story.4

クラウディは自分が泣かせてしまったことで、涙で濡れてるシルヴィアの頬へ手を伸ばした。その伸びてくるクラウディの手に気づいたシルヴィアは、大人しく触らせた。
すると、クラウディは壊れ物を扱うかの様に優しく撫でてくれた。シルヴィアは優しい手つきに嬉しくなり、頬を緩ませてふにゃんとした笑顔をクラウディに向けた。その瞬間──


「ぐはっ…!!」
『きゃっ!!?』

凄い量の鼻血と吐血が文字通り飛んだ。犯人は勿論クラウディである。
クラウディは血を飛ばす瞬間、器用にも目の前にいたシルヴィアに当たらない様に上を向いて飛ばしたため、血の一滴も被っていなかった。

そして、シルヴィアは血を飛ばしたクラウディに驚き思わず後ろに下がった。その事で自然とシルヴィアの頬に触れていたクラウディの手が外れた。

この時、ランは非常に白けた目をクラウディに向けていた。何故ならば──


「な、なんて可愛いんだシルヴィア…っ!!破壊力!!」
「クラウディ様コノヤロー!!!姫様の笑顔が可愛すぎるのはわかりますが、いい加減血を飛ばすの止めてくださいよ!!!毎回掃除してるおれの身にもなってください!!!」

そう、何故ならばクラウディはいつもこうなのである。しかもその度にランが辺りに飛んだ血を掃除しているのだ。そうなれば、乱暴な口調になったり白けた目を向けるランは悪くないはずだ。
器用にも、懐から取り出した雑巾で辺りに飛び散った血を掃除しながら、怒鳴った。
すっかりいつも通りになったクラウディに安心するものの、これはこれで耐え難い。面倒な事この上ない。

『??はかいりょく…?』

シルヴィアも見慣れているため大好きな兄が血を飛ばしていても焦りはしない。
毎回自分の笑顔を見て血を飛ばすのだということは理解できてはいるが、何故それで血を飛ばすのか理解できないため、いつも戸惑うことしか出来ないでいた。

「姫様からも何とか言ってやってください!!!」
『えっ…!?』
「お願いします!!ガツンと言ってやってください!!!」
『お、お兄様、血を飛ばすのやめて…!?ランが困ってるみたい…!!』

ランに縋り付く様な目で見つめられ、シルヴィアは戸惑いから眉を下げてクラウディに言った。
すると、クラウディは不謹慎だがそんなシルヴィアの顔も可愛いと思ってしまった。それと同時で申し訳なくも思った。

「可愛いシルヴィアの頼みだ!!何でも聞いてあげたいんだけど、こればっかりはもうおれにもどうしようも出来ないんだ…!!」
『ど、どうして…!?』
「それはシルヴィアが可愛すぎるからだ!!!!シルヴィアマヂ天使!!!」

クラウディは最初の申し訳なさそうにしていた様子はどこへやら、シルヴィアの問いかけに満面の笑みを浮かべて、ドーン!と効果音が聞こえそうな程に胸を張って言い切った。
そんなクラウディに、シルヴィアは思わず言葉を失って沈黙し、ランは怒りから身体をぷるぷる震わせた。

「シスコンも大概にしてくださいクラウディ様コノヤロー!!じゃないとあんたいつか姫様に嫌われますよ!!」

ランは眉間に皺を寄せ般若の様な顔で怒鳴るように言った。だがそんなランをクラウディは鼻で笑った。まるでそんなことある訳ないだろう、と言いたげだ。



「──シルヴィアとクラウディ、こんな所にいたのか。」
『お父様!!』

そんな時、父のアランダインが現れた。
尾を十本持つ白狐一族の五代目当主で、見た目は20歳だが歳は驚きの240歳である。だが、白狐は人間より遥かに長く生きる生き物なので、240歳はまだまだ若い年齢になる。

大好きな父の登場に、シルヴィアはとたとたと可愛らしい足音を立ててアランダインに駆け寄り、満面の笑みを浮かべて彼の足に抱き着き、じゃれる様にすりすりと顔を擦りつけた。可愛い娘の行動にアランダインも自然と柔らかい笑みが浮かび、シルヴィアの小さな頭を撫でた。
それを見てクラウディが良い様に思う訳もなく、嫉妬が篭った目でアランダインを見つめた。
そんな視線に気づいたアランダインとランは、心底呆れたという様に白い目でクラウディを見て、それはそれは深い溜息を吐いた。

「ハァァァ…!!クラウディ様、あんた自分の父親の五代目にまで嫉妬してどうすんですか…!!」
「黙れラン!!
──羨ましいんだよ!!おれと変わってくれ父上!!」

クラウディは敵対心剥き出しでアランダインに言った。そんなクラウディの様子に、アランダインとランは揃ってもう一度深い溜息を吐いた。
シルヴィアはアランダインの足に抱き着いたまま、クラウディを訳がわからないと言った感じできょとん、として見上げている。

「ハァ…!!シルヴィアが可愛いのはわかるが、私にまでそんな目を向けるとは──重症だな。これでは嫁に出す時が心配だ……」
「嫁になんて出させ『わたしケッコンするならお父様みたいな人がいい!!』っ!!!なっ、なァにィィィ!!!??」

嫁になんて出させない、とクラウディが底冷えしそうな程に冷たい声で最後まで言い切る前に、シルヴィアの言葉が被った。その言葉を聞いた瞬間クラウディがこの世の終わりのような顔で、ガガガーンと効果音が聞こえそうな程に大ショックを受けた事による大絶叫がシロノ国内に響き渡った。
突然の大絶叫に、シルヴィアはビクッ!と身体を震わせて父のアランダインに抱き着く力を強め、驚きから目を見開いた顔でクラウディを見つめた。

「う、嘘だと言ってくれシルヴィア!!!お兄様がいいよな!!!??そうだよな!!!??そうだと言ってくれ!!!」
『きゃあっ…!!?え、えっと……』

クラウディは、アランダインの足に抱き着いていたシルヴィアを引き剥がし、号泣しながらシルヴィアの小さな肩をガシッと掴んで捲し立てた。
だが、シルヴィアは困惑している様でクラウディが求めていることを言えないようだ。無理もない。

「クラウディ様あんたって人は……」
「ハァ……シルヴィア、とりあえず頷いてやりなさい。もう見ちゃいられない。」

アランダインは額に手を当て心底呆れたという風に溜息を吐き、シルヴィアにクラウディが求めてる行動を取らせることにした様だ。
シルヴィアはアランダインの言葉に理解して頷き、笑顔を浮かべながら──

「お兄様!わたしお兄様も大好きよ!だからお兄様みたいな人でも嬉しい!!」
「!!!」

と、クラウディが求めてる言葉とは多少ズレてる事を言った。
だがクラウディはそれでも"大好き"という言葉を聞き、先程のこの世の終わりのような顔から、それそれはパァァァと効果音が聞こえそうな程にみるみる表情を歓喜に変え、満面の笑顔を浮かべて愛してやまない妹のシルヴィアをガバッと抱き締めた。

「なんて可愛いんだシルヴィア!!!お兄様もシルヴィアが大好きだ!!!マヂ天使!!!愛してるマイスウィートエンジェルシルヴィア!!!他の奴の嫁になんて絶対やらん!!!」
『???ま、まいすうぃーと…???』
「「ハァァァ…」」

暑苦しい程の想いを一気に捲し立てたクラウディは、言葉を理解できないで頭上にいくつもの?を浮かべているシルヴィアの頬に自分の頬を重ね、満面の笑顔ですりすりとじゃれる様に擦り付けた。そのクラウディのバックには、真っ赤なハートがいくつも飛んでる様に見える。
そんなクラウディを見て、アランダインとランは思わず2人で顔を見合わせ、再びそれはそれは深い溜息を吐き遠い目をした。