ぼんやりとした頭では露伴先生の言っている意味を理解するまで少々の時間を要してしまった。それでも自分の置かれた状況と露伴先生の真剣な、それでもどこか切羽詰まったような表情を見て察した瞬間には耳までがかあ、と熱くなる。重ねられた視線が耐えられなくて思わず俯いた。

露伴先生と付き合って、手を繋いで、抱き締められて、キスをして、きっといつかはそれ以上の事もするんだろうな、なんて思っていたけれどまさかそれが今とは。どうしよう、心の準備なんてまるで出来ていない。色んな事が頭の中をぐるぐると駆け回る。何だかパンクしてしまいそうだ。

そもそも心の準備が出来ていないなんて言うけれどじゃあ一体いつだったら私は良かったんだろう?いつだって心の準備なんて出来ていないんじゃないのか。当たり前だ。だって、こんな風に男の人と付き合ったのは露伴先生が初めてでまるで経験なんて無いんだから。手を繋ぐのも抱き締められるのもキスをするのも、最初は緊張してどうすれば良いのかわからなくて心が平衡感覚を失ったみたいになった。ううん、本当は今だって慣れなくてどきどきしてる。露伴先生とは触れ合う度に胸の辺りがきゅうって締め付けられて涙が出そうになる。本当は恥ずかしいけどそれ以上に露伴先生を感じられるのが嬉しい。この人と付き合えて本当に良かったって思う。色んな初めてを経験する相手がこの人で良かったなって。

だから、経験した事の無いそれ以上も露伴先生となら。

静かな部屋でばくばくと心臓が高鳴って露伴先生にも聞こえてるんじゃないかと思うくらいに鼓動を感じる。こういう状況の時、普通なら皆は何て言うんだろう?「私の全部を露伴先生の物にして下さい」って言うの?そんなの恥ずかしすぎる。それでも目の前の露伴先生は静かに私の答えを待ってくれている。早く、答えなきゃ。口を開くけど言葉が出て来ない。


「…すまない、急かし過ぎたな。今のは聞かなかった事にしてくれ」

露伴先生の手が頭の上に置かれて優しくそのまま撫でられた。あ、どうしよう。ちがう、ちがうのに。

俯いたままで露伴先生の服をぎゅうと掴めばそのまま先生が不思議そうに私の顔を覗き込んだ。目、合わせられないよ。

「ちが、うの」
「なまえ?」
「やじゃない、から…、だから…っ」

その答えが私の精一杯だった。小さな声を絞り出すと露伴先生が少しだけ笑って私を抱き締めてくれた。
















陽が高くなる季節だから外はまだ明るいけれどカーテンが閉め切られたこの部屋は薄暗い。この部屋に入ったのは三回目だ。一回目は露伴先生が風邪で寝込んだ時だった。あの時はこんな風になるなんて思ってもみなかった。二回目はこの前、露伴先生に身体を触れられた時。あの時の先生は少しだけ怖かったけれど今の露伴先生は優しい。それでも何だかやっぱり落ち着かない。

こんな事になるんだったらダイエットしておけば良かった。下着だってもっと可愛い奴とか色っぽい奴を買って身に付けていればよかった。でもそんなの今更思ったって遅い。

ベッドが軋んで心臓がびくんと跳ねた。そっと露伴先生が私の頬っぺたを撫でるのが少しくすぐったい。気を紛らわす為に意味も無くチェストの上に置かれたベッドサイドランプを見つめていたけれど、すぐに先生に正面を向かされた。露伴先生と目が合ってそれだけで体温が上がってしまって目を固く瞑ったら唇に柔らかい物が触れた。啄まれるように角度を変えて何度もされて少しだけ呼吸が上がる。先生が離れた瞬間にはあ、と薄く唇を開ければもう一度重ねられて今度は舌を入れられた。ぬるぬるした露伴先生の舌で口の中をいっぱいなぞられて頑張って応えようとするけれど、結局は先生のペースに翻弄されてしまう。

「なまえ、舌を出せ」

目を閉じたままだったけれど吐息を感じて露伴先生の存在を間近に感じる。うっすらと目を開けて恐る恐る舌を出せば、もう一度近付いてきた先生に舌を吸い上げられて甘噛された。どうしよう、キスだけでこんなに気持ち良いのにこれ以上したら私どうなっちゃうの?

それからさっきされたみたいに首筋にキスをされてからぺろりと舐め上げられた。鎖骨に近い部分から耳たぶの辺りまで舌先でゆっくりと舐められて身体がぞくぞくする。声が出そうで唇をきゅうと結んだ。そのまま先生の舌先が耳たぶへと触れたかと思うと耳の縁も舐められて、たまに上の部分も軽く噛まれて思わず声が出てしまった。

「ひゃ、ぅ…っ。ん、んぅ…っ」
「…耳が弱いんだな、覚えておくよ」

言いながら露伴先生の手が制服の中へと入り込む。脇腹の辺りを擦ってからそろそろと上の方まで伸びて来て下着越しに膨らみに触れられた。やわやわと手を動かされて思わず吐息が零れる。露伴先生は私の首筋に何度もキスを降らしながら背中へと手を廻して下着のホックを外した。何だかそれが手慣れてるなって思って、先生と今まで関係を持った女の人を思うと胸がちくりと痛む。けれど、そんな気持ちはすぐに吹っ飛んでしまった。

制服の中で下着をずらされて今度は直に胸に触れられる。両手の平で胸の膨らみを確かめるように動かされて、声が漏れないように固く口を閉じた。それなのに先生の指が膨らみの先端に伸ばされた瞬間に我慢していた筈の声はいとも簡単に出てしまった。この前、露伴先生に触れられた時の記憶が蘇る。

「あ、あ…っ!ろはん、せん、せぇ…っ」

指の腹で優しく撫でられてるだけなのに声が止まらない。こんな声出したくないのに。こんな甘ったるい声、自分じゃないのに。

「なまえ、手を上げてくれないか」
「…ん…、は、い」

訳もわからないまま手を上げるとそのまま露伴先生が下着毎、制服を捲り上げた。あ、と思った時にはそのまま制服を脱がされて上半身に身に纏っていた物は全部取り除かれてしまった。恥ずかしい、なんて思ったけれどその流れで先生はスカートにも手を伸ばして結局同じように脱がされてしまった。今、私が身に着けているのは最後の部分を覆っている下着と靴下だけ。こういう風になるのはわかっていたけれどやっぱり恥ずかしい。この前、露伴先生に触れられた時は辛うじて服は着ていたけど今は殆ど何も身に着けていない。先生の視線を痛いほど身体に感じる。あんまり見ないで下さいってお願いしたかったけれど口から出て来たのは声にならない声ばかりだった。

露伴先生の指で膨らみの先端を弄られる度に声が出て身体がびくびくする。撫でられて、抓まれて、扱かれると身体がたまらなく反応してしまってお腹の下の方がきゅんきゅんした。それだけでもどうにかなりそうだったのに露伴先生が胸を赤ちゃんみたいに吸い上げる物だから何だか切なくなってしまう。

「んぅ…っ!あっ、あっ。せ、んせぇ…っ!」
「なまえは強めにされるのが好きみたいだな」
「や、あぅ。ちが、ぁ…っ。はあ、あ、あっ」

散々胸を弄られてから露伴先生がキスしてくれた。何だか気持ち良くていっぱいしたいって思ってしまう。それなのに先生は軽く舌で唇を舐め上げて私から離れてしまった。

「そんなに物欲しそうな顔するなよ。ちゃんと後でしてやるから」

露伴先生の指がおへそをなぞる。くるくると円を描く様に触られて少しだけ身を捩る。それに先生は目を細めてから太ももへと手を伸ばした。軽く撫でられるだけなのに気持ち良い。何度も上から下へ、下から上へと触られる刺激は先程までの刺激とは違って少しもどかしい。その内に露伴先生の指が自分でも殆ど触れた事の無い場所を下着越しに触れる。ぬる、とした感触が自分でもわかってしまってまた顔が熱くなる。うっすらと開けた瞳に口角を上げた先生が映っていた。

「なぁ、そんなにぼくに触れられるのが気持ち良かったか?」

ごく軽い力加減で露伴先生は下着の上からその場所に触れて、耳元でそう囁く。何だか泣きそうだ。視界が少しぼやけた状態で先生を見上げれば露伴先生の喉がこくりと動いた。恥ずかしいのに、どうにかなりそうなくらい気持ち良くて。露伴先生の問いに暫くしてからこくん、と頷けば先生は頬にキスしてくれた。

「もう…、何だって君は、そんなにぼくを…」

ぐしゃぐしゃと露伴先生は頭を掻いてから溜息を一つ零した。何で溜息つくの?私、何か変だった?今までの女の人と違った?目に堪った涙がぽろりと流れた。

「ああ、泣くなよ。違う、なまえが気にする事じゃあ無い。前も言ったが君のこういう反応はとても喜ばしいし、それに」

とても可愛い、と続けて言った露伴先生は今度は唇にキスをしてくれた。キスが終わったら遂に最後の下着も脱がされて、裸に靴下だけ身に着けてるって何だか妙な気分だ。

足を開かされて自分の全部という全部を露伴先生に見せる事になってしまった。恥ずかし過ぎる。はあ、と先生の息が自分の其処に当たって思わず身体が跳ねた。いくら部屋が薄暗いからってそんな距離で見られたら全部丸見えに決まってる。

「ひゃ、ぅ!あっ、あっ!ろはん、せんせぇ…っ」

指で液体を掬われて上の方を擦られると今までの比じゃないくらいの刺激が身体を襲う。びりびりして身体に電気が走ったみたいな感じ。何回かその場所を擦られてから二本の指で全部が見えるように拡げられたと思った瞬間に柔らかい感触の物が其処を這った。これ、この前もされたやつ?柔らかい感触はきっと露伴先生の舌だ。先生が自分のそんな所を舐めるなんて羞恥の極みなのに。

「ら、め…っ!せんせ、そこは…ぁっ。舐めちゃ、やです…っ」

手で押し返そうとするけれど全然力が入らない。何でそんな所舐めるの?だって、汚いし、そんな所舐めるなんて変なのに…っ。どうにかして抵抗したいのに、どうしよう気持ち良い。只でさえ恥ずかしいのに、じゅる、と音を立てて露伴先生が舐める物だから聴覚的にも辱めを受けてしまう。

「あ、あ、あっ!ん、あ…っ!ろは、…んせぇっ、だめぇ…っ!」

足ががくがくする。ぞくぞくと背中を何かが駆け上って来る。それに耐えるように露伴先生の髪の毛を掴むけれど全然持ち応えそうに無い。足の指に力を入れてみるけどそれも何の意味も無くて、ただひたすら途切れ途切れに露伴先生の事を呼んでいたら遂に弾ける瞬間が来てしまった。

「…っ、ふ、ぁ…っ!ろはん、せん、せぇ…っ!あっ、あっ、〜〜〜〜ッ」

びくん、て身体が大きく跳ねて、目の前が真っ白になった。その瞬間を迎えた後も余韻のせいで身体がびくびくと反応したまんまになるのが恥ずかしい。乱れた呼吸を整えようとする私の頭を露伴先生が撫でた。

それから露伴先生はベッドサイドチェストの方へ手を伸ばしてから何かを取り出した。それが何なのかはよくわからなかったけれど、ぼんやりとベッドに身体を沈ませたまんまでいるとカチャカチャと金属音が聞こえた。何の音だろう、って思ったけどすぐにそれが露伴先生が服を脱ぐ音だってわかって急に身体が強張ってしまった。足をもう一度広げられて、自分の其処に押し当てられたのは紛れもなく露伴先生自身だ。

どうしよう、こわい。初めては痛いって言うけどどれくらい痛いのかな。不安で胸が押し潰されそうになる。思わずシーツを掴んだけれどこんな物じゃ到底心許ない。こわくて、不安でたまらない。だけど、だけど。

「なまえ」

この人とだったら良いって思ったから。だからきっと、大丈夫。




20150708


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