story.35

シルヴィアは暗い部屋で鎖に繋がれだらんとしたまま、離れ離れになってしまったドンキーホーテ家の3人の事を気にしていた。彼等は無事なのだろうか。今頃酷い目にあってるに違いないと思うと、胸が痛かった。全然力にならなくても、助けに行きたかった。シルヴィアの首と手首と足に繋がれた鎖を取り払う事が出来たなら、今すぐにでも行動して3人の元へ行っていたのに。

その時、部屋の入口に人影が写り、それに気付いたシルヴィアの身体が強張った。
そんなシルヴィアをお構い無しに、その人影はゆっくりと部屋の中へ入ってきて、シルヴィアの前で止まった。
シルヴィアがゆっくり顔を上げると、自分を買取ったアランが、ニタァと歪んだ笑を浮かべてシルヴィアを見ている事に気づき、身体がビクッと震えた。

「お姫様、食事だ」
『い、い・・・!!いらない・・・っ!!』

この得体の知れない男から出される食事など食べる気になれず、シルヴィアは首を大きく振って拒否した。その際に、首に付けられた鎖がガチャガチャと音を立てていた。

「強がるなよ、お姫様。向こうで録な物食ってなかったんだろ? おれがお前を買い取る時に色々聞いたぜ、天竜人の奴等の事もな」
『っ!!?・・・あ、あの人達は無事なのっ!!?』

確かに目の前の男の言う通り、お腹は凄く空いているが、それよりもドンキーホーテ家の皆が無事かどうかを確認する方が、シルヴィアにとっては大事だった。

「さァな、天竜人の事なんざおれの知ったこっちゃねェな・・・だが、録な扱いは受けてねェだろうな──今頃吊し上げられてんじゃねェかァ?ヒャハハハハ!!」

笑って言われた言葉に、涙が出てきた。人の不幸が楽しくて仕方ないとでもいう様に、愉快そうに笑っている目の前のアランが憎たらしい。
さぞや今のシルヴィアの顔は、悲痛と怒りが混じった顔に歪んでいる事だろう。

「ヒャハッ、優しい優しいお姫様は、どうしようもねェクズの天竜人の事でも、心配すんだなァ?」
『あの人達をクズって言わないで!!何も知らないくせに!!!』
「何だと・・・?」

シルヴィアは頭り血が昇り、目の前の男への恐怖心など忘れ、怒鳴った。
許せなかった、彼等の優しさや暖かさを知らずにクズ呼ばわりする目の前のアランが。ドンキーホーテ家の皆は、他の天竜人達とは違う。

『天竜人の地位を放棄してまで、人々と仲良くしようと歩み寄っていた!!』

シルヴィアの頭の中に、北の果てで暖かく優しい微笑みを浮かべて、街人達に挨拶をしていたホーミングの様子が浮かんだ。

『あの人達は、全てを失ったわたしに手を差し伸べてくれた!!』

次は、一族を失って1人になってしまったシルヴィアを、ドンキーホーテ家の皆が家族として迎えてくれた時の暖かい笑顔と言動が浮かんだ。

そして──

『白狐の姿になったわたしを見ても、変わらず暖かく受け入れてくれた!!』

最後に、風呂場で初めて人形白狐の姿を見せた時のドフラミンゴの言動と、完全型白狐の姿を見せた時のドンキーホーテ家の皆の優しい笑顔と言動が浮かび、シルヴィアの目に涙が浮かび、視界が歪んだ。

『そんなあの人達を知りもしないくせに、クズ呼ばわりしないでよ!!!』

シルヴィアは許せなかった、悔しかった、腹立たしかった。全ての感情が混じってグチャグチャになっていた。
そして、人はこんなにも同時に色んな感情を持つことが出来るのだと、この時初めて知った。

だが──



「──おい、あまり調子に乗るなよ小娘が」

アランから、地の底から這い上がってくるような低い声が聞こえ、一瞬にして先程までの怒りなどの感情が消えて涙が引っ込み、恐怖から体がぞくりと震えて冷や汗が出てきた。本能でシルヴィアはまずいと思った。
男の顔が声に似合った顔に歪んでいる事により、益々シルヴィアの恐怖心を煽り、体が小刻みに震えた。その震えに振動せれて体の至る所に繋がれている鎖が、ガチャガチャと音を立てている。

「おれがてめェの主人だという事を、まだちゃんと認識出来てねェようだな──」

そこでアランは言葉を区切り、シルヴィアの顎を掴んでグイッと持ち上げ、青筋がいくつも浮かんだ顔を近付けてきた。条件反射でシルヴィアの体がビクゥッと大きく震えた。

「たっぷりと躾る必要がありそうだ」
『っ・・・!!!』

至近距離で最大限にニタァと歪んだ笑みを向けられ言われた言葉に、シルヴィアは息を呑みすっかり恐怖で染まり、体は大きくガクガクと震えだした。
そんなシルヴィアの様子を見たアランは、それはそれは楽しそうに歪んだ笑顔を浮べて笑っている。

「人体実験をしてやるのもいいが──てめェら入って来い!!」

目の前の男が背後に振り向き、そう声を張り上げた。
すると、部屋の入口からぞろぞろと屈強そうな男達が現れ、部屋の中へ入ってきた。

「主人のおれに楯突いたこのバカな小娘を、死なねェ程度に痛めつけてやれ!!もう二度とおれに楯突こうなんて思わねェようにな!!!」

そうアランが命令すると、屈強そうな男達はニヤニヤと笑みを浮かべて、鎖に繋がれて身動きが出来ないシルヴィアへと、近付いてきた。その事にシルヴィアは涙を流して恐怖で震えた。

『いやあーーーっ!!!!来ないでーーーーっ!!!!』

シルヴィアがどんどん近付いてくる屈強そうな男達を見て、悲鳴の様な叫び声を上げた。
すると、シルヴィアの体からぶわんと暖かい気の様なものが放たれた様な気がしたその時、どさどさと何かが倒れて行く様な音が聞こえたが、シルヴィアは暗い暗い底へと意識を手放した──




この時、気を失ってしまったシルヴィアは知らなかった。
シルヴィアが暖かい気をぶわんと放った時、次々と屈強そうな男達が気絶して行き、シルヴィアを助けに来た者が、それを見て驚いていたのを──



TO BE CONTINUED