「僕、ヒーローになりたいんだ」

震える声で言った。両親にも、幼馴染にも、誰にも言えなかった夢だった。出会って2日足らずのクラスメイトに、緑谷は気がつけば口走っていた。彼なら何か、大きな言葉ときっかけをくれる気がしたのだった。

「小さい頃からオールマイトに憧れてたんだ。力強いパワーだ敵をなぎ倒す、平和の象徴になりたくて、」
「うん。なれるよ、緑谷なら」
「〜〜〜ッ、!」

いとも簡単に言ったみょうじが歪んだ。ぽたぽたと垂れる涙を拭うと、優しい笑い声がした。彼にできると言われると、本当にできる気がする。不思議な気持ちだった。

「っありがとう、ありがどう......」
「はは、俺が泣かせたみたいになってる」

その日、緑谷は進路希望調査書に雄英高校の名前を書いた。もちろん、ヒーロー科志望である。なんとなくむず痒い気持ちで紙を見ていると、滅多にならない携帯がメールを受信した。見ると、今日アドレスを交換したばかりのみょうじからだった。

『親御さんに心配されなかった?(笑)
応援してるから、頑張れ。』
「..うん、うん...ありがとう。」

彼にはまた後日改めてお礼を言わなければならない。明日は自分から挨拶してみようと意気込んで、緑谷は眠りについた。




「"没個性"どころか"無個性"のテメェがァ...なんで俺と同じ土俵に立てるんだァ!?」
「待っ違っ待ってかっちゃん!!は、張り合おうとかそんな.....」

そして数週間後、デリカシーの欠片も持っていない担任によって志望校を暴露された緑谷は、さっそく爆豪に追い詰められていた。

「その辺にしとけよ爆豪。緑谷の言った通りやってみなきゃわからないことだってあるだろ」
「みょうじくん...」
「個性だっていつ発症するか分からないし、鍛えようによっては無個性でも可能性が無いわけじゃないよな」
「アァ"!?仮面野郎は黙ってろ!俺はクソナードに現実ってモンを..」
「へぇ、未来予知でもできるのか?」

にっこり笑って言ってやれば、爆豪は分かりやすく青筋を浮かべみょうじに詰め寄る。慌てて止めに入ったクラスメイトたちにより、2人の雰囲気は険悪なまま一応言い争いは幕を閉じた。
もちろん放課後爆豪が再度緑谷に絡むのを視界の端で捉えていたが、授業が終われば用はない。みょうじは気づかぬ振りで足早に学校を去ったのだった。



「オイ」

翌日の朝。爆豪は丁寧に靴箱でみょうじを待ち伏せていた。どこから情報を得たのか知らないが、彼が一番最初に登校してくるのを把握していたらしい。
不機嫌そうな顔で睨んでくる爆豪には目もくれず、みょうじは靴を履いて教室へと歩みを進めた。

「お前デクになんか余計なこと言っただろ」
「さあ、記憶にないな」
「すっとぼけてんじゃねえ、あのヘタレが急に雄英受けるなんて言い出すわけねえだろ」
「緑谷は小さい頃からヒーローになりたかったって言ってたけど」
「ハッ、ムコセーの出来損ないがなれる訳ねえだろ」
「お前」

鞄に机を起き、今日初めて爆豪の顔を見た。突然目が合い口を閉じる爆豪に、今度はみょうじが口を開く。

「やけに緑谷に絡むよな。因縁ってやつ?どうでもいいけど、時間の無駄だと思うよ」
「どうでもいいなら余計なことアイツに吹き込むんじゃねぇ、雑魚が俺と同じトコ目指すだけで目障りなんだよ」
「じゃあお前も変えろよ志望校」

目障りだから。そう言ってみょうじは爆豪から視線を外した。
何人かのクラスメイトがグループで教室に入ってくる。途端賑やかになる室内で、爆豪が離れていくのを感じていた。