今なら好きと素直にいえる
 あれからマリアは何とか考え直す様にドフラミンゴを説得しようとしたのだが、何を言っても取り消すつもりは無いようで、マリアは逃亡する事を決意し、今に至るのだ。

「そうかそうか、おれの可愛いマリアチャンは鬼ごっこが好きだったのか!! フッフッフッフッ!! そいつァ気づいてやれなくてすまなかったなァ!!」
『違うわァァァ!!! 何でそうなるんですか!? そして、その呼び方いい加減やめろやァァ!!! いつもいつも気色悪いのよバカ若様!!』

 マリアは、自分の主人であるドフラミンゴ相手にとんでもない暴言を吐いているのにも関わらず、ドフラミンゴは怒るどころか、むしろ独特な笑い声と共に先程より益々楽しそうに笑った。

「おいおい、照れてんのかァ!? お前は本当に可愛い奴だなマリア!! フッフッフッフッフ!!」
『やだ凄い勘違いしてるよこのバカ若様怖い!! 外見だけじゃなく脳内までピンクだよこのバカ若様怖い!! もうこっち来ないで追いかけて来ないでバカ若様怖い!!』

 いつものドフラミンゴは、こんな暴言を吐く相手に許すはずも無く殺している。それはドフラミンゴだけでなく、
ヴェルゴやトレーボルを初めとするドフラミンゴの周りの忠実な部下であり家族達も、ドフラミンゴ相手にこんな暴言を吐く様な相手がいれば殺しているのだ。それが例え、同じドンキーホーテファミリーの一員で、家族であってでもだ。
 ならば、何故こんなにドフラミンゴ相手に暴言を吐きまくっているマリアが生きているのかというと、答えは至って単純な理由で、ドフラミンゴが部下の中でも特別可愛がっているマリアだからである。その理由のお陰で、マリアはドフラミンゴと出会って7年も経つが、出会った当初から今現在まで暴言を吐きまくっていても、生きているのである。

「さて、そろそろこの鬼ごっこも終わりにしようじゃねェか、マリアチャン」
『い、いやーーっ!! 来ないでェ〜!!』

 ドフラミンゴはマリアに言うと、マリアの言葉も気にせずに一気に彼女へと距離を詰め、身体を抱き締めた。すると、マリアがドフラミンゴの腕の中で暴れだしたが、ドフラミンゴはビクともしなかった。

『やだやだ!! 離してくださいっ!!』
「マリア、たまには素直になれよ。本当は嬉しいんだろ?」
『ち、違うっ!! 全然嬉しくなんかないっ!! 離してくださいっ!!』

 嘘だ。本当はドフラミンゴに妃にすると言われて嬉しかったのだ。だが、マリアは素直になれない性格故、思った事を口にする事が出来ないでいた。
 可愛くない女だというのは自分が良く理解出来ていて、前に何度か直そうとしてみた事はあるが、直すことが出来ないでいた。そのおかげで嫌われる事はよくあり、今まで友達は出来た事はなかった。当然、こんな可愛気の欠片もないマリアを好きになってくれる男もいなかったので、恋人も出来たことがない。だから、ここまで好意を表してくるドフラミンゴを変な男だと思いながらも、嬉しく思い、そして気づけば好きになっていた。

「・・・・・・そうか。なら仕方ねェ。お前が妃にならねェって言うなら、他の女を妃にするか」
『っえ・・・!!?』

 どういう訳かドフラミンゴはマリアの拒否の言葉を聞くと、抱き締めていた彼女をあっさりと離して背を向けた。マリアは、ドフラミンゴの他の女を妃にするという言葉を聞き、動揺で瞳を揺らし、ショックで今にも泣きだしそうな顔をしたが、背を向けているドフラミンゴに気づかれる事はなかった。
 だがマリアは知らなかった。背を向けているドフラミンゴが、口角を上げこの後のマリアの反応を予想し、楽しんでいる事に。

『な、なんで・・・っ』
「マリア、おれはお前が可愛いんだ。お前が嫌がる事はなるべくしたくねェ。だから、どうしてもマリアが嫌だって言うんなら、仕方ねェがおれは適当な女を妃にする方を選ぶ・・・・・・無理言って悪かったな」
『っ・・・!! ま、待ってくださいっ!!』

 そう言って歩き出してしまったドフラミンゴを、マリアは悲痛な声を上げながら慌てて彼のピンクのもふもふのコートの裾をぎゅっと掴んで引き留めた。すると、ドフラミンゴは振り返らずその場で立ち止まった。

『い、嫌ですっ』
「・・・あァ、お前が妃になりたくねェのはわかった。だから他の女を──」
『違いますっ!!』

 ドフラミンゴが他の女を妃にすると言い切る前に、マリアがその言葉をもう聞きたくないとでも言うように、悲痛な声を上げて遮った。
 この時、またしてもマリアは気づくことが出来なかった。ドフラミンゴが、予想通りに事が進んで満足そうに笑みを浮かべている事に。

 そんな彼の様子に気づかないマリアは、掴んでいたピンクのもふもふのコートの裾を離し、今度はドフラミンゴの腰に抱き着いた。

『わたしが嫌なのは、若様がわたし以外の女を妃にする事なんですっ!!』
「・・・どういう事だ? マリア、お前は妃になりたくねェんじゃねェのか?」

 ドフラミンゴが戸惑うのは当たり前だと、マリアは思った。散々拒絶しておきながら、今度は自分以外の女性を妃にするのは嫌だと言うのだから。都合の良い女だと思われても仕方ないかもしれないが、ドフラミンゴがマリア以外の女を妃にするのは、どうしても嫌だった。

『本当は妃になりたくないって言ったのは嘘なんです・・・本当は嬉しかったんです・・・っ!! 素直に言えなくてごめんなさい・・・っ』
「やっと素直になったな」

 マリアは怒られるのを覚悟で本当の気持ちを泣きながら伝えたが、予想に反し優しい声が頭上から聞こえ、恐る恐るドフラミンゴを見上げた。見上げた先に見えたドフラミンゴは、不敵ながらも愛し気な笑みを浮かべてマリアを見ていた。その視線にドキリとした。

「安心しろ、おれは元々お前以外の女を妃にするつもりなんざねェ。お前を素直にさせる為に言っただけだ」
『なっ・・・!!?』

 は、嵌められた・・・っ!!とマリアはショックを受けた。だが、それも素直になりたくても素直になれないマリアの為の嘘だと思うと、嬉しく思った。

「マリア、もう一度言う。おれの妃になれ。お前が好きだ」

 ドフラミンゴがそう言ってマリアに大きな手を差し出した。

──ああ、今なら好きと素直にいえる。

『っはい!! 喜んで!! わたしも若様が好きです!!』

 ドフラミンゴの愛がこもった言葉を聞き、マリアは花が咲くような満面の笑みを浮かべ、差し出された手を取り頷いた。


─END─

ツンデレ主を素直にさせたいドフラミンゴ・・・!!いい・・・!!という妄想から始まった話でした(*´▽`*)