※別にやってはないんだけども
とてもぬるくえろな気もする。
昔っから少女漫画の類が大好きでそれを読む度にいつか私にもこんな相手が現れるのだろうかと胸を躍らせていた訳なんだけれども、遂に出来た相手というのが中々の"はいすぺっく"という奴でして。見た目も良ければ中身も良くてまさしく漫画の中の王子様のような存在でして。(しかしそう言うと由花子には「あんな奴が王子様として出てくる漫画なんて打ち切り必至だわ。なまえは一体どんな漫画読んでるのかしら?」なんて言われてしまった。露伴先生は王子様だと思うんだけどなあ。)ううん、話が逸れてしまった。とりあえず私が読んでいた少女漫画っていうのはヒロインが想いを寄せる相手と付き合う事になって口付けしてめでたしめでたしで終わって、その後が描かれる事も無いのでそこから先二人がどうなっていくかなんて私にはよくわからなくて。とどの詰まる所、実際に彼氏という存在が出来た所で彼氏相手に何をすれば良いのか私は全くわからない。
「なまえにとっては少女漫画が恋愛参考書って事かよ?」
口元に弧を描きながら私の髪を梳く相手こそが何を隠そう私の彼氏である露伴先生なのである。何だかその口調が馬鹿にされたようで思わず頬を膨らませば露伴先生は喉をくつくつと慣らしてから改めて私と向き合ってからこう言った。
「まあぼくが色々教えてやるからなまえは心配しなくてもいいぞ」
はあ、そうですかあ、なんて力の抜けた返事をしたけれども確かに露伴先生って何だか経験豊富そうで私の知らない事をいっぱい経験していそうだなと思う。まあ歳が4つも離れているんだから当たり前かあ。長いものには巻かれろよって事だよね、うんうん。ん?ちょっと違う気もするけどまあいいか。とりあえず恋愛において右も左もわからない私は露伴先生に全てを委ねる事となったのである。
そしてその結果がこれ。
「ん、ん…、ふ、ぅ…っ」
向き合った状態で露伴先生の膝の上に乗ったままで私は先程からずっと先生と口付けをしていた。まるで知らない生き物の如く先生の舌が私の口内を縦横無尽に動き回っていて、呼吸をするのに必死な私は全く持ってその動きについていけない。露伴先生の服をぎゅうと握れば何かを察知したかのようで先生は私から唇を離してとても満足そうに笑った。
「そんな顔するなよ…なまえ、自制出来なくなるだろ」
そんな事言われても。私は酸素を取り込もうと必死なのに何で先生ってばそんなに普通なんだろう。もっとキスに慣れたら私もそういう風になるのかな。でもそれまで私の身体持つかなあ。軽く唇同士をくっつけるキスは知ってるけどこんな大人なキスもあるなんて知らなかった。露伴先生と大人のキスをするとそれだけで身体がびくびく反応してしまって、別に泣きたくもないのに視界がぼやけてしまう。正直恥ずかしい。変な声が漏れ出るのだって恥ずかしい。
「隠すなよ、ぼくにだけは見せろ。いいな?」
そんな事言われても。だってキスだけでこんなに身体が反応するのっておかしくない?こんな変な声が漏れちゃうのだっておかしくない?誰かと比べようにも他の人のキスシーンなんて見た事が無いから比べようが無い。ねえ露伴先生、私変じゃない?おかしくない?
「全然おかしくない。寧ろなまえのその反応はぼくにとって喜ばしいぐらいだ」
そう言ってまた露伴先生は私に唇を重ねた。先生がそう言うなら全然良いんだけど。ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てながら露伴先生は何回も私に口付けしてから再び口内へと舌を潜り込ませた。わかってはいるのに何だかまだ先生の舌が怖くて逃げるように奥へと自分の舌を隠すけど結局はそれも引きずり出されてしまう。にゅるにゅるとした感触が今まで味わった事の無い感触で未だに慣れないけれど、それでも身体はびくびくと震えてしまう。
「…あ、ぅ…っ、んぅ…」
ふわふわして気持ち良くてやっぱり声が出てしまう。固く閉じていた瞼を薄く開けて見ればすぐ近くにあった露伴先生の瞳とぶつかってしまった。それが無性に恥ずかしくてすぐに目を閉じる。露伴先生ってキスする時もずっと目開けてたのかな。普通って目開ける物なの?でも私には恥ずかしくてずっと目を開ける事なんて出来ないよ。ぼんやりと考えながらキスをしていたら少しだけ苦しくなってきて先生の舌を押し返すようにしたらそのまま逆に露伴先生の口内へと突き出す形になってしまった。先生が舌を吸ったり噛んだりする度に気持ちよくなって意識が朦朧としてしまう。何でキスだけなのにこんなにどきどきするの?何でキスだけなのにこんなに身体が熱くなるの?何でキスだけなのにこんなに気持ち良くなっちゃうの?
「ん…っ、は、あ…っ」
「…すまない、思わずやり過ぎた」
露伴先生と私の間に銀色の唾液の糸が繋がっていたけれどすぐにそれはぷつりと切れてしまった。何だか名残惜しい気もしてしまう。それでもキスの余韻でまだ身体が反応している私にはキスをし続ける気力はもう残っていないのだけれども。
「…っあ、やあ…っ」
露伴先生に太ももを撫でられてそれだけで大袈裟なくらいに身体が跳ねた。おまけに変な声まで出てしまった。当の露伴先生も驚いた様子で私を見つめてそれが居た堪れなくなるぐらい恥ずかしい。顔に熱が籠るのがわかって思わず俯く。
「なあなまえ…、君ってばキスだけで敏感になってるのかい?」
意地悪そうな笑みを浮かべながら先生は私の顔を覗き込みながらまた太ももを軽く撫でた。何で撫でられてるだけなのにこんなにびくびくしちゃうの?やっぱり私変なのかもしれない。
「あ、ぅ…っ、露伴せんせっ…、撫でないで…っ」
お願いです、と露伴先生を見つめれば先生は両手をひらひらと上げて溜息を零した。
「…参ったよ。君は一体どれだけぼくを煽れば気が済むんだ?」
観念しました、といった様子で露伴先生は優しく頬を撫でた。先生に触られるのは気持ちが良い。でも私ばっかりへとへとになってしまって先生ってば全然余裕そうだ。何だか不平等な気がする。ずるい。
「全く…キスだけでこの有様じゃあこの先が思いやられるよなまえ…」
そうかこれだけでおしまいじゃないもんね。このキスよりも先の事を少しだけ想像してまた身体が熱っぽくなってしまった。詳しくはよく知らないけど多分、あの、もっと大人な事なんだよね?これ以上大人な行為を求められたら私の身体はどうなっちゃうんだろう。ついていけるのかな。キスだけで胸のあたりがぎゅうってなって苦しくなって露伴先生でいっぱいになっちゃうのに。
恐る恐る先生の背中へと手を廻して見る。拒まれる様子も無く、寧ろ更に身体を密着させられて手に力を込めてみた。露伴先生の体温が心地良い。キスだけでも何だか泣きそうになっちゃうけど、ぎゅうってするだけでも私って泣いちゃいそうになるんだな。そうっと露伴先生の方を伺い見たつもりだったけれど先生もまた私の方を見ていた。重なる視線が何だかくすぐったい。
「…露伴先生、大好きです」
「…ああ」
露伴先生はあの日以来「好き」だとは言ってくれないけれど私の腰に廻された手にぎゅうっと力がこもって。先生、それが答えだって思っても良いんですよね?言葉にしてくれなくてもいい。それだけでとっても嬉しい。
「何を一人で笑ってるんだよ」
「えへへ…、嬉しいですもん」
「……」
露伴先生はぐしゃぐしゃと頭を掻くと視線を私から逸らしてしまった。普段は大人な先生がたまに照れる姿ってとってもかわいい。多分、そう言うと怒りそうだから言わないけど…。
「…露伴せんせ」
「…何だよ」
「あの、これからもいっぱい色んな事教えて下さいね?」
そう言った瞬間に露伴先生は大きく目を見開いてから盛大に溜息をついてしまった。私何だか変な事言ったかな。教えてくれるって言ったのは露伴先生なのに。
「…新しいお湯を用意してくる…」
先生は膝の上の私を優しくソファへと降ろすと手ぶらでよろよろと部屋を出ていってしまった。お湯用意するんじゃないの?ティーポットここに置きっぱなしだよ露伴先生?紅茶用のお湯じゃないのかな?頭に沢山の疑問符を浮かべながらも先程までの先生との行為を思い出して一人でにやけてしまう。…やばい、私って思ってる以上に露伴先生の事大好きなのかも。
「わざとか?あれはわざとなのかっ?いつまでぼくにこんな生殺し状態を続けろって言うんだよ…っ!付き合ってるのにぼくはいつまで自分で自分の処理をしなきゃならないんだよ…っ!」
岸辺露伴の悲痛な思いなど彼女に届くはずも無い。
20150424
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