story.29

ドフラミンゴ達から引き離され、シルヴィアは街人達にどこかへ連れて行かれながら、今も必死に何とか抜け出そうと抵抗していた。
ドフラミンゴ達が今街人達に何されているか考えると、気が気じゃなかった。

『やめてっ!!!離して!!!わたしをどこに連れて行くの!!!?ドフィたちの所へ帰して!!!』
「誰が帰すか!!!お前を売っておれ達は大金持ちになるんだよ!!!」
『あなた達も天竜人と一緒じゃない!!!』

己の欲望に染まった街人達は、自分達が嫌っている天竜人と何が違うんだと言うのだ。己の欲望で他人を差し出そうとする街人達の姿は、天竜人と何ら変わらなかった。
それを伝えると、みるみると街人達の目が欲望に染まっていたのから、怒りに変わっていく。それを見てシルヴィアの身体は無意識に強ばった。

「何だと・・・!!?おれ達が天竜人と一緒だと!!?」
「このクソガキめ・・・!!おれ達が何もしねェからって好き勝手言いやがって・・・!!」
「おれ達を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる!!!」
『きゃっ・・・!!!』

1人の男の手が振り上げられ、条件反射でシルヴィアは目をぎゅっと固く瞑って、頭を守るように手を回して体を丸めた。
それとほぼ同時に、頭部の方でばしんと音が鳴って次には鋭い痛みが襲ってきた。頭がじんじんとした痛みで思考が上手く働かないが、殴られたのだという事は理解出来た。

「おいおい!!あまり傷つけるなよ!!価値が下がっちまう!!」
「少しくらい傷つけたって大丈夫だろ!!!」
「それもそうだな!!」

街人達が笑いながらそう言っていた。そして、次は頬をバシンと叩かれた。その衝撃で口の中が切れたのか、血の味がした。

『い、たい・・・ッ!!』
「痛くしてんだよ!!痛くて当然だろうが!!」
「これに懲りたら今後口の利き方には気をつけるんだな!!」

あまりの悔しさと痛みで涙が溢れて来た。
悔しい、痛い、悔しい、痛い、悔しい、痛い、悔しい。
こんな思いをドフラミンゴとロシナンテはいつも味わっていたというのか。そう思った途端、今度は腹の底から怒りが湧いてきた。
大体、ドンキーホーテ家の皆が何をしたと言うんだ。この街の人達に危害を加えたのは、別の天竜人じゃないのか。それなのに、ただ天竜人という理由だけで、一族と家族を失ったシルヴィアを温かく迎え入れてくれた、あんなにも優しいドンキーホーテ家の皆を苦しめたんだ。

『わたしは・・・っ!!あなたたちを許さない!!』

溢れていた涙を拭い、キッと睨みつけた。
だが、そんなシルヴィアを街人達は笑い飛してきた。それが悔しくて悔しくてたまらなくて、再びシルヴィアの目に涙が溢れてきた。力がない事をこんなに悔しく思ったのは、初めてだった。白狐の力があっても、戦い方を知らなければ力がない事と同じだった。

「どう許さねェってんだよ!?ええ!?」
「お前はもう売られるってのになァ!!!」
「うるせェから大人しくしてろ!!!」
『かはっ・・・!!』

腹に強烈なパンチが入り、シルヴィアはそこで意識を失ってしまった。









『──・・・!!』

シルヴィアが目を覚ますと、そこは知らない場所にいた。気を失う前にいた北の果てではないという事は理解出来、シルヴィアはきょろきょろと周りを見渡した。

「よお・・・お目覚めかよお姫様」
『!!?』

声を掛けられ驚いて声がした方向を見ると、そこには扉に寄り掛かってシルヴィアをニヤニヤとして見ている、1人の男がいた。男は貴族なのか、上等そうな服を着ていた。

『だ・・・れ・・・?』
「おれはお前の主人のアランだ。おれがお前を買ったんだ」

シルヴィアを買ったというアランと名乗った男が、シルヴィアに近づいて来る。しかもアランという名前は聞き覚えがあった。確か、白狐一族と同じく天竜人と関らを持つ上流貴族で、好青年として名高い人物だったはずだ。

だが、この様子を見るに噂とはかけ離れている。
どんどん近づいて来るアランに、怖くて逃げようとした時、手足が鎖で繋がれているという事に気づいた。どうしようも出来なくて、アランが近付いて来るのを、ただ怯えた目で見る事しか出来ないでいた。

『や・・・だ!!こな・・・いで!!』
「何も今取って食ったりしねェよ!!おれに少女を犯す趣味はねェ!!」

言ってる意味はわからないが、怖い事には変わりはなかった。何故ここまで怖いのかシルヴィアでもわからないが、何か普通じゃないものを、この目の前の男から感じたのだ。それが何かも説明が出来そうになかった。

『や・・・だ・・・っ』
「おいおい──・・・いつまでもそんなに怯えられたら、虐めちまいたくなっちまうだろう?」
『っ・・・・・・』

アランはニタリと歪んだ笑みを浮かべ、いつの間に取り出したのか、ナイフでシルヴィアの頬に切り付けて言った。ぴりっとした痛みが頬に走った。

そんなアランとは異常だった。シルヴィアが感じたこのアランという男の普通じゃないのとは、この事だったんだ。
これからこんな男と一緒にいなくてはならないのかと考えると、シルヴィアは自分の生命の危機を感じ、ガタガタと震えた。



TO BE CONTINUED