※20150314企画。
「如何せんそれは甘美な」の続き。



ホワイトデーの由来と言うのは諸説あってその時期が来れば様々な製菓メーカーがこぞって「うちが起源だ」と言い張ったりするらしい。実にくだらない。そして一般的にそのホワイトデーに送る菓子と言えばマシュマロが定番らしいが何故マシュマロかと言うと「贈られた愛(チョコレート)を僕の優しさ(マシュマロ)で包んであげる」と言う寒気がするキャッチフレーズを何処ぞの菓子屋が提唱したのが始まりだと言う。これまた実に馬鹿馬鹿しい。しかし一番馬鹿馬鹿しいのはそのイベントに乗ってしまっている自分である。別に乗りたくて乗っている訳では無い、バレンタインデーという至極自分にとってはどうでも良いイベントで彼女が自分にチョコレートを贈ってきたのだから。貰ったのであれば返さなければなるまい。そう、彼女には色々返してやらないといけないのだ。

「お返し」と称してぼくがなまえに贈った物といえば若い女に贈るにしては全くもって可愛げの無い焼酎と百貨店で見繕ってきた菓子、それに「この岸辺露伴が一日何でも言う事を聞いてやる」という何とも贅沢な言葉であった。ホワイトデーは3倍返しが定番らしいがこれじゃあ3倍返し以上じゃないか。意外と自分が慈愛に満ちている男だという事を知る良いきっかけになったかもしれない。全く、これじゃあなまえはぼくに感謝してもしきれないんじゃないのか。なあ、こんな優しいぼくと関係を持てて本当に良かったななまえ。


「あ、ぅっ…、ろは、んっ」

そんな想いに反してなまえは何か言いたげな、それでいて恨めしそうな視線をぼくにぶつけていた。そんな目をしても何の効力も無い。何も纏わずにベッドでぼくに組み敷かれて紅潮させた顔でいる限り何をしても煽るだけの行為にしかならない。

「随分と不満そうな顔だな」
「…ん、あ…っ、」
「言いたい事があるならはっきり言えよ。じゃなきゃ、」

どうして欲しいかわからないだろ、と続けながらゆるゆると指を動かせばもどかしそうになまえは腰を揺らし始めた。そりゃあ、もどかしいだろうな。何せさっきからなまえの其処に入れている指は一本のみ、そして肝心な所には触れてやらない。部屋に響く水音と自らを求めるなまえを目の前にして正直、今すぐにでも繋がりたい気持ちでいっぱいだがここは耐えなければならない。でなきゃ意味が無いのだ。

そもそも前回のバレンタインデーの時に、ぼくを放置したままなまえは泥酔して眠りについてしまった。その後やっと起きたかと思えば、恋人同士の濃密な時を過ごそうとぼくが行為を迫ると「この前もしたばっかりだから嫌」だの何だの言い挙句の果てには平手打ちまで喰らわす始末。そもそもバレンタインデーってのは恋人の為に作られた日なのにそれは無いんじゃないのか。思い出すだけでも苛立たしい。それからひと月が経った訳だがそれまでの間になまえと逢いはしているものの行為には一切及んでいない。求めて拒まれるなら其方から求めるようにすれば良いだけの話なのだ。それはぼくにとっての"お預け状態"ではあったがそれはなまえも同じ事なのである。今回の「お返し」は「お返し」でも「仕返し」であった。

「なん、で、露伴…っ」
「ほら、言えよ。ぼくにどうして欲しい?」
「……っ」
「今日はぼくが何でも言う事を聞いてやるって言っただろ?」
「…、いじ、わる…っ!」

唇をきゅう、と噛み締めながら睨まれても全く動じない。もう一度言うがそんな目をしても意味が無いのだ。ほらどうする、と耳元で囁けばなまえは観念したかのように一度大きく息を吐いてから小さな声でぼくに懇願した。


「露伴の…っ、もう、欲しい…っ」


ほう、そう来たか。なんて正直少し驚いた。もっと段階を踏んでいく物かと思ったがいきなり自分を求められるとは。とは言えそれだけ彼女が我慢の限界だったのかと思うとお預けを喰らった甲斐があったと思う。そして我慢の限界は自分も同じ、しかし、なまえから求めてくる姿はそうそう見れないのだからもう少し苛めてやっても罰は当たらないだろう、なんて我ながら意地の悪い自分を正当化しながらもう一度なまえに囁きかける。

「それで、ぼくの何が欲しいんだ?」
「え、あ…っ、だから…っ」
「だから?」

入れていた指を引き抜いてからなまえの太ももに自身を擦り付けながら聞くぼくはさぞかし底意地の悪い顔をしているに違い無い。

「だ、から…、露伴の…っ」
「ほら、ちゃんと言わないとだろ」
「…っ、……ふ、ぇ…っ、も、やだあ…っ!」

遂に泣き出してしまったなまえを見て少々やり過ぎたかとほんの少しだけ反省する。ぐすぐすと鼻を鳴らし始めた彼女をあやす様に撫でてから、ベッド脇の小物入れへと手を伸ばして避妊具を装着する。その間にすんすんと鼻を鳴らし始めた辺りなまえの涙はもう引っ込んでしまったらしい。まあ、今までのなまえとの行為を思い返せば「露伴のが欲しい」で十分だったかもな、なんて思いながらなまえの其処に自身を宛がう。

「なまえ」

優しく声掛けるとなまえは赤くなった目でこちらを見ながら小さく頷いたので、ゆっくりと自身を中に埋め込んでいく。

「あ、あ…っ!…ん、ぅ…っ、…〜っ…!」
「…おいおい、まさか入れただけでイったんじゃないだろうな?」
「ち、が…ぁっ、いって、ない…もん…っ」

首を横に振って否定してはいるがぎゅうぎゅうと締め付ける中とびくびくと跳ねる身体を見る所、限界は近そうである。ふうむ、と少し考えてから奥まで入れていた自身をぎりぎりまで引き抜いてから浅い部分でのみゆっくりと動かす。ほんの少しの反省なんて何処へやら、先程の十分だったかもな、なんて考えも何処へやら。人ってやっぱり欲張りな生き物である。もう少し、もう少しだけ、自分を求めるなまえを見たいと思ってしまった。

「や、らぁ…、ろはん…っ」

またもどかしそうに腰を動かして自ら奥まで自身を入れようとするなまえだが、その分自分が腰を引けば結局は何も変わらない。何回かそれを繰り返す内にまたなまえは泣き出してしまった。自身を咥え込んでいる其処に手を伸ばしてぷっくりと小さく主張している蕾を優しく撫でながら出来る限りの優しい声でなまえに問い掛ける。

「なまえ、ぼくにどうして欲しい?」
「……ろ、はんっ、」
「ほら、」
「…奥、までいれ、てっ…、はや、く…っ、いきたいよぉ…っ」

上出来じゃないか、なまえ。君って奴はやっぱりやれば出来る子なんじゃないのか、なんて思いながら懇願されたと同時に勢いよくなまえの中に自身を推し進める。

「や、あっ…!露伴……っ、…〜〜〜っ…!」
「…は、今度こそ入れただけでイったな」

どんなに余裕ぶった台詞を吐いてみても自分だってすぐに限界に達してしまいそうになる。あと少し、あと少しだけ、この中を味わっていたいのに。彼女の中はこんなにも蕩けてしまいそうだっただろうか。久しぶりに感じる体温にどうにかなってしまいそうだ。出来るならば一生このままでいたいくらいなのに。しかし残念極まりない事に本当に限界が近い。

「ひ、ぅ…っ!あ、あっ、…やぁ…っ!」
「…っ、なまえ…っ!」

一際大きく中の肉壁がぎゅう、と自身を締め付けた瞬間に思わず避妊具の中へと精を吐き出した。一息ついてからずる、と中から勢いの無くなった自身を引き抜いてから避妊具を外して思わず中身を確認する。流石にひと月も我慢すれば中々の量と濃さだな、なんて観察してしまうのはリアリティを追及する漫画家だからなのかそれともぼくが本来持ち合わせている気質故なのか。中身が零れない様に口を縛ってから適当なゴミ箱にそれを捨てて先程から静かな彼女を伺い見る。

「なまえ?」

返答が無い。頬を軽く叩いてみても何の反応も無い。気絶している。まさか、行為で気絶してしまうとは。きっとまた起きたら「暫くは絶対しない!」なんて顔を赤くして怒るに違い無い。面倒だな、スタンドで記憶を書き換えてしまおうか。なんて思ったが馬鹿らしい、とすぐに彼女に触れようとした指を引っ込めた。

「…案外、ホワイトデーって奴も悪くないかもしれないな」

未だ反応の無いなまえの髪の毛を指で弄びながらぼくは一人ベッドの上で法悦の笑みを浮かべるのであった。



20150314


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