しい男が女を泣かすんだか。やっぱ俺には理解できねー。そしてそんな男と付き合うなまえさんも理解できねー。大体、優しい男っつーのは女にそんな傷なんて付けないんすよ。その袖口から見える手首の紅い痣は何でついた痣なんだ。まさかドメスティックなんちゃらって奴じゃねーよな。もしそれだったら流石の俺も黙っちゃいないんすけど。それならよっぽどそーゆープレイで付けた痕です、って方がマシだったりする。…いや、でもそれはそれで問題だよな。あいつどーいう性癖の持ち主なんだよって話でちょっと退くし、いやでもちょっと羨ましいよーな気もする。あー、だから俺は何を考えてんだ。

「…余計なお世話だと思うんすけど、」
「なあに?」
「なまえさんなら他に男すぐ見つかると思うんすよね。」
「…。」
「例えば、ですけど、俺、とか。」
「……あは、仗助くんやさしーね。」

…。結構マジな感じで言ったつもりだったけど完全に流された。冗談だと思われてるっぽい、割とショック。けどそのへにゃー、って笑顔みたら何かもういいやって思えてきて釣られて俺も笑った。少なくともアンタの想ってる男よりはずーっと優しいっすよ、俺は。

「なんか、仗助くんといたら元気でてきたかも。」

元気になって欲しいけど元気になって欲しくない。だって、元気になったらまたあいつの家に帰るんだろ。本当はこーやってずっと俺の隣にいればいいのにって思う。俺だったら絶対もっとなまえさんに優しくするのに。毎日作ってくれる飯だって毎日美味しいって言ってやれるし、毎日他愛無い話で笑って、毎日一緒に風呂入って、毎日寝る前にキスして、毎日一緒に寝て、たまにあんな事しちゃったりして。

「仗助くん、ありがとね。」

本当に俺にありがとうって思うんなら、本当に感謝してるなら、あいつと別れて下さいよ。それで俺と付き合って欲しいんすけど。でもなあ、わかっちゃうんだよな。俺にはベクトルが全然向いてねーって事が、痛いぐらいに。

「私、もう帰らなきゃ。…仗助くん、おやすみなさい。」

そう言ってにっこり笑ったなまえさん見てやっぱ可愛いなー、好きだなーって思った。で、今から帰ってあいつと目出度く仲直りした際には仲睦まじくそのままセックスに雪崩れ込むんだろーなー、なんて考えてみたりした。風が吹いてなまえさんの髪が靡いた瞬間に見えた首筋のあいつの所有物だって事を示す赤い痕にいらっときた反面、情事の最中のなまえさんをちょっと想像してムラムラしたりして。はーあ、とりあえず今日のズリネタはあのなまえさんの泣き顔で決定。俺もさみーし家にかえろ。とりあえず露伴はいっぺん死んでしまえ。


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