求婚

百合が月彦に凭れ、激しい口付けにより荒くなった呼吸を整えている間、月彦と数日前に初めて会った時の事を思い出していた。

月彦と初めて出会った時の事を、百合はこれから先長いこと生きていても忘れる事は無いだろうと思う。それくらい印象的だった。
特に印象的だったのは、顔中病に蝕まれてるにも関わらず衰えていない美しさと、力強い目が印象的だった。

そして何より、20歳以上生きられないと言われている難病と必死に戦い、諦めずに病に打ち勝とうとしている姿に心を打たれ、鬼となるのが条件だが、救ってあげたいと思ったのだ。



しばらく月彦と出会った時の事を思い出していると、

「百合、どうやら私はお前の事を好いているようだ。喜べ、お前を私の妻にしてやろう」

そんな告白が聞こえ、それに驚愕した百合は半分飛び起きるようにして現実に戻った。

『えっ!? い、今なんと…?』
「だからお前を私の妻にしてやろうと言っているのだ」
『そ、そんなまさか…!』

あまりの事に聞き間違えかと思いもう一度聞き直してみたが、やはり聞き間違えではなかった。百合は今、求婚されている。

「なんだその反応は? この私に想われ、妻になるのが嫌だとでも言うのか?」
『い、嫌ではありませんがつい先日に出会ったばかりなのに…! 信じられませんっ』

むっとした顔で言われたが、俄には信じがたい。まだ出会って3日程だというのに、月彦はいったい百合のどこに惹かれたと言うのだろうか。

「なんだと…? 出会ったばかりだからと、そんな事何の関係がある。それにお前は知らないのか、世の中には一目惚れっていう言葉もあるのだぞ」
『ひ、一目惚れって…! 月彦様はわたくしに一目惚れをされたと…!?』
「ああ、そうだ。お前はこの世界の誰よりも美しい。一目惚れをする男がいたとしても、不思議ではないだろう?」

真っ直ぐに見つめられながら月彦に言われた百合は、思わず頬に熱が溜まり、鼓動が高鳴ったのを感じた。こんなに真っ直ぐに愛を伝えられて、照れない方が凄いと思う程だ。
しかも顔中蝕んでいた病が治った事により、現れた端麗な顔に微笑みを浮かべていたのだから。

『で、でも…! 月彦様には既に奥様が沢山いらっしゃるのでは…?』
「確かに5人いたが、あやつらは自殺した」
『え…』
「あやつらは私の事を気味悪がっていたし見下していたから、愛情もなければ邪魔だとさえ思っていた。むしろ死んでくれて清々したくらいだ」
『…………』

あまりの事に、思わず言葉を失って呆然とした。
確かに自分の事をそんなふうに見られていたら愛情は湧かないかもしれないが、死んでくれて清々したは些か言い過ぎな気がした。

「百合、邪魔な妻たちはもういないんだ。私の妻になってくれるのだろう?」
『で、でも…!』
「他にも妻を娶る気なんじゃないかと不安なのか? それなら心配しなくとも百合、お前だけだ」
『そういう事じゃ……』

月彦とまだ出会って数日なのに、婚儀を上げるには流石にまだ早い。強引に迫ってくる月彦に、百合は困り果てていた。

「お前を好いているんだ。分かってくれるだろう?」
『……わたくしを好いてくれてありがとうございます。ですが、婚儀は少し考えさせて下さいまし』
「なに…? この私がここまで言っているのに考えさせろだと…? 今決断するんだ」
『はい。考えさせていただけないのなら、貴方様の妻にはなれません』
「………良いだろう、少しだけなら待ってやる」
『はい、ありがとうございます』

好いてくれているのは凄く伝わったし、ありがたい事であったが、流石に今直ぐには良いお返事は出来なかった。考える時間が必要だ。
だが、月彦はやはりと言うべきか強引に迫ってきたので、百合はきっぱりと今は無理だと断りを入れた。
すると、渋々といった感じではあったが、頷いてくれた。

正直、百合も月彦に惹かれはじめている。それは確かだし、妻になってくれと言われてとても嬉しかったのだ。それに一夫多妻制が当たり前なこの世の中で、百合だけだと言ってくれたのも少し嬉しかったのだ。
だがそれでも、月彦には申し訳ないがまだ早いと思った。

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