君にアイラブユーと云いたい!
「……最近さぁ、フリンズの様子が可笑しいんだよね」
「フリンズさんが……?」
依頼の関係でピラミダに寄ったらしい旅人――空と偶然出逢い他愛ない話をしているとふと表情を変え、相談された内容に困惑した。つい先程フリンズと逢った時は至って何時も通りに見えた為、いまいちピンと来ない。勿論、彼が嘘をついているとは思っていないが。戸惑うように返せばうん……、と何処か浮かない様子で相槌を打った。
「この間ナシャタウンで逢った時もさ、遠くの方で視線を感じるなあって思ってふと見たらフリンズがじっとこっちを見てたんだ。でも俺が気づいた事に気づいたらすぐに目を逸らされちゃって。その目の逸らし方が不自然極まりなくてさあ……」
今までなら挨拶しに直ぐこっちに来てくれたのに、と心なしか消沈した様子で呟く彼には悪いがそんな深刻そうな問題ではなかった事に正直ほっとした。……とはいえ、自分が口出ししていいものか悩む。いや、まだそうだと決まった訳ではないかもしれない。なのでもう少し詳しく訊いてみる事にした。
「ええと、そんな事があったんですね。……他には何かありますか?」
「後は……手が触れそうになった時大袈裟なくらいにびくっと肩が跳ねて慌てて手を引っ込めてたし、最近は話しててもずっと目が泳いでるんだよね」
「……成程」
どうやら思った通りのようだ。いい歳してなに思春期の子供みたいな反応をしてるんですかフリンズさん。いや彼は人間じゃないだろうしもしかしたら今が思春期なのかもしれないけど。……まあお酒を嗜んでる時点でそれはないか。なんて迷走する思考を引き戻したのは考えないようにしてたけど、という声だった。
「……やっぱり嫌われちゃったのかな」
「いえそれは……、」
寧ろ逆です、と言葉を飲み込んだ。どう見たって誰もが解るフリンズの行動を、彼は様子が変だとしか思っていない。そんな人にそれは貴方のことが好きだからいやに意識しちゃって緊張してるだけです、と告げたところで納得してもらえるわけがない。こういうのはフリンズ本人が行動しなければ意味がないのだ。かといって彼にそれが出来るのならこんな状況にはなってないだろうけれど。
「……そうですね、取り敢えず暫くフリンズさんとは距離を置いてみてはどうでしょうか?それで向こうから接触してくるようだったら素直に話してみたらいいかと。良ければフリンズさんの代わりに僕が秘境探索手伝いますよ」
この先の展開は目に見えている。どうせフリンズが接触してくるのは空にではなく自分だ、そうなれば彼を焚きつけて告白させればいい。そうじゃなくてもそれならそれで本人に告白するだろう。
己の提案に暫く悩んだ様子で考え込んでいたが受け入れることにしたらしい。じゃあさっそくだけど明日お願いしてもいい?と訊いてきた彼に構いませんよと頷いたのだった。
***
「坊ちゃま。いったいどういう事ですか」
「はい?」
何時もの通りフリンズへ支給品を届けに夜明かしの墓へ赴けば何処か不貞腐れた様子の彼に迎え入れられ、開口一番がそれだった。なんですか急に、と訝しそうに見遣れば、はい?ではありません、とフリンズが顔を顰めた。
「……最近やたらと空さんと一緒にいますよね」
「あぁ、はい。……あれ、でもどうしてフリンズさんがその事を知っているんですか?」
わざとらしく首を傾げれば、ぐ、と言葉を詰まらせたのが解った。まあ理由なんて云えませんよね、恐らく遠くの方から見ていたんでしょうから。予想通りに展開が進んでいる事に普段彼の術中に嵌められている分新鮮な気持ちだ。
「まあ別にいいんですが……それがどうかしましたか?」
「……距離が近すぎませんか」
「?今までと何も変わってませんけど……仮にそうだとしても、フリンズさんがそれを咎める権利はありませんよね。恋人でもなんでもない君が空さんの交友関係に口出しするつもりなんですか?」
幾ら何でもそれは……、と呆れながら告げれば明らかに表情が強張った。……そもそも恋人だったとしても相手の親交関係にまであれこれ口を挟むものじゃないと思うが。
「……別にそういう訳では……、」
「ではどういう意味でしょう?正直今のフリンズさん、子供みたいですよ。仲の良い友人に自分以外の親しい相手がいるのが赦せないと駄々を捏ねてる子供と一緒です」
「こど……っ!?」
まさかそんなことを云われるとは思ってなかったらしいフリンズが一瞬目を見開いた。彼にしては珍しく狼狽えたように視線を揺らした後、少し間を空けてから口を開いた。
「…………最近、空さんに対して態度が少し素っ気なくなっている自覚はあるんです。ですが別に嫌いになった訳じゃありません。……誤解しないで下さい」
なんでそれを僕に云うんですか……、と思いつつも適当に相槌を打つ。取り敢えず続きを促すことにした。
「自分でもらしくない態度をとっている事は解っています。ですがどうしても直接話す勇気がないんですよ。……きっと不快に思われてますよね」
ですから最近空さんから避けられ始めたのでしょう、自業自得なのは重々承知してます。そう呟いて自嘲気味に笑う彼に何故急に空さんにそんな態度を?と尋ねれば、少しの間沈黙が流れた後、フリンズがえ?と虚を突かれたような表情を浮かべた。その姿を見て思わずこちらもえ?と言葉が零れる。
「……そう云われると、確かに可笑しいですね……?」
何故でしょう、と手を顎に当てて考え込んでしまった彼に本気で云ってるんですかと声が出そうになった。どうやら無自覚だったらしい、まあ何となくそんな気はしていたけれども。
「……フリンズさん。恋は戦争とも云われているのをご存知ですか」
「それがどうかしたのですか。……いえ、待って下さい。つまり坊ちゃまは僕が空さんに恋をしていると?」
ええそうです、と頷けばますます困惑の色を深める。まさか、そんな、とぼやきながら思考を巡らせる姿に深く溜め息を吐いた。フリンズさんが違うと云い張るのであればそれはそれで結構ですよ、と告げる。
「――ですが。今までのことを空さんに話して元の距離感に戻ったとして、もし彼に恋人が出来て君の誘いを断るようになってもきちんと受け入れて下さいね。友人より恋人を優先するのは当然の事なんですから」
「……、」
ちゃんと祝福してあげないと駄目ですよ、と黙り込んでしまったフリンズに釘を差し、それでは僕はこれで失礼しますと彼に背を向ける。自分に出来ることはもうやった、後はもうフリンズ次第だ。……後悔だけはしないで下さいね、フリンズさん。
***
それから数日が経ち、あの時と同じく依頼の関係でピラミダに寄ったらしい空と出逢うとこの間は有り難う、とお礼を云われた。
「その様子だと無事に解決したみたいですね」
「うん。……なんか、恥ずかしくてなかなか話しかけられなかったんだって」
嫌われたとかじゃなくて良かった、と安堵の息を洩らすその姿に良かったですねと返しておく。あの後どんなやり取りが行われたのかは知らないが、和解……といっていいのか不明だが丸く収まったようだ。告白したかどうかまでは流石に解らないがまあ言及するのは止めておこう。
「でもさ、偶に変になるんだよね……、」
「…………変、ですか?」
「挙動不審ってか、そわそわしてるっていうか……、何か云いかけようとして結局止めるんだ」
不思議そうに首を傾げる彼に取り敢えずそれは確かに変ですね、と返し、内心で盛大に溜め息を吐いた。……どうやらフリンズには告白は荷が重かったようだ。まさかここまで恋愛に関してポンコツだったとは思いもしなかった、完全に予想外だ。
「……空さんはフリンズさんのこと、好きですか?」
「え?そりゃあ好きだよ」
当たり前じゃん、と当然のように返ってきた言葉に恋愛的に?と投げかける。彼がどう反応しようと構わない、それより先に言葉を紡ぐ。
「もしそうでしたら、フリンズさんに云ってあげてください。――君が好きです、と」