シロノ国が襲撃されたと聞いてシルヴィアの目が虚ろになった。兄が必死に呼びかけているが、反応がない。
「シルヴィア!!!しっかりしろ!!!お前にはおれがいる!!!おれはお前を絶対に1人にしない!!!!」
兄がシルヴィアの肩を掴んで力強くその言葉を言った瞬間、目が虚ろだったシルヴィアの目に光が戻ったのがわかった。
「おれがシルヴィアの家族になってやるえ!!!」
『ど、どふぃ……』
シルヴィアの目からとめどなく涙が溢れてきた。
「それにシルヴィアにはおれだけじゃないえ!!!ロシーや父上や母上もいるえ!!!もう誰もお前を1人にしないえ!!!」
『う、うわああああん!!!!』
兄の言葉を聞いたシルヴィアが、大声を上げ兄に泣きついていた。そんなシルヴィアを兄は抱き締めてやり、背中を摩っていた。
そんな中、ロシナンテはそれを見ている事しか出来ないでいた。
──あにうえの様にぼくもシルヴィアになにか言たらいいのに……。
兄の様に強い言葉も言えないロシナンテは、ただただ兄に抱き締められて泣いているシルヴィアを、見ている事しか出来ないでいた。それが酷くもどかしく感じた。
「私達の台詞までドフィに言われてしまったな」
「そうね…これからはわたし達があの子の家族になってあげましょ」
父と母は悲しそうにそして優しそうに、兄に抱き着いて泣きじゃくってるシルヴィアを見つめて、そう言った。その言葉にロシナンテは深く頷いた。これからはシルヴィアも一緒に5人で暮らすんだ。
それから1時間くらい泣き続けたシルヴィアは、漸く顔を上げた。その顔は泣き腫らした顔をしていて、痛々しかった。
『えへへっ、もう大丈夫!ありがとうドフィ!』
そう言ってシルヴィアはまだ家族を失った悲しさが消えてないはずなのに、健気にも無理して笑っていて、それもまた痛々しくて無理して笑わないで欲しかった。
「無理して笑うなえ!!」
ロシナンテが思った事を兄が言った。
ああ、まただ──
『え……』
「これからまたゆっくり笑えるようになればいいんだえ!!だから無理して笑うなえ!!」
またしても兄はシルヴィアが欲しいであろう言葉を力強く言うんだ──
『…ありがとうドフィ』
シルヴィアはそう言って兄に笑顔を見せた。その笑顔は無理している笑顔ではなく、泣き腫らしている顔だというのに、桜の花が淡く綻ぶような可憐な笑顔で、あまりにも可愛く笑うから兄とロシナンテは息を呑んだ。
ロシナンテが言いたくても言えない言葉を、簡単に力強く言ってしまうそんな兄が羨ましくも憎らしかった。ロシナンテも兄の様に言えたなら、その桜の花が淡く綻ぶような可憐な笑顔を、ロシナンテにも向けてくれるのだろうか…。
『…服びちょびちょになっちゃったね…ごめんね』
「フンっ、そんなこと別にいいえ」
兄の服を見ると、確かに胸元辺りから腰辺りにかけてびっちょりと濡れていた。それを見てシルヴィアは苦笑い気味に謝ったが、それに対して兄は鼻で笑って許していた。
「ドフィに先を越されたが、これからは私達がシルヴィアちゃんの家族になるからな」
「わたし達の事は母と父だと思っていいからね!よろしくねシルヴィアちゃん!」
父と母が優しく微笑んでそう言ってシルヴィアに手を差し出している。
『ありがとうございます…よろしくお願いします』
その手をシルヴィアは僅かに微笑みを浮かべて握った。
「……シルヴィア」
『ロシーもよろしくね』
「うん、よろしく」
シルヴィアは、母と父に向けていた僅かな微笑みと同じものをロシナンテに向け、手を差し出してきた。その手をロシナンテはしっかり握った。
心には、ロシナンテも兄の様にシルヴィアを救い出せる様になるんだという気持ちを込めて。
「さあ、リビングへ戻ろう、食事にしよう。シルヴィアちゃんも食が進まんだろうが、少しだけでも食べた方がいい」
『……はい』
「行きましょシルヴィアちゃん」
『はい』
母に優しく背中を押されなが、シルヴィアはこの場を後にした。その後をロシナンテ達も着いて行った。
食事をするが、やはりシルヴィアはまだ進んで食べるのは厳しい様で、所々手が止まってしまっている。
「…シルヴィア」
『ん?……』
心配になりシルヴィアを呼ぶと、シルヴィアはロシナンテを見てポカンとした顔になった。そしてロシナンテを指差し──
『あははははは!!ロシー何それ!!』
「え……」
大声で笑った。それで兄や父と母も何だとロシナンテを見た後、シルヴィアと同様に笑い出した。ロシナンテは自分が何故そんなに笑われてるのかわからなく、頭上に?を大量に浮かべるしか出来ないでいた。
「わははは!!ロシーひどい顔だぞ!!」
「なんなんだえ!?」
『あはははは!!ロシーがタコさんみたい!!』
「えっ!?」
「ロシーの口の周りがケチャップだらけだえ!!」
シルヴィアにタコみたいだと言われショックを受けたが、兄に言われ慌ててナプキンで区の周りを拭くと、確かに大量のケチャップが取れ白いナプキンをべったりと汚していた。恐らくナポリタンを食べたからそれでだろう。
『あははは!!ロシーもう大丈夫だよ!!』
「シルヴィア笑いすぎだえ!!」
シルヴィアは兄達よりあまりにも笑いすぎなので強めにそう言うと、悪いと思ったのか笑いを耐える様な顔になった。それもそれでひどいと思うが。
『あはっ、笑ってごめんね!!』
「ほんとだえ!!」
『でも可愛かったよ!!』
「う、うれしくないえ!!」
可愛いと言われて嬉しくないのは本当だ。だが、可愛いと言った時のシルヴィアの笑顔が、ロシナンテに向けてほしくてたまなかった桜の花が淡く綻ぶような可憐な笑顔で、それには泣きそうなくらい嬉しかった。兄の様に強い言葉は言えないが、これでシルヴィアが心から笑ってくれるのなら、たまには悪くないと思ったのだ。