桜の中を歩く大般若さんはとても素敵で、いつもと違う雰囲気からかまともに顔を合わせることも出来なかった。

(手、繋いで歩きたいな……顔も合わせられないのに……うぅ……)

ぐるぐると考え事をしながら歩いていると、ぶわっと一際大きく風が吹いた。

風に乗って舞う桜の花びらと振り返った大般若さんの姿があまりにも綺麗で言葉を失った。

「……あんた、なんで泣いてるんだ?」

気がつくと不安そうにこちらを覗き込む緋色と目が合った。
目元に触れると水滴が付き自分が涙を流していることに気がついた。

「え、あれ、なんで、私泣いてるんだろ……ごめんなさい……わかんない」

優しくあやす様に抱きしめられ髪を撫でられる。
どのくらい時間が経っただろうか。

「少しは落ち着いたかい?」
「ええと、はい、大丈夫です。……あの、わからないんですけど、にゃあさんを見て、綺麗だな、すきだなって思ったら涙が出てました」

我ながらよく分からない理由だな、と思うが実際そうだから仕方ない。

背に回された腕にぎゅっと力がはいる。お互いの熱が伝わるほど強く。

「あぁ……ほんとうにさくらこには敵わないな」

唇が重なった。優しく触れるだけの口付けに胸が熱くなる。

「にゃあさん、とっても綺麗です。いや、いつも綺麗でかっこいいんですけど、今日は特に素敵です」
「惚れ直したかい?」
「はい!それはもう!」
「それは良かった。さぁ、そろそろ中に戻ろうか」
「……そうですね」

前を歩き出した大般若さんが振り返り手を差し出してくれる。

「行こうか」
「……はい!」

手をぎゅっと握り歩き出した。






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2020.08.18


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