喫茶店マスター
×
苦い過去

theme

第七十八回テーマは「喫茶店マスター×苦い過去」

zakio

その喫茶店の古いローテーブルにはいくつもの染みが付いている。その中には思い出の染みもあるかもしれない。だが、拭っても拭いきれない過去の汚点がしみいているかもしれない。私はそんなちっぽけな染みのことを考えながら、マスターの淹れてくれた珈琲を飲むのだ。"消えかかる過去は、夢同様に価の乏しい幻影に過ぎない"。ある文豪もこう言った。果たして本当にそうだろうか。ずっと昔に死んでしまった時間の断片は、珈琲よりも苦い。喫茶店のマスターの秘める、苦い過去のおはなし。

takos

サイフォンの炎はどこか心を騒がせる。喫茶店という落ち着く空間でゆうらり揺れている朱色。自分の内に抱えている何かをうっかり喋ってしまいたくなる光。惰性で流れているローテンポなBGMと焦げた香りだけが辛うじて私を正気に引き戻す。こぽこぽ、と勢いが止まったところで、客が1人立ち上がり出口のカウベルを鳴らす。一瞬の雨の音を聞いて、またあの日を思い出す。炎は無くとも、また心は騒ぐ。
back