切れた何かはもしかして残り僅かな理性だったのであろうか。そしてその僅かに残っていた理性という物は案外役目を果たしていたらしい。先走り過ぎてなまえに嫌われたくない、加減しなければなんて思っていた癖に今ではただ自分の欲求を満たしたいという猿のような願望ばかりが自分の中で先行している。へろへろになっているなまえの頬に口付けでもして「悪い、少しばかりやり過ぎた」なんて謝罪の言葉を口にして。それで頭を撫でて抱きしめてやりたいのに。何だってぼくは、ぼくはこんな。

「露伴先生…?」

ベッドの上で不安そうに見上げるなまえを見て少しばかりはっとさせられたがもう止まれない。力の抜けたなまえを良い事にそのまま抱き上げて寝室まで運べば流石に彼女も何かを察したようであった。本当は止めたい、止めてやりたい。だけど。

自分の体重でベッドが軋んだ音を立てる。怯えたような困ったような表情のなまえには気付かない振りをしてそのまま覆い被さればもう一度小さな声で自分の名前を呼ばれた。すまないなまえ、でももう止まれる気がしないんだよ。どうにもならない謝罪の言葉を口にする事も出来ぬままなまえにゆっくりと唇を重ねて指先を制服の中へと忍ばせる。ごそごそと布と自分の手が擦れる音と途切れ途切れになまえが零す嬌声が耳へと届く。

「…ん、あ、…っぅん」

もっと声を聴きたい。唇を離してから首筋へと顔を埋める。手は相変わらず制服の中でなまえの胸の形を好きなように変えているが何だか擦れる制服が鬱陶しい。一度手を引き抜いてから思いっ切り制服を中で役目を為していない下着と共に捲り上げれば二つの膨らみがなまえの呼吸に合わせて揺れていた。視覚で得られる情報だけでこんなに興奮してしまうのはきっとそれが彼女だからだろう。

我慢なんて勿論出来る筈も無く片方の膨らみの先端を口に含んで、もう片方も空いている手で触れてやればなまえは身体を震わせた。

「あ、あっ、せんせ、露伴せんせ…っ」

なまえが鳴いている、自分の手によって。誰も聞いた事のない彼女の嬌声を自分が聞いて、自分が出させて。普段は若干舌っ足らずなあの声で「露伴先生」と呼んでくれるなまえが今ではただベッドの上で甘い声で鳴く事しか出来ない。その事実にただただ心が震える。片方の先端を指できゅうと挟み口内に含んでいる方を軽く甘噛みしてやればなまえの身体が大きく跳ねた。

「なまえは此処を弄られるのが好きみたいだな」
「ちが、ちがうの…っ、や、あっ」
「違う?此処をこんなに固くしているのに?ほらこうされるのが好きなんだろ?」

なまえの顔を覗き込みながら両手で意地悪く先端ばかり攻めてみるもなまえは最早「YES」とも「NO」とも取れない声を上げるばかりである。しかしどう見てもこの反応は。

「んぅ…っ、あ、ぁっ、せん、せぇ…っ」
「なあ、なまえ」

こういう時は気持ち良いって言うんだぞ、なんて耳元で囁けば少し間があってからこくんとなまえが頷いた。

「きもち…ぃです、露伴せんせ…、きもちいい…っ」

なまえが自分の色に染まっていくのが堪らなく興奮した。真っ白い物が汚されるのは良い。真っ白で何も知らない彼女が染まっていく。なまえの中でぼくが全てになっていく。そう思えば思う程どんどんと自分の心がどろどろと溶けていくのがわかった。

キスだけで身体を震わせて、素肌に触れるだけで嬌声を漏らす。じゃあもっと直接的な所に触れてしまったらなまえはどうなる?一度溢れ出てしまった欲望と好奇心は今更止める事等出来ない。遂にぼくの手がスカートの中へと伸ばされた瞬間、なまえが身体を強張らせる。

「あ…っ、待って下さい…っ!露伴先生、そこは…っ!」

制止の言葉も聞かずにぼくの手は下肢を撫で回す。普段はあんなにガラス細工を扱うかのようになまえに触れていた手が今はただ自分の欲望を満たす為だけに動き回っていた。小さいながらも綺麗に丸みを帯びた尻を散々撫でてから下着越しになまえの中心に触れれば拒む様に脚を閉じられる。

「せんせぇ…そこは、いやです…っ」

それは紛れも無い拒否であった。けれど今更どうにも出来ないのだ。閉じる脚を無理矢理開かせてから改めてなまえの其処に触れる。二度三度、指で撫でて柔肉の感触を感じてしまえば当然次は直接触れる事を望んでしまう。理性があればそれも思い留まる事が出来たであろうがそんな物は最初から殆ど持ち合わせていない。直接触れたいと思った次の瞬間にはスカートを捲り上げて遂にその下着へと手を掛けていた。彼女らしい薄いピンクの下着を下げようとする手はなまえの小さな手によって拒まれてしまう。

「先生…っ、露伴先生、やです、お願い…っ」
「なまえ」
「お願いです、待ってください…っ」
「待たない」

なまえが小さく「あ」と鳴いた頃には下着は自分の手によってくるくると丸まった状態で右足首まで下げられていた。これがなまえの…。太ももを持ち上げて開いてしまえば彼女の一番恥ずかしいであろう部分が目前に晒されてしまった。

「……っ、見ないで、下さい…っ」

必至にスカートを伸ばして隠そうとしている物のそれは叶わない。不躾にも割れ目を指で開いてからまじまじと見つめる。ぼくの視線を感じてか綺麗な粘膜が収縮を繰り返す様が堪らなく厭らしかった。男を一度も受け入れた事が無い癖してなまえの其処は男を受け入れる準備が既に出来てしまっていた。あんなに清純そうな顔をしていながら此処はこんなに濡れている。だらだらと愛液を零す其処に気付けば口付けをしていた。

「っ!?え、あ…っ!だめ、だめっ…っ!」

必至に拒む脚を押さえつけて、ぼくを退かそうと伸びてきたなまえの手なんて気にもせずにそのまま舌で舐め上げる。興奮の絶頂にいたぼくになまえの懇願の言葉なんて最早聞こえない。

「いや、いやぁ…!そんな所、舐めないで下さい…っ」

なまえがぼくを退かそうと身体を捩じらせる度にベッドが軋む。快感を受け止めながらも多大な羞恥に晒されるなまえは目の縁に涙を溜め込んだままで拒否の言葉を必死に伝えようとするも殆どが嬌声に飲み込まれてしまっていた。

「そこは…っ、舐める所じゃないです…っ、汚いからあ…っ」
「汚くない、なまえに汚い所なんて一つも無い」
「いや…っ、先生…、あ、あ…っ」
「なまえの此処だって、全部、全部、綺麗だ」
「ひ…ぁ、あ、そこ、いやあ…っ」

一番敏感な蕾ばかりを舌先で舐め上げればなまえは身体を震わせてただただ甘い声を漏らすだけになってしまった。可愛い、可愛い、堪らなく可愛い。指で蕾を潰すように触ってからすっかり放置していた胸の膨らみへともう一度口付ける。白い肌は軽く吸うだけで紅く色付いてしまう。何か所にも痕を散らしてから胸の先端も口に含んで吸ってやればなまえはがくがくと身体を反応させ始めた。

「せんせ、だめ…っ、も、やめてください…っ」
「何故?こんなに感じているのに」
「だって、なんか…っ、へんです…、からだ…ぁ」
「変?」
「なんか、きちゃうの…っ、ぞくぞく、するから…っ」

だからお願いやめて下さい、と続けた懇願の言葉は今のぼくにとってもう少しでイきそうだからもっとして下さい、なんて都合良い言葉でしか捉える事が出来ない。蕾を擦る指を速めてやれば耐えられないといった風になまえがぼくの首へと手を廻した。

「いやあ…、せんせっ、こわい…っ!きちゃうよ…ぉっ」
「なまえ」
「あ、あっ、ろはん、せ、んせぇ…っ!……〜〜っ!」

なまえに口付けしながら指も動かすと廻された手に一層強い力が込められて次の瞬間にはびくん、と身体が大きく跳ねた。それから力無く廻された手が自分からゆっくり離れてベッドへと静かに沈んでいく。初めての絶頂を迎えたなまえははあはあと大きく呼吸をしてただただその余韻に浸る事しか出来ないでいるようだった。

「……」

虚ろな目のなまえを軽く撫でてから少しばかり制服を整えてシーツを被せて寝室を出る。向かった先はトイレで入って直ぐに下着ごと衣服を下ろす。案の定先走りに塗れている自身を先程のなまえを思い浮かべながら扱けば今までで史上最速なんじゃないかと思う速さで達してしまった。

「……ハァ」

精液を包んだペーパーを流してから思わずだらしない格好のままずるずると座り込む。いわゆる賢者モードに突入して徐々に熱が冷めていく。…やばい、ぼくは何をしていた?妙に冷静な頭で先程までの行為を思い返す。が、思い返せば思い返すほどどんどんと血の気が引いていく。

やばい、やばいぞ、ぼくはとんでもない事をしてしまったんじゃあ無いのか。最初はただキスをしていたらいつものようにムラムラきてしまって。それでなまえの胸のスペックを知りたいと思う気持ちもあったし、少しだけなら良いかな、なんてなまえの素肌に触れて。ここまではセーフだったと思う。けれどその後の行為は。わざわざベッドまでなまえを運んで散々「嫌だ」と「やめて下さい」と拒む彼女を無理矢理襲って。どう考えてもアウトだ、それも完全な。

足首までずり下げていた衣服をまた腰まで上げる。先走りのせいで下着が少し冷たいがそれ所では無い。謝らねば、なまえに。土下座、いやスライディング土下座をしてでも何としてでも許して貰わねばならない。もしかしたら許してくれないかもしれない。もしかしたらもう口もきいてくれないかもしれない。もしかしたら「もう別れる」と突き放されるかもしれない。…嫌だ、そんなの嫌だ!

直ぐにまた寝室へと戻ればなまえはまだベッドの中で丸くなっていた。眠ってしまったのかと思ったが近付けば気怠そうな瞳がこちらへと向けられる。

「…ろはんせんせ」
「なまえ」

謝罪の言葉を口にしようとした瞬間にもぞ、となまえが動いて背を向けられてしまった。…まさかこれは謝罪すら拒まれているのだろうか。

「…私、もう先生と喋れません」
「え」

とてつもなく大きな雷が自分に落ちた気がした。まるで頭の天辺に落ちた雷に全身を真っ二つに切り裂かれたような衝撃が走る。

「え…?なん…?え…、え?なまえ…?」

自分でも驚くほど弱弱しい声しか出なかった。覚束ない足取りでベッドまでやっと辿り着くもなまえはこちらを見てくれない。まさかぼくは死刑宣告を受けたのだろうか。もしかして今この状況は上からぶら下がる縄に手を掛けている状態なのだろうか。そのまま縄を首へ引っ掛けて足元の床が抜けてジ・エンド。…嫌だ、そんなの嫌だ!

「…だって私、」
「……だって?」

答えを催促してからごくりと喉を鳴らす。だって、の後には何て続くんだ。「だって、無理矢理行為に及ぶ人とは喋りたくないですもん」返す言葉も無い、死にたい。「だって、何か鼻息荒かったし。きもいから喋りたくない」返す言葉も無い、死にたい。「てゆーか流れで付き合っただけで最初から別に露伴先生の事好きじゃないし」何それ、今すぐ死にたい。

しかしながらぼくの不安に反して彼女の口から出た言葉とは。

「身体を触られただけであんな風になって、沢山声を出してしまって…。もう恥ずかしくて露伴先生と喋れません…っ」

そう言ってなまえは完全に黙り込んでしまった。……ああ、もうどうして彼女はこんなに。

すぐに自分もベッドの中へ入ると背を向けていたなまえがやっとこちらの方を向く。赤く頬を染めて戸惑ったように見上げたその瞳を受けて自分の腕の中へとなまえを引き寄せた。

「ぼくも色々やり過ぎた。…その、悪かったよ」
「…ろはんせんせ、」

甘えるように擦り寄る彼女を抱き締める。力を込めたら壊れそうだと思う。大切にするとあんなに強く想っているのにどうしてそれがこんなに難しいんだ。傷付けたくない、泣かせたくない、大切にしたいのに。どうして。

「…すき、です」

好意の言葉も未だに満足に伝えられない情けないぼくは小さく呟かれた声に応えるようにそっと額に唇を落とした。


20150515


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