小説/創作支援

読み切り短編集
『登山の日だから』


『そこに山があるから登るんだ』
そんな名言を遺したひとを私は知らない。車で登るドライブとは違い、歩き登山は遠足でしかしたことがない私にとって、歩いて登ることは未知の世界だ。

苦労して登った山頂からの景色は最高らしいが、それが初日の出だったりしたら、もう夢物語でしかなくて。そんな私にとって山とは山そのものを眺めたり、山の景色を楽しむものであって、決して山頂から眼下の景色を楽しむものじゃない。だから、
「山に登ろう」
恋人にそう言われた時は、一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「ドライブじゃなくて?」
思わずそう聞いてしまったけど、仕方がないと思う。
「そうじゃなくて登山ってやつ」
そう言われてピンと来た。真の登山好きなら『やつ』なんて付けない。またいつもの思い付きに違いない。
「なんでしたいか聞いていい?」
そう聞いてみたら思った通りで。単純でとても可愛いひとを私はよく知っている。

『登山の日だから』
2022/10/03


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