SSS



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Sat

無題




嫌なら抵抗してくれて構わない、とこちらを見下ろす偽物くんを鼻で笑う。そんな目をしておいて、お前は本当にそれを赦すのかな。

「――持てるものこそ、与えなくては」

お前に出来るものならやってごらん、偽物くん?



0906
Wed

キミからの贈り物





「――ほら、偽物くん。手を出せ」


掌に乗せたままのそれを、山姥切国広は眺めていた。何処にでも売っている、何の変哲もないただの飴。だが国広にとっては、とびきり特別な飴だった。渡してきた本刃としてはただ苦手な味だったから押し付けただけの、直ぐ様忘れてしまうような些細な事であっても。直ぐに舐めてしまうのは勿体ないと思う程、国広にとっては特別なのだ。だから内番の疲労も吹き飛んだ国広は、上機嫌で包装されたままの飴を眺め続ける。
――だが。何時までもこうしている訳にはいかない。舐めてしまうのも勿体ないが、大事に大事にと取って置いて結局口にする前に傷ませてしまっては意味がないのだ。一度そう考えてしまうと漸く決心がついて、国広は封を切り、中から飴玉を取り出す。
普段は直ぐに噛み砕いてしまうが、今回はそんな事はしない。ころん、と何度も口の中で転がして、広がるイチゴの甘い味に国広は口元を緩める。あぁ、出来る事ならば。このまま、溶けないでほしい。



[片想い、なう/https://shindanmaker.com/695029]



0906
Wed

自分が料理下手だと自覚してない国広 ―チョコ編―





「兄弟、そこを退いてくれ。手荒なまねはしたくない」
「……僕も、山伏の兄弟も。兄弟の気持ちは解ってるし、応援してるよ。山姥切さんから貰えなさそうだから、自分から渡そうって思ったんだよね」
「なら何故……!」
「でも、それはそれで、これはこれだから。だから僕は、ここを守るよ。――絶対、兄弟を厨には通さない。燭台切さん達に頼まれたんだ。兄弟を厨には入れないでって」




「良かったな化け物切り。胃薬は要らねぇみたいで」
「……」




0906
Wed

2月14日





「山姥切。今日が何の日か知っているか?」
「今日?ウァレンティヌスが処刑された日がどうかしたか」
「流石山姥切、博識だな。だがそうじゃない」




0906
Wed

伯仲で買い物





主命で万屋街に買い出しに来たのはいいが目当ての物が見つからず、辺りを物色している時の事だった。万屋街には俺達以外にも様々な本丸の審神者や男士達が行き交っている。だから一々他所の刀達など気にしていなかったのだが、偶々近くで聞こえたのが脇差の方の兄弟と幼子の姿で顕現した同位体(恐らくバグだ)だった。つまり、だ。思わず気になって意識がそちらにいってしまったのだ。

「きょうだい、かって!」
「えー高いから駄目だよ」
「……きょうだいのおけち!」

「ん゙ん゙ん゙ッ」
……おけちとは何だ、ドケチの事か?と考えていると、同じ様に先程のやり取りを聞いただろう山姥切が崩れ落ちた。驚いて隣を振り向けば、口元を抑えつつふるふると躯を震わせている。そしてその背後でひらりと桜が舞っているのも確認できた。
「……。山姥切のおけち」
「は?お前が云っても可愛くないんだが?」
あの幼い同位体の真似をしてみれば真顔でこちらを見上げた山姥切ににべもなく切り捨てられた。何故だ山姥切、俺も山姥切国広だぞ?




0906
Wed

自分が料理下手だと自覚してない国広





「山姥切と親睦を深める為に料理を振る舞おうとしたんだが」
「ええっ何でそれで爆発が起きたの!?そもそも兄弟!燭台切さん達に厨立ち入り禁止って云われてたよね!?」



「……ここの偽物くん料理下手なのか」



0906
Wed

国広がもちちょぎを育てる話(日記風)





○月○日

遠征から帰る途中で変な生き物を見つけた。どことなく山姥切に似ている。そのまま連れて帰る事にした。
部屋に戻るまでふか!ふか!と変わった鳴き声で暴れていたが、昨日のお八つの残りをあげたら大人しくなった。腹が減っていたんだろうか?


○月×日

昨日拾った生き物を主に見せた。どうやらこれは『もちちょぎ』というらしい。もちもちとしたマスコットのような生き物、との事だ。もちという事は食べられるのかと聞いたら食べれないよ〜と云われた。残念だ。
どうやらこの『もち』というのはこのもちちょぎ以外にも沢山いるらしい。俺に似たもちも居るようだ。兄弟達に似たのもいるんだろうか。ならば何時か見つけられるといいんだが


○月□日

主から聞いた話だが、このもち達にも俺達と同じ様に様々な個体がいるらしい。俺が拾ったもちちょぎは食べることが好きな様だ。普段はふか!ふか!と怒って近づけさせてくれないがお八つを持って近づけばゆう!と嬉しそうする。
姿が山姥切に似ているだけあって山姥切を餌付けしているような気分になる


×月×日

あげたお八つを目の前で取り上げると、ふか!と怒りながらもちちょぎが手足?をばたばたさせてきた。無論痛くはない。思わず何度も繰り返したら兄弟に見つかって説教を食らった。
俺は悪くない。もちちょぎが可愛い事をするから悪いんだ


△月○日

兄弟に、もちちょぎ太ってない?と云われた。確かに少しふくよかになった気がする。もちちょぎに強請られたら直ぐにお八つを与えていたから恐らくそれが原因だろう。
兄弟にこのままだと更に太るからお八つは制限付けなきゃ駄目だと云われたがもちちょぎが太っていようが可愛いことには変わりがないから問題ない。


●月□日

遂に山姥切にもちちょぎの事がバレた。お八つを与えすぎだとも怒られた。俺は悪くない。
暫く俺が預かるともちちょぎを奪われてしまった。もちちょぎも抵抗していたが山姥切には敵わない様子だった。俺のもちちょぎが!







「全く、偽物君は何時の間にこんな…………ん?」
ぽん、と何かが足先に当たった。痛みはなく、寧ろ柔らかい。何だ?と手の中で暴れる己に似た生き物を押さえつけながら見下ろす。何かがそこにいる。が、小さくてよく解らない。気になったのでしゃがんで確認してみる。

「もちもちっ!」
「……偽物君?」



0906
Wed

今日の二人はなにしてる





山姥切、と障子越しに聞こえた声に山姥切長義は読んでいた本から顔を上げた。正直言って非番の日まで逢いたくはないのだが、過去の経験から絶対にこいつは引かないと理解している。溜め息を吐くと本を机に置き、渋々部屋の障子を開けた。
「何かな偽物くん。俺も暇じゃないんだが」
「写しは偽物とは違うが、そうか。所でケーキを買ったんだが、食べないか」
そうかで済ますな!と憤りを感じつつも、山姥切国広の手元に視線を落とす。国広の手には金箔のロゴマークが印刷された白い箱が握られており、万屋で買ったのだと推測出来た。長義自身は実際に行ったことはないが、あそこは審神者のニーズに応えてか和菓子屋だけではなく洋菓子屋もあると記憶している。序でに現世に戻らなくてもいいから楽だと前に審神者が呟いていた事も思い出したが、まぁこれはどうでもいい。
「……俺とじゃなくて、お前の兄弟達と食べたらどうかな」
「兄弟達は出陣と遠征だ。そもそもお前と食べたくて買ってきたんだ。何の問題はない」
お茶はあるか?とまるで自室の様に勝手に侵入してくる写しに文句を云おうとして、けれどこいつは話を聞かない奴だったと思い出しぐっと堪えた。毎回こうだ。山姥切国広は一歩も引かず、こちらとしてもそのまま居座られるのが嫌だったので最終的に長義が折れ、何度こいつに付き合ったことか。お陰で長義は一人部屋だというのに何故か国広用の食器まで部屋に置いてある始末だ。
「偽物くんが気にせずとも、俺としては問題だらけなんだが?」
「おい山姥切。茶葉が切れかかってるぞ。今度買いに行こう」
「だからお前は俺の話が聞けないのかな!?」
……はぁ、全く。
再び溜め息を吐くと、長義は国広と向かい合うようにして座った。机には置いてあった本が下げられ、代わりに小さいホールケーキが乗せられた皿と、棚から取り出したのか急須と二振分の湯呑、それからフォークが置いてある。……自由過ぎないか、偽物くん?
まぁ、食べ物に罪はない。
仕方ないな、と長義は呟いてフォークを手に取った。



[今日の二人はなにしてる/https://shindanmaker.com/831289]



0906
Wed

ストックホルム症候群





「――ストックホルム症候群というのを知っているか」
「……何?」
「俺達は肉の器を与えられ、ヒトの姿を得た。怪我をすれば血が流れ、食欲もあれば睡眠欲もある。……俺達はどこまでヒトなのだろうか」
「……だから何だ。お前は何が云いたい?」
「――このままお前をここに閉じ込めたのなら。お前もそうなるんだろうか」


なぁ山姥切、と倉庫の扉の前に立つ偽物くんが、うっそりと哂った。




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