君の一番星になりたいんだ
冒険者協会からの依頼をこなした後の帰り道の事だった。ヒルチャールに襲われている少女を見掛けて助けに入り、その後ナシャタウンに戻る途中だったのだと聞いて自分も戻る所だからと同行を申し出た。助かります、と薄く微笑む彼女と他愛のない会話をしながら歩いている内に何時の間にか着いていたようで、ここまで来れば大丈夫だと思う、と背後を振り返る。彼女はほっとしたように息を吐き有り難う御座います、とはにかんだ。
「あ、あの。旅人さん……」
「?どうかしたの?」
じゃあ俺はこれで、と別れようとした瞬間呼び止められ、足を止める。彼女は頬を赤く染めながら何か躊躇うように視線を彷徨わせ、そして意を決したように口を開いた。
「た、助けて頂き有り難う御座いました。その……よければなんですけど……お礼に、」
「――こんな所に居ましたか、空さん」
上擦った声で恥ずかしそうにする少女の言葉を被せるように背後で低い声が響いた。聞き慣れた声に彼女の背後へと視線を向ければ、案の定そこにはよく見知った顔があった。フリンズ?と呟くのと同時に言葉を遮られた彼女が驚いたように自身の背後を振り返る。
「おや失礼。邪魔をしてしまいましたね」
「え、あ、いえ……その……、」
「……で、フリンズはどうしたの?」
突然の乱入者に口籠る彼女を見てじろりと視線を向けると、彼はにこりと笑みを返した。お忘れですか?と問いかけられた言葉にえ?と呟くとフリンズが小さく肩を竦める。
「今日は依頼もなく一日暇だと云っていたではありませんか。だから久しぶりに二人で出掛けようと約束していたでしょう?急な依頼が入ったけど直ぐに終わるから待っていてほしいと云っていたのにも関わらず中々帰ってきませんし、心配になって様子を見に来たんです」
「……あー、うん。そうだった。御免、色々あってさ」
ね、と彼女に同意を求めるように顔を向ければ、慌ててこくこくと何度も頷く。そうですかそれは大変でしたね、とにこやかに返す彼に少女は一瞬、肩を震わせ怯えたような表情を見せた。
「えっと、それでなんだっけ?」
「……あ、い、いえ!なんでもありません……忘れて下さい!」
思い出したかのように話を振ると、彼女は慌てた様子で首を横に振る。失礼します……!と、ぺこりと頭を下げて逃げるように小走りでその場を去ってしまった。その姿を見送っていると突き刺すような視線を感じて溜め息を吐く。
「……フリンズさぁ、あれは可哀想じゃない?怯えてたよ」
「可哀想なのは僕の方ではありませんか。恋人に粉をかけようとしていた相手に牽制をかけることの何が悪いのです?」
「……悪くないよ。もし俺がフリンズの立場だったら同じことしてただろうし」
だから話を合わせたんだけどなぁ、と困ったように眉を下げる。ただ、普段のフリンズならもう少し穏便に対応出来た筈だと思うだけで。まあこれ以上深く言及するつもりはない。……そもそも、
「俺としてはフリンズの方が心配なんだけど。顔良いしよく女の人に声掛けられてるじゃん」
「……その割に嫉妬したりしませんよね」
「そんな事ないよ。でもフリンズが好きなのは俺だってことはちゃんと解ってるからね」
何処か拗ねたような声で返されて思わず可愛いなと思ってしまった。勿論、口にしたら更にいじける事は目に見えているので云わないけれど。
そんなことを考えていれば不意に腕を引かれて抱き寄せられ、それに驚いて目を瞬かせていると声が落とされた。
「……もし気移りするような事があればランプに仕舞ってしまいますからね」
「うーん、軟禁は嫌だなぁ……」
本気でやりかねないなと思わず苦笑を浮かべる。なら僕を妬かせないで下さいね、なんて云う彼が矢張り可愛くて仕方がない。取り敢えず今はフリンズの好きにさせておこうかな、と思いながら彼の背に腕を回したのだった。