「何してんの…」
「あ?見てわかんない?酒飲んでんだよ」
こっちはヘトヘトでさあ帰って一杯決めて一日の疲れの癒そうと思って退社したのに、そんな思いをぶち壊して我が物顔で駐車場でストゼロを飲みながら立ち尽くすこちらを一瞥する不遜極まりない男の名前はリンネ。小中の時の同級生だ。
「酒飲んでんのは見りゃわかるよ。なんで人の職場の前で飲んでんのかって聞いてんのよ」
「うざ…飲んでたらたまたまここに辿り着いただけなんだけど…」
「たまたま人の職場着く方が問題でしょうが。ああもう、ここだと目立つからもっと向こう行って」
座り込んでいるリンネの腕を引っ張って半ば強引に移動させる。もっと抵抗されるかと思ったけれど一度引っ張れば思ったより従順に後ろをついてくるリンネにすぐに彼に何か起きたんだとすぐにわかった。昔から気まぐれでどこかふわふわしていて地に足がついていないリンネが私のところに来る時はいつも決まって何か嫌なことがあった時だったから────。
適当にファミレスに入ろうとしたけれどリンネが頑なに拒否するから仕方なくコンビニで自分用の酒を買って近くの広場にリンネを連れてきた。夜の広場は当たり前に人の影なんてものはなく静寂に満ちたそこはリンネと話をするにはうってつけの場所だ。
「で、なんかあったわけ」
適当に座ってストゼロをひとくち煽って理由を尋ねればリンネは黙りこくったままストゼロを飲んでいる。
「なんかないと[FN:名前]の顔見に行っちゃっダメなわけ」
「あんたがそういうタイプじゃないから聞いてんでしょ」
「………チッ」
わざとらしく舌打ちをして酒を煽るリンネはしばらく黙っていたが観念したようにぽつりぽつりと話し始めた。
何やらリンネが片思いしている子が最近いけ好かないライバルといい感じだから荒れているらしい。──そんな理由で人の職場に押しかけてくるなバカ中学生かお前は。
喉元まで出かかった罵倒をどうにか酒と一緒に飲み込んで代わりに深いためいきをひとつ。
「は〜〜〜〜…ばっかだねぇ。あんたは本当にバカだねぇ。お互い同じ家に住んでたら自分がいない時に片方と何かしら起きたりするくらいあるでしょ」
「でもっ……俺と一緒にいるのが一番楽しいって言ってたのに……」
「それとこれとは別でしょうよ。あんたがいない時に話してたりしてたからってそっちのが好きとかわからないし確かめたわけでもないんでしょ?あんただって人と挨拶するくらいするでしょ?それと同じだって、気にしすぎよ」
「俺の気にしすぎって確証がどこにあんの。本当にあいつの方が好きかもしれないじゃん。絶対俺の方がアリちゃんのこと好きなのに、俺の方が好きなのに好きに決まってるのに」
こちらに食ってかかるリンネは完全に出来上がっているようで顔が真っ赤だ。シラフでも面倒くさいのに酔っ払ったリンネは心底面倒くさい。2本目のストゼロのプルタブに指をかけながらリンネを宥めているとふとリンネの瞳がゆらゆら揺れる。
「……俺と話してる時が一番楽しいって言ってたの、嘘だったってこと?俺が聞いたから仕方なくそう答えてくれてたってこと?ほんとはあいつと話してるのが一番楽しいのに?」
「ほんっっっとにバカだねあんたは!聞いててこっちがイライラしてくるわ!リンネが好きなそのアリちゃんって子のことあんたは誰にでも浮ついたセリフ吐く嘘つきだって思ってんの!?」
「アリちゃんをそこら辺のクソ女と一緒にしないでよアリちゃんは誰よりも優しくて誰よりも可愛くて天使みたいな女の子なんだけど」
目で人を殺せるくらいキツくこちらを睨んでくるリンネから目を逸らさずさらに大きな声で投げかける。
「だったらウジウジ酒飲んで旧友に絡んでないであんたが好きになったアリちゃんのこと信じてあげなさいよ!誰よりも可愛くて優しくって嘘なんてつかないアリちゃんがリンネと話してる時が一番楽しいって言ってくれてんでしょ!?だったらちょっと他の男と話してたくらいで揺らがないの!どっしり構えてなさい!わかった!?」
「………………………ん」
私の勢いにすっかり気圧されたらしいリンネはちびちびとストゼロを飲みながら頷いた。
全く世話が焼けるったらありゃしない。黙って残りのストゼロを飲みながらリンネが好きになったアリちゃんという子はどんな女の子なのか想像してみたけれどアルコールの入った頭ではどれもこれもぼんやりしていて的を得なかった。
「リンネー!!ほらっ住所言える!?住所!ああ、もうっ寝ようとしない!!運転手さんすみません彼のことよろしくお願いします!」
あろうことか広場で寝ようとしていたリンネをどうにかタクシーに押し込んで突然舞い込んできた酔っ払いの相手という任務が終了した。
初めて会ったあの頃とは違って身体はすっかり大人びたというのに心はいつまでも変わらず子供みたいなリンネの相手は本当に世話が焼ける。
「あんたがしっかり幸せになってくれないと私もいつまでも失恋できないでしょ、ばか」
ぽつりとこぼれ落ちたひとりごとは夜の闇に溶けていった────。
ベコニア︙幸福な日々 片思い
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