story.31

1度目、初めて兄が怖いと思ったのは、母が亡くなってしまった時だった。

大好きな母が死んだ時、ロシナンテとシルヴィアが泣き叫ぶ中、兄のドフラミンゴは泣くこともせず、ただ立ち尽くしていたのが印象的だった。
そして、父とシルヴィアは気付いていない様だったが、その後にサングラスの所為で表情がわからないが、兄が父の事をドス黒いオーラを纏って見ていたのを、ロシナンテは見てしまったのだ。その時、ロシナンテは生まれて初めて、大好きな兄が怖いと思ってしまったのだ。
それからと言うもの、ここ2年間の間ロシナンテの兄のドフラミンゴは、ロシナンテとシルヴィアにはいつも通り接して来ていたが、父とは明らかに壁が出来ていて、兄は父とはなるべく関わらない様にしていた。
すると、流石に異変に気付いたのか、父と兄の様子を見てシルヴィアが悲しそうにしていた。
だが、一番悲しそうにしていたのはシルヴィアでもロシナンテでもなく、父だったのだ。
ロシナンテはある日父に相談されたのだ、兄と仲を戻すいい案がないかを。それなのに、ロシナンテはかける言葉が見つからず、相談に乗ってあげる事が出来なかったのだ。その時の父の悲しそうな顔が、しばらく頭から離れなかった。例え嘘でも、きっとそのうち元に戻ると言ってあげるべきだったのだと、後悔した。


2度目、兄が怖いと思ったのは母が亡くなってから2年が経った時、シルヴィアが連れ去られてしまった時だった。

街人に住家がバレてしまい、囲まれてしまった時、父がロシナンテ達3人の子供を守ろうと腕に抱えてくれていた時、シルヴィアが街人の男によってロシナンテ達から引き離されてしまい、どこかへ複数の男達に連れ去られそうになった時、兄は父の腕から抜け出し、必死にシルヴィアを助け出そうと男達に立ち向かって行っていた。その時は、囲まれて怯えて震えて泣き叫んでいる事しか出来なかったロシナンテと父とは違い、立ち向かって行った兄の事をただ純粋に、かっこよくて凄いと思ったのだ。
だが、やはり子供1人の力では複数の大人の男達相手にはどうする事も出来ず、シルヴィアを助け出す事は出来なかった。その時、ロシナンテはまた再び見てしまったのだ、母が亡くなってしまった時以上のドス黒いオーラを纏い、サングラスをかけていてもわかるくらい顔を憎しみで歪め、父を見ていたのを。そんな兄を見て、ロシナンテはぞっとした。もしかしたら兄は、いつか父を殺してしまうんではないかと思ったのだ。こんな事、大好きな実の兄相手に思いたくなかったが、そう感じてしまう程に兄からは異質で邪悪なものを感じたのだ。


3度目、兄が怖いと思ったのは、ロシナンテ達が街人達に捕えられ、目隠しをされて高い所に吊るし上げられている時だった。

ロシナンテが泣き叫ぶ事しか出来ないでいた中、兄は泣き叫ぶ事をする事もなく、街人達に宣言していたのだ。ドス黒いオーラを纏い、街人達に叫んで必ず殺すと。その瞬間、どこからか温かい気がぶわんと放たれたのを感じた。次の瞬間には、何かが次々とドタドタと倒れて行く音が聞こえ、父の話によると兄の仕業で倒れた街人達は気絶をしたいるらしかった。
それが何かわからないが、ロシナンテは兄が怖くて仕方なくなったのだ。母とシルヴィアを失ってしまってから、ロシナンテが大好きだった兄は凶暴な兄に変わってしまった。
いや、きっと正確には兄の中に凶暴性は元々あったのだろう。それが母とシルヴィアを失ってしまったのが引き金になり、眠っていた凶暴性が引き上げられてしまったのだろう。

そして、父によってロシナンテと兄は助け出され、今の住家から別の家に引っ越した後、兄は今まで以上に父との接触を避けていて、今は外に出ていた。

「──・・・ドフィ遅いな」
「・・・うん」

ぽつりと悲しげに、そして心配そうに言われた父の言葉に、ロシナンテは頷いた。
確かに、父の言う通り兄は中々帰って来なかった。

「・・・心配だ、探してくる。ロシーはここにいてくれ」
「!!?ま、待って・・・!!!」

何か嫌な予感がし、ロシナンテは慌てて引き止めようとするが、父はロシナンテが引き止めても兄を探しに行ってしまった。
待てと言われたが、ロシナンテは父の後を追うために家から飛び出した。胸騒ぎが止まらないのだ。何かこの後に、とてつもなく良からぬ事が起こりそうな気がしてならないのだ。
全速力で父を追ったが、子供の足では大人に叶う訳もなく、どんどん父との距離は空いていく一方だった。それでも、ロシナンテは諦めず、走って走って走って走り続けて父を追い続けた。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ!!!」

大分父との距離が空いてしまったが、しばらく諦めずに追い続けていると、前方に父と兄の姿が見えた。ロシナンテはその姿を見て安心して顔を輝かせたが──

どこから手に入れたのか、兄が拳銃を父に突きつけてるのを見て、ロシナンテの表情は凍り付いた。以前感じた、兄が父を殺してしまうんではないかという、最悪な予感が見事に的中してしまったのだ。
そこからはもう無我夢中だった。

「兄上やめてーー!!兄上ーー!!」

ロシナンテは必死に2人に駆け寄り、兄を止めようとした。
この時、ロシナンテは思ったのだ。母もシルヴィアもいない今、兄の暴走を止められるのはロシナンテしかいないと。怖がってなんていられない、もうロシナンテが止めるしかないのだと、ロシナンテは決意した。

こんなのロシナンテは望んでいなかった。亡くなった母も、今この場にいない連れ去られてしまったシルヴィアだって、絶対望む訳ないのだ。2人の為にも、ロシナンテは兄を止めなければなからなかった。


TO BE CONTINUED