「あ、ぅ…、せ、んせぇ…」

首筋の薄い皮膚を吸って、そのまま舐め上げれば腕の中でなまえが小さく身体を震わせた。この甘い嬌声を聞くのも、この無垢な反応を見るのも、一体いつぶりになるのだろうか。

痛々しく腫れた彼女の瞼を見た時はまさか本当に承太郎に何かをされたのかと思ったが、なまえを泣かせたのは結果としてこのぼくであった。いつもいつもそうだ。いつだってぼくは彼女を悲しませている。

それでもその悲しみの根底にあるのが彼女のぼくに対する独占欲だと知ってしまったら、素直に嬉しいと思ってしまった。自分がなまえに対してそうなように、なまえもまたぼくに対して支配欲や、嫉妬心を抱いていると思ったらそれだけで胸が疼いてしまう。

無数の紅い痕を散らせて、それを確かめる様に舌で撫でて、指でなぞればなまえが途切れ途切れにぼくの名前を呼んだ。

「…わたし、も、露伴、せんせいに付けたい、です」

彼女にそんなお願いをされてしまってはぼくは二つ返事で服を脱ぐ他無い。着ていたシャツを脱いで身体を差し出すような仕草をすればなまえは困ったように眉を下げた。どうやら付け方がわからないらしい。付け方もわからない癖にマーキングをしたいと申し出るとは案外なまえも嫉妬深い。

「吸えばいいんだ、ほら」

此処に付けろと言わんばかりに鎖骨辺りを指差せば、小さな唇がそっと触れて控えめにちゅうと吸われる。思えばこうやって誰かに痕を付けさせる事も、ましてや自分が付けるなんて事も今まで一度も無かった。自分が執着心に塗れた人間だという自覚はあったが、それはあくまでも漫画に対するだけの物だと思っていたし、逆に他人にそんな独占欲を見せられた所で鬱陶しいという感情以外湧いてこなかったのだから。

「…ん、つきました…」

恍惚の笑みを浮かべたなまえがぽつりと呟いて、またすぐに違う場所へと唇を寄せた。啄むような仕草がくすぐったい。思わず身動ぎすれば「動くな」とでも言いたげに寄せられた眉間にもう一度笑いが零れた。

しかし微動だにせず手持無沙汰状態、というのも面白く無い。なまえに欲を燃やされるのも悪くは無いがされっぱなしというのは性に合わない。未だ夢中になって痕を付けるなまえへと手を伸ばして纏っている服を脱がしに掛かる。ぷつぷつと小さく音を立ててブラウスのボタンを外せば何か言いたげになまえがぼくを見上げたが、抵抗らしい抵抗は見受けられなかったのでそのまま続ける。

そうして目前に曝け出された膨らみとそれを覆う下着。白いケミカルレースにネックラインの可憐なエンブロイダリーレース。零れ出しそうな笑いを耐えれば代わりに呼吸が荒くなった。仕方ないだろう、こんななまえを見て正常でいられる方がおかしい。白い下着が「早く露伴先生の色に染めて欲しいです」とぼくに語り掛けている気がする。男というのはいつだって自分の都合良い風にしか解釈出来ない生き物なのである。

ああ、今すぐにでもぼく色に染めてやるさ、と誰に言うでも無く心で呟いてから残りの衣服に手を伸ばせば遂になまえは下着だけを纏う姿となった。恍惚の笑みを浮かべるのは今度はぼくの番である。羞恥のせいで痕を付ける事に集中できず、ただぼくの腕の中で困ったような表情で俯く彼女の何と愛らしい事か。はあ、と感嘆の溜息が零れた。辛い、可愛すぎて辛い。生きるのが辛い。

「なまえ」

名前を呼べば控えめにゆっくりとあの瞳がぼくを見上げた。鼻の頭にキスをすればせがむ様になまえがぼくの口元に唇を寄せる。彼女の想いに応えるようにして唇を重ねて、更には舌を割り込ませれば小さな舌がぬるりと自らぼくを求めた。

「ふ、ぅ…せんせ、ろはん、せんせぇ…」

幼さを残したあの声で求める様に名前を呼ばれて軽く眩暈がする。昂る自分を押さえ付けて左手は下着のホックを器用に外し、右手を緩やかな曲線を描くお尻へと伸ばせばチュールレース独特のざらりとした手触り。…こんなに清楚なデザインの癖にお尻の部分はレースのみだと?即ち、それはなまえの小さくて可愛いお尻がレース越しにほんのりと透けるという事。何だそれは…ッ!今すぐ拝みたい、スケッチしたい、写真に収めたい…ッ!

しかし手触りを確かめる様に撫でた所でなまえが小さく濡れた声を洩らす物だから、そんな願望はすぐに何処かへ消し飛び、気付けばぼくの右手はその下着を脱がしに掛かっていた。透けたお尻を拝むのも、スケッチするのも、写真に収めるのも全て後回しだ。今はとにかく欲に溺れかけている彼女をもっと可愛がってしまいたい。

「ん、ん…っ」

剥き出しになった曲線を撫で上げればなまえはびくびくと身体を震わせた。はあ、なまえのお尻…。何なら頬擦りしてしまいたい。ふかふかとしたその白い胸に気を取られがちではあるが、この小さなお尻だってぼくを昂らせるには十分な要素なのである。寧ろこちらが大本命と言っても過言じゃ無い。…いや、まあぼくと付き合うようになってから格段に成長しているその胸も勿論嫌いじゃあ無いが。というか大好きである。とどの詰まる所、なまえだったらぼくは何だって良い訳だ。

撫でていた手をそろりと忍ばせて、割れ目を辿れば指にとろりと蜜が零れた。不躾に秘所を拡げて中指を軽く宛がえば先端がぬるりと飲み込まれる。

「あ、あ…っ、せ、んせ…ぇ」
「オイオイ、なまえ。随分と濡れてるじゃないか?」
「ろは、せんせ…、っあ、ぅ…」
「まだロクに触ってもいないのに。一体いつからこんなになってたんだ?」

意地悪く囁くようにそう言えば耳までを紅く染めたなまえがイヤイヤと子供の様に首を横に振る。羞恥の情に駆られたなまえは泣きそうな表情をぼくに見せぬようにふい、と顔を背けたが、それを簡単に許す筈が無い。顎を掴んで持ち上げてからもう一度「なあ?」と追い打ちを掛けるように問えば、長い睫毛が震えてゆっくりとぼくを捉えた。

「…っ、ごめ、なさい…」

自分ではどうにも出来ない熱に翻弄されて困ったように上目遣いでぼくを見つめて、濡れた唇で乞うようにそんな事を言われてしまっては。…畜生、これじゃあ追い詰められたのはぼくの方だ。何がごめんなさいなんだ、あれか?「こんなに感じちゃってごめんなさい」ってそういう事か?畜生、畜生…ッ!可愛すぎるだろうが…ッ!

中に収めていた指を引き抜けばなまえがもう一度ぼくを見上げる。「次は何をするの?」と期待と怯えが混じったその表情はぼくの加虐心を煽るだけだ。自分が嗜虐性のある人間だと思った事は無いがなまえに対してはどうもそうでは無いらしい。

「なまえ、ぼくの上に跨れ」
「え?えっと…」
「ここに膝をついて…、ああ、いい感じだな」
「…は、恥ずかしいです、この格好…」

戸惑うなまえを誘導してソファに座り込むぼくを跨ぐようにして膝を付かせる。目の前の柔らかな二つの膨らみに、少し目線を下げて見える小さな臍、そしてなまえの秘裂。はあ、何という絶景。しかし本当の絶景はこれからである。ベルトを外し避妊具を手早く装着してからなまえの手を取って自身へと触れさせた。

「あ、ろ、露伴先生…」

自分で入れてみろ、と視線を投げかければまたもやなまえが首を横に振った。

「や、です…っ。そんなの出来ないです…っ」
「へぇ?じゃあずっとこのままだけどなまえが無理だって言うなら仕方ないよなァ?」

自身の先端で秘裂を割ってわざと腰を動かせばなまえが耐え切れずに声を漏らす。なまえがこういう事に羞恥を感じるのは知っている。だけども快感に弱く、ある一線を越えてしまえばとびきり乱れてくれるのもぼくは知っている。なまえの喉がこくりと動いた。はあ、と息を吐いてからなまえが自身を秘所に宛がってゆっくりと腰を落とし込んで行く。徐々に熱に飲み込まれる感覚にぼくも思わず息を吐いた。

「あ、あ…っ!…っ、は、ぁ…っ。せ、んせぇ…、あつい、よぉ」

蕩けた表情でなまえがうわ言の様に呟く。どうやら一線は越えてしまったらしい。むにゅ、と形を変えて身体に押し付けられる二つの柔らかな膨らみに、自分との結合部。それに肉付きの良い太ももに、手を伸ばせばすぐに届く小さなお尻。まさに眼福。良い、対面座位というのは至極良い。「露伴せんせぇ」といつも以上に甘えた声で呼ばれてぎゅうときつく抱き付かれて。もう一度言う。対面座位というのは至極良い。

「っあ、せんせ、ろはんせんせぇ…っ。すき、だいすき…っ」

強請るように唇を寄せられて応えるように自分のを重ねる。舌を絡めて吸い上げて甘噛みすれば、肉壁がきゅうと自身を締め上げて更に奥へ奥へと誘う。なまえの身体も心もぼくを欲している。もっと、もっとその気持ちに応えてやりたい。何度も角度を変えて口付けして、腰を動かして弱い所ばかりを攻めればなまえががくがくと太ももを痙攣させた。どうやら限界が近いらしい。久しぶりの行為にぼくも限界が近かったが何よりも彼女を先に悦ばせたいというのは男としての当然な思いである。しかしその思いに反してなまえの身体は心なしかぼくから逃げようとしている。

「なまえ?我慢するなよ、イきそうなんだろ?」
「は、ぁ、…や、です…っ」
「…なまえ?」
「ろはん、せんせえと、一緒が、いいです…」

「…だめですか?」とこんな表情で哀願されて断れる男が何処にいる?ああ、もう何だって本当に彼女は…ッ。答える暇も無くぼくはきつくなまえを抱き締めて唇を重ねて、彼女の熱を感じ取るように腰を動かせば一際きつくぎゅうと抱き締められて。なまえの小さな手がぼくの髪をくしゃりと掴んだのと、ぼくが切なげな溜息を吐くのはほぼ同時だったと思う。











「あのね、」

ぼくのシャツに身を包んで腕の中で微睡んでいたなまえが思い出したように声を上げた。

「露伴先生に、謝らなきゃいけない事があって」

謝らなきゃいけない事?可愛すぎてごめんなさい、とかか?思い付く事が何も無い。何だ、と視線を投げかければなまえが気まずそうに口を開く。

「…承太郎さんと二人っきりで、水族館に行きました」

ごめんなさい、と付け加えてしゅんと項垂れる彼女を見て何だそんな事か、と眉を下げた。確かにあの男と二人で、というのは少し、いやかなり気に食わないが結果としてなまえはこうしてぼくに想いを伝えてくれたし今まで以上にその強さを感じるしでそんな出来事は頭の中から消えかかっていた。わざわざ自分からこうやって報告する辺り律儀だと感心する。

「あ!で、でもね、何にも無いですからね?承太郎さんの事は好きだけど、露伴先生とは違う好きで、あの」
「…わかってるさ」

焦って弁明する彼女の頭を撫でれば安心したようになまえはぼくの胸に擦り寄った。くそ、可愛い。今すぐ二回戦を始めてしまいたいくらいだ。ぼくに賢者モードの暇は無いってのか全く。

「…露伴先生と一緒に水族館に行きたいな」
「承太郎と行ったんだろ?」
「そうなんですけど…。本当は露伴先生と一緒にね、シロイルカのバブルリング見たいなって思ってて」
「バブルリング?ああ、あの空気の輪か。何でまたそんな物」
「恋人同士で見ると、その二人はずっと一緒にいられるらしいです」

えへへ、と照れたように笑うなまえを目前にして胸がまた疼く。愛しくて堪らない。思わず小さな手を握ればぎゅうと同じ強さで握り返される。伝わる体温が心地いい。視線が重なってどちらともなく口付けを交わした。そんな願いはイルカに頼らずとも、君が願うだけで簡単に叶ってしまうというのに。

来週の日曜日は開けておきなよ。

そう言えば一瞬、間を空けてからなまえが嬉しそうに頬を緩めた。


「あとね、露伴先生に似てるペンギンがいるんです」
「ペンギン…?ぼくが…?」
「似てます。トサカが露伴先生のぴょこんってなってる髪型にそっくりなんです」
「………」
「ペンギンさんとっても可愛いんですよ〜」
「………」

20151114


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