リリム。それはユダヤ教における悪魔の一種である。リリムはサキュバスと関連付けられる事が多いがそれは恐らく両方が淫魔だからであろう。男を誘惑して関係を持ち、そして絶頂に導くとは実にけしからん存在である。

そもそもそんなジャンルに目覚めたのはなまえがきっかけである。その穢れを知らない様子からなまえをずっと天使だと思い込んでいたがここまでぼくの人生を狂わせるとはもしや彼女は人を唆す悪魔なのでは無いだろうか。悪魔っ娘リリムなまえ。ぐぅ、可愛い。就寝中のぼくの枕元に現れて精を吸い尽くす為に性交を強請るリリムなまえ。け、けしからん。

そんな事を思いながらリリムなまえの成人向け漫画を描く為にペンを原稿用紙へと走らせる。…のだが、イマイチ思った通りに上手く描けない。頭からツノを生やして露出の多い衣装に身を纏い、真っ黒な羽を背中に付けたなまえが原稿用紙の中で「露伴先生」と微笑む。これはこれで悪くないのだが。

「…何か違うんだよなァ」

これじゃあ完全にリリムのコスプレをしたなまえだ。ぼくが描きたいのはリリムなまえであってコスプレでは無いのだ。頭を掻きながらそう言えば前もこんな事があったよな、と記憶を掘り起こす。

自分が漫画を描くにあたって行き詰る時はリアリティに欠けた時が多い。大体、悪魔なんて存在するかどうかも甚だしい存在。リアリティとはかけ離れた位置にいる。と言っても幽霊はこの目で見たしイタリアでも怨霊の存在は確認したしで、自分の中では悪魔も存在してもおかしくは無いと思っているがそれはそれ、これはこれである。存在すると自分がどれほど強く思った所で実際にこの目で見ていないのであればそれはリアリティでも何でも無い。

淫魔が存在するのであれば是非ともこの目で見てみたいと思うのは漫画家として、男として、両方の意味合いでの願望である。しかしながらその願いは叶いそうに無い。仮に淫魔が存在したとしてそんなに都合良く自分の前に現れてくれる事は無いだろうから。溜息をつきながらそっとインクの蓋を閉めた。


そう思っていたのが数日前である。


そして今日も今日とてぼくは情事を行う為にベッドになまえを組み敷き、服の中へと手を忍ばせる。自分の手の動きに翻弄されて吐息を洩らすなまえを目にして我慢が出来る筈も無く、更なる刺激を与える為に服を捲り上げれば。

…黒?

目に飛び込んできた色は黒。真っ白でたわわな胸の膨らみを包み込んでいる色は黒。一瞬、思考が停止する。…黒の下着だと…?ちょっと待て。ぼくの記憶が正しければなまえが所持している下着の数は確か6組の筈。そしてその内訳と言えばベビーピンク系の色が2組に、サックスブルー系が2組。残りはホワイトとアイスグリーンが各1組ずつ。それなのに今、なまえが身に付けている下着は黒。黒…ッ!

鼻息を荒くしたままなまえの服を脱がせ、下着姿にした所で更なる衝撃がぼくを襲う。剥き出しになっている二つの膨らみ。勿論その膨らみは胸の事じゃあ無い。お尻が、なまえの小さくて芸術的な曲線を描くあのお尻が露出していたのだ。て、Tバックだと…ッ!?はあはあと呼吸を荒げながらお尻を撫で回した所でなまえが口を開いた。

「あの、今日は私が露伴先生にしてあげたいです。…だめですか?」







静かな部屋に小さなリップ音が響く。自分の足の間に跪いたなまえが半ば勃ち上がっている自身へと唇を這わせていた。直接唇が触れているとはいえ、まだ刺激らしい刺激も受けていないのに反応してしまう自分が情けない。いや、でも大体こんな光景を見て反応するなという方が無理だ。下着姿のままのなまえの小さな唇がぼく自身に触れて、気付けば無意識のうちに右手がペンを探していた。ああ、こんな光景スケッチしておく他無いと言うのに。後悔の念に駆られたまま、ペンを探し当てられなかった右手をなまえの頭へと伸ばす。

何処で口淫という行為を知ったのかはわからないがなまえは性の経験が殆ど無いに等しい。ぼく以外の男を知らないのだから当たり前ではあるのだが。そんななまえがする事だからきっとこの行為だって不慣れに違いない。無知ななまえにぼくが教え込んでいくっていうのも中々良いよな、なんてそんな思いはまんまと打ち砕かれる。

唇の間から控え目に出された舌が根元から先端までを舐め上げた。尖らされた舌先で何度も舐め上げられて腰の裏側がずくりと疼く。気付けば完全に勃ち上がってしまった自身になまえが愛おしそうに唇を寄せて、思わず吐息を零した。けれどもこれはこれで気持ち良いのは間違い無いが絶頂へ誘う刺激にしては少々優しすぎる。もどかしいと思う自分の気持ちを知ってか知らずかなまえは相も変わらず舌先で舐めるだけである。早く口に含んで欲しい。やはり無知な彼女はやり方を良くわかっていないのではないか?自分が教えてやるべきなのだろうか。そんな事を思った瞬間に熱が籠ったなまえがぼくを見上げた。

「露伴先生の、ここ、濡れてますね。もっと、して欲しいですか?」

どくん、と心臓が跳ねた。ワザとだ。ワザとなまえはぼくにもどかしい刺激しか与えなかった。彼女はぼくを焦らしている。決して無知なんかじゃ無い。それどころか男のイイ所を熟知しているかのような素振りだ。一体何処で、こんな。

色んな思いが駆け巡るが今はそんな事を考えている余裕は無い。なまえの問いには答えずに代わりに自身を彼女の頬に擦り付ける。その行動にふふ、と唇の端に笑みを浮かべたなまえの表情が、まるで自分を嘲笑しているようで酷く興奮した。

溢れる先走りをちゅう、と吸い上げてからなまえはゆっくりと自身を口内へと含んだ。待ち望んだ刺激に腰が動く。緩急を付けながら唇で扱かれて、それだけで達してしまいそうになった。いくら何でも早すぎる。思わず自嘲気味に薄く笑う。しかしそうは言っても沢山の唾液が溢れる口内でなまえの熱をダイレクトに感じて自制出来ないのは事実だ。

「なまえ…ッ」

乞うように呼べばなまえがじゅる、と音を立ててから自身から唇を離す。つう、と銀色の糸が彼女のふっくらとした唇とグロテスクなぼく自身を繋いで、すぐに切れた。

「ろはんせんせ、気持ち良い?」

呼吸を落ち着ける間も無くなまえが問い掛けながら今度は手で扱き始めて、唾液塗れだった其処は再び濡れた音を立て始めた。声を押し殺して下唇を噛めばなまえがぼくを覗き込む。意地悪く光る瞳に濡れた唇は相変わらず弧を描く。

「…せんせ、かわいいです」

可愛い?ぼくが?馬鹿言うなよ。可愛いのは君の方だろう。いつもいつもぼくに翻弄されて、「駄目です」と言う割には快感に従順で。その内に子犬の様に鼻にかかった嬌声を上げて男であるぼく自身を求める癖に。清純そうな普段の顔とは違ってあんなに厭らしく乱れて「もっと下さい」と強請る様にぼくの名前を呼ぶ癖に。

ペースを握るのはぼくだ。乱れるのはなまえで転がすのはぼく。流されない様に固く感情を閉ざすのがなまえでそれを抉じ開けるのがぼく。それなのに。

これじゃあいつもと逆じゃ無いか。年下のなまえに、経験量だって大分違う彼女にここまでされて屈辱的過ぎるだろう。それなのに。

どうしてぼくは此処まで興奮しているんだ。思わず大きな声を上げながら喉を掻き毟ってしまいたい衝動に駆られる。違う、こんなのはぼくじゃない。こんなのはなまえじゃない。

何とか形勢逆転を試みようとなまえの胸へと手を伸ばす。掌で下着の上から膨らみを包み込む様にして動かせばなまえの表情がふにゃりと崩れた。

「あ…露伴、せんせぇ」

その反応にほくそ笑みながら下着の中へと指を入れ込んで、膨らみをなぞる様に動かせば固く反応した先端にぶつかる。そのまま指先でひっかく様にしてやればいよいよなまえはいつもの反応を見せ始めた。

「や、ぁ…っ。だめ、さわっちゃ、だめです…っ」
「何が駄目なんだよ?此処をこんなにしてる癖に」

指で扱けばなまえは言葉にならない声を上げ始めた。それに気を良くしたぼくは慣れた手つきで下着のホックを外す。白い肌に黒い下着というコントラストをもう少し楽しみたかったがここは致し方あるまい。なまえにされっ放しというのはあまりにも悔しい。

「…も、だめ、だってばぁ…」

眉を上げたなまえがぼくを一睨みしてから再び自身を咥え始めた。不意打ちに声が出そうになったが何とか喉の奥へと押し込める。じゅぷじゅぷと音を立てながら再びぼく自身がなまえの唾液塗れになっていく。その間も指で胸を弄ればなまえは咥えたままでくぐもった声を洩らした。

「ん、ふぁ…」

蕩けた表情のなまえが先端へと口付けを落としてからそっと唇を離す。そのまま彼女はぼくを見上げてから先程と同じ表情で笑った。え、と思った瞬間にふにゅ、と柔らかで温かい物に自身が包まれる。自分の置かれた状況を理解するのに少々の時間を要し、そしてそれを理解した瞬間にとてつもない興奮に襲われた。

「ぎりぎりだけど、ちゃんと挟めました」

忘我の表情を浮かべたままでなまえはぼく自身を胸で包み込んだ。二つの柔らかな膨らみの間から濡れた先端が少しだけ見えている。絶景、という二文字で片付けるにはあまりにも勿体無いがそれ以上の言葉が出てこない。こんな幸せな事があっていいのだろうか。先程まではなまえのペースに流されるのが嫌で抗ってみたりもしたが、最早ここまでされるのであればいっその事どうにでもしてくれと手を上げる。

「ん…、露伴先生、動かしますね」

ん、と頷いたぼくの顔は非常にだらしない顔だったに違いない。にっこりと笑ったなまえが胸を動かせばとめどない快感の波が押し寄せた。やばい、これは非常にやばい…ッ。刺激だけで無く、視覚的にもこれは非常にくる。口で咥えて貰うのも勿論興奮したが、これはそれ以上だ。にゅるにゅると白い胸の間から赤黒い肉が見え隠れする様が厭らしい。本当にこの子は一体どこでこんな事を覚えてきたんだ。非常に気になる事ではあるがそれは事後にでも聞こう。今はただなまえに与えられる快感に流されていたい。

「は、あ…。なまえ…」

声を押し殺す余裕なんていつの間にか無くなり、荒い呼吸に交じって名前を呼べば彼女もまた「露伴先生」と応えてくれる。脳味噌がふつふつと沸くような感覚がして頭の芯がぼうっとする。本当に限界が近そうだ。もういい、と手を伸ばせば逆になまえは震える自身を口に含んで舌を絡ませた。ぞくぞくと背筋に駆け上る快感は自分で止める事など出来ない。

「なまえ、本当に、もう…ッ」

我ながら情けない声を上げればなまえが音を立てて思い切り吸い上げた。その瞬間に自分の中の精がなまえの口内でぶちまけられる。一滴も零さない様に全て口内に収めるように、右手で彼女の頭を押さえつけて吐露すればなまえもまたそれを受け止めた。

ゆっくりとなまえがぼくから離れる。未だ熱を灯した瞳がぼくを見つめていた。気怠いままでなまえを見遣れば白い喉がこくんと動く。まさか。

「…んっ、へんな、あじ」

初めてのフェラで、初めてのパイズリで、初めてのごっくん。一体この子はどれだけのハードルを飛び越える気なんだ。というか、だからそもそも何処でそんな事を。

「ね、露伴先生」

力の入らない太ももに頭を預けるようにしてなまえが上目使いでぼくを捉える。いつもとは打って変わって、妖艶なその表情がもう一度ぼくを欲情させるのは簡単な事だった。意地悪そうな、それでも甘ったるい瞳と、男を咥え込んで濡れた唇から目が離せない。

「私に、どきどきしてくれましたか?」

そう言って楽しそうに笑う彼女は淫魔だった。リリスは存在したのである。甘えた声で近付かれて気付けば手中に収められて。このまま魂を売ってしまっても何ら後悔は無い。

抗う術など最初から無かった。気付いていないだけでどうやらぼくは最初から彼女に魂を売り渡していたらしい。



20150818



ALICE+