4月××日 7時34分 フラワーショップ前
現在、ミロクさんの勤務先であるフラワーショップの前にてミロクさんが店頭に鉢植えを並べに来るまで待機中。ピンクの花柄のコンパクトミラーで前髪の乱れがないかをチェックして短めに折ったスカート丈の最終チェックを済ませる。内巻きに巻いた今日のハーフツインテールの出来は過去最高。4時起きで完璧に身支度を整えた私に隙はない。完璧に最高にどの角度から見てもウルトラ可愛い。この可愛さで今日こそ愛しのミロクさんのハートを射止めてみせる。
電柱の影からフラワーショップを見張っていると数分後にプランターを抱えたエプロン姿のミロクさんが出てきた。星々を輝かせる夜空と同等の美しさを放つブルーブラックのウェーブがかった髪をひとつにまとめているゴムが経年劣化しているのかちぎれそうになっている。ああ大変だあれではもし仕事中にゴムが切れたら長い髪が邪魔になってお仕事に集中出来なくなってしまう。このままではヘアゴムで抑えられていた色気が解放されてお客さんを悩殺しちゃってフラワーショップの1日の売上がとんでもない額になってしまう。大丈夫。ミロクさんが愛用しているヘアゴムと同じ物の予備が私のポーチの中に20個ストックされているから切れたらいつでもプレゼントできる。それにしてもミロクさんは黒のワイシャツがよく似合うなぁ。
「はあ〜今日もかっこいい。よしっプランター並べ終わったタイミングでゴム渡しにいこう」
可愛い猫ちゃんのようなミロクさんは人の気配に目敏いから出来る限り人間性を消滅させ存在感を消しながら電柱の影からミロクさんにヘアゴムを渡すベストタイミングを伺っているとふいに背後から声を掛けられた。
「か〜のじょ。可愛いね〜そんなとこでコソコソなにやってんの?学校行かなくていいの?サボりならデートしようよ」
「すみません暇じゃないです学校はきちんと行くんで今最高の1日のスタートを切るためにとっても大切なルーチン中なのでほっといてもらっていいですか」
1日のスタートは掃除の行き届いた自室、好きな香りのヘアミスト、リビングに活けられたスイートピー、お母さんが作ってくれた美味しい朝食、お母さんのご飯を美味しそうに食べているお父さん、そして神が創りたもうた人類最高傑作であるメシアミロクさんといった美しいものしか視界に入れたくないのでミロクさんをロックオンしつつ適当にナンパ男をあしらう。
「え…?いや、早口すぎて聞き取れないんだけどっねえ顔みて話そうよ〜!」
「ちょっと…!ミロクさんを拝めないでしょ…!邪魔しないでよ!」
「ミロクさんって誰?え〜もしかして彼氏?まあ1回お茶するくらい浮気にカウントされないって〜」
「ああもうしっつこい!ミロクさんを拝める貴重な時間を一分一秒も削りたくないのであなたとデートなんてしません!わかったらさっさとどっかいってください!」
こんなところで揉めてたらミロクさんに気付かれちゃう。ナンパ男に肩を捕まれ強引に視線を合わせられる。
「下手に出てりゃ調子乗んなよガキが!こっち来い!礼儀と大人の怖さってもんを教えてやるよ!」
「い〜〜や〜〜だ〜〜!!朝のミロクさんを拝める貴重なボーナスタイムが〜〜!!それに今日遅刻したら補習行きなのに〜〜!!離せバカアホマヌケチャラ男お前のお母様出べそかもしれない〜〜!!!」
腕を引っ張られどこかに連れて行かれそうになるのを電柱に掴まって力の限り踏ん張って持ち堪えながらどうにかナンパ男を撃退しようと思いつく限りの罵倒をぶつける。
「だあ〜〜!!うるっせぇよ!ちったぁ静かにしろ!!ここで犯すぞ!?」
「うるせぇのはお前だよ」
ナンパ男と低レベルな戦いを繰り広げていると唐突に清流のような清らかで涼やかな声がこのくだらない争いに終止符を打った。突然のイケメン降臨に事態を飲み込めずぽかんとアホ面をふたつ並べている私とナンパ男。そんな私の肩をそっと後ろに引き寄せ大きな背中に隠すようにミロクさんが1歩前に出た。
「はわわっミロクしゃん!!!今日もかっこいいですね!!!好きです!!!結婚してください!!」
「は〜…やっぱお前も少しでいいから黙っててくれ。話がややこしくなる」
「何でですか愛は伝えられる時に伝えておかないと後悔しますよ!私、ミロクさんに愛を伝えきれずに死んで後悔したくないですもん!!」
私のラブコールを浴びて何故かぐったりした表情で片手で顔を覆うミロクさんはふーっと短く息を吐いた。ああ、アンニュイなミロクさんも色っぽくてかっこよくて素敵。
「頼むから黙ってくれ。お前もこんなめんどくせぇクソガキに構ってねぇで失せろ。こいつよりいい女なんざ吐いて捨てるほどいるだろ」
「…あ、ああ……そうだな。そうするわ」
「えっなんで!?私より可愛い女の子なんてこの世に存在しませんけど!?ねえちょっとなんで誰も目を合わせてくれないの!?ねえちょっとどこ行くの!?まだ話終わってないですよーーー!!」
お互い苦労するなといった表情で何かをわかりあった感が気に入らなくてそそくさと退散していくナンパ男に食って掛かろうとするもミロクさんに首根っこを捕まれてしまって動けない。
「はあ…大丈夫か?どっかケガしてねぇか?ったく、女が男につまんねぇ喧嘩なんざ吹っかけてんじゃねぇよ。今日はたまたま俺が近くにいたから無事に済んだがお前だけだったらあのままどっか連れ込まれてたかもしれねぇぞ。怖い目に遭いたくなきゃもう危ない真似するな。わかったな?」
「………わかりました!わかりましたから今は私のこと見ないでください!!」
さっきナンパ男とくだらない言い争いをしたせいでせっかく可愛くセットした髪が乱れてるかもしれないと思うと途端にミロクさんに見られていることがとてつもなく恥ずかしくなってきた。急に見るなと言われたミロクさんは訝しげな表情で私を見下ろしてくるから湧き上がる羞恥心で余裕でそこに橋があればアイキャンフライできるし橋がなければそこの道路にでもいますぐ飛び出せる。顔の前髪で両手をクロスさせてミロクさんの視線を遮っていた手をふと掴まれて緩やかに彼の前に顔を晒される。不機嫌さのなかに微かな心配の色を滲ませるミロクさんは思わず息を飲み見惚れるほど美しかった。
「ミロクさん好きです結婚してください!!」
「はっ!?なんで今の流れでそうなるんだよ!?おいっくっつくな!お前その紙どうした!?」
「それはいつでもミロクさんからプロポーズを受ける心の準備は完了してますからねミロクさんの好きなタイミングで市役所に提出しにいけるようにいついかなる時も記入済み婚姻届は持ち歩いてますよ!恋する乙女の常識です!」
「んな常識お前の中にしかねぇよ!おいっいいから離れろ!」
ぎゅっとミロクさんに抱き着いてドタバタに紛れて婚姻届の記入を迫ってみたけれど上手く躱されてしまった。店先で騒いでいると店内から声を聞きつけた他の従業員さんが出てきて恥ずかしいところを同僚に目撃されたミロクさんに怒られたところで遅刻ギリギリの時間になっていることに気付いて学校まで猛ダッシュしたのだった。
4月××日 7時50分 本日も晴天なり
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