※露伴で嫌われ。


夜、というか夜更けと言った方が正しいであろうこの時間帯がぼくは好きだった。比較的、田舎寄りであるこの町は日付が変わるぐらいの時間帯になればそれこそ「町が眠る」という表現がしっくりくるくらい静かになる。静かなのは良い。皆が眠っている中、ぼく一人がこの町で起きているようなそんな錯覚にさえ陥る。鬱陶しい他人の気配を感じなくて済むこの時間帯。そんな時間にわざわざぼくがこの女を呼び出したのは単なる気紛れだと思う。

カチカチと時を進める時計の秒針の音を聞きながらぼんやりと明日の予定を立てる。午前中にいつもの原稿を終わらせて、その後から読み切りの分の仕事も仕上げて。とりあえず明日の仕事はそれぐらいにしてから後はこの前買った本を読む時間に充てようか。そんな事を思っているとふと、ぼくの足元で跪いている女と目が合った。

「ん、んぅ…っ。は、あ…っ。」

目線がぶつかった瞬間に思わず舌打ちを零すとなまえは一瞬、身体を跳ねさせたがすぐにまた行為に没頭し始めた。こんな夜更けにただ単に性欲処理をする為だけに呼び出された馬鹿な女。ひたすら一方通行な想いをぼくに抱き続ける馬鹿な女。なまえが一生懸命に口に含んでいる自身はいつまでたっても限界を迎えそうに無い。これじゃあ何の為に呼び出したのかまるでわからない。役立たずにも程がある。

「おい、いつになったら終わるんだよ。下手くそ。」
「あ…ぅ、ごめ、なさい…っ。」

その長い髪を無理矢理引っ張って自分の身体から引き剥がすとなまえが痛みに顔を歪める。そのまま勢いよく放り投げるように手を離すとなまえがフローリングの上に倒れ込んだ。うずくまったままで小さな声で「いたい」と聞こえたがそんな事ぼくが知ったこっちゃあ無い。

「さっさと横になって足を開け。」
「…は、い…。」

髪を乱したままなまえはベッド上で横たわりおずおずと足を開く。未だに恥じらいを残す仕草に苛付きを覚えながら乱暴に足を更に開かせてから自身をなまえの其処に押し当てる。少しばかり濡れているが全く慣らしていない其処に先端を押し付けても中々入っていかない。

「あ、の、露伴先生、」

呼びかけに答えずになまえの顔を見れば何とも彼女は酷い顔をしていた。真っ赤になった目元は未だ跡を残す涙のせいであろうか。

「ゴム、つけないんです、か。」

黙れよ。途切れ途切れに紡ぎ出されるその小さな声ですらやけに耳に残る。掻き消すように無理矢理腰を推し進めれば、なまえが身体を弓のように撓らせた。

「ひ、ぃ…っ、あ、あ…っ。」

いきなり挿入された自身を受け入れるのに必死でなまえは苦しそうな表情を見せるが、そんな事は気にも留めずに腰を動かす。何度か腰を打ち付ければ肉壁が絡み付く様に締め付け、結合部からは水音が聞こえ始める。口での行為は下手な癖に中々どうしてこっちの具合は良い。それがこの女を切らないぼくの唯一の理由かもしれない。

「んぅ…っ、ろは、せんせぃ、あ、あっ。」

目を瞑ってシーツを握りぼくの名を呼んでいる所を見ると、ぼくに愛されている想像でもしているのか。とことん馬鹿女だと思う。ふん、と鼻で笑えばゆっくりとなまえの目が開いた。

「ろはん、せんせっ、すき…っ、あっ、すきで、す…っ。」

煩わしい。何だその目は。そんな目でぼくを見るなよ。愛おしそうな嬉しそうな表情でぼくを見るな。ぼくに向ける絡み付くその視線が煩わしくて鬱陶しくて堪らない。心臓がざわざわし始めて五月蠅い。うるさい、うるさい、うるさい!

思わず右手をなまえの白い首元へと伸ばして、ぎゅう、と絞め付けた。途端、彼女は苦しそうに酸素を求め、比例するかのようにぼくを受け入れている部分もより一層強く自身を締め付けた。

「あ…っ、ぅ…っ。」

先程までの表情と打って変わり、苦しそうな彼女は未だ首を絞めるぼくの右手へと両手を伸ばす。手を離して欲しいようだがそうしたらどうせまたあの不快な表情を見なければならない。苦しさに耐える様に瞑られたなまえの目から涙が零れ落ちていた。どうせこんな事をされてもぼくの事を「愛している」だとか抜かすに違いない。不愉快極まりない馬鹿女だ。そんな事を思いながら首を絞めつつ腰を動かせばそろそろ限界が近付いてきた。限界間近でタイミングを見計らって外に出すのは面倒だが、このまま中に出して子供が出来るのはもっと面倒だ。まあその内に経口避妊薬でも飲ませておくか。

結合部からは相変わらずぐちゅぐちゅと品の無い音が聞こえる。さっきより濡れてるんじゃないのか。首を絞められて感じるって相当なマゾだな。そう言えば一層、なまえの中が締まってぼくは急いで自身を引き抜き彼女の腹の上へと全てを吐き出した。

ようやく首から手を離された彼女は必死に酸素を取り込むように、呼吸を繰り返している。ぜえぜえと聞こえる少々大袈裟な呼吸音がこれまたぼくにとっては五月蠅かった。

「後始末が終わったらとっとと帰れよ。」

背を向けて吐き捨てる様にそう言えば、苦しそうな呼吸音に紛れて小さく「はい」と聞こえた。行為後のこの気怠さも相まって余計になまえの存在が鬱陶しい。時計を見れば時刻は深夜2時を回っていた。当たり前だが彼女を送って行く気なんて毛頭無い。







玄関に向かうなまえの後ろを歩く。別に見送る為では無い。彼女が出て行った後に鍵を閉める為だけの行動である。合鍵を持たせれば良いのかもしれないがそこまでしてやる義理も無ければ、そういう関係でも無い。首元についてしまった手の痕を撫でていたのでやはり、首絞め行為には多少也とも衝撃的だったのかと思えばその表情はまたぼくに向ける愛おしそうな物と同じであった。呆れて何も言えない。

「あ…、じゃあ、帰りますね。」

扉を開けて外に出てから微笑んだ彼女にああ、と返す。が、暫く経ってもなまえは扉を閉める気配が無い。立ち尽くす彼女と扉の隙間から冷たい風が吹き込む。

「…いつまでそうやってる気なんだよ。」
「露伴先生、あの、」

あからさまに苛付くぼくを物ともせずになまえは相も変わらず柔らかく微笑んだままで口を開いた。眉間に皺が寄るのが自分でもわかる。その表情を崩さずにもう一度なまえを見遣れば彼女は小さく言葉を紡ぎ出した。

「また、私と会って、くれますか?」

黙れよ、馬鹿女。返事をせぬまま、ぼくは勢いよく玄関の扉を閉めて鍵をかけた。



20150325


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