※ジョルノでやきもち。

容姿端麗であり、社会的地位(彼の場合、社会的という言葉が相応しいのか疑問ではあるが)もある彼はまさしく非の打ち所も無い。何でこんな男が自分を選んだのか常日頃から甚だ疑問に感じていたが、何回かそう本人に問えば「なまえは素敵な女性です。逆にどうしてぼくなんかを受け入れてくれたんだろうって、そう思う時すらありますから」と毎回返された。そんな事を言われ慣れていない私は返す言葉も見つからず、ただ彼の愛に身を任せるしか出来なかったのだがそれはそれで勿論幸せだと思った。ただ、よくよく考えると欠点の無い人間というのが存在しないように彼にもまた欠点のような物があった。そうなってしまうと冒頭の話に戻ってしまうのだが、"非の打ち所の無い"という表現は訂正しなければならない。果たしてそれを欠点と言ってしまっていいのかは不明だけれども。



「なまえ、さっき電話していた相手は誰ですか」
「ああ、友達だけど。それがどうかした?」
「その友人は女性ですか?…それとも男性?」
「女の子だよ、私と同い年の」
「…そうですか。だったら安心しました」

そう言いながら身を摺り寄せてくるジョルノは小動物のようで可愛らしいと思ったし、そのジョルノの言葉に嫉妬心が込められている事を感じ取った私は、それを愛されていると受け取り満足感まで得てしまっていた。ただ、付き合っていく内にジョルノは過剰なくらいにそういった面を私に見せる様になっていった。






「さっき僕以外の人を見ていたけれどなまえはああいうのが好きなんですか」
「なまえの携帯のアドレス帳には僕以外の男性は何人登録されているんですか」
「明日友達と会うって言ってましたよね。それって僕の知っている人ですか」
「じゃあその方とは何処で知り合って、何年来の付き合いなんですか」
「昨日の夕方頃に自宅に寄ってみたんですけど留守でしたね」
「何処で何をして過ごしていたんですか」






「なまえ、今日は何回僕以外の男性と目を合わせましたか」
「…、ごめんジョルノ、そんなの一々数えてないよ」
「それは数えきれないくらいに僕以外の男性と目を合わせたと受け取りますけど」
「いや、そうじゃなくてさ」
「じゃあどうなんですか」
「…あのさ」

真向かいに座ったジョルノに対して思わず身を乗り出すと、ジョルノは僅かに肩を震わせた。その表情は今にも泣いてしまいそうでまるで私が苛めてしまっているようだと思う。

「ジョルノはさ、今まで付き合ってきた女の子全員に対してそうだったの?」
「ぼくはなまえ以外の女性と付き合った経験はありません」
「え、」

顔色一つ変えずにそう言ったジョルノに反して私は思わず目を見開いてしまった。女性と付き合った経験が無いだと?こんなに綺麗な顔をしておきながら、今まで女性経験が無かったというのか。確かに年齢を考えればその可能性も無きにしも非ずだが、それはあくまでも世間一般男性の話であって彼は色々特殊じゃないか。大体、女性経験が無いにしては慣れていたような。ううん、といつだったかの行為を思い出していると考えていた事がばれていたのかジョルノが口を開いた。

「女性経験が全く無い訳ではないですけど」
「あ、だよね、やっぱり」
「でも、こうやってお付き合いをした女性はなまえが初めてです」

先程の泣きそうな表情とは打って変わってジョルノは真面目な顔で私の目をじいと見つめた。そんな綺麗な顔に見つめられてしまうと何だか石になってしまいそうだ。ずい、と身を乗り出してきたのは今度はジョルノだった。

「ぼくはなまえの事が好きです。愛しているんです」
「…」
「誰の目にも触れさせたくないし、僕だけのなまえであってほしい」
「…」
「さっきあの店でとった食事だって僕の知らない男がそれを作ってるんですよ。それだって僕は…、」
「…」
「…僕以外の人間が作った物を食べてそれがなまえを形成していくのかと思うと耐えられないんです。可笑しいでしょう」
「…ジョルノ、」

そこまで矢継ぎ早に喋ってからまたジョルノは泣きそうな顔になってしまった。余程の不安に苛まされているのか机の上に置かれたジョルノの手は何かに耐える様に固く握り締められていた。

「なまえ、僕の愛し方は間違っていますか?」
「え、と」
「僕は人の正しい愛し方がわからないんです。誰かをずっと独占しておきたいなんて、初めてなんです」
「…」
「間違った愛し方しか出来ない僕を嫌いになりますか」
「ジョルノ、」
「お願いです、なまえ。僕を、僕を捨てないで下さい」

縋る様に私の手を包み込んできたジョルノはそう言ったきり黙り込んで俯いてしまった。人の正しい愛し方なんて私にもわからない。ジョルノの私への愛し方が間違っているかなんてそんなの私にもわからない。何を愛と形容してしまうかは人によって様々だと思う。

ただ一つ言えるのはジョルノは私が今まで付き合ってきた男の中で誰よりも強く重く私を想っている。それが彼以外の男に抱かれた感情だったとしたら。考えずとも鬱陶しいと思う。それでもジョルノに対してだけはそう思わないのは私もやっぱり可笑しいからなのだろうか。行為の終わった後にジョルノは毎回私を抱き締めながら耳元で囁いた。「どうしたらもっと僕の愛がなまえに伝わりますか。好きで好きで堪らないんです」苦しいぐらいに私を抱き締めながらそう言う彼に私はとても満足していたし、寧ろそういう言葉を自ら望んでいたような気さえするな、と思い返す。


「ジョルノ、」

今度は私が彼の手を包み込む。ジョルノがやっと顔を上げた。

「ジョルノの気持ち凄く嬉しい」
「…」
「そう言われるとね、愛されてるなって実感するの」
「なまえ、」
「ジョルノの事、好きだよ。愛してる」

嫉妬されて嬉しいなんて、そんな感情は私も初めてだ。そうか、世の中上手い事成り立っているもので需要と供給ってこういう風にして生まれるんだな、なんて頭の片隅で思う。私の愛の言葉を受けたジョルノは最初の方こそ面食らった顔をしていたがすぐに表情を一転させて、とても嬉しそうに微笑んだ。それから私の手を優しく撫でて、そっとその手を取って愛おしそうにキスを落とした。

「なまえ、僕も愛しています」

心底幸せそうに笑うジョルノを見てやっぱり彼に人間として劣っている部分なんて、欠点なんて一つも無いんだと実感させられた。本当に彼ってば非の打ち所の無い人間だこと。






20150409


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