「ねえ、わたしの事、愛してくれてる?」
ずっと伏せられていたふたつの瞳がこちらへ向けられた。
…あ、もう少しでわたしの誕生日だ。
少しだけ不思議そうな顔をした彼の、その背後から覗く時計がわたしにそう思わせる。
「…何で?」
「気になったから」
「ふうん…いや、好きだけど…何を今更…」
「じゃあ、どんな形になったとしても、愛してくれる?」
「…どうしたの」
「もしわたしが事故に遭ったとして、見るも無残な姿でわたしのカケラも感じない肉塊になっても?」
「何言ってんの…」
困惑した顔と悲しい顔が混ざってわたしを見据える彼の目玉がきれい。急にこんな事を言われて、きっと困ってる。困るに決まってる。ふいに、自分がひどく滑稽でちっぽけな生き物だと感じて、わたしはため息もつけなくなったように、ひくりと喉の奥で空気だけを飲み込んだ。
「…みんな、わたしのこの姿があって、わたしだって認識してるんだと思うの」
「………」
「だったらね、この姿が無くなったら、わたしだって判らないでしょう?」
きれいな目の彼は、わたしをじっと見つめて黙っている。原初として、もっとずっと重たい意味を抱えて沈んでいるのは言葉だったと言うのに、ぽつりと落とした何ともダウナーな台詞は彼の足元。それを拾うかのように、あなたが近付いて来たかと思うと、ふわりと優しい匂い。愛しい横顔を横目に見て、わたしはあなたの首筋に顔を埋めた。
「…いい?よく聞けよ」
「…うん」
「この香りがあれば君で、」
「うん」
「この声があれば君で、」
「うん」
「この温もりがあれば君だよ」
「うん」
「たとえ肉塊になっても、君は君なんだよ」
「………うん」
「俺は君を愛してるんだから、肉塊になっても愛してるよ」
ふ、とあなたがわたしから離れて、後ろの時計を振り返った。
そして
「ほら、肉塊が出来て二十年目だぞ。おめでとう」
やわらかな微笑み。
わたしは深呼吸すると涙の溢れそうな弱り切った心を落ち着かせる。溶け込み、叶える手に、片目を瞑る優しさ、こころで繋がるすべてを持って。
「うん、ありがとう。ほんとうに大好きよ」
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