惹かれる

あれから数日が経ち、百合の血液くすりを飲んだ月彦は、徐々に身体に変化が起きている事を感じていた。

そして今日は、百合が月彦の様子を見に来る日であった。


『こんにちは、月彦様。あれから2日が経ちましたが、お身体の様子はどうでしょう?』
「今まで寝たきりで立ち上がる事すら出来ずにいたが、最近は立ち上がって歩けるようになったな」
『そうですか。無事に病が治ってきているようで安心いたしました』

そう言って微笑んだ百合に、月彦は愛しさを感じた。初めて百合に会った時から、月彦は百合に強く惹かれているのを感じていたのだ。
その事を自覚した月彦は、思わず百合から視線を逸らした。

「……もっと早く良くなる方法はないのか?」
『人の血肉を食べればもっと早く良くなりますが、今はわたくしの血をお飲みくださいませ』

百合は月彦に背を向け、装束を少しずらし首元を晒して頭を傾けた。
その様子を見た月彦は、晒し出された百合の白く綺麗な首元に誘われるように、百合に近づきそっと抱き締めるように腕を回した。

「……何故お前はここまでしてくれるのだ? 何が狙いだ?」
『ふふっ、何も狙ってなどいませんよ。強いて言うならば、放っておけなかったのです。貴方様の何が何でも病を治し生き延びたいという、強い意志を感じたから』
「……そうか」

百合の言葉を聞き、月彦は胸が熱くなるのを感じた。何より、百合が月彦の事を理解してくれたのが嬉しかったのだ。

そして月彦は、晒し出されている百合の首元に噛みつき、血を啜った。鬼になってから初めて飲む血は、百合のだからなのかは分からないが、とても美味しく感じた。
しかも、血を啜る度に百合がピクっと小さく反応するので、何だか可愛らしくてもっと見ていたい気分になった。


『……つ、月彦…さま!…も…もう、それくらいで…っ』

あまりにも夢中になって血を啜り過ぎたのか、百合が苦しそうに言ってきた。
そこで月彦はやっと顔を上げ、貧血気味になっている百合を見ていかに自分が夢中で百合の血を啜ってたのかを知り、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「…すまぬ。」
『い、いえ…! あ、でも──』
「な、何だ…?」

一旦言葉を止めた百合は、月彦に向かって手を伸ばし月彦の頬百合に触れてきた。自然と百合の顔も近付いてきたので、お互いが少しでも動けば唇が触れ合いそうだ。

『──おかげで大分顔色が良くなりましたね。顔中に広がっていた病がもう殆どなくなって、月彦様の元々のお綺麗な顔が現れておりますよ』

百合が何かを言っているが、月彦はそれどころではなかった。近すぎる距離に、月彦は激しく己の心臓が動いているのを感じていたのだ。
そして直ぐ近くにある百合の美しすぎる顔に見惚れ、唇の方に視線が向いた時、月彦は唇から視線を逸らせなくなった。

─百合と接吻がしたい。
そう思った後の月彦の行動は早かった。

「…百合」
『………月彦様? どうされ…っ!?』

百合の頭を片方の手で抑え、もう片方の手を腰に回して引き寄せ、百合の唇に気付いたら自らのそれを強引に重ねた。そんな己の行動に月彦は自分でも驚いたが、とにかく今は百合との接吻を堪能したかった。

『んんっ!?……な、何をなさるのです!』

突然の事に驚いた百合が抵抗をしようとしてるのが分かったが、月彦は更に腰に回している腕に力を込め引き離せないようにし、更に深く口付けをした。1度すると止まらなくなり、その深い口付けは月彦が満足するまで、何度も何度も角度を変えて続けた。

長いこと接吻していると、百合が息苦しさからか涙目になっている事に気付き、渋々接吻を止めて百合を放してやった。
すると、くたくたになった百合が凭れて来たので優しく抱き締め、荒くなっている呼吸が落ち着くまで背を撫でてやった。

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