※歳の差設定。
ろりこん兄貴。
ていうかろりこん暗殺チーム。


「あんなちんこい身体にさァ、全部入んの?」

目線だけ声のする方に向ければ、ブロンドの髪を弄る一人の変態。どうやら毛先の枝毛をカットしているようだ。言葉が疑問形で尚且つそれが自分に向けられた物だと認識はしたが敢えて答えない。再び目線を読んでいた本へと落とす。

「もっかい聞くけどさァ」

チョキチョキという音がしたかと思うと、ふーっと生温い息が頬に当たった。汚ねぇ毛を始末するのは結構な事だが、ちゃんとゴミ箱に捨てろ。息で飛ばすな。気色悪ぃ息が俺にも当たるだろうが。

「あんなちんこい身体でセックス出来んの?」
「…何の事だよ」
「なまえの事に決まってんだろォ〜?」

直接的な言葉となまえの名前が出た所で自分の眉間に皺が刻まれる。先程から大して進んでいない読書を中断して顔を上げれば、自分が思ったよりも近い距離にあの独特のマスク姿の奴がいた。

「近ぇ、離れろよメローネ」
「やだね」

思わずはあと溜息を零した。寄りによって何でコイツと二人きりなんだ。コイツとなまえの二人きりよりはずっとマシだが、ペッシの代わりにオレがなまえとの買い出しに付いて行けば良かっただろうか。いや、でもそうするとアジトにはメローネとペッシの二人きりになる。そうなってしまえばもう結果は見えてしまう。

「兄貴ィ…、ごめんよォ…」

泣きそうなペッシの後ろでニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべたコイツを何回見た事か。上手い具合に丸め込まれたペッシがなまえとオレの事をメローネに喋って、その度にオレはまたかと溜息をつく羽目になる。人の色恋沙汰が好きな奴ってのは世間には沢山いるようだがコイツの場合は色恋沙汰のもっと深層的な部分、いわゆる下世話な話が好きなだけだ。人殺しを生業としているオレに言われたくねーだろうが悪趣味の一言に尽きる。


「やっぱ同じチームなんだしお互いの事はある程度理解し合った方が良いと思わない?」
「思わねぇ」

そして下世話な話が好きなだけならどれだけ良かっただろうか。コイツが厄介なのはなまえに興味があるって所だ。

「プロシュートが惚れた女がただ単純に気になるだけなんだけどなァ〜」
「それだけじゃねーだろ」

相変わらずの距離を保ったままでくるくると指先で髪を弄り始めたメローネは鬱陶しい事極まりない。そしてコイツがなまえに固執する理由はその年齢にある。なまえは確か今年で15になる。まだ15歳、たった15歳。年齢が15歳というだけで見た目が大人びているかと思えばそういう訳でも無い。アジア人特有の年齢よりもずっと幼く見える典型的なパターンだった。お蔭でなまえの存在がチーム全員に知れ渡った時と言ったら面倒くさい事この上無かった。

リーダーには無言で肩を叩かれ、イルーゾォには目を合わせて貰えず、ギアッチョには蔑んだ視線を送られ、ホルマジオには「そーいうのってオレあんまり口出ししない主義だから」と意味の分からない言葉を送られた。ソルベとジェラートには「誰しもがそういうアブノーマルな性癖って持ち合わせてるよな」なんて言われそれは同族を見る目だった。黙れ腐れホモ野郎共。オレはそんなんじゃねぇ。挙句の果てには散々な言われようなオレに対してペッシの「オレは兄貴がどんなに少数派でもずっと兄貴に付いていくよ」なんて言葉。少数派って何だ、ペッシ。慰めているつもりなのかそれは。そして案の定このクソ変態野郎が一番の食いつきだった。

「なまえはいくつ?…14歳?ディ・モールトッ!ディ・モールト良いッ!」

何に食いついているんだこの変態が。言っておくがオレは別にロリコンでは無い。14歳だからなまえを好きになったんじゃあ無くて、なまえだったから好きになったまでだ。例えなまえがオレよりも年上だったとしても付き合っただろうし、今よりもっと幼かったとしても付き合っただろう。……、最後のは決して皆の前では言えないが。言ったら多分また「ロリコン」と罵られるに違いない。クソ、不愉快だ。

「なァ〜、第二次性徴真っ盛りな子供を相手にするのってどんな気分?だって胸だってまだぺったんこだよな?それとも案外脱がせたらでかいとか?あー、ロリ巨乳って奴か。いやでもオレはやっぱりぺったんこな方が好きだね。だって何かそっちのがいけない事してる気分になれるし!いけない事って言えばさァ、なまえってば下の毛生えてんのかな。まさかパイパ」
「グレイトフル・デッド」
「キャアアアア!じょ、冗談に決まってんだろォ!あ、ちょ、ホントにスタンド解除してくれよ!なァってば!」

懇願の声が聞こえるがそれは聞こえない振りをする。雑音がうざったいがその内聞こえなくなるだろう。閉じた本を再び開いて先程まで読んでいた部分を確かめるべく文字をなぞる。早くなまえとペッシが帰って来ないだろうか。どうせあの二人の事だから買い出し以外にも寄り道をしているんだろう。歳が近いせいもあってあの二人は仲が良い。文字を見ながらそんな事を考えていると部屋の扉が開く。けれども立っていたのは待ち焦がれた二人では無かった。

「ん、何だよ。珍しい組み合わせで留守番かよ?」

老け込んでいくメローネと本を眺めるオレを見比べてホルマジオはニヤリと笑った。何となく起こった事を察したらしい。大袈裟に目を開いて驚く表情は三文芝居以下だな。その後ろに立つギアッチョは眉の辺りに怒りを顰めて相変わらずなツラだが。

「ギアッチョ、オレの事冷やして!ホラ早く!ホワイトアルバムウウウって!」
「うっせー!オレのスタンドをくだんねー事に使うんじゃねーよ、クソッ!」
「くだんなくない!オレこのままだと老いて死ぬんだぞ…ッ、あ、やばい、指先はマジでもうやばい…ッ」

此処に居たら静かに読書も出来やしねえ。結局何も読めなかった。まあそもそも自室に籠らなかった自分が間違いなのだ。天を仰いで嘆息した所で立ち上がればもう一度扉が音を立てる。



「あれっ、皆のが帰り早かったんだあ」


なまえだった。その後ろには荷物を抱えたペッシもいる。けったくそが悪く其れを煙草にでもぶつけようかと思っていたがこの二人が帰って来たのであれば控える他無い。するするとメローネの脇を抜けてなまえは「ただいま」と一言付きでホルマジオの頬へと口付けをした。思わず本を握る手を強めてしまったが、これは只の挨拶なのだ。恋人同士の其れでは無いと自分に言い聞かせている内に、なまえは同じようにギアッチョの頬へと唇を寄せる。そう、これは只の挨拶。特別な意味は無い。

それなのにてめーらは何でにやついてやがるんだ。散々人の事を「ロリコン」だの何だのと罵っておきながらその抑えきれない笑顔は何なんだ。百歩譲ってギアッチョはバンビーノだから良いとしてホルマジオ、お前は完全にアウトだろ。オレがロリコンならてめーもロリコンだ。

「プロシュート〜」

立ち上がったままのオレにもキスをしようとせがむ様に手を伸ばすなまえに目線を合わせるべく少しだけ屈んでやれば頬に柔らかい感触がした。直ぐに離れて行ったその感触が名残惜しくてなまえの顎を掴んでそのまま上を向かせて唇を重ねる。頬に口付けるなんてそんな物は只の挨拶。お前らは其れで良いだろうがオレはなまえの恋人なんだよ。

それをわからせるべく口付けて、唇を啄んで。次第に開かれる隙間から舌を挿し込んで歯列をなぞって、奥へと逃げ込む舌を吸い出せばなまえの手がオレの服を握り締めた。どうやら苦しいようなのでここらで解放してやる。

「……なまえ、お前また買い食いしやがったな。口の中が甘ェ」
「…あぅ…、ん…」

恥ずかしそうに胸へと顔を擦り付けるなまえを抱き締めながらにやりと口角を上げれば、先程の口元が綻んだ表情は何処へやら。引き攣った表情のホルマジオとギアッチョ、ついでに両手で顔を隠しながらも赤面しているペッシがいた。お前らがなまえを可愛がってくれるのは有り難いが線引きってのは重要だよなァ?

「オッサンの癖に大人気ねー事してんじゃねーよ。クソックソッ!」

どうとでも言え。今のお前らがどう喚こうがそれは只の負け惜しみにしかならねーんだからよ。背中に廻された手に力が込められた事に頬を緩ませながらオレは優しくなまえの髪を撫でた。








「なまえ〜、オレにはただいまのキスは無いの?何ならオレも唇にでいーよッ」
「………」
「あれ、なまえ?」
「…あのね、ド変態で人格破綻者で教育上宜しく無いからメローネとは喋るなって言われたの」
「プロシュートッ!なまえに対するその発言はオレ個人の尊厳を著しく侵害するぞッ!」
「オレはそんな事言ってねぇよ」
「えっ」
「言ったのはリーダーなの。メローネとは喋っちゃ駄目って」
「えっ」



20150625

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