青の彼岸花

あれから数日が経ったが、百合と会えていない。
だがその間に、月彦は着々と鬼化が進んで行き、今まで食べていた食事が受け付けなくなり、人の血肉を食べるようになっていた。
そのおかげで病はすっかり治り、月彦は健康的な身体を手に入れた。力が身体の奥から湧いてくるのも感じ、月彦は満足していた。例え人でなくなったとしても、これから先も生きていけるのならばどうってことはない。
だが、問題があった。日の光の下を歩けないということだ。わかるのだ、百合が言っていた通り、日光に当たれば死ぬのだと。
人の血肉を欲するのは人を食べれば解決する為、月彦にとって大した問題ではなかったが、昼間の内は行動が制限されるのは屈辱であり怒りが募った。何とか日の光でも死なない体になりたい。
そして、日の光の下を歩けるようになったら百合とのんびり街を散歩でもして過ごしたい。



そこまで考えていると、

『………月彦様』
「!……百合、来ていたのか」

月彦は背後から声を掛けられ、振り向くとそこには百合が立っていた。いつから居たのか聞くと、百合は今来たばかりだと言った。
そんな百合に近付き、月彦は百合をそっと抱き締めた。すると、百合もそっと月彦の背に腕を回してくれたので、月彦は嬉しくなった。

「百合、会いたかった。何故、数日もの間会いに来なかったのだ」
『調べる事があったので…。今日はその報告と、月彦様の様子を見に来ました。すっかり良くなられているご様子で良かった』
「ああ、百合のおかげだ。それで報告とは何だ?」

月彦がそう聞くと、百合が腕から抜け出そうとしたので、月彦はこのままでも良いだろうと言い、離さないようにぎゅっと更に腕に力を込めた。すると、百合は数回もぞもぞとしたが、月彦に離す気がないとわかったのか、諦めたように話し始めた。

『月彦様、日の光を浴びても死なない体になりたいとお考えではないですか?』
「そうだ。私は完全な不死身となりたい」
『方法が幾つかあります。一つ目は、わたくしを食べる事です。完全な鬼のわたくしの血肉を食べれば、確実に日光を克服出来ます』
「何だと!?」

あまりの事に、月彦は思わずそれまで抱き締めていた百合を放した。それくらい衝撃的だったのだ。

「そんな事はしない!! 百合、私はお前と夫婦になり永遠とわを共に生きたいのだ!!」
『まあっ! 月彦様はわたくしの事をそこまで……』
「何だと…? まさかとは思うが、お前を食えば日光を克服すると聞き、お前への愛より日光を克服する方を選ぶとでも?」
『はい、一つの可能性として考えておりました。』

そう言われ、月彦は怒りが湧いてくるのと同時に悲しくなった。少しでもそう思われていた事が、許せなかった。百合への想いは、既にとても大きくなっていた。
確かに、日光を克服したいという気持ちはとても強いが、だからと言って百合を食してまで克服したくない。

「他の方法を話せ」
『……”青の彼岸花”──その薬を手に入れた元人間の鬼は日光を克服し、完全な鬼となり不死身になれると聞いた事があります。問題はどうやって手に入れるかですが…』
「そうか……何か手掛かりはないのか?」
『手掛かりと言える程ではないですが、その薬は実際に青色の彼岸花が使用されているようなのです。どこに生息しているのか、それとも栽培できるのかは分かりません』
「……………」

情報が全くない状態で探すのは相当時間が掛かるだろうが、百合を食す以外の方法がそれしか無いのであれば、探し回るしかないであろう。まずは、植物図鑑に青色の彼岸花について載っているか探してみよう。
そこまで思考を巡らせていた月彦だったが、

「百合、お前の他に完全な鬼の者はいるのか?」
『いいえ、わたくし以外の白鬼はおりません。数年前に自ら命を絶ちました……』
「どういう事だ? 死なないんじゃなかったのか?」
『ええ、そうです。ですが、それは自ら命を絶たなければの話です。遥昔から生きていた一人の白鬼が、あまりにも長い時を過ごす事に疲れてしまい、薬を調合したようです。その薬を飲めば死ぬ事ができるみたいで、わたくしの父様と母様もその薬で亡くなりました…』

目を伏せ悲しそうに百合は言った。そんな百合を優しく抱き締めてやった。
百合を食す事はしないが、百合以外の白鬼がいるのならばそいつを喰らえば良いと月彦は思ったが、百合以外もう生きていないのならば、それは無理な話だ。

「……そうか。ならば太陽を克服できる体質を持つ者が現れる可能性は?」
『ないとは言い切れないですが、極めて可能性が低いです…』
「それで良い。青色の彼岸花を探す事を最優先とし、同時に太陽を克服できる体質を持つ者を探す」
『わたくしも探してみます』
「ああ、そうしてくれ。私が行動できない昼間の間は、百合に任せる」

そう月彦が言うと、百合は深く頷いた。
二人で分担すれば一人で探すよりも見つけやすくなるはずだ。


そう思っていたが、現実は甘くなかった。青色の彼岸花は、植物について書かれているどの本を見ても見つける事ができず、ただ焦りと苛立ちだけが募っていった。



To be continued...


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