あなたが気づくことはないね
 花梨は幼馴染である土方が、ミツバに遠く離れた所で見ていたのを、花梨はずっと見ていた。
愛しそうに見つめる眼差し、切なそうな眼差し、見守る眼差し、その視線を向けていた度に花梨は土方に切ない視線を向けながら、ずっと見つめていた。

 実は2人が両想いだというのは、本人達以外の皆が気付いていた。それは、花梨も例外ではなかった。
2人がいつかくっ付いてしまうんではないかと思いながら、花梨は胸が切り裂けそうな程に痛め、ただただずっと見ていたのだ。
 そしたら、ある日ミツバの弟の総悟に言われたのだ、「あんたもバカな女だねィ」と。
花梨でもわかっていた、自分のこの恋が実る事はないのに、それでも土方を想い続けているのはバカだと。
 だが、簡単に諦められる程に軽い想いでもなかったのだ。簡単に諦められるのなら、どれだけよかったか。そしたら花梨がこんなに辛い想いをする事もなかったのに。

 そしたら、また再びある日総悟に言われたのだ、「土方の野郎のどこがいいんでィ」と。
土方の顔が好き、ぶっきらぼうだが時に優しい所が好き、敵を見つめている時の鋭い眼差しが好き、マヨネーズを食べている時の蕩けきった可愛い顔が好き、実は面倒見が良くて頼り甲斐がある所が好き、好きな所を上げるとキリが無い位に好きなのだ。それはもう、極度のマヨラーなのもひっくるめられる位のレベルなのだ。
それを総悟に伝えると、ドン引きされてしまったが。

 何故ここまで好きになってしまったのかは花梨でもわからないが、好きになったきっかけは10歳の時、土方に助けられたのがきっかけだろう。

 10歳の時、アイスを片手に持って歩いていた花梨は、前方から歩いてくる男達に気付かず、ぶつかってしまった時があった。そしたら、1人の男の服に見事に花梨が持っていたアイスがぶつかってしまい、それにキレた男達に花梨は絡まれてしまっていたのだ。
その男達にはクリーニング代として、あまりにも高すぎる金額の10万を請求され、出せるはずもなかった花梨は目に涙を浮かべて首を振った。

「持ってねェなら、吉原に売りとばすしかねェなァ!!」
『え・・・!!?』

 花梨は吉原がどういう場所か知っている。一度あの場所へ行ってしまったら、もう二度と陽の光を拝む事が出来なくなる、牢獄の様な場所だと。
そんな場所に行きたいとも思えず、花梨は更に目に涙を浮かばせ大粒の涙を流した。
 だが、男達が嫌がる花梨の腕を掴み、無理矢理連れて行こうとして来た。

「さァ、行くぞ!!」
『い、いや・・・っ!!!離して!!!』

 なんとか踏ん張ってみるが、大人の男達に適うはずもなく、引き摺られる形で引っ張られて行く。

もうダメだと花梨が諦めた時──

「おい、何してんだてめェら!!!花梨を離せ!!!」

 救世主が現れた。その救世主は、花梨がよく知っている人物で、互いの親同士が仲良くて生まれた時から一緒にいる土方だったのだ。
花梨を助けに来てくれた土方は、花梨を背に隠して取り囲んでいる男達を、どんどん倒して行っていたのだ。

 ずっと幼馴染としか思っていなかった土方が、花梨を背に隠して大人の男相手に戦う姿が男らしくてかっこよくて、花梨は土方から目が離せなくなり、ずっと土方が戦う姿をぽーっと見つめていた。

 この日から花梨は、土方をただの幼馴染としてではなく、1人の男として意識する様になったのだ。事あるごとに土方の後をお出かけ目で追い、見惚れていた。
 だが、ミツバが現れてから花梨は、自分の想いが一生報われる事はないという事を知った、土方がミツバに恋をしたのだ。ずっと傍にいた花梨ではなく。

 そしたら、ある日土方に聞かれたのだ、「恋愛とはどういうものか」と。その日にミツバが好きだという事を告げられ、花梨は泣きそうになった。辛かった、悲しかった、花梨はずっと土方を見ていたのに。それなのに、そんな花梨の想いに気づく事はなく、土方はずっとミツバを目で追っていた。
 その時、花梨は気づいたのだ。土方はこれから先もずっと、花梨が土方に助けられたあの日から、1人の男として見ている事に──「あなたが気づくことはないね」と。


─END─

切ない恋を書いてみたくて、土方で挑戦してみました!!主人公は想いを告げる事はなく、ずっと切ない思いを胸に抱いて土方の良き相談役として、幼馴染としてずっと傍にいたっていう感じで書かせてもらいました。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました(*´▽`*)