story.18

シルヴィアが風呂に入っていて、他の者はそれぞれ好きな事をやっていて、ドフラミンゴは自室で寛ぎながらシルヴィアの事を考えていた。

わからない事がある。新聞では"襲撃の真相を調査中"だと明かしていた。
もし、襲撃した者が誰かわかったら、原因がわかったら、シルヴィアは──いや、ドフラミンゴはどうするのだろうか。

──シルヴィア以上の苦しみを与えてやるえ!!

ドフラミンゴとしては、自分の好きで大切な女を苦しめた奴らが許せないのだ。ドフラミンゴは天竜人なので、それを利用して苦しみを与えてやるのは簡単だ。ドフラミンゴにはそれだけの力があるのだ。シルヴィアがやらないのなら、ドフラミンゴがシルヴィアの代わりに復讐をすると心に誓った。

そこまで考えて、ふとシルヴィアが風呂から出るのが遅い事に気づいた。何かあったんじゃないだろうか。
いても立ってもいられず、風呂場へ駆け足で向かった。

すると──


『ドフィにだけは嫌われたくないな…』
「!!」

そんな声が聞こえて驚いた。直ぐに真っ黒のサングラスを取って風呂場の扉を開け、中に入った。

「何がだえ?」
『えっ!!!?』

ドフラミンゴが声を掛けると、シルヴィアはドフラミンゴが中に入って来た事に気づいていなかった様で、非常に驚いていた。まあ、サングラスもしていないからというのもあるだろうが。
元々大きい目をもっと大きくしてドフラミンゴを見ていた。

『な、なんでここにいるの!!?』
「シルヴィアが風呂から出るのが遅せェから心配して見に来たんだえ」
『そっか、心配かけてごめんね!もう出るからもう行って大丈夫だよ!』
「………」

そう言ってシルヴィアはドフラミンゴから顔を逸らした。
ここで引き下がるドフラミンゴではないので、眉間に皺を寄せシルヴィアに詰め寄った。

『な、なに…?』
「…さっき言ってたおれに嫌われたくねェってなんなんだえ?」
『な、なんでもないの!気にしないで!』
「……」

シルヴィアは知っているのだろうか。今シルヴィアがどれ程までに泣きそうな顔をしているのかを。そして、話してもらえないで傷ついたと同時にもどかしく感じたドフラミンゴがいる事を。何でもないなんて言われても説得力が全然ないのだ。

「ならなんで泣きそうな顔してるんだえ?」
『!!……』

シルヴィアは泣きそうな顔と言われて驚いていた。そして慌てて顔を引き締めて、誤魔化そうとしていた。ドフラミンゴはそれを見て悲しくなった。そこまでドフラミンゴには話せない事なのかと。
何よりシルヴィアは知らないのだ、ドフラミンゴがシルヴィアというただ一人の女の事が、どれ程までに好きなのかを。今更何を言われても、嫌いになれない自信がある。2年前にこの想いを自覚してから、日々その想いは強くなっているのだ。
その事をわかってもらえない切なさで、ドフラミンゴは自分の顔が悲痛な顔になったのを感じた。

「おれには言えないことかえ?」
『…、…』

そう言ってドフラミンゴはシルヴィアの頬へ手を伸ばし、優しく壊れ物でも触れるかの様に撫でた。ドフラミンゴが自分でも驚く程までに優しい手つきと、悲痛な声に驚いたのかシルヴィアは元々大きい目を更に大きくして見つめてきた。その宝石の様な薄紫色の瞳は戸惑いと不安からか、ゆらゆらと揺れていた。

「おれはシルヴィアに例え何を言われても、嫌わねェ自信があるんだえ?」
『……ほん、とに?ほんとに、嫌わないでくれる?』
「あァ、絶対嫌いにならないえ」

サングラスをしていない目でシルヴィアの目を見てはっきりと言ったドフラミンゴに、シルヴィアは覚悟を決めてくれた様だ。

するとシルヴィアは湯船から出て、ドフラミンゴの前に立ってきて目を閉じていた。
ドフラミンゴはというと、シルヴィアが目を閉じているのをいい事に、思わずまじまじとシルヴィアの身体を見つめてしまっていた。
雪の様に真っ白な肌は手触りがよさそうだ。そして濡れた白銀の髪からポタポタと水滴が落ちている様は、本当にドフラミンゴと同じ歳の幼い女なのかと疑う程までに大人の色気を感じた。何より1番目を惹くのは、成長したら柔らかく大きな膨らみになるであろう胸の中心部分にあるピンク色の2つの小さな飾りだった。

──なんか美味しそうだえ……。

ゴクリと唾を飲んでその飾りを見つめた。見続けていると、何やらドフラミンゴの下半身が熱を持ち出していた。

それが何を意味するのか考える前に、シルヴィアの姿が変化していくのを見て、驚いて目を見開いて見つめた。見続けているうちに、恐怖とも嫌悪ともかけ離れた興奮という感情がドフラミンゴを支配した。
白く大きな耳と十本ある白く長い尾はふさふさで手触りが良さそうで、鋭く伸びた黒く長い爪は人を切り裂く事も出来るんじゃないかというくらいで──そして気になるのは今はドフラミンゴの反応が怖くて開けずにいるのか、ぎゅっと閉じられている目だ。瞳の色も変わっているのだろうか…。

「…シルヴィア」

気になりシルヴィアの名を出来る限り安心させる様に優しく呼ぶと、シルヴィアは恐る恐るといった感じでゆっくりと目を開いてくれた。開かれた事で見る事が出来たその瞳の色は、いつもの宝石の様に輝く薄紫色の瞳ではなく、まるで金貨の様に輝く金色の瞳だった。あまりにも綺麗に輝く瞳は息を呑む程で、そしてその白狐の姿はあまりにも可愛らしくも美しく、興奮が高まった。

「シルヴィアが嫌われる事を恐れてたのはこの姿の事かえ!?」
『…う、うん…』

シルヴィアは興奮しているドフラミンゴに戸惑っているのか、ぎこちなく頷いていた。ドフラミンゴはシルヴィアが例えどんな姿になろうとも、好きになる自信がある。この白狐の姿も当然嫌う訳なんてない、むしろ──

「かわいいえ!!」
『っ……』
「おれにとってシルヴィアは──初めて出会った時から、今この姿を見た時でも変わらず、一人のかわいい女だえ!!」

興奮が高ぶってる所為か、それともシルヴィアに安心してもらいたいためか、いつもは弟のロシナンテとは違い素直になれないドフラミンゴにしては素直に言葉が出てきた。

『…、…っう、うう…!!!』

ドフラミンゴの言葉を聞いた途端、シルヴィアの金色に輝く瞳から涙が溢れてきて、顔がぐにゃりと歪んで溢れる涙を耐え様としている顔になった。
だが、ドフラミンゴは知っている。その涙が悲しみによるものではなく、嬉しさから出るものだということを。

すると、シルヴィアがドフラミンゴに正面からガバッと抱き着いてきた。

──ガタンッ
「っ!!?」

突然の衝撃に耐えきれずに尻もちついて痛かったが、それよりも驚きが強すぎて身体が硬直していた。
しかも倒れた時の音とは違う別な音が扉の方から聞こえたのにも驚き、そちらに視線を向けると弟のロシナンテが扉の隙間からドフラミンゴ達をその長い前髪の隙間から見える目を見開いて見ていた。その姿を確認した後、直ぐにシルヴィアに視線を戻した。どうやらぎゅうっとドフラミンゴに抱き着いているシルヴィアは、弟に気づいていない様だった。

「シ、シルヴィア!!?」
『あり…がとう…!!ドフィあり、がとう!!──大好き!!』
──ちゅっ!
「!!!」

シルヴィアが突然顔を上げドフラミンゴの唇に触れるだけのキスをした。ドフラミンゴは驚きで目を見開いてそのまま自分の唇に触れ、シルヴィアの唇の感触を思い出してしまった。一瞬で離れたが、ドフラミンゴはその唇の感触を鮮明に思い出せた。
初めて触れたシルヴィアの唇は、見た目通り柔らかくて弾力があり、まるでマシュマロの様だった。

そしてシルヴィアはというと、ドフラミンゴの反応を確かめずに何故か人間の姿に戻り、ドフラミンゴの胸に顔を埋め、ぐりぐりと顔を擦りつけて甘えてきた。
その時に今まで十本の尻尾で隠れていた、小さい真っ白な可愛らしいぷりっとしたお尻がはっきり見え、ピンク色の飾りを見た時と同様に、ゴクリと唾を飲んでそこを思わず凝視してしまった。
するとまたしても下半身が熱を持ち出した。
シルヴィアはドフラミンゴの様子に気づかないのか、ひたすら自分の胸に顔を埋めて甘えている。

──ガタンッ
「……」

その時、扉の隙間から見ていた弟が逃げる様にこの場を去っていったが、それでもやはりシルヴィアは気づいていない様で、まるで桜の花が満開に咲いたかの様に見る者を見惚れさせる程までの満面の笑みを浮かべて、ひたすらドフラミンゴに甘えていた。

ドフラミンゴは気づいていた、弟が最初この場に来た時に見たシルヴィアの白狐の姿を見て、少なからず恐怖を抱いた事に。

──シルヴィアに恐怖した時点でロシーの負けだえ。

そう思い、ドフラミンゴはニタリと笑い、弟が去っていった方向を見た。弟はまだ気づいていない様だが、弟も確実にシルヴィアを恋愛の意味で好きだろう。その気持ちに幼すぎる故に未だに気づいていない時点で、弟はドフラミンゴに負けているのだ。ドフラミンゴは優越感という感情でいっぱいになった。