※寝取られせっくす描写注意。




それはまるで肉食獣が獲物を捕らえたかのようであった。自分の視界がその男でいっぱいになった事に気付いた少女は今更になって、そのか細い腕で相手の肩を押し退けようとしたが敵う筈も無い。それ所か抵抗する腕を二本、頭上で纏められ少女は完全に自由を失ってしまった。そもそも自由があった所で小さなアザラシがシロクマに勝てる確率なんて微塵も無いのだが。

元々近かった距離を詰めれば不安気な瞳が揺れた。どうして、と瞳で訴える彼女を前にして男は鼻を鳴らす。

「そのつもりで俺の部屋まで来たんじゃないのか」

否定の言葉が発される事は無かった。声になる前に唇が塞がれて呼吸すら上手く出来ない。何もかもの主導権はこの男が握ってしまっている。

ぬるりと差し込まれた舌が小さな舌を撫で上げた。思わず小さな舌は口内の奥へと逃げ込んだがそれも直ぐに追い詰められる。再び捉えられて何度も角度を変えては吸われ、一度離れたと思ったら歯列をなぞるように滑る舌に無意識に身体は反応してしまう。

「ん、んぅ…っ。あ、ふ…ぅ」

意識が朦朧とし始めた所で脇腹の辺りを大きな手が弄り始めた。服の隙間から潜り込んだ手は柔肌を楽しむかのように動き回る。自分の意思とは裏腹に跳ねてしまう身体をなまえは恨んだ。途中、何度も腕に力を込めてみても到底この男には敵いそうも無い。そんな無駄な行為を繰り返せば繰り返すほどに逆に自分の身体からは力が抜けていく。

唇をやっと解放されたのと身体を這いずり回っていた手が胸の膨らみに到達したのはほぼ同時だった。

「や…だぁ…。じょうたろ、さん、だめ…。…だめです…っ」

器用に服を捲り上げれば下着に覆われた白い膨らみが上下に揺れる。濡れた唇で抗ってみてもそれは何の効力も持たない。泣きそうな声で小さく「やめて下さい」と紡がれる言葉は今の状態では煽るだけだというのに。

小さく喉を鳴らしてから承太郎はホックを外す事無く、そのまま下着も服と同じように捲り上げた。少々乱暴な行為に大人気無かっただろうかと思いもしたが、大人な人間は端っからこんな行為には及ばない、と自嘲を零す。

覆う物が無くなった柔らかな膨らみに手を伸ばせばなまえの身体がびくりと跳ねた。「嫌だ」と「やめて下さい」と言わなければと思っているのに。それなのに掌全体で触れられたり、或いは指先で中心を摘ままれると簡単に唇からは嬌声が漏れ出してしまう。

あの人にしか、こんな姿を見せた事も、こんな声を聞かせた事も無かったのに。じわりと目の縁に涙が溜まった。身体を捩じらせる度に押し倒されたベッドから香る匂いも、相変わらず腕から感じる力強さも、何にも生まれないこの行為だって、あの人とは全然違う。違うのに。

「ん、ん…っ。あっ…ぅ、ん…」
「此処が弱いんだな」
「ちが…っ。ひゃ、ぅ…!」

ぞくぞくと刺激が背中を駆け上る。すっかり主張する胸の頂を舌で舐め上げてから吸い上げればなまえの口からは言葉にならない声しか出て来ない。蕩け始めた表情を見てもう良いだろう、と承太郎は拘束していた腕を自由にした。解かれた腕は最早抵抗する事も無く、ただただ快感に流されまいとシーツをしっかり握るだけの役目しか果たしていない。

膨らみには触れたままで空いている手がなまえの太ももに伸ばされた。敏感になっている身体は内ももを撫でる刺激さえも快感へと変わる。いつも感じる想い人の物よりももっと大きくて男性らしい手は意外な程に優しかった。

そうして承太郎の手は内ももから足の付け根へ、そしてなまえの身体の中心へと触れる。下着越しに柔肉をなぞられ、気付けばずらされた隙間からゆっくりと指を挿入された。ごつごつとした指が入ってくる感覚に思わずなまえは身体を仰け反らせる。

「っあ!あ、あ…っ。じょたろ、さん…っ」

自分を拒む言葉は出て来ない。その事実に承太郎は口角を上げながらなまえの中を確かめる様に指を動かした。指を一本入れただけだと言うのに随分ときつい。しかしながらなまえの身体も自分を拒む様子は無い。窮屈だけれどもなまえの女の部分は奥へ奥へと自分の指を誘っているし、とろとろと液体を溢れさせるばかりである。

「だ、めぇ…っ。そこ、だめです…っ。あ、いや…ぁ!」

指を少しだけ曲げてある部分を集中的に攻めればなまえがガクガクと身体を震わせ始めた。その否定の言葉が持つ本当の意味を承太郎は知っている。なまえの心を見透かしたかのように指で同じ場所を弄れば肉壁もひくひくと痙攣し始めた。それを見計らって指を抜けばなまえが欲に塗れた瞳を承太郎に投げかける。「どうしてやめてしまうんですか。あともう少しで達しそうだったのに」そう瞳が語り掛けていた。

下着とスカートを脱がせながらもう一度唇を重ねる。先程と同じように舌を挿し込めば今度は小さな舌は逃げなかった。寧ろ翻弄されるのを待ち望んでいたのかもしれない。唇を離せば少女では無く完全に女の顔をしたなまえが其処にいた。

熱の籠った視線にぞくりとしたのは承太郎の方であった。ベルトに手を掛け欲に塗れた自分自身を秘裂にあてがう。少し腰を動かせばそれだけでなまえの秘処は承太郎を受け入れた。それでも受け入れられたのはほんの少しの部分だけであった。先端だけを入れてはすぐに抜く。非常に浅い部分のみでの繰り返される刺激になまえがもどかしそうに腰を動かす。

「…入れて欲しいか?」

意地悪く笑う承太郎はなまえの初めて見る顔だった。焦らされる事に慣れていないなまえはただ腰を動かし、そして甘えた様に「承太郎さん」と名前を呼ぶ事しか出来ない。

「俺とこういう事をするのは嫌なんだろう?」

くぷ、と先端だけを入れた状態で承太郎が囁く。その囁きだけで達してしまいそうだとなまえは思った。

「だったら無理強いは出来ない。…まあなまえが『入れて下さい』ってお願いするなら別なんだがな」

なまえが思わず戸惑った様に瞬きをした。自分からお願いするなんて、だって、そんな事をしたら。ここまで快感に流されていながらなまえの心には未だ想い人が存在を残していた。「なまえ」と優しく自分の名前を呼ぶ彼の存在が微かに残っているのだ。自ら他の男を求めるなんて、そんな行為は彼を裏切る行為以外の何物でも無い。頭ではわかっているのに、身体は目の前の男に反応してしまう。快感を自ら欲してしまう。僅かな存在を掻き消すように瞼を閉じれば涙が一滴、流れた。

「…いれて、ください…」
「なまえ、聞こえない」
「…っ、じょ、うたろうさんの、入れてください…っ」

その言葉を最後まで聞き取ってから承太郎が腰を推し進めればなまえは一際大きく身体を跳ねさせた。びくんと反応してから肉壁が承太郎自身をこれでもかと締め付ける。

「ひ、ぅ…っ!あ、あ…っ!」
「…入れただけでイクなんて随分と素質があるみたいだな」
「あ…っ。だ、め。らめ、れす…。まだ、うごいちゃ、だめ…ぇ」
「入れて欲しいって言ったのは自分だろうなまえ。…それにまだ全部入っていない」

腰を抑えて最奥まで挿入すればなまえは声にならない声を上げるしか出来なかった。ただでさえ敏感になっている身体に今まで感じた事の無い大きさの欲が暴れ狂っている。なまえはもう承太郎のペースに翻弄されるばかりだった。

「んっ、やあ…っ。あ、ぅ…っ」
「先生とセックスする時もこんなになってんのか、なまえ」
「…そんな、の、答えられな…っ」
「答えられないならやめるか?」
「や、だ…ぁっ。…ろはん、せんせいの時は、こんなに、ならない、れす…っ。じょうたろ、さんとのが、きもち、いいよ、ぉ…っ」

その言葉に承太郎はほくそ笑んでからそっとなまえの頬に唇を落とした。そしてなまえもまた承太郎を求める様に彼に手を廻してきつく抱き締めるのであった。














「ハアアアアアアッ!?」

思わず飛び起きた。ぜえぜえと全身で呼吸をしながら辺りを見回せば此処が自分の寝室だという事に気付いた。ああ、良かった夢か。いや、夢でも良くない。良い訳無いだろう何度も言うがぼくに寝取られ属性はこれっぽっちも無い。これっぽっちもだ!下半身が反応してしまっているのは男の朝の生理現象のせいであって、この夢のせいでは無い。断じてだ。

……しかし、なまえの身体や鳴き方は随分とリアルだったな…。


………、なまえ、はぁ…、あ、やばい、それは…。……、なまえ…ッ、あ…。

ふぅ。しかし冷静になってよく考えれば益々何という夢だったんだ。あの空条承太郎になまえが寝取られるだと?ふざけるな。誰が得するんだそんな設定。しかも思い出せば大きさがどうのこうのっていう描写もあったが男は大きさじゃない、テクニックと愛情だろう。何が「承太郎さんとのが気持ちいいよ」だ。そんな事彼女が言う訳が無い。

それにしてもあの蕩けた表情のなまえは可愛かった。はあ。…あ、くそ、また勃ってきた。





朝から二回も自分を慰めたぼくはやっとの思いでベッドから抜け出してキッチンへと向かう。嫌な汗を沢山掻いたせいで喉がカラカラだ。冷蔵庫に常備してあるミネラルウォーターを取り出して口に含む。

今日はなまえが空条承太郎と水族館に行く日らしい。あんな夢を見たのも全てはこの情報のせいだ。康一くんにそう聞かされた時は疑問しか浮かばなかった。どうしてなまえがあの男と水族館に行く必要がある?ぼくとすら行った事が無いのに。

行くな、となまえを引き留める権限は今のぼくにはあるのだろうか。「大嫌い」と突き放された今のぼくは彼女にとって一体どんな存在なんだろうか。それを確かめる事すら怖いと思ってしまう。

いっその事、自分の中のなまえの存在を全て無かった事にすれば良いのだろうか。そう考えたけれども出来る訳が無いと乾いた笑いを零した。

あの日に作ってくれたなまえの料理は未だに鍋に入ったままになっている。あれから数日が過ぎている。いくら季節が冬に近付いているからといっても、これだけの日数を放っておけば傷んでいるに違いない。

それでも捨てられないのだ。

なまえがぼくの為に作ってくれた物を捨てられる訳が無い。何枚も撮ったなまえの写真だって、なまえとの幾つもの思い出だって、なまえを感じたあの日の温もりだって、全部捨てられる訳が無いんだ。

はあ、と溜息をついてから思わずその場に座り込む。時計を見ればもうすぐ正午になろうとしていた。今頃、なまえは承太郎と仲睦まじく過ごしているのだろうか。考えただけでも精神的に滅入ってしまう。

携帯電話を取り出してなまえと連絡を取ろうと試みるも何だか指が上手く動かない。何て彼女に連絡をすれば良いんだ。彼女と会ったとして一体何を話せば良いんだ。「浮気は誤解なんだ」と言えば良いのか?「大嫌い」だと言われたのに?もう彼女の気持ちはぼくの元には無いのに?それで改めて彼女に別れを切り出されたらぼくは一体どうすれば良いんだ。

ぼくはもうこれ以上、傷付きたくないんだよ。




「なまえが誰かに取られるのも時間の問題かもしれませんね」

どれぐらいそこでそうしていたのだろう。ふと、頭に康一くんの言葉が思い浮かんだ。誰かに取られる、まさしく今日見た夢じゃないか。

なまえはぼくともし別れたらこの先どんな男と付き合うのだろうか。

ぼくに見せたあの笑顔も、困った顔も、少し剥れた顔もぼくの知らない誰かに見せるのだろうか。キスをした後の照れるあの仕草も、行為の後に恥ずかしそうに甘えてくるあの仕草だって、この先ぼく以外の男が見る事になるのだろうか。


嫌だ。そんなの、絶対に嫌だ。


覚束ない手でもう一度携帯電話を取り出す。もしかしたら手遅れかもしれない。もしかしたら駄目かもしれない。それでも。

震える手で送信ボタンをそっと押す。


やっぱりぼくは、彼女が、なまえが好きなんだ。彼女じゃないと駄目だと思うくらい、こんなにもどうしようも無いくらいに。



20151018


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