記憶の欠片

 このお話はエルフ族という見目麗しく神秘的な一族の、エルフ族最後の生き残りのイザベラという女王様の物語である──…








 燃え盛るエルフ島、そこにイザベラはいた。エルフ一族の女王であるイザベラは、従者と一緒に逃げていた。

「もう逃げられないぞ女王イザベラ」
「さあ、こちらへ来るんだ」

 海賊のような身なりをした男達が、下品な笑みを浮かべながら逃げ回っていたイザベラ達を追い詰める。

『何故こんな酷い事を…!! わたし達があなた達に一体何をしたと言うんです!?』

 イザベラは悲痛な叫び声を上げた。イザベラ達は目前の海賊達に何か悪さをした覚えはないし、むしろその逆の事をしたというのに、何故こんな目に遭っているのかわからなかった。

「いや、お前達は別に何も悪くないさ」
「逆におれ達を助けてくれた。その事は感謝してるさ」
「ならば何故イザベラ様の恩を仇で返す様な真似を…!!」

 そう、イザベラは先日このエルフ島付近で倒れていた海賊達を助けたのだ。なのにその恩を仇で返され、イザベラの従者は悔しさと怒りのあまり歯をぎりぎりと鳴らし、目前で下品な笑みを浮かべている海賊達に怒鳴った。

 本来エルフ島には、エルフ以外の者は決して入れてはいけない島になっているのだが、イザベラはそれが裏目に出ると知らずに倒れている者達を放っておけず島に入れてしまったのだ。

「全てはお前達がエルフだったという事が悪かったんだ」
「そうだ。かの伝説のエルフの一族、そしてその一族の女王様を人間屋(ヒューマンショップ)に売ったとなれば、おれ達は一生遊んで暮らせるぜ!!」
「恨むならエルフとして生まれた自分を恨むんだな!!」

 海賊達は下品に笑ってそう言い放った。その非道な言葉の数々に、イザベラは悔しさと自分への不甲斐なさのあまり、目に涙が浮かんだ。

「イザベラ様!! 貴方様だけでも先にこの国から離れて逃げてください!!」
「我々も後で直ぐに参ります故!!」
『嫌です!! 貴方達だけ残す訳にはいきません!!』

 長い間イザベラに付き添ってくれた大切な従者、そして一族の者達を残して先に逃げる事など出来るはずもなく、イザベラは海賊達と戦おうと戦闘体制になった。

「わからないのですか!? イザベラ様は女王なのですよ!! 貴方様にもしもの事があったら、一族の者達へ顔向け出来ません!! 我々がどうにかします!!」
「そうです!! 我々の力を信じて下さい!!」
『──わりました……そこまで言うのなら貴方達を信じて任せます!! だからどうか必ず無事にわたしの元へ戻ってきて下さい!! 必ずですよ!!』
「「「御意!!」」」

 イザベラはそう言い、従者達が頷いたのを確認してその場から立ち去ろうと走り出した。それを阻止しようと海賊達が動き出したが、従者達がイザベラに海賊達を近づけさせないように攻撃をし食い止めている。



 それから船に乗り込みエルフ島から離れたイザベラは、途中大きな津波に巻き込まれ、流れ着いた島で目が覚めた時にはそれまでの記憶を失っていたのだ──



TO BE CONTINUED

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