story.26

ボロボロになって帰って来たロシナンテと兄を、シルヴィアがわんわん泣きながら迎えてくれた。そんなシルヴィアを見て、ロシナンテは兄に言われた事を思い出し、思ったのだ・・・

──泣くのはシルヴィアだけで十分だえ・・・

と。

ロシナンテは思う、こうやってボロボロになったロシナンテと兄を見て声を上げて泣いてくれるシルヴィアがいるから、それだけで十分だと。涙を堪えて痛みに耐えた分だけ、シルヴィアがロシナンテ達の代わりに泣いてくれるのだと。きっと兄もそういう意味で言ったのだろうという事がわかった。

「・・・・・・シルヴィア、ぼくはもう泣かないえ」
『え・・・?』

シルヴィアに決意した事を伝えると、シルヴィアはきょとんとロシナンテを見上げてきた。しかも、シルヴィアだけでなく母や父もシルヴィアと同じ様な顔をしている。横からは兄からの視線を感じるが、きっといつもの様にサングラスの所為で表情がわからなくて何考えてるかわからない様な顔で見ているのだろう。

『ど、どういうこと・・・?』
「泣き虫はシルヴィアだけで十分だって事だえ」
『なっ・・・!!?』

ロシナンテが答える前に、兄がシルヴィアにそう言っていた。すると、シルヴィアは絶句して段々と泣き顔から怒りの顔に変わり、頬をぷっくりと膨らませ、眉間に皺を寄せ、涙が残って潤んでる瞳のままキッと兄を睨んだ。
だが、シルヴィアには悪いが、そんな顔をしても怖くもなんともなく、むしろ・・・・・・

──かわいいえ・・・

そうロシナンテは思ってしまったのだ。
きっと兄もそうなのだろう、その証拠にちっとも動じていない。
そして、サングラスの所為で目が見えないが、いつの日か見た風呂場で見た時の様に、他の誰にも見せた事ないとても優しくも熱が篭った目で見ているのだろう。
ロシナンテはそうぼんやりと思い、自分も兄の様にシルヴィアを見る時は、いつもあんな優しい目をしているのかなと、そう思ったのだ。

母と父はいつもの様に、ロシナンテ達の事を微笑ましそうに見ている。

『泣き虫ってどういうことよ!?』
「そのままの通りだえ・・・シルヴィアはいつまでもそうやって泣き虫でいればいいんだえ」
『え・・・・・・』

兄が言ってる事はキツいのだが、声音が非常に優しくて、それに驚いたシルヴィアが目を見開いていた。

『ど、どういうこと・・・?』
「シルヴィアには、いつまてもぼく達のために泣いててほしいんだえ」
『え・・・!?ロシーまで・・・』

ロシナンテがそう言うと、シルヴィアが困惑している顔をした。なんて言ったらいいかわからないのだろう、当然だ。誰だって急にこんな事言われたら困惑するだろう。
だが、シルヴィアはわからないままで良いと、ロシナンテは思った。ロシナンテと兄だけがわかっていればいいのだ、シルヴィアがロシナンテ達の変わりに泣いてくれるという事は。

「──シルヴィア、とりあえずパンもってきたから食べて」
『・・・・・・うん・・・ありがとう、ロシー』

シルヴィアはまだ納得していなさそうはながらも、ロシナンテがパンを手で切って差し出したら、微笑みを浮かべて受け取ってくれた。それを確認して、残りのパンをベッドで横になっている母と、その母の側にいた父に持って行った。

「ははうえとちちうえにも!」
「すまないね、ロシー」
「ありがとう、ロシー」

そう言って、母と父も微笑みを浮かべて受け取ってくれた。









夜になった。
皆が眠くてうとうとするが、あまりの寒さに皆身体を寄せあって寝ようとするが、それでも寒さのあまり震えて眠れなさそうだった。ロシナンテも寒さのあまり肩を抱いて震えていた。

「今日はよく冷えるな・・・!!」
「さ、寒いえ・・・!!」
「この寒さの中じゃ・・・コホッ・・・寝れそうにないわね・・・コホコホッ・・・」
『・・・・・・・・・』

寒さで震える中、ふとシルヴィアを見ると、シルヴィアは何かを考える様な顔をしていた。どうしたのだろうと思い、声をかけようとしたが──

『・・・・・・わたしに考えがあるの』

何かを決意した様な顔で、シルヴィアが突然そう言った。それにより、皆の視線がシルヴィアに集まった。

「ど、どうしたんだえ・・・?」
『・・・・・・・・・今からなる姿を見ても怖がったり嫌いにならないでね・・・』

少しの間を置き、悲しそうな微笑みを浮かべて言われたシルヴィアの言葉を聞いて、瞬時に理解した。シルヴィアが今からなろうとしている姿は、前に風呂場で見て少しの恐怖を感じてしまった、あの"白狐"の姿なのだろうと。

「ぜったい怖がったり、きらったりしないえ・・・!!!」
『!!・・・ありがとう』

理解したらロシナンテは考えるより先に、言葉が先に出ていた。長い前髪の間からシルヴィアの目をしっかり見てはっきり言うと、シルヴィアがほっとした様な顔で嬉しそうな微笑みを浮かべてくれた。それを見てロシナンテは思ったのだ、今度こそシルヴィアを絶対怖がったりしないのだと。

「よくわからないが、その考えとやらを頼んでもいいかな・・・?」
「お願いするわね、シルヴィア」

父と母がそう言うと、シルヴィアは頷いて姿をどんどんと変化させていった。その光景を、皆で目を見開きながら見つめた。

その姿は──

「でっけェ〜!!!」

そう、前にロシナンテと兄が見た人間を保った白狐の姿の時とは違い、尾が十本ある白い3mはありそうな大きな狐だったのだ。ロシナンテはあまりの大きさに、驚いて腰を抜かしてへたりこんでしまったが、兄はサングラスをしていてもわかるくらい、顔を輝かせていた。

「シルヴィア、その姿もかわいいえ・・・!!!」
『!!』

兄が顔を輝かせながらそう言い、大きな白い狐となったシルヴィアの足に抱き着いた。兄の言う通り、白い大きな狐の姿は凛としていて、綺麗でもあり可愛くもあったのだ。

『ドフィ・・・ありがとう・・・!!』
「「「!!!」」」

狐の姿になっても喋れるのかと、皆が目を見開き驚いた。
そして、シルヴィアは自分の足に抱きついている兄に顔を近づけて、顔をすりすりと擦り寄せていた。
そのシルヴィアの姿を見て、また風呂場での光景を思い出してしまった。あの時も、今の様に顔を擦り寄せて甘えていた。それを思い出し、いても立ってもいられず、ロシナンテも兄の様にシルヴィアの足に抱き着いた。

「シルヴィア、ぼく怖がってないえ!!大きいからおどろいただけだえ・・・!!かわいいえ・・・!!」
『!!・・・ロシーも・・・ありがとう』

ロシナンテがそう言うと、シルヴィアが嬉しそうに、そして泣きそうな声を出し、今度はロシナンテの方に顔を持ってきて、ロシナンテの顔にすりすりとして甘えてきた。その事にロシナンテは涙が出そうな位、嬉しくなった。

シルヴィアはやはりどんな姿でも、いつも優しくて可愛くて泣き虫な、1人のシルヴィアという女の子だったのだ──・・・



TO BE CONTINUED