目の前の原稿用紙をぐしゃぐしゃと丸めてからゴミ箱に捨てる。先程から何回も繰り返している行動。また真っ白な原稿用紙に凄まじい勢いでインクを飛ばしていく。……。違う、違うんだよ。ぼくが描きたいのはこんな物じゃあない。途中までは描けるのに何故そこから上手く描けないんだ。よりによって肝心なその部分が。

「……っ、ああああ!どうしてぼくはなまえの身体が描けないんだっ!」

再び原稿用紙を丸めてから遂に頭を抱え込んだ。いつの頃からかぼくはぼくとなまえが主役の成人向け漫画を描き始めているのだが、それは一向に完成する気配が無い。何故、冒頭のキスシーンはかける癖にぼくはそこから先を描く事が出来ない?原稿用紙の中でぼくにキスを強請るなまえ。彼女の少し厚みのある唇だとか、あの熱を籠らせた表情だとか、我ながら良く描けたと思う。そしてそこから熱いキスを交わしてぼくの指先がなまえの制服へと伸びて彼女の素肌が晒け出される…筈であるのだが。

「くぅ…」

机に突っ伏しながら傍に置いてある自作のなまえフィギュアを指でつんつんと突く。どうしてぼくはなまえの身体が描けないんだ。一番肝心な所なんだぞ。愛する彼女の身体を描く事が出来なくて何が天才漫画家だ、笑わせるなよ。いや、全く描けない訳じゃあ無いぞ。描いてはいるんだよ、描いては。ただどんなになまえの裸を描いても「これじゃない感」が半端無いって話で。

最初に描いたなまえはいわゆる貧乳であった。「私おっぱいちっちゃいからあんまり見ないで下さい…」馬鹿言うなよ、ちっぱい最高だろう。が、何だかしっくり来ない。そしてすぐにそういえば、と机の引き出しからスケッチブックを取り出す。バイト中のなまえの胸をスケッチした筈だ。ぺらぺらと捲って確認すれば成程、案外発育の良さそうな胸だったな、と思い出す。そうだ、次は胸を大きく描いてみればいいんじゃないのか。すぐに原稿用紙にペンを向ける。「私おっぱいおっきいのコンプレックスだから恥ずかしいです…」馬鹿言うなよ、巨乳は宝だろう。が、やっぱりしっくり来ない。

何故上手く描けないんだ。そりゃぼくは昔から可愛い女の子を描くのが少々苦手だったさ。けどそれは昔の話で今はこの職で飯を食ってるんだぞ。ぼくはプロなんだぞ。それなのに、それなのに…っ!

大きな溜息をついてから相変わらず突っ伏したままで目を閉じる。そもそも何で「これじゃない感」を感じるんだ?…それって、要するにリアリティに欠けているから?あれ程リアリティを必要としてそれを元に漫画を描いている癖に、言われてみればぼくはなまえの身体の何を知っている?細い二の腕と案外発育の良さそうな胸と、それに10代らしい肉付きのあの太もも。でもそれは全部視覚的情報から得た物であって実際に触れて確かめた情報では無い。案外発育の良い胸って言ったってなまえが一体何カップでどんな胸の形でどれぐらいの柔らかさなのかぼくにはわからない。そこまで考えてからパチリと瞼を開ける。

「そうだ、ぼくに足りないのはリアリティだったんだ…!」





そう気付いたのは昨日の真夜中の事であった。






「ろはんへんへ、このケーキおいひぃれす」
「君さ、口の中の物を飲み込んでから喋りなよな…」

口調こそ呆れたようにしているが実際はもくもくとケーキを頬張るなまえを目にして頬が緩みっぱなしなのである。その表情を見れるのであれば隣町までケーキを買いに行った甲斐があったというもの。彼女がぼくを訪ねてくる度にこうやって菓子を差し出してはいるのだがそうやって高カロリーな物ばかり摂取している割になまえは細い。二の腕だって少し力を込めれば折れてしまうのでは無いかと思う様な其れだし、ふくらはぎだって見るからに華奢なのだ。その割に程よい肉付きの太ももが妙に厭らしい。と言っても太ももだって"他の部位と比べれば"の話であって決して太い訳では無い。

だとしたら彼女が摂取した高カロリーは一体何処へ消えているんだ。……、まさか全部の栄養が胸に行っている訳では無いだろうな。制服に隠されている胸を見るべくじい、と視線を投げかける。化学繊維独特のゴワゴワした生地感のせいで全く以てなまえの胸のスペックがわからない。くそ、あんなに萌えの対象となっていたセーラー服が今は憎い。

「露伴先生もケーキ食べたいんですか?」
「え」

目の前のなまえが小首を傾げながら口を開く。余程ぼくは物欲しそうな表情をしていたのだろうか。だが実際に欲しいのはケーキでは無くてなまえ自身なのだがそんな事口が裂けても言えない。

「はいっ」

突如視界に飛び込んだ黄色のスポンジ生地と真っ白なクリーム、紅い苺のコントラストが眩しい。更にその先へと目線をやれば満面の笑みのなまえ。まさか、これは。

「露伴先生、あーん」
「……、…あーん」

もぐもぐ、ごくん。

「どーですか?先生」

どーもこーもこのザマだ。必死にテーブルの縁を握って耐えないと萌えで爆死するかと思った。あーん、って。あーん、って!今この瞬間、全世界で一番幸せな人間はこの岸辺露伴で間違い無いであろう。萌えの極みになると人間の身体って震えが止まらなくなるんだな。

「…せんせー、美味しくなかったですか?」
「いや…、オイシ過ぎた…」
「良かったあ〜、口に合わないのかと思っちゃいました」

そんな訳が無い。なまえがあーんしてくれる物ならどんなゴミだろうが美味いに決まっている。あーんがこんなに幸せをもたらしてくれる物だとは思わなかった。あーんis正義。あーんisジャスティス。

感情が昂ったままでなまえに手招きをすればソファから立ち上がった彼女はぼくの傍まで駆け寄り、少し躊躇いの表情を見せてから膝の上へと跨る。ぼくの膝の上、それがなまえの定位置。そう教え込んだのは紛れも無いぼくである。「皆がやっている」これは日本人が特に弱いフレーズであり、それはなまえも例外では無かった。「膝の上に座るのが恥ずかしい」と嘆くなまえに「他のカップルは皆やっている。これは普通の行為だ」と教えればなまえは素直にそれに従うようになった。日本人が協調性のある国民性で良かったと思う。

膝の上に乗ったせいで目線が高くなったなまえを少し引き寄せれば、察したように彼女は少し屈んだ姿勢になった。なまえの匂いが鼻先を霞めるのを感じながら更に引き寄せて唇に自分のを重ねる。それからもう一度角度を変えて改めて口付ければ閉じた瞼に添えられた漆黒の睫が少しだけ揺れた。半ば強引に唇を舌で抉じ開けてから更にその中へと侵入させる。以前なら奥へ奥へと逃げ惑っていた小さな舌は最近では拙いながらもぼくに応えるように絡んで来る事も少なくない。

「…ん、あ、…っ」

相変わらずこれだけで身体を反応させるなまえは耐える様にぼくの服をきゅうと握りしめている。これだけでこんな反応を見せるならそれ以上の事をしたら?むくむくと大きくなる好奇心と彼女の身体のリアリティを求める欲望に押し遣られて理性はすっかり存在感を薄めていた。そうっと制服の中へと手を忍ばせてみる。

「あ…、…んぅっ」

閉じられていた瞼が少し驚いたかのように開かれて至近距離で視線が交わる。その恥ずかしさからか直ぐにまた瞼は閉じられたが、それ以外の抵抗らしい抵抗はする気配が無い。…という事はそういう事だよな?昂る気持ちを抑えつつ制服に隠されていた素肌を確かめる如く味わう。すべすべした手触りを楽しみながら背中から腹へ、腹から背中へと何度も撫でればその度になまえは身体を反応させた。聊か呼吸が苦しそうなので唇を離してやる。

「あ…ぅ、ろは、せんせ…っ」

泣きそうな表情だがそれは決して嫌がる表情では無い。あやすように頬に軽く口付けしながら制服の中の手を更に動かす。華奢な腰を撫でまわしてから更にその上へと手を伸ばせば指先に下着のワイヤー部分であろう感触がぶつかる。もう一度なまえの表情を伺うが相変わらず拒む様子は見受けられない。それならば、と遂にぼくの手は胸の膨らみへと伸ばされた。……柔らかい。初めて触れた感想は下着越しだと言うのにその一言に尽きた。大きさと柔らかさを確かめる様に手を動かせば膝の上でなまえが唇を噛み締めていた。

「あ、」

ぷつ、と音がした事になまえが気付いた時には既に遅く、ぼくの右手はその柔らかな胸を覆う下着のホックを完全に外してしまっていた。さて、邪魔する物はもう何も無い。制服の中でとはいえ、無遠慮気味に手を動かせば直ぐに胸の膨らみに辿り着く。なまえの体温を感じる様に掌でゆっくりと膨らみに触れればそれだけでぼくはどうにかなってしまいそうな衝動に駆られた。

「…ん、ぅ…」

ぴくぴく反応するなまえと掌に感じる柔らかさのせいでこの20年間生きてきた中で史上最高に鼻息が荒くなっているが、なまえはどうやらそれ所では無いらしく全くこちらの様子に気付いていない。助かった。自分がとんでも無い顔をしている自覚は多少はある。

何回も触れている内に柔らかい感触の中につんと固く主張する物が掌にぶつかる。まさか、これは例のあれでは。わかっていながら親指で潰すようにすれば遂に我慢出来なくなったなまえが嬌声を漏らし始めた。

「…あっ、せんせ、ぇ…っ」
「…どうかしたか?」
「あ、あ…、そこ、やです…っ」
「其処って此処か?」

わざとらしく親指と人差し指で挟んできゅうと刺激すれば膝の上でなまえがびくんと震える。あんなに固く結ばれていた唇が今ではだらしなく開かれたままだ。

「や、あっ、だめ、だめ、ぇ…っ」
「その割に随分と気持ち良さそうな顔だけどなァ?」
「だって、だって…っ、なんか、ゾクゾクするから…だめです…っ」

ああ、もう辛抱堪らん。主張する蕾を指で挟んで扱く度にびくびく反応してそれでも慣れない快感にいやいやと首を振るなまえが堪らなく可愛い。良いよな、もう良いよな?何かに言い訳するように制服を捲り上げる。白い素肌が見えて、次に小さな臍、そしてくびれた腰があって。ゆっくりと自分で自分を焦らすように捲れば遂に膨らみが見えて。はあはあ、あと少し、あと少しで…っ。

「…ろはん、せ、んせ…」

神よ、なまえという存在をこの世に産み落とした事を感謝する。真っ白で見るからにすべすべした素肌に適度な大きさの膨らみ。まさしく天は二物を与えた。先程の触覚的情報にこの視覚的情報を併せて弾き出した答えはC…、いやDカップといった所か。光の速さで計算をしてから改めてなまえの胸に見入ってごくりと喉を鳴らす。薄く色付く先端がつんと主張しているのは外気に触れたからじゃないよな?そうだよな?先程、掌で十分に柔らかさは確かめた。だったら次は味を確かめて良いよな?そうだよな?

「…ひゃ、あっ」

溢れ出る唾液をたっぷりと舌に乗せてから胸の先端を舐め上げれば本格的になまえは身体を震わせ始めた。何だかなまえの匂いでいっぱいになってくらくらしてしまう。おまけに頭上からは甘い声が降り注ぎ、舌で弄られる事に耐えられなくなったなまえはあろう事かぼくの頭をがっしりと抱え込んでしまってこれじゃあまるで「露伴先生、もっと舌で苛めて下さい」なんて言われてるような物じゃないか。ああ、このままなまえの胸で圧迫死しても人生に悔いは無い。

「ん、やぁ…っ、ろは、せん…せっ、声、我慢出来な…っ」

すっかりぼくに良い様にされているなまえを見てどうしようも無いくらいに興奮している。股間がどうにかなりそうだと思う。割と本気で。しかしぼくの本来の目的はなまえの胸のスペックを知る事であってそれは既に達成してしまっている。いい加減この行為に区切りを付けなければ本当にぼくがどうにかなってしまう。一旦、胸から唇を離してすっかり力の抜けてしまったなまえの様子を伺ってみた、のが不味かった。

「ろはんせんせ…だいすき、です」

蕩けた表情のままで、そんな顔でそんな事を言われてしまったら。







プツン。




何かが切れる音がした。





20150512


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